Full Power of Rain

Full Power of Rain

遠回りして君に逢いにいく

遠回りして君に逢いにいく



獄寺宅。
その玄関にて、へこたれる影がふたつ。


「ご、獄でっ、らぁ――」

熱を含んだ吐息と声で、山本が必死にその名を呼んだ。
へなへなとその場に座り込む山本を、獄寺が何とか支えようと引っ張り起こそうとする。

「何でこんなになるまで放っといたんだよ、バカだろお前」

額に軽く手を添えてやれば、それだけで山本がかなりの熱を出していることが解る。
よくこんなになってまで遠回りしてオレの家まで帰ってこようなんて思ったものだ。

「だって……獄寺に、会いたかったんだもんっ……」

――獄寺は数日前から、イタリアへダイナマイトの仕入れの為に向かっていた。

帰国したのは、今朝早く。ツナにもそう伝えていたから、今日までは学校を休める。
そう思い、獄寺は飛行機内での仮眠もそこそこに、帰宅してから思い切り今までベッドに横になっていた。

そこへ、このバカ――山本武――が学校を早退してきたのである。
熱を出し、ふらふらになってまで、遠回り。

理由は、既に帰宅してきているであろう獄寺に、会いたかったから――。

「だから、バカだっつってんだよ!
 学校から家に連絡入れてもらったんだろ? 親父さんがお前を待ってんじゃねーのか、」

「……親父……今日いねぇ……仕入れで……」

獄寺に甘えるような、くてーっとした声で山本は呟いた。
ひとりでいるのは心細いし、獄寺にも会いたかったし……と。

声に張りの無い山本にはひどく違和感を覚えたが、それでも獄寺はその言葉に頬を赤らめた。
それが山本に見えないように、獄寺はぶんと大きく首を振ると、
ベッドのある自室まで、熱のある山本をずるずると引っ張るように連れて行った。

「病人はさっさと寝とけよ!」

怒鳴りつけるように言いながら、さっきまで自分が横になっていたベッドに山本を押し付ける。

「……ごくでらー、おまえさっきまでここで寝てただろー……」

布団をもぞもぞと被りながら、横になった山本がまた甘えるような声を出した。

「ごくでらの、においがするし……あったけー……きもちい」

熱のある、ぐるぐると回転する頭から湧き出てくる単語を必死に繋ぎ合わせながら、山本はやっとそう口にした。
そんな山本を殴る気にはさすがの獄寺もなれず、代わりにその頭をちょっとだけ撫でてやりながら、

「バカは黙って寝てろ。……治るまで、ちゃんとここにいてやるから」

と、出来るだけ優しい言葉を選んで囁いた。

「……じゃあオレずっと風邪ひいてよーかな……」

……なんて。
苦笑するように、苦しそうな声で呟いた山本を、獄寺が軽く小突いた。

「なーにバカなこと考えてんだ。オレはそんなのごめんだからな。早いうちに治しやがれ」

それから少しだけ、戸惑いがちに続ける。

「……オレだって、その、少しは……すんだよ、」
「心配……とか?」

期待を寄せるように、上目遣いで山本が尋ねた。

「……そ、そうだよ! だから早く治せっつってんだろー!」
「がんばるのな」

にこりと微笑む山本を、獄寺が優しく突っぱねた。

熱っぽいのは、お互い様だ。

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