Full Power of Rain

Full Power of Rain

かわいいこえで天使はささやく



「……痒い、」

ぼそっと呟いた獄寺は、耳を軽く触ってて。

「……耳かきしてやろうか?」

そう言ったら、獄寺は「しなくていい」とまた小さな声で返してきた。
……なぁ。なんか隠してるだろ、獄寺。



かわいいこえで天使はささやく



いいから、してやるって。
人からやってもらうときもちーもんだぜ?

なんて言ってはみるものの、獄寺はやたらと抵抗してくる。
耳かき、嫌いなのか?

でも、それならそれで諦めればいーのによ。
獄寺、ずっと痒いのが気になるみてーで、なんかずっともぞもぞ一人で耳元触ってんの。
やっぱ耳かきしてやったほうがいいよな。
痒いまんまより、ぜってー耳かきしたほうがきもちーだろ。うん。やっぱそうだ。

「気になってんだろ? オレがやってやるから、な? じっとしてろって」

胡坐をかいて座ってた獄寺をぐっと引き寄せ、何とかオレの上に寝かしつける。
ちょうど耳かきはオレの座ってるすぐ脇にあっから、とりあえずはこれで準備完了。
あとは獄寺をどうやって大人しくさせるかが問題だけど……まあ大丈夫だろ。

そっと耳に手を伸ばしかけたとこで、獄寺の背中が大きく震えた。

「……獄寺、どうかしたか?」
「バカがッ、触んな!」

やっぱ怒られちまうか。

「触っちゃダメなのか?」
「……、」

獄寺がこくりと頷く。ミリ単位の小さい頷き。

「でも痒いまんまは嫌だろ?」
「……」

否定の言葉は、無かった。

「じゃあちょっとじっとしてろって。すぐ終わるしさ」
「いや、自分でやるからその耳かき貸せ」

ごめん獄寺、悪気はねーけどちょっとだけ無視させてな?
っつーことで今度はちょっとだけ触れてみる。獄寺が震える。じたばたする。

「や、やめろっ!」

なんで?
尋ねると獄寺はオレを睨みながらぼそぼそと答えてくれた。

「オレっ……無理なんだよ、その……耳はっ……、」

……それはあれか?
耳が感じるとか、そういう?

……じゃあとりあえずオレが耳かきしてやるからじっとしてろな。

「ひぁっ」

今度は構わず触れてやる。獄寺が震える。今度は声も漏れる。じたばたする。

それは獄寺には似合わねぇ、ツナみてーな小さい悲鳴。呻く声。
そんなのも全部、すげー可愛くて、たまんねぇ。

んなこと考えてたら、いつの間にか、じたばたすんのやめてた獄寺が、
オレの膝の上にちょこんと頭乗せたまま、オレの背中にきつく腕、回してて。

あれ、もしかしてお前、声出そーなの止めようとしてんのか?

「おいおい獄寺、それじゃ見えねーよ。もっと肩の力を抜けって……な?」

あ、もちろん腕の力は抜かなくていいぜ!
うん、なんかすげー新鮮でいいな!

「む、無理だっつのっ、つか早くっ……やるんならさっさとしやがれっ、バカ」

……獄寺、お前さ、なんか……エロいぜ?
っつったらもう一生獄寺に振り向いてもらえない気がして、黙っとく。

でもな獄寺、そーいうとこ見せんのはオレの前だけにしとけな!

思いながら、獄寺の耳の上にかかってる、すげーさらさらしてる髪を掻きあげて、
そんで、その耳にそっと、耳かきを入れる。
そんだけの間に獄寺のやつ、すげぇびくびくしてんの。いくらなんでも感度良すぎじゃねぇのこれ。

「ッ……! うぁっ! やだっ、やっぱやめろっ」

やめろって言われたらやりたくなっちまうから、さ。
頼むぜ獄寺。オレの為にもじっとしといてくれよ。
あ、いや、でもなぁ……やっぱもうちっと騒いでくれたほうが嬉しいな……。

獄寺の顔はいつの間にかすげー火照ってて色っぽい。声もだけど。

「獄寺、」

オレのこの言葉が、今、こんな状態の獄寺に届いてるかどうかは定かじゃねぇけど。
獄寺の耳の痒いのが取れて落ち着いたら、そしたらオレは、獄寺にちゃんと聞こえるように
もう一度だけ、思いっきり囁いてやる。

「すげー可愛いよ」

だから。

オレの耳にも、獄寺の声、もっと運んでくれよ。
って。そんな心の声も獄寺に届いちまったのかわかんねーけど。

「…………死ね、」

獄寺は、かわいー顔をしたまんま、ひでーことを呟いた。

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