Full Power of Rain

Full Power of Rain

僕のまわりに広がる世界

僕のまわりに広がる世界



「ミードリータナービクー」

そこまで歌ってすぐ、鳥は歌うのをやめた。

「……今日はもう歌わないの?」
「ヒバリ、ヒバリ、」

頷くでもなく、僕の名を呼ぶ鳥は、僕の下に広がる世界を眺めていた。
飛ぶ為の翼があるのに、この鳥はなぜか、僕の傍からあまり離れようとはしない。
たまにどこかに飛んで行ったりはするけど、夕方には必ず僕のところに戻ってくる。
今だってそう。校舎の屋上にいる僕の肩に、この鳥はずっと止まったまま。
君なら、こんなところまで僕についてこなくたって、もっとたくさんのものが見られると思うんだけど。
まあいいよ。おもしろいし。

身体にぶつかる春の風。もう見慣れた景色。響いてくる煩い群れの声。

「アッチ、アッチ、リョーヘイ、イル、イル」

鳥が僕をつついた。

「……いつの間に覚えたんだい」

僕が尋ねると、鳥は悩みもせずに答えた。

「ヒバリ、キョクゲン、スキ、」

単語を繋げただけの会話。鳥の精一杯。
だけど、僕には解るよ。

「いつの間に教わったの」

てっきりボクシングばっかりやってるものと思ってたけど。
そんなこと覚えさせてる暇があるなら、僕のところにくればいいじゃない。

それで、そんなことも、僕に直接言えばいいんだよ。
鳥にわざわざそんなこと覚えさせて、僕に伝えて……そんなの君らしくない。

「バカじゃないの……」

了平もだけど、そんな了平についていこうと必死な自分も。
自分らしくなくって、どこかおかしい。

「……リョーヘイ、ヒバリ……バカ? ドッチ? リョーヘイ……バカ? ヒバリ、リョーヘイ」

鳥が悩み始めた。そんな小さい頭でいろんなことを覚えようとするからだよ。
言いかけて、止める。鳥が喋る。

「リョーヘイ、ヒバリ、キョクゲン、スキ…………ヒバリ、リョーヘイ、スキ?」

僕は小さく笑って、鳥に向かって言う。


「好きだよ」


夕空の下。君の顔が浮かんでは消えた。

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