インディー(12)


斜め向かいの席に座り、ホットコーヒーをオーダーした。

沈黙


ママと私の下らないやりとりのあと、再び沈黙

「お休みですか?」

彼女から口を開いた。


さりげない受け答え


ルーンを訪れたのは、初めてのようだった。


先にも記したように喫茶ルーンを一人で訪れる女性は、たいがいドアをあけただけで、
「まちがえました」
と言って帰って行く。

そのたびにママは
「なにが、まちがえましたなんやろ?」
と憤慨してみせる。
だが、反省することなどは無いようで、店のインテリアが変化することはまずない。

たまに、一人で訪れて、ルーンを気に入ってしまう女の子もいる。

ナオミもそんな子の一人だった。

窓際の席からの木屋町の眺めをずっと見つめていた。

人の流れを斜め上から見下ろすのは、なかなか楽しいものである。

相手には気づかれず、コンタクトを取らず、相手の人生のヒトコマを観察する。


さりげなく通り過ぎていく人たちの歩く姿にさえも、それぞれの人生が反映されているものだ。

たぶん、ナオミも、そんな楽しみ方を感じ取っていたのだと思う。


肌の色は、浅黒く、まゆは太く跳ね上がっており、瞳は漆黒、髪をひっつめにしていたので、もともとつり上がっている大きな目が、一層つり上がって、きつい雰囲気を浮かび上がらせていた。


容姿に似合わずと言うべきか、
声は、鼻にかかったような、子供っぽい少し甘えた声だった。


そのイントネーションは、どこか私に
「なつかしさ」を感じさせるものがあった。


(つづく)



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