「余分な食事」 高校卒業後、大学進学のため僕は、18年間暮らした町を離れた。 初めての一人暮らしに最初は、胸を弾ませていたのだが 1ヶ月も経った頃、僕は強烈なホームシックにかかってしまっていた。 ある日どうしても我慢出来なくなって、気がついたら学校をさぼって 電車に乗っていた。何も言わずに突然帰ってきた僕を母は特に とがめたりもせず、 「ご飯食べるかい?」 と自然に言った。 久しぶりに食べた母の手料理は、特に変わり栄えもしない物だったが、 それはそれは、僕の心とおなかを満たしてくれる物だった。 母の手料理のおかげか、不思議なくらい思いつめていた気持ちが 軽くなり、自分の部屋へと戻って行くことができたのだった。 そしてそれから、数ヶ月に1度くらいのペースで僕はぶらりと 実家に帰っては、母の手料理を食べて戻るということを繰り返していた。 そんな事を1年くらい続けたある日、またいつものようにぶらりと 実家に帰ると、不機嫌な顔をした姉に出迎えられた。 姉は僕を自分の部屋に連れて行き、僕に言った。 「あんた、いい加減にしな。何で一言帰って来る前に 連絡出来んの?母さんねえ、あんたがいつ 帰って来ても良いように、毎日 あんたの分もご飯作ってるのよ!」 恥ずかしながら、姉にそう言われて僕は初めて、いつ帰ってきても 僕の食事が用意されていたことに気がついたのだった。 僕は慌てて母に言いに行った。 「母さん、いつも余分な食事を作らせていたんだね、ごめん。」 すると母は、 「私は毎日家族の分しか作って無いから、 余分なものなんて作って無いよ。」 と笑顔で答えてくれたのだった。 それからと言うもの、僕はホームシックにかかる事は無くなった。 そして家に帰るときは、もちろん連絡を入れるようにもなった。 それでも、時々忘れて帰ってしまってもやはり母はいつでも 僕の食事を用意してくれていたりするのだ。 文・挿絵/わち姫 (参照:Cam's北見2007年5月号) |