偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2021.03.28
XML
カテゴリ:
日は雨。
 桜の咲いている時期の雨を桜雨というそうだが、「花散らしの雨」というのも耳にするので、調べてみると、この言葉は古くからあったものではなく、気象予報士のどなたかが誤用したものが一般に広まったもののようである。
 「花散らし」の本来の意味は、「旧暦3月3日に花見をし、その続きで、若い男女が集まってそのまま翌日まで夜通し花見の宴を続けること」というもので、男女の性的な交わりもあることを意味として含んだものであるようです。
 万葉集巻9-1759~1760の高橋虫麻呂の歌に詠まれた「かがひ」(歌垣)のようなものを指した言葉であったのだろう。
 一方、「花しぐれ(花時雨)」というのは、桜の時期のにわか雨のことを意味するようです。これが三日以上も続く長雨になると「春霖」となるのだろうが、鹿児島県肝属地方では、桜満開の時期の長雨を「桜流し」と言うそうである。
 ひょっとすると、誤用した気象予報士さんは、鹿児島は肝属地方ご出身のお方で、この「桜流し」から「花散らし」の意味を誤解して「花散らしの雨」という言葉をお使いになったのかもしれない(笑)。
 まあ、本来の意味はさて置き、誤用であるとしても「花を散らす雨」という意味での「花散らしの雨」というのはなかなかよくできた言葉であると思う。一般に広まったのも「むべ」なるかな、である。
 とまあ、ここまでが前振り、今日はアケビの花の記事であります。

(アケビの花)
 桜満開の時期の雨の日に「アケビの花」の写真を記事アップするのであるから、それなりの「前振り」が必要、と考えたものの、桜、雨、からアケビにどうつなぐかが難しい。
 で、アケビに似た「ムベ」という補助線を書き足して、ムベからアケビへという苦肉の策となった次第。
 もっともだ、その通りだ、納得だ、という意味で「むべなるかな」という言葉を使うが、この「むべ」はムベの実のことだという説がある。
 昔、天智天皇が近江八幡(北津田町・むべの郷)​に行幸の折、老夫婦に長寿の秘訣をお尋ねになったところ、老夫婦はムベの実を食べているから、と答えた。これを聞いて天皇が「むべなるかな」と言われた。これが「むべなるかな」の語源だというのである。

 万葉集に次のような歌がある。

​​​ ​闇夜​ やみ ​ならば  うべ も来まさじ 梅の花 咲ける 月夜 つくよ に  ​出​ でまさじとは
                         (紀女郎 万葉集巻8-1452​
​​​

​​ ​(闇夜ならば、なるほどお越しにならないでしょうが、梅の花が咲くこんな月夜においでにならないとはなんということでしょう。) ​​

​​  この歌は、紀女郎 (名は小鹿<をしか>) が大伴家持に贈った歌であるが、家持さんからの返しの歌がない。
 大伴家持の歌では次のものがある。

今造る  久邇 ( くに ) 都は 山川 の  ( さや ) けき 見れば  うべ 知らす らし
(大伴 家持  万葉集 巻6-1037

​​ ​​ (新しく造る久邇の都は、山や川の清らかさを見ると、なるほどここを都として君臨されるのだと思われることだ。)
 また、「うべなふ
(諾ふ) 」という語もあり、これは手元の国語辞典にも「うべなう」として掲載されている。意味は「もっともだと思って承知する、服従する」とある。
 梅や馬を古語では「むめ」「むま」と発音した。「む」と「う」は容易に入れ替わる音であるから​、「うべ」と「むべ」は同語である。

 万葉集の歌をとり上げるまでもなく、「むべ」なら、小倉百人一首にもこんな歌がある。
ふくからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ
              (文屋康秀 古今集249、小倉百人一首22)

​(<山おろしの風が>吹くとすぐに草や木がしおれてしまうので、なるほど山の風を「あらし」と呼び、また山と風を合わせた字で「嵐<あらし>」と訓むのであろう。)​
 これらの歌に見える「うべ」「むべ」の語源が「ムベの実」であるのかどうかは存じ上げぬが、前振りの「むべなるかな」から「ムベ」につながれば用が足りるのが当記事。
 ムベは、キンポウゲ目アケビ科ムベ属の植物。

 アケビの親戚のような存在である。
 ムベの花のマイ写真はないので、ウイキペディアに掲載の写真を借用して置きます。

(ムベの花)<参考>​ ムベ ​・Wikipedia
Stauntonia_hexaphylla_Mube_flower01.jpg (1600×1200) (wikimedia.org)
​​​​  アケビの花が薄紫乃至桃色なのに対して、ムベのそれは白い小さな花である。

(アケビの花・これは雄花)<参考> アケビ ・Wikipedia
 アケビは、キンポウゲ目アケビ科アケビ属の植物。
 漢字では、木通、通草、山女、丁翁などと書く。
 学名は、Akebia quinata。
 英名は、Chocolate vine。

(同上・これは雌花)
 このアケビの花は山道で見つけたものではなく、馴染みの喫茶店・ペリカンの家の近くの恩智川畔のもの。
 毎年、花の時期になると花は目にしているのであるが、この木については、何故か実を見かけたことがない。秋、実のなる時期に前を通りかかることがあると、注意して見てはいるのであるが、実を見つけたということがないのである。

(同上)
 アケビは「開け実」が語源らしいが、子どもの頃、山道でこれを見かけても採って食べたという記憶がない。或いは一度食べてみたらまずかったということであったのかも知れないが、見た目にも何やら気持ちが悪く、食べず嫌いで今まで来ているというのがヤカモチのアケビの実についての認識である。
 昔、高岡市の二上山に登った時、山頂近くの万葉植物園入口前から下る道を麓へと下っていると、何人かの女性(男性も混じっていたかもしれないが記憶がない)たちがアケビの蔓を採取して居られるのに出くわした。声を掛けて話しかけると、どういう流れでそうなったのか記憶しないのであるが、採取したアケビの蔓を一塊下さったことがあった。
 コチラは旅行者。いただいたものをホテルに持ち帰って、部屋に置いてみたが、その後それをどうしたか覚えていない。処置に困って捨てたのではないかと思うが、捨てては悪いと家に持ち帰ったかもしれない。まあ、持ち帰ったとしても、その後捨てているだろうから、どちらでも同じようなものであります(笑)。
 過去の記録を調べてみると、1999年10月2日のことのようであるから、高岡の万葉まつりに出かけた折のことなんだろうと思う。20年以上も前のことである。

​(同上・中央が雄花、それを囲んでいる大きい花が雌花)​

 アケビには雄花と雌花があり、雌花は雄花より一回り大きい。
 同一株の雄花と雌花では受粉しても受精しないという植物もあるようですから、アケビがそれなら、この木に実がならないということの説明にもなるが、その辺のところは、現時点でのヤカモチには不明である。
 今日はアケビの花でした。

 アクビをしているのはどなたです?
<参考>
花関連の過去記事​​​​​​​
花(4)
花(3) ​・2017~2020.3.
花(2) ​・2012~2016
花(1) ​・2007~2011
 
​​
​​






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021.03.28 19:25:29
コメント(11) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

けん家持

けん家持

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

岬麻呂@ Re:柳沼2の写真について(11/20) New! けん家持さんへ フォト蔵で取り上げていた…
けん家持 @ 柳沼2の写真について New! 岬麻呂氏からの2024年11月22日付メールの…
岬麻呂@ Re[1]:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) MoMo太郎009さんへ 何時もコメント有…
岬麻呂@ Re[1]:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) ひろみちゃん8021さんへ 今年の紅葉巡りは…
MoMo太郎009 @ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) 日本の秋、きれいですね。 インバウンドの…
ひろみちゃん8021 @ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) こんばんは(^^) 宮城県、福島県、山形県…
岬麻呂@ Re:岬麻呂さんへ(11/20) けん家持さんへ 掲載して下さるのに大変な…
けん家持@ 岬麻呂さんへ   >早速ご紹介くださいまして    有…
岬麻呂@ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) 家持様 早速ご紹介くださいまして有難うご…
けん家持 @ めぐの郎女さんへ   >読書会ではすばらしい万葉のお話  …

お気に入りブログ

今週の朝日歌壇 New! ビッグジョン7777さん

ポピュリズム?? New! 七詩さん

相性が悪いと ヒビが… New! 龍の森さん

ジョージ・ハリスン … New! くまんパパさん

北関東の旅 東海村(… New! MoMo太郎009さん

窓の魚。 New! ☆もも☆どんぶらこ☆さん

椿・太神楽 ヒュー… New! ひろみちゃん8021さん

Go to Japan 、ポイ… New! lavien10さん

初めて知る素晴らし… New! ふろう閑人さん

英坊3 英坊3さん


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: