インディー(42)




喫茶ルーンの窓際の特等席に腰を据えて、ほころび始めた桜の花をぼんやり眺めていた。


テーブルの上には、コーヒーカップとOSAKAN WINE AND MUSICの原稿

「しかし、ちぬるが盗作詩人だとは思っていなかったよ・・」


「相当ショックやったみたいですね。ちぬるさんに惚れ込んではりましたもんね」
とママ。


ママの一言には、いつもどこかに刺がある!


いや、初めてルーンを訪れたころは、こんなのじゃなかった。


もう、2年以上前になる。

11月後半のマイルチャンピオンシップの日。

秋晴れの清々しい午後だった。

祇園の場外馬券売り場で3点だけ購入し、こんな日は、どこかでおいしいコーヒーを飲んでから家に帰ろう、と思い、高瀬川沿いを歩いていた。


ふと見かけた見慣れない薄紫の看板。


アレ?こんなとこに喫茶店なんてあったっけかなあ?

と思いながら、吸い寄せられるように店への階段を上っていた。


ドアを開けると
ありゃま、これはスナック?っていうような内装。


「いらっしゃいませ!」
と気合いの入ったママの声。


間違いなく、間違いなく、ママに一目ぼれ!


文句なしに美しかった(過去形にしてはいけないか?)


とりあえずホットコーヒーをオーダー。


なんと、開店して、まだ3日目だと言う。


「いらっしゃいませ」の語気の強さのわけが、良くわかった。


コーヒーを淹れる仕草すべてが、ぎこちなくて可愛かった(過去形にしてはいけないか?)


こんな店、こんなママは、コーヒー蘊蓄オヤジの恰好のターゲットとなる。


実際、この2年余り、私と同じように店に来ては、あーだこーだとコーヒー蘊蓄を垂れ流すオヤジを数人は見た。


蘊蓄オヤジたちに共通しているのは、
「なんでサイフォン式にしないのか?」
と勧めること


50前後のオヤジたちは皆、学生街の喫茶店で
流行りはじめたばかりのサイフォン式コーヒーで、コーヒーの味を覚えて育ったのだ。
そうに違いない。


私はサイフォン式に異論を唱える。

サイフォン式では、コーヒーを淹れる温度が、ほとんど沸点に近くなる。

ホットコーヒーを淹れる最適温度は85℃くらい。

それ以上では、せっかくの香りが逃げてしまう。


(つづく)



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