Full Power of Rain

Full Power of Rain

まだ遠い太陽を追いかけて


不運にも職員室へ招待されてしまったツナを二人して見送り、そのまま教室で二人きりで待っていた、放課後。

「あちー……」

呟きながら、髪を結い上げ始めた獄寺の首筋を、山本がじっと眺めていた。



まだ遠い太陽を追いかけて



「獄寺ぁーどこ見てんのー?」

窓際に並んだ机の上に、山本がどんと腰を下ろす。
そのちょうど手前の椅子に獄寺が腰掛けていたのだが、その獄寺はといえば、
さっきからずっと窓の向こうに広がっているグラウンドをじっと眺めていた。
どことなく、視線が野球部の方向へ向かっていた気もしたのだが、山本はどうにもそれが気に食わない。

「オレは今あっちじゃなくて、お前の前にいるんだけど」

山本はそっと獄寺の下唇に親指を添えると、そこからくいっと獄寺の顔を引き寄せ、微笑を浮かべながら囁いた。

「なッ!!? 山もっ、何すんっ、……ぁっ、」

不意にぐっと唇を押し当ててきた山本が、舌先でするりと獄寺の唇を割って侵入してくる。
それに獄寺は過敏に反応すると、掠れた吐息を僅かに漏らし、瞼を強く閉じて耐えようとした。
顎に添えられていた山本の指はいつの間にか、獄寺の零した唾液で濡れていて。

「うんうん、こんなに感じちまってなー、かわいーぜ獄寺っ」
「……なッ!?」

本当は、山本にそうされるというだけのことで感じることはたくさんあるのに。
不覚にも、深く繋がれば繋がるほど、気持ちよくさせられてしまう。
それに何より、こうされることで山本の好意が確かに感じられるから――。

思いながらも、顔を背ける。

「……なぁ獄寺、オレはここにいるぜ?」

もしかしなくたって、そんな山本を相手に、いちいちそれを気にしている自分がいちばん振り回されているのは事実で、
だから獄寺はそんな山本に腹を立てたりもするのだが、結局は山本の押しに負けてしまう。

その所為で、いつまでも言えない。
窓の向こうには、いつもお前がいそうな気がしたから、とか。
ただじっとお前を見ることが出来ないのは恥ずかしいからだ、とか。

もっとも、言うつもりも無いのだが。

「……ま、次はもっと気持ちよくしてやっから、今度はちゃんとオレ見てろな? 目ぇつぶんなくていいから、」

紡ぎかけた言葉の先を、触れてきた唇に遮られ。





「10代目ぇーー」

先公のうざったくってかったるい話は終わったんですね! 一緒に帰りましょう!
――頬をやたらに紅潮させ、額からだらだらと汗を流していた獄寺はそう、必死にツナを呼び止めた。

非常に後味の悪い言われ方なのだが、事実なのでしょうがない。
担任教師の話によれば、期末テストの成績は、山本は何だかんだ言いつつもしっかり上がっていたらしく、
今年は夏休みの補習を自分ひとりが受けるはめになりそうだとも聞かされていたので、それはなおさらだった。

(何だかんだで山本は理解が早いし……ってか獄寺君が説明すれば一発だし……どうなってんだろうね山本は……)

ツナがそんなことを葛藤しているとも獄寺は知らず、ぼうっと立っていたツナの前でちょこちょこと手を振った。
そこでツナはようやく意識を外界へ向け、獄寺がすごい汗をかきながら自分の心配をしていたことに気付く。

「ご、獄寺君……!? どうしたの、すごいよ、汗……」
「お気になさらず! ちょっと暑くて体が火照っちまいまして!」

しっぽのようにも見える、ちょろりと結われた髪がさっきからちろちろ揺れていた。
いつもは髪で隠れている白くて綺麗な首筋はほんのりと紅い。

その後ろから、山本が部活の道具などを抱えて二人を追いかけてきたのだが、振り返ればその山本も汗だくで。

「オレもオレもー」
「山本っ……も、すごい汗だねぇ!!?」

自分を指差しながらげらげらと笑っていた山本はどこかさばさばとしていた。

「そーなのなー。だから今日は部活休んで獄寺んちに帰ることにしたのなー」

なるほどね、それでそんなに爽やかなんだ。
汗がすごいことと部活休むことはぜんぜん関係ないけどね!
――ツナがそう言おうと口を開きかけたところ、獄寺がぎょっとして振り返るのが見えたので、ツナは黙っていた。

疲れの色の見える獄寺にかける言葉がもしもあるのなら、そう、たとえば、

「じゃあ、また明日ね」

……だろうか。

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