「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)
ロボサムライ■第四章剣闘士壱
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
第四章 剣闘士
(1)
ゆっくりと主水の意識が戻ってきた。両眼が開く。体の下の冷たさが感じられた。
「気が付いたかね」
見知らぬロボットの顔が主水の前にある。「ここは」
周りを見る。ぼんやりと薄暗い冷たい石の壁。蛍光灯の照明が、天井からぶら下がって揺れていた。厳重な扉がロボットの後ろに見える。このロボットは僧服をきていた。
死二三郎に切り取られた左腕はそのままで、応急に処置されているだけだ。着物も剥ぎ取られていた。まるで奴隷扱いだ。
「ここか。ここは機械城の中だ」
相手は高飛車に言う。
「お主は」
「私か。自己紹介しよう。私はロボット懐柔師サイモンだ」
「懐柔師だと、止めてくれ、私は由緒正しいロボザムライだ」
懐柔師とは、品行の良くないロボットを悔い改めさせるロボットである。聖職であった。「これは、これは、世迷い事を、お主言っておるのう。どこにその証拠がある」
サイモンは驚きながら言う。
「この私の右肩にある桜吹雪マークと、製造コードを調べてくれればわかる」マークとコードはロボットのアイデンティである。
サイモンは念入りに主水の体を自分を見てみる。
「そのようなものはない」
「そんなはずは」主水も調べる。確かにない。 マークとコードは知らぬ間に削り取られている。身分を証明するものがないのだ。さらに、主水は続けた。
「新京都ホテルにお泊まりになっておられる、落合レイモン様に連絡をとってくれれば、すべてはわかる」
サイモンは連絡を取るために外に出て行ったが、やがて戻ってきた。
「レイモン様のご一行は、すでに京都を離れ、東日本に帰られたと聞いている。東日本政府にも連絡をとったが、早乙女主水なるロボザムライ、現在東京市にいるとの連絡があった。我々に無駄な労力をかけさせたな。このお返しはたっぷりとしてくれる」
サイモンは、冷たく笑った。
「待ってくだされ。それは何かの間違いでござる。今一度、お調べくだされ」
サイモンは無言で、別のロボットに主水を引き渡した。
「こやつを例のところへ」
主水は、機械城の地下にあるロボ獄につれていかれる。ロボット専用の獄舎である。
暗い。照明がない。太陽の光りも差し込んでこない。機械油のすえた匂いがした。加えて、何かが腐敗しているようだ。
獄の中には数体のロボットがすでに入っている。
「ここで待っておれ、いずれご沙汰がある」 ロボットは言い置いた。獄の中は、不法を働いたロボットで一杯だった。ここに連れ込まれる折、手荒なことをされたらしく、各々のボディはかなり痛んでいる。手足のもぎ取られているロボットも何体かある。
「お前さん、どんな悪事を働いたのかね」
ドアが閉まると一人のロボットが擦り寄って話しかけてきた。
「失礼ながら、貴公は」
「貴公ときたか、お前さん、服装を剥ぎ取られているからわからないが、お侍さんかい」「さようじゃ」
「へっへっへっ、よけいにかわいそうにね」 言葉の裏には何かを隠しているようだ。
「待て、その笑いはどういう意味だ」
「知らないのかね。かわいそうにね」
はっきりとは答えぬ。
「私は東日本から来た者だ。この西日本の風習になじんでおらぬ。教えてくれぬか」
「いいかい、あっしは町人ロボットだ。だから、あまり詳しくは知らないけどね。ここにいるロボットたちはね、皆、労役に使われるのさ。これまでの身分にかかわりなくね」
「労役だと、どのような仕事だ」
「へへっ、本当に西日本に詳しくねえな、お前さん。いいかい、今、西日本じゃ、こういう話があるのだ。西日本は外国人に支配されている。水野なり、斎藤ってのは外道だよ。外国人の配下になっている。その現象を『みはしら』様がお怒りだってな」
「みはしら様、それが労役にどのようなかかわりあいが」
「いいかい、みはしら様に向かって、俺たちは掘らされるのさ。みはしら様のある地下を一生懸命にな。この西日本エリアでは、ちょっとした不法でも皆地下行きさ。ともかく、みはしら様に近づくってのは容易じゃないらしい。何人ものロボットがスクラップになっているようだよ」
「誰もおかしいと反対しないのか」
「へへっ、やはり東日本の人だねえ。西日本では、ロボットは奴隷なんだよ。ご主人様である人間に対していくら言ったって、話を聞く人間などいるものか」
「いわれるままか」
「そういうこった。だからお侍さんも、あきらめるこったなあ」
「あきらめるだと、何をだ」
「そりゃね、ここだけれどね。生きてお日様を拝むことをあきらめるこったね」
「何だと、死ぬまでここで」
「そうだよ、ロボットの死亡率は、そりゃひどいもんさ。地下道では落盤が日常茶飯事だからね。それにそこを掘り返して、ロボットを助けてやろうなんて殊勝な気持ちなんて、人間が持っている訳ないさ。ロボットは皆消耗品なのさ」
「うるさいぞ、だまれ、五郎左。よけいなことをしゃべるな」
別のロボットから罵声が飛んだ。五郎左と呼ばれたロボットは急に黙る。そのとき、二人の役人が現れていた。蛍光カンテラを持って牢内を照らす。
「こらこら、お前ら、下がれ、下がれ」
「うっぷ、ここに汚れた機械油の匂いがするのお」
「仕方があるまい、ご同役。ロボットのどぶだめだからのう」
「どぶだめだと、貴公なかなかおもしろい言い方をなされるのお。はっはっは」
「ここに主水と名乗るロボットはおるか」
「主水とやら、獄から出よ」
主水はゆっくりと立ち上がった。獄の中のロボットの眼が注がれている。
主水は廊下を通って、別の取り調べ室へつれていかれた。机の中にまわらされる。
「名前と登録番号を申せ」
「何度もいってるだろう。拙者、早乙女主水…」
名前を名乗った瞬間、電磁ムチが飛び、主水の首に絡み付いた。
「ぐっ…」
「我々人間をバカにするのは止めるのじゃな、いかりの長介。よいか、お前のデータは揃っておるのじゃ。全ロボットデータベースで、すべてわかっておる。二度とそのような口を叩けないようにしてやろうか、長介」
役人の一人が言った。どうやら、主水は、いかりの長介という名前にされたようだ。ロボットデータベースは、日本全国にいるロボットについてのデータがすべて入力されている。いわばロボットの戸籍である。
「俺はそういう名前ではない」
「まだ言うのか」
電磁ムチから高電流が流れ、主水は気を失った。
(2)
東京島。
『鉄』が再び主水の部屋を訪れてようとしていた。エレベーターに乗っている。
主水の屋敷は旗本ロボットが居住している公国アパートである。ストリップエレベーターからは、遠く、静岡や房総半島などが眺められる。
間取りは一二畳、一二畳、六畳、バス・トイレ付である。家賃は三十六万円。家賃は徳川公からの給与から差し引かれている。
ロボットにバス・トイレが必要かという疑問があるが、ロボットは体の外部、内部の洗浄が常に必要であった。
押し入れには、体の各部分の部品の予備が常備されているのである。
ロボットは食事はしない。が、かわりに栄養液が必要であり、そのため水道の蛇口と並んで、栄養チューブが常備されていた。
家具も必要ないと思われるであろう。が、ロボット標準設備としては、修理用ベッド、自己精製用コックピット、レーダー精製装置、武器・弾薬整備セット、油圧調整モジュールなど、人間の家具より重量があり、かつ容積を取る家具が必要なのである。当然、ロボット整備中の爆発事件も微量ではあるが起こるので各部屋の壁・床は合金システムとなっている。
マリアは、整備用のベットで眠っていたようだった。
「何か御用ですか、鉄さん」
「だって姐さん、だんなが西日本へ行って日数が立ちやすんで、何か伝言が情報モジュールにでも入ってやしないかと思いましてね」「鉄さん、あなた、主人思いの方ですよね。でも、まさかホモ友ってわけじゃないですわね」
「マリアねえさん。め、めっそうなこと、いっちゃいけませんぜ」
と、いいながら、顔を赤らめる鉄であった。ロボット顔面には人工皮膚が使用されており、人間と変わりがないほどの表情を示すことができる。
「まあ、そうおっしゃるのなら調べて見ましょう」
マリアは、奥の部屋にある情報モジュールを操作してみる。
情報モジュールには、電話、FAX、パソコン、キーボード、CPU、CRT、BS、CS、オーディオ、ラジオ、有線放送などすべての情報ラインが纏めてある。モニターには情報が入っていなかった。
「何の情報も入ってはいませんわ。お生憎様ですわね、鉄さん」
「だって、姐さん、何の心配もなさらないんですかい」
「じゃまいたすぞ」
そのとき、玄関先で声が聞こえる。
「悪いけど、お客様を見て来てくださる」
「へい、がってん」
が、急にマリアの元に戻って来る鉄。
「て、ていへんだよ、姐さん」
「どうしたのですか、そんなにあわてておられて。まあ、あなたのあわて者ぶりはロボット界じゃ有名ですけれど」
「これが驚かずにいられますかってんだーい」「ラブ・ミー・テンダー」
それを受けてマリアが言った。
「姐さん、俺のしゃれを先に言っちゃいけねえよ」
急に不機嫌になる鉄。
「そんなことをいってる場合じゃないんだ、殿様がここへお出でなんで」
「じゃまするぞ、マリア」
徳川公廣だった。徳川家康そっくりの笑顔をして入ってくる。
「ええ、汚い、狭いところですが。どうぞ、殿様」
鉄が答える。
「おやおや、何をおしゃられるの。ここはあたしの家ですよ」
「苦労をかけるのお、マリア。こんなアパート暮らしをロボ旗本たちにさせたくないのじゃが、いかんせん、徳川公国の予算というものがあってのう」
「いや、お上の言葉、ありがとうございます。あたしどもはお上からそう言っていただけましたら、何の悩みもございません。本当にいい殿様にお仕えさせていただき、ありがたき幸せ」
「ちょっと、鉄さん。何をおっしゃってるの。それを言うのは私ですよ」
今度はマリアが怒った。
「まあ、よいではないか、マリア。ところでそちは日本の暮らしになれたかの」
「ええ、ありがとうございます、お陰様で大分。それに主水様がよくしてくれます。それとこの鉄もよく仕えてくれますので、何の不満などありますものか…」
「また、鉄さん、先走りするんじゃありませんことよ」
「で、殿様。今日は何の御用で、このあばらやへ」
「あばらやでわるうございましたわね」
マリアが鉄の顔をゆっくりとぐっとつねる。「いていて、あっしの家じゃないからよござんしょ」
「よけいにわるうございます」
「ちと、困ったことが起こってのう」
二人の戯れを見ながら徳川公は顔を曇らせた。
「どうしたんですかい、だんなが何か」
「これこれ、鉄。先を急がすものではない。実は…」
「実は…何なんですかい。徳川公国が借金のかたに東京島から追い出されるとか」
「鉄さん、言って良いことと悪いことがございます」
マリアが、鉄の頭に洗浄皿を投げ付けた。「実は、主水が行方不明になったのじゃ」
「何ですって」
「落合レイモン様はいかがなされた」
「レイモン様も行方不明じゃ」
マリアは尋ねた。
「た、大変だあ」
鉄が飛び上がった。
「何の手掛かりもないのでございますか」
マリアが続いて尋ねる。
「そうなのじゃ、行列だけはかえってきよった」
「大変だよ。だんながバラバラにされちゃって、今頃は大阪のごみ捨て場だよ」
急に鉄が泣き声を上げて人工涙をよよと流し始める。
「おい、おい」
徳川公が驚いている。
「鉄、騒ぐなというに。それでお前たちに助けて欲しいのじゃ」
「わかりました。がってんだ。西日本都市連合め、眼にものを見せてくれるってんだ。ねえ、姐さん」
「鉄さん、落ち着きなさいませ。あなた、頭のボルトが三本くらいおっこちているんじゃございませんか」
「あーあ、姐さんも酷いことをおっしゃる。私がこんなにだんなのことを心配しているってえのに」
「鉄、頼むから、静かに私の話を聞いてくれ」 徳川公が呆れている。
「だから、静かに聞いてるじゃありませんか。あっしのどこがうるさいってんいすかい」
「この、へらず口」
「あーあ、どうせ、あっしはへらず口でござんすよ。あっしはこの体に生まれつく前から口だけでしゃべってたってことで有名なロボットでござんす」
鉄もしゃべりだすと止まらない。
「わかった、鉄。お前とマリアで、主水を探しに行ってくれ。ついでにレイモンをな」
「わかりやした。さすがは殿様だ。家来の難儀をほってはおけない。さすが名君。世界で一番偉い殿様ってのは、徳川公のことだね。地球史に残る。ほんとに、この…」
しゃべりのエンジンがかかって、どんどんがなっているのだ。
「マリア、この男、大丈夫かのお」
「お任せくださいませ」
マリアは、鉄の首の一点を急につかむ。
「な。何をするんですかい。姐さん」
「あなたのその役たたずの口を塞ぐつもりです」
「それはいけねえや。ロボット人権を認め…」 あとは無音となる。鉄は口をパクパクさせているが、声は聞こえて来ない。マリアが鉄の声のアンプを切ったのだ。
「あ、これで、そちと話ができる」
「いかようにして私たちは西日本へ参りましょうか」
「済まぬが、空軍の飛行船で行ってくれぬか」「飛行船でございますか」
「そうじゃ、陸上を移動すると、どうも眼につくのでのう。それに、お前は外国ロボットじゃ、よけいにのう」
「わかりました。もし主水様を見つけましたら、いかがいたしましょう」
「捕らわれておれば助けだし、二人でもってロセンデールの野望を探って欲しいのじゃ。おお、そういえばマリアは、ロセンデール卿を知っておったのう」
「さようでございます」
マリアは顔色一つ変えなかった。
「神聖ゲルマン帝国のルドルフ大王の宮廷で、何度かお目にかかっております」
「どうじゃ、お主はゲルマンロボット。いざというとき、つまり、もしロセンデールと戦わなければならなくなったとき、そちは徳川、いや日本のために戦ってくれるかのう」
「もちろんのことでございます。私を受け入れてくれました日本こそ、今の私の故郷でございます」
「それは、ありがたい」
といいつつも、不安を隠せない徳川公廣だった。もしマリアが変身するような事があったらどうなるのだ。その心配が幸いに徳川公廣の心を占めていた。が、他に方法はないのだ。
「鉄、よいか。今からお前は旗本に回状を出して皆を集めよ。一丸となって、大阪湾に向かうのじゃ。ロセンデールの野望を崩せ。頼むぞ、マリア」
「わかりました殿様。お望みの通りにいたしましょう」
◆
三時間後、鉄、マリア、そしてロボット旗本組の面々は、徳川空軍機「高千穂」「飛天」に乗り込み、西日本へと向かった。
徳川空軍基地から飛行船が飛び立つのを見送る男が一人。
「これで仕事がやりやすくなったわ」
その影は走り去った。
◆
その日の夜、東京城の建物は、夜風が吹いてビューツと唸っている。上層から東京の夜景が奇麗に見える。徳川公廣は、その夜景を楽しんでいた。
「徳川公でござるか」
急に声がした。
「誰じゃ」
徳川公は回りを見る。数十メートルの高さにある、東京城の窓から侵入して来るものがあった。警報装置は作動していない。その男は黒い服で身を固めている。顔も覆面で隠れている。
「貴様、何奴」
徳川公は小刀を引き抜いていた。
「やつがれは、西日本年連合に仕えるロボ忍花村一去(いっきょ)。お見知りおきいただきたい」
ぐいと徳川公に近づいて来る。
「その一去とやらが、余に何用がある。また、この東京城の展望オフィスまで、どうやって上がってきたのじゃ」
あとずさりしながら徳川公は問いただす。「ふっふ、ロボ忍にとってはたやすいこと」「が、我らが護衛いかがいたした」
「全員、眠っていただいており申す」
「くそっ、肝心のおり役にたたない奴らじゃ」「何しろ、忍者は、西日本が本場にて。徳川公、お体お預かり申す」
「何を申すか」
一瞬後、徳川公は当て身を食らわされていた。
「ふふっ、たわいもないのう」
にやりと笑う花村の笑みに折から上がる月の光が凄絶な凄みを与えている。
(3)
主水は、地下坑道五-Bに送り込まれている。大阪にある機械城から、古代都市があると思われる方向に二十もの道が掘り進められている。ロボットは二〇時間労働であった。休息時間はわずかである。
与えられるものは潤滑油と栄養液だけである。しかも両方とも、それが良質ではない。東京で与えられているものと段違いに品が悪い。主水は閉口した。やはり、これでは体の動きがスムーズにいかない。
それに例の持病も気になっていた。作業中に空白の時間がくれば、掘削機に巻き込まれる恐れがある。
それに落合レイモンもどうしているのであろうか。
さらに東京にいるマリア、鉄、そして徳川の主上はどうなさっているだろうか。思うと、主水の頬に温かいものが伝う。
人工涙滴である。弱気になっていた。
主水は、安物の左手で涙を拭う。作業用に取り付けられた左腕である。死二三郎に切り取られた左腕は帰って来なかった。あの左腕は特別製である。今の左腕は動きが悪かった。 あるとき、主水は同じ作業しているロボットに尋ねた。
「どこへ向かって掘り進んでいるのだ」
「若いの、それは知らぬ方がよい」
その老人のロボットは答えた。無数の傷が顔とボディにあるその老人は言う。
「いにしえにあったピラミッドと湖といっておこうかのう」
表情を変えず、そう言った。
「ピラミッド、湖…それは心柱と関係あるのか」
さらに主水は尋ねる。老人はいやな顔をした。
「若いの、知識がある奴が、長生きするとは限らんのじゃ……。知りすぎたロボットはのう、よう削岩機でつぶされとるんじゃ」
苦い思い出があるらしい。
数人のロボットが岩盤を掘り進んでいた。非力ながら、主水もドリルを持たされ、穴掘り作業を続けさせられていた。が、地中作業は、ロボットの表皮や間接部分の非合金を痛めることがある。数時間の水によるボディの洗浄と太陽光線照射が許されていた。つまり、地上での休息である。数人毎に纏められて地上に上げられる。
が、ロボットたちのいる二〇平方メートルの『リクライニングゾーン』には、電磁ビームが張り巡らされていて、容易に逃亡できないようになっていた。
◆
タコが東日本から西日本へ移動してきた。西日本のロボ忍のタコが国境を越えるタコを見つけて接近してくる。
タコを囲む数機のタコ。
「何者だ。名をなのれ」
西日本のロボ忍が叫ぶ。
「俺じゃ、花村一去じゃ。ほれこのとおり、徳川公を誘拐して参ったわ」
東日本からきたタコから声が帰ってきた。「おお、これは、お頭。お役目ご苦労にございます」
「首尾よく、役目果たして参られましたか」「これにて、我々西日本の動き、具合よく運びましょうぞほどに」
「水野の殿が喜ぶ姿、目に浮かびましょう」 祝いの言葉が続々と浴びせられた。
◆
その水野と斎藤は一室で話し合っていた。「心柱の位置、すぐさま見つけたのはさすがと言わねばなりませんな」
「が、レイモンをあまり付け上がらせてはならぬ」
二人が話し合っているところに、折あしくレイモンが現れた。レイモンは、一人で歩く訳にはいかぬので、乳母車のような乗り物に乗っている。後ろで押しているのは夜叉丸である。
「これは、これは斎藤氏に水野氏。何か俺の話をしておられたのか」
「いえ、別にそうでは」
斎藤が首を振る。
「お二方、お忘れなさるな。レイモン様は最高の霊能師でござるぞ。お二方の考え方など、お見通しじゃ」
夜叉丸が言葉を告げた。青くなる二人。
「ふふう、どうやら俺の話が、ずばり的を得ていたようじゃな」
レイモンはしゃべるたびに薬用チューブがジャリジャリと音を立てている。
「よいか、心柱発見の力、レイモン様の力と知られよ。あだや疎かにされるなよ。お二方」 夜叉丸が再び強い調子で続けた。威しをかけているのである。
「まあ、よいではないか、夜叉丸。お二方とも俺の力はご存じのはず」
レイモンは含み笑いをしながら、悪意のある眼を二人に向けた。震え上がる二人。
「それではお二方、よろしくお願い申す」
レイモンの乗る手押し車が揺れるたび、ちゃぷんちゃぷんと音がする。レイモンの薬タンクの中の薬液が揺れる音であった。
「ふふう、いつもながら恐ろしいのう、レイモンは」
信長の顔をした水野が汗をかいていた。
「ところで水野様、あの夜叉丸ととかいう男、ロボットでござるか、あるいは…」
秀吉顔の斎藤が尋ねる。
「わからんのじゃ。レイモン殿の話では人間じゃと申しておるがの」
「が、水野様。何かあやつ人間ではないような…」
疑い深げな顔をして斎藤が言う。
「そんな気が俺もするが、またロボットでもないようなのじゃ」
しばらく沈黙があり、斎藤が小さい声で言う。
「まさか、霊人間とかいう…」
「げっ、斎藤、恐ろしいことをいいよるのう」 二人は顔を見合わせ、背筋が冷たくなった。
■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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