「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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そのころのとあるいっしつ
#03
そして翌日。
「おはようございま……っ!?」
昨日の調子で居間の方へ出てくると、そこには見慣れない人影があった。
それは黒くて長い髪の毛を持ち、キッチンで何やら調理をしていて、
「おはようございます」
振り向いてそう喋った。
ミルルはあらためてその人を見据える。自分より少し背の高い女性。挨拶が済んだらそれで良かったのか
リズムよく包丁をまな板に打ち付ける。野菜が切れる。
(おかしいな…)
この女性をどこかで見たような気がする。今この辺まで出かかっているのに、いまいち思い出せない。
「…私の顔に何かついてますか?」
「あ…いえ」
黒い目でじっと見つめられ、少し戸惑う。何というか、威圧感みたいなのが感じられる。
「すいません、お名前の方は…」
トントンとなっていた包丁の音が途絶える。それから少しして、女性は口を開いた。
「私ですか。…私はMID-X2000.@…通称ミユキです」
「えむあいでぃー…あ、もしかして」
脳裏に昨日の光景が浮かぶ。外に出て、ゴミ捨て場から持ち出してきたあの女性型ロボットの型番…
確かMIDで始まるものだった。
それを、この女性は口にした。
「…機械、ですか?」
「そういう事でしょうか。…内部構造からして、人のものではありません」
涼しい声でそう答える。よく見れば耳の辺りにアンテナが立っている。時々二つの眼の内部で何かが光ってみせたりもする。
「私の事はミユキと呼んで下されば。以後、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします…」
それから、切った野菜を鍋に放り込んで煮込み始めた。使い終わった包丁は一度流しで洗われ、彼女…ミユキの左腕に
装備されているティッシュ箱ほどのコンテナに収納された。
「あの、私も何かした方がいいでしょうか…」
「いいえ。現状では私だけでも大丈夫でしょうから、どうぞ居間の方に」
きっちりと言い切られ、ミルルは返す言葉もなく居間へと向かう。
(なんだろう…)
居間でちょこんと座って待っているのは、なんだかメイドらしからぬ状態に思えてきて仕方が無い。
主人の食事を作るのが当たり前だったから、それが運ばれて来るのをただ待つ、というのがミルルには不自然で
ならなかった。
(やっぱり、戻ろう)
とてとてとキッチンの方に戻って行く。するとどうだろう。さっきの女性が床に蹲っているではないか。
「…大丈夫ですか?」
「どうやら、お砂糖とお塩を間違えてしまったみたいで…」
ぐつぐつと煮えていた鍋の中身は味噌汁らしき液体。その近くに置いてあった白い粉末の入っている小瓶。
ちょいとすくって口に運ぶ。…それは味噌汁の塩分が不思議な感じに甘く味付けされた、味噌汁でない別の味。
甘味の方が際立っているからさらに不思議だった。どれだけ入れたのだろう。
でも、別にまずいわけではなかったので、ミルルはそのまま近くのお椀によそっておいた。
「………」
ようやく立ち直ったのか、ミユキも炊飯器の米を椀に盛った。炊きあがったばかりの米はゆらゆらと湯気を出す。
それを、何も言わずに奥の居間へと運んで行った。
ミルルも近くにあったお盆にいろいろと乗せて、その後に続いた。
「…どうぞ」
テーブルには先程キッチンにあったさまざまなものが置かれていた。…食べろ、との事らしい。
口に運んでからしばらくして、ミルルはミユキもこれらを口に入れていた事に気がつく。
「…食べられるんですか?」
「ええ、食べられない事はありません。内部で消化吸収を行っていますので」
「そうですか…」
もぐもぐと口を動かして、ごくんと飲み込む。体は機械だと自分で言ったミユキの動作が、だいぶ人間じみていて、
ミルルは少し焦った。再び箸を使って口に運んで行くその様子を、どうしても気になって見てしまう。
「…?」
自分の顔に何かついているのか、そう問いたげな表情を向ける。ミルルはふいと顔を逸らしてしまう。
「今日はマスターからあなたをある場所に連れていくようにと指示を受けていますので、後ほど出発したいと
思います」
「この後…ですか?」
「はい。朝食をとってから向かいたかったので。…歩いても夕方には着きます」
「…わかりました」
今の言葉から大体の事を察した。どうあっても公共の乗り物を使わず、歩くということらしい。
まあ年末で交通の問題という事もある。よく晴れていたのでちょうど良いとも思った。
「お口に合いませんか?」
「あ、いえ…」
先程の味噌汁である。さっき“別にまずくもなかった”とは言ったが、それは甘党であるカオルのもとで
色々と甘味の調整をしてきたミルルの舌に限っての事で、味噌汁を知る普通の大衆にこれを飲ませれば
九割はまずいと言うだろう。
これを不味くはないと認識したミルルの舌は、少し麻痺しているのかもしれない。
…とりあえず甘いのである。中にある野菜のものではなくて、何か人為的なものの感じがする。
ベタなオチだが、間違えてしまったのである。
「やはりメモリにないものを作ろうとするのはやめた方が良かったのでしょうか…」
「メモリ…、料理なら例えばどんなものが作れるんですか?」
「あんなものからこんなものまで…例えばですね」
語り始めたら止まらなくなった。自分のメモリに入っていた各種料理のレシピをその場でミルルに見せたのである。
そのファイル数は実に5000を超えていた。
「な、なるほど…。それで味噌汁は…」
「ええ…実はこの中に“味噌汁”なるものが無くて、検索をかけて見つかったものを参考にしたのですが…」
「お砂糖とお塩…」
「あれは、間違いなく私のミスです…。マスターに何と言ったら良いか…」
頭を抱えてうんうん唸るミユキは、実は普通の人間で機械というのは嘘…だとミルルは思いたかった。
ここまで柔軟な思考と言語能力を持っていて、かつ初歩的なミスを犯すからだ。
でも、さっきのメモリの事やら何やらを目の当たりにすると、そうも言えなくなってきた。
「次からは失敗しないように頑張りましょう?」
「……はい。あなたの言う通りです。私が頑張らねば…」
ミユキの眼に火が灯る。何かとてつもない使命感を背負っている感じがした。
*
―――で、ミルルは出発のために着替えを済ませ、荷物をまとめて出てきた。
「…!」
その様子に驚いたのはミユキである。
「ど、どうかしましたか?」
「メイド服…もしや本物のメイド様ですか…?」
「そ、そうですけど…」
「…こ、これは失礼しました」
MID社の行っていた作業用ロボット生産計画は、本来メイドロボの生産計画だったらしい。
が、この計画が半ばほどで頓挫してしまい、それなら養ってきた機械技術で、といった理由から
メイドロボ生産計画から作業用ロボット生産計画へと移行されたという。
ミユキの前身…MID-X2000.@はその名残だったのだろう…と、この機械を“お持ち帰り”したあの少女が言っていた。
しかし、あの時は言語回路を持っていなかった。こうして人と話すことができるようになってから、さて、
メイドに“様”を付けて呼んでいるのはどういうことなのだろう。
“物にも記憶はある”というフレーズが、ミルルの脳裏にうっすらと浮かんでいた。
「では、行きましょう」
「…はい」
朝の陽ざしを浴びていたドアが静かに開かれ、そこから二人(一人と一機)は外へと出る。
ちなみにミユキのマスターは前日(と、今日にまたがった作業)の疲れでぐっすりと眠っていた。
そうして二人は朝の商店街へと姿を現す。やはりミルルはメイド服であり、周囲の視線を集めていた。
が、今回はミユキも同じような状態だった。
「そんなに珍しいですかね?この服…」
「…この近辺に“メイド喫茶”なるものはあまり確認していませんので…そのせいかと」
と、黒いブレザーに膝下まで隠れるロングスカートを穿いたミユキは言う。
この服装はいわゆるオプションで、拾ってきたときに背中に格納されていたものであった。
黒い長髪も相まって、まさに黒装束とでも言わんばかりの漆黒のいでたちで、ミルルの横を歩いている。
「ところで…お名前を伺っておりませんでしたね」
「…遅くないですか?…ええと、私はミルル。ミルルです」
「では改めて。私はMID-X2000…この辺りは略して、ミユキです」
お互いに揃って頭を下げる。…やはり各種店舗の店番の視線を集めていたのはこの二人だった。
今の光景は周囲に何を与えたろうか。疑問かもしれない。
そうやって商店街のアーケードを抜け、とある工場地域へと向かう。
ここは、ミユキが…MID-X2000.@が廃棄されていたあの工場である。
「…ここが、私の生まれ故郷です」
「工場…」
広い敷地に建つこの白い工場こそが、MID社。作業場が近くなのだろう、機械の音が響いて聞こえてくる。
連日連夜ここで作業用ロボットが生み出され、幾つかのテストを経て出荷される。
もちろん、これに引っかかると出荷できない。その内の何機かは修復されるが、ひどいものは処分される。
「ミユキさんはプロトタイプなんですよね?」
「はい。…私のデータをもとに量産されたのが、MID-X2001.@…通称ミユ」
先程のティッシュ箱コンテナから紙切れが出てくる。ミユキから渡されたそれには、ミユの基本スペックが記されて
いた。どうやらこのコンテナは外付け式のようで、リストバンドのようなもので固定されていた。
平均稼働時間・約半日。外部電源から充電可能。充電時間はおおよそ三時間。その他、言葉では説明しにくい、
難しい機能が搭載されていた模様だ。
「……」
「どうかされましたか?」
「あ、いえ……」
非常に細かい字で書かれているため、読んでいて目が疲れる。この印刷も会社のホームページからなのだと思うが、
もう少し改善してほしい、そう思うミルルだった。
★
「………」
藍はその光景を見て絶句した。
辺りに散乱しているのは飲み物の空き缶や空きビン、食べ散らかされたお菓子の袋などだ。
二階の部屋から出て、渡り廊下から店の奥へ入って最初の光景だった。
(昨日、何してたかな…)
思い出せない。カオルと霞とで集まって、それからの事が殆ど全部。ただ見て分かるのは、汚いという事だけだった。
(片づけなきゃ)
初日の柑橘類を何とかして、まだ二日である。このままこの状態を繰り返していたら、毎日が掃除で終わるという
情けない日課を作ることになってしまうだろう。それだけは防がなければ。
まず近場から。缶、ビン、ボトルはそれぞれ分けて資源ゴミに。燃える、燃えないも分別しないと怒られる。
一体どこからこんなに出てきたんだとばかりに、店の奥のこの部屋にはそれらが散乱している。
入口付近には足の踏み場もない。
がちゃがちゃ、ばさばさといろんなものがぶつかり合う音。
手当たり次第にゴミ袋に突っ込み、溜まったら結んでドアの方に寄せる。
「きゃっ!」
転がっていた缶を踏んでしまい、すってーん、と前のめりに転んでしまった。
(……あ)
スカートの方に付いた埃を掃っていた時、壁掛けの時計が目に留まった。見ると、針は十時と三十分を指していた。
(…霞ちゃん、遅い)
実は営業日なら一時間と三十分の遅刻である。…自分も起きたのは三十分前だから他人のことは言えないが、
彼女が遅刻しているのは確かな事実である。藍は霞の部屋に向かうため、ゴミ袋をどけてドアを開け、二階へと
向かった。
(………)
渡り廊下というのはなかなか不気味なものである。
朝で外は日が高く昇っているのに薄暗く、物音がしない。今はコツン、コツンと藍のブーツの足音が聞こえるだけだ。
鼠か何かがいると、そういう雰囲気を醸し出してしまう。…しかし、お化けが出るには早すぎる。
電気がなく、明かりと言えば曲がり角にある窓一枚くらいしかない。別に窓の数で税金を取られるわけではないが、
この廊下の壁には“もともとは窓だった”ような四角い囲いがいくつもあった。
そんな暗がりの廊下の曲がり角、あの窓の逆光に人影が見えた。カオル…ではない。背が同じくらいの女の子だ。
こちらの足音に気付いたのだろうか。向きを変えると藍の方へ近寄って来た。
「……………」
お互いに黙ったままである。しかし、これはどう切り出せば良いのか分からなかった藍のミスだった。
こういう小さな子とあまり接点を持たなかった過去を少し後悔した。扱い方が分からないのである。
特に向こうは警戒している様子はないようで、藍が額に手を当てて何かを考えている様をただただ見上げていた。
「えーと」
「?」
大きな瞳で藍を見据える少女。藍もしゃがんで目線を合わせる。
「…どこから来たの?」
「……」
後ろの方を指でさして示す。あの方向には外に通じる扉が…学校で言う裏門のようなドアがある。
しかしそこは関係者入口のようなもので、本来なら開いてはいないはずだが…。
「あれ…?」
少女と一緒にそのドアまで行くと、カギが開いていた。でなければこの子はここに入ることはできないが、
不用心にもほどがある。
「何か、探してたのかな?」
「………」
無言のまま頷く。しかしそれだけで何を探しているのかは分からない。
道路の方に目をやると、コートを着た女性があたりを気にしながら歩いている。
少女は自分の身長ぎりぎりの窓からそれを確認するやいなや、くるりと向きを変えて階段を駆け下りていく。
「あ、ちょっと…」
藍もそれを追いかけて走った。鉄製の階段がカンカンと鳴る。
「どこ行ってたの?探したんだから……」
先ほどの女性はこの少女を探していた模様だった。少女も抱きついて嬉しそうである。
「あなたが見つけてくれたのね。…ありがと」
「あ、いえ、私は…」
両手を取られてぶんぶんと振られる。…手が冷たい。
「ところで…あそこのドアは開いていたんですよね?」
「ん~?私はさっき来たばっかりだから分からないけど…、どうだったの?」
藍の質問には少女が代わりに答えてくれた。…開いていたらしい。
「…どうして開いてたんだろう…」
朝の早くに誰かが出て行ったような音はない…気がする。自分が目覚めたのが
遅かったから、そういう可能性もあるわけで…。
案の定、そういう可能性が真実だった。
「あれ、一之瀬先輩?」
「えーと…霞?」
霞の登場だ。両手にスーパーのレジ袋を持って、こちらにやってくる。
がさがさと音を立てている袋の中身は、カップ麺などインスタントな食品たちだった。
「…霞ちゃん?」
「ああ、紹介するね藍ちゃん。この人は私の一つ上の一之瀬葵先輩。…で、先輩。こっちは私の友達の夜芝藍ちゃん」
「霞の知り合いだったんだ。…よろしくね、夜芝さん」
「よ、…よろしくお願いします」
また両手を取られてぶんぶん振られる。やはり、手は冷たい。
「ところで先輩。…この子は?」
「ああ、この子?…えっとね、私の叔母さんの子供…従妹で、黒瀬ピュアっていうの」
挨拶は?と葵が言うと、ピュアは二人の方を向いてぺこりと頭を下げた。…お辞儀らしい。
「よろしくね、ピュアちゃん」
藍が笑いかけると、ピュアも“にこー”と笑みを浮かべる。
「で…二人ともどこのお店の制服?ここ近辺じゃ見かけないけど…」
葵は霞に問う。
「そこのお店です。今は年末年始で休みですけど」
「ふぅん…ごめんね、越してきたばっかりだから…、もし開いたら寄らせてもらおうかな?」
「あ、…どうぞどうぞ。お待ちしてますよー」
「ふふ、楽しみ。…じゃ、私はそろそろ行くね。また会おうね」
「先輩もお元気で~」
ピュアと一緒に去ってゆく葵。二人でそれを見送り、大きく手を振った。
今回はここまで。
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