~ 今日の風 ~

~ 今日の風 ~



      =詩=

暗闇で
みなに知られず
ひそやかに開いた
繊細な花は
光を待たずに
閉じていった
ただあたりまえに
咲いて
そして閉じていった




今夜は満月

こんなに月が明るかったなんて忘れていた


月に照らされた夜の空は蒼く 雲は白い


月を見つめれば

遠い昔に還れる

懐かしい人

あたたかなこころ

やさしさに心が満たされていく



しかし

あの時果たせなかった約束

心残り


いつか 時が満ちた時

その約束を果たそう





   -----------*----------



心の奥に沈んだものを汲み上げるように

心の一点を見つめる


部屋の灯りを消せば

月は私を照らしてくれる


狭く開けた隙間からさえも

顔を覗かせ

ただ黙って見ていてくださる


いつかそんな人がいてくれたような記憶を

思い出させてくれる





突然の閃光に
赤い三輪車は 色と形を失った
ぽぉちゃんとおにいちゃんも
三輪車と同じようになった
「もっと、遊んでいたかったのに・・・・」



今度生まれてくるときは 樹になりたい
大地にしっかり根を張って
一日中空を眺めていよう
今度生まれてくるときは 鳥になりたい
風に乗って大空を飛び続けよう 





   「鏡の世界」

池の中は 原生林
深い 深い 森の中

鏡のような水面(ミナモ)が
風のそよぎに
震える

漣ともいえないほどの漣が
広がっていく

深い 深い 幻想の世界へと
広がっていく

深く
高く
果てしなく

繊細な枝先が
震え出す

鏡のような水面(ミナモ)が
震えている




「いきつくところ」
 拾ってもらえなかった
 哀しみの小石が
 身を投げた冷たい海底 /ウミゾコ
 忘れられた小石が
 積もっていく



「青白い星」

目を瞑ると見えてきた心は
哀しみに満ちていました

深い深い哀しみです

この限りない哀しみは
どこから来るのでしょうか

このしめつけられるようなせつなさは
何なのでしょうか

切り離された痛みでしょうか

あの青白い光の星は
宇宙にただよう哀しみでしょうか

宇宙にただよう孤独な魂でしょうか




[森の朝食]

森の中の
ログハウスのベランダの
木漏れ日浴びる円テーブルに
椅子はいくつ並べるの

天然酵母で全粒粉のくるみパンは
焼き立てで

ジャムは 林檎にしようか
それとも杏、ブルーベリー

コーヒーが好きな人には
たんぽぽコーヒー
それとも玄米コーヒーもありますよ

そして、紅茶はアールグレイ
ハーブティーはレモングラスかローズヒップ

サラダはそうねぇ
家庭菜園の採りたてで
今日は、レタスに、トマトに
そうさっき水辺で摘んだクレソンも

卵は鶏さんにいただいて
おととい作ったベーコンで
ベーコンエッグにしましょうか

コーヒーカップはIさんの
パンの籠はOさんの
ナイフはKさん作の手作りナイフ
さくらの木って言ってたわ

テーブルの上の秋の野の花
早起きして摘んできたの

そうそう もうそろそろキノコも出るわ
来週、みんなで行きましょうよ

みなさーん、ごはんですよぉ








消え入りそうな月でした
たよりない月でした

何だか自分を見ているようで
何だか自分を見られているようで

ずーっと そのか細い月を
見ていました

月が滲んで
ひかりのすじがのびました





    秋 深くなって

何かしたいなぁ と思っているうちに
あれをしようか と思っているうちに

どこか行きたいなぁ と思っているうちに
あそこへ行こう と思っているうちに

あなたに会いたい と思っているだけで

メールを出そうと 思っているだけで

もう 秋が 深く なっている




      雨の日

雨の日 お空は海になる
白くて 広い海になる

鳥は 海の魚になって
そうして 私は 海の底

雨は 水面から降ってきて /ミナモ
水底の私を 濡らしてる /ミナゾコ

雨の日 私は 海の底


            わたしは 何をしているのだろう
            わたしは 何をしたいのだろう
            ゆっくり 感じる暇もなく
            わたしの心に
            わたしの居場所がない


                              あの日の風

                      あの日の風は どこに行ったの
                      今 髪をなでる風は どこにいくの

                      流れていく時を
                      咲き続けた 湿原の花たち

                      十年ぶり
                      ふたりで歩く木道の
                      コウホネの池で あなたが言う

                      「こんな池が 庭にあったらいいね」

                      春になれば 水芭蕉の咲く
                      せせらぎの木道に 腰掛けて
                      わたしが言う

                       「ねぇ、こんな川も流れているといいわね」

                      そして ふたりは笑う

                      あの日の風に 吹かれた松虫草の色は
                      今も 変わっていない



自由に飛べた空へ飛び立てない
白い翼を
知らぬ間に
どこかに落としてしまったらしい


                         北の岬へ一日5本だけのバス
                         空も海も広い
                         聞こえてくるのは波音だけ
                         ちっぽけな自分をどう生きるのか


陽の落ち切るまでに辿り着かなければ
どこか知らないところに行ってしまいそうな気がする
闇になる前に辿り着かなければ
知らぬ間に行ってしまいそうな気がする
わけもなく寂しい秋


                         灰を撒いて花は咲かせられないけれど
                         種を蒔いて花を咲かせよう
                         一瞬に花盛りにはできないけれど        
                          時間をかけて咲かせよう
                          ちっとも不思議じゃない花咲かばあさんになろう


草につかまっている蝉の抜け殻
蝉は若草色の世界に飛び立った
熱いアスファルトに転がる蝉の屍
だけどきっと忘れない
大きな欅の樹でみんなで歌ったこの夏のこと


                                お父さんの後を少し離れて
                                 ついていく少年
                                 縁石の上をとことこ
                                 標識のポールをくるりん
                                 歩いていることが楽しい


あなたのそばにはうつくしい海も空も樹も花もあるのに
ゆっくりと眠る場も時も持たないというあなたに
こわれそうなその心が崩れないように
何を贈りましょうか


                                 さっき食べたものなんて覚えていない
                                  昨日会った人の顔なんて忘れた
                                  何をしようとしていたのかもわからない
                                  案外こうして
                                  幸せになるのかもしれない



海は 過去を飲み込んで 限りなく広い
空は 果てしなく未来につながり 大きい
私は 海と空の境目にいて
何にも見えない

海も空も
                                  書きかけのノートをびりっと破り
                                  新しいノートのように書き始めても
                                  薄くなってしまった 残りのページ
                                  でも、まだ残っている 残りのページ



いくつもの開いていないドアがある
ノックもしたことのないドア
開きかけたまま錆付いているドア
あることも知られずにあるドア
そんなドアがこころの中にある


                                  どんよりとした空
                                  いまにも雨が落ちそうなのを
                                 こらえている空
                                 見ていると
                                 何だかせつないよ



ことばにすると むなしいこと
ことばにしても どうにもならないこと
ことばには できなかったこと
そんなものが いつのまにか 溜まっていて
一瞬 その中でおぼれかかる


                              ハルジオンがちらほら咲く線路沿いの道を
                             赤い自転車がやってくる
                              少女がふらつきながらも
                              一足一足力をこめて漕いでいる
                              春の陽に車輪が光った


「森の時計」

降る雨が 大地に落ちるまでの 時
それが きっと 秒針
苔についた一滴が 流れに落ちるまでの 時 /ヒトシズク
それが きっと 分針
森の時を刻むのは 水です



                                  雨の森を歩く
                                  傘はいらない
                                  いのちの雨に濡れて
                                  裸で歩く
                                  わたしは 森の一本の樹になる



小学校の裏庭 クローバーの野原で
ずっとしゃがんで 四つ葉のクローバーを探してた
いつしか 鈍い色合いになった空を
カラスがゆっくりと飛んでいった
あの時 私が探していたものは
隠していた自分だったのかもしれない



                               「虹」

                              わたしは 魔法使い
                           だって ほら きれいなお花の上に
                          いつでも どこにでも 虹をつくれるの
                         咲いたばかりのチドリソウ ずっと咲いてるネモフィラの上にも
                               いつでも自由につくれるの



海からの風
晴れ渡った空
白い砂浜
足裏には砂に溜まった温もり
ぐーんと腕を伸ばす



                              小さな花が空に顔を向けた
                          空からの光 空からの風をいっぱい受けて
                        生きることの歓び 伸びることの楽しさに あふれている
                            数え切れないほどの赤い花が 咲き出した
                              君の十五年目の花みずき



雪の下に 何がある
雪の下には 花の芽と春になりたい清ら水
雪はふんわり包んでる
雪はほんとはあたたかな まあるいやさしい綿帽子



                               「お月様は 鏡」
                            お月様を見ると あなたを想う
                            お月様を見れば 遠いあなたが見える
                            遠い過去に あなたを想っていた
                            お月様を見ると あなたが見える   



ねこさん、そこでなにしてるの?
ねこさん、だまって振り返り そのまま ずっと そのまんま
ねこさん、ずっとわたしを見てて わたしも ずっと ねこさん見てる
ふたりで じっと見つめてる
ねこさん、あなたもひとりでいたいのね



                                  あなたがさっき写したものは
                               凍てつきながら 空を映してるあの湖?
                               雪を被った遠い山並み?
                               雲一つない青い空?
                               それともわたしのかなしい想い? 


寒気の森にいて
ひめしゃらを 見上げる
震える枝先を見つめていれば
湖水が見える
過去も未来も現在も みんな同じこと



                           辛さと辛さ   /カラ/ツラ

                        辛いものが嫌いな私だけど      /カラ
                今日は思いっきり辛い山葵漬け たっぷりのせてご飯を食べる
             つーんと 辛さが頭のてっぺん突き抜けて 涙が出た     /カラ
             涙がいっぱい出たら こころが軽くなるかなぁ
           辛いも辛いも同じだね 辛の字に+を載せたら 幸せになるよ /カラ/ツラ  


揺れる樹々を見ながら
遠い日 誰かを待ち続けていた記憶に 
すべっていく
春の風は止むことなく 
樹々は揺れ止まない  


                                 あなたとわたし
                                 違いを許せなくて
                                 違いに傷ついて
                                 違いに悩んで
                                 そんなところが 一緒だね 


知らなかった
愛の背中に憎しみがあったなんて

憎しみの隣には まだ期待があって
期待の奥には 愛があるのだろうか


                                とまどっていたふり
                              ほんとは 落胆していた
                              気がつかなかったふり
                              ほんとは 傷ついていた
                              もう ふりなどしない
                               さようなら 



空は海を映して あんなに青い
海は空を映して あんなに蒼い
今日 空も海も あんなに あおいのに
それでも ひとつにはなれない 空と海


                              私が一番綺麗だったとき
                          私は 高い塀を築いて 何を護っていたのだろうか
                             私が一番綺麗だったとき
                          私は 何を大事に思っていたのだろうか
                             秋風が吹き始めた今
                          稲が黄金色/コガネイロに輝くように 一番輝く私になろう



陽は西に傾き 樹々の黄葉が輝きはじめた
小高い丘の草原には
森の樹々が濃く長く 縞模様を描きはじめた
いつまでも お話していたいのに
秋の陽にせかされている


                             胸に染み入る音楽に
                             忘れられていた ささやかな感情たちが
                             むくむく ぴょこぴょこ 起き出して
                             存在を主張しはじめる
                             名前のない想いが外に出ようと 動きはじめた



炎天の畦道を
四人の少年が歩いている
広い広い青田の中を
動くものは
四人だけ



                                 想い出は 空にむかうあの道
                                想い出は あの遠い海からの風
                                想い出は 樹々と濡れたあの雨
                                 なのに
                                想い出の中のあなたの顔が
                                見えない



幸せの物差しは 心の中
良いも悪いも 好きも嫌いも 要るも要らないも
心の中の物差しが計っている
そんな物差し大空にほおり投げて
からっぽになれたら ほんとに幸せだね



                             ねばならないことに囚われて
                            ねばならないことに疲れ果て
                            何かをなくしている
                            何かを探す混乱の中
                            ねばならないことに救われている



夕陽に向って走る
どこまでも 
いつまでも 
ずっとずっと走って行ったら 
どこか知らない世界に辿り着けそうで


                                   しんしんと
                                  身体も心も冷え切って
                                  自分の根っこに触れた
                                  だから そんな寒さに
                                  また会いに行く



             こころの細かな襞に
             いつのまにか積もった塵
             小さな箒で掃き出しながら
             ささやかな言葉に変えていき
             気付かなかった想いに光をあてる


 「じゃがいもに似た君の頭から」

  寒波襲来という言葉を覚えた冬でした

  教室に入れば
  温まった指先がじんじんとする
  真冬の朝

  霜の降りた校庭では
  サッカーに興じる 男の子たち

  チャイムとともに
  駆けてくる
  君のじゃがいもに似た頭から
  あったかい湯気が立ち昇っていました

  声を掛け損ねた朝でした


                       絵はがき

                  一枚の絵はがきに
                   夕陽が 見えた

                  一枚の絵はがきに
                   小道が 見えた

                   一枚の絵はがきに
                     灯りが 見えた

                   一枚の絵はがきに
                        さびしさが 見えた

                    一枚の絵はがきに
                       あなたが 見えた



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