飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

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●(編集終了)聖水紀1(1990年作品)聖水紀ーウオーター・ナイツーに変更



SM聖水紀ーウオーター・ナイツー 宇宙から飛来した聖水は地球の歴史を変えようとした。人類は聖水をいかに受け入れるのか?

●(編集終了)SF小説■聖水紀■(1990年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

 聖水紀1990/6/9
(1)
 彼らは遠くに存在する宇宙溝から飛来してきた。ここへ到着するまで、かなりの距離だった。時間の概念は彼らにはあまり重要ではない。その間、星の生物への接触方法については、彼らの間で、議論されていた。宇宙の闇は深く、彼らの心の中にもまた深い悩みがあった。今回の任務は特殊だった。使命感だけが彼らをつき動かしているのかもしれない。
 彼らの体はまた飛行体そのものであった。金属、非金属でもない特殊な物体。それゆえ、いかなる星の探知装置にも発見されなかった。
 この生物の取り扱いについては注意を要する。彼らのとりあえずの結論だった。太陽系で停止して、まわりを観察する。
 飛行物体中に含まれる、意識体同士が会話をしていた。彼らは多くの意識体の結合体である。
『このあたりかね』『指令書によると、そのようです』
 目の前を、極めて幼稚な飛行体が動いていた。
『何か、飛行体が通過します』
『かなり、原始的なものだねえ』
『ひょっとして、あの飛行体は、目的星の所属物かもしれませんね』『一度、調査してみよう。生物体が存在するかもしれん』
 彼らはその飛行体に乗り移った。

 タンツが緩やかな眠りから目覚める。もう、到着したのか、いつもながら、冬眠からの目覚めはけだるかった。あたりがはっきりと見えない。変にゆがんで見える。長い宇宙航行で、私の視覚がおかしくなったのか。
 タンツは、おかしなことにきずく。私は、ここはカプセルの中ではない。おまけに、ここはどうなっているんだ。
 たしかにウェーゲナー・タンツ、宇宙連邦軍大佐はウァルハラ号の中にいた。この船は恒星間飛行中のはずだ。
 が、タンツの体のまわりは水だった。おまけに、水の上にいるのではない。水の中にいるのだ。なぜ、私は呼吸ができるのだ。タンツは不思議に思った。とりあえず、その事実を受け入れざるを得ない。ともかく、息をしている。
 それに、このウァルハラ号はどうなっているのだ。タンツは航行装置のチェックをしょうと思い、コックピットに向かう。
 ウァルハラ号の中は、どこもかしこも水で万杯のようだった。空気がまったくない。
タンツはようやくのことであ、コックピットへたどり着く。行く先の方位座標は地球となっている。
「地球だと」タンツはうめく。さらに地球暦の日付をチェックする。2010年8月15日。
 タンツがニュー・シャンハイの宇宙空港から飛び立った日が2010年3月10日。冬眠状態のまま、恒星タンホイザー・ゲイトにむかうはずだった。タンホイザー・ゲイトにつく時期まで、タンツは目覚めることはないはずだった。が、今タンツは目覚めていて、ウァルハラ号は再び、地球へ向かっている。ロケット一杯の水をつめこんで。
「くそっ、一体どうなっているんだ」
 タンツは毒づいて、地球司令室へ連絡しょうとした。タンツの肩をその時、誰かがつかむ。ギョッとしてタンツは後ろを振り向く。誰もいない。当たり前だ。この船の生命体はタンツだけなのだから。 しかし、何かがいる。タンツは心の中でだれだ、と叫んでいた。『タンツ、我々の存在にようやく気がついたようだね』タンツの耳に、声が響いてきた。
「誰だ。何者だ」
『姿をあらわしてほしいかね、タンツ』
 タンツはトラブルを望んでいなかった。彼はこの恒星間飛行を人類初めての飛行を、ともかく、成功させたかった。名誉を得たかったのだ。が、タンツの前の水中に、不透明な何者かが、複数、姿を取り始めた。
「おまえ達は、いったい」
『聖なる水』彼らはそう言った。その瞬間コックピットにある通信機器がつぶれるのがタンツの目にはいった。地球本部との連絡は不可能になった。自分で解決せざるを得ない。『マザー、どうすれば』タンツは心の奥でさけんでいた。
「聖なる水、聞いたことがない」タンツはひとりごちる。
『タンツ、今、君に説明してもわかりはしまい。時間がかかるだろう。ただ、言えることは、君たち地球人類をカイホウしに来たのだ』「我々をカイホウする。何からカイホウするというのだ」
『タンツ、怒るな。我々に協力してもらえないかね』
「協力しろだと。笑わせるな。俺は宇宙連邦軍大佐ウェーゲナー・タンツだ。君達、侵略生物になぜ、協力しなければならんのだ」
『我々は、いわば宇宙意識なのだ。その宇宙意識で、ひとつになろうという提案だ』
「それゆえ、私のロケットを占領したのか」
『ちょうどいいところに、君の船がとうりかかったのだ。中を透視すると、地球人の君がカプセル内で冬眠していたのだ。我々は、君さらにこの船のコンピューターから、地球の知識を読み取った』
「私は宇宙連邦軍のウェーゲナー・タンツだ。侵略者である君たちのいうことを聞くわけにはいかん」
『我々は侵略者ではない』
「使節というつもりか。それなら、正式の手続きを踏め」
『どうやら、聞き分けのない個体をえらんだようですね』水人のひとりが言った。
 タンツは壁のボックスに装着してある銃をとりあげ、水人をめがけ撃った。が、熱線はむなしく水中に消える。
『我々にはそんなものは通じない』
『しかたがない』
『我々の命令を、しばらく黙って聞いてもらおうか』 
「何だと、お前たちのいうとうりにはならん」タンツは自殺しょうとした。このままでは、自分の知識が悪用されると思ったからだ。
が、この生命体の反応の方が早かった。タンツは気を失った。

「おいおい、まじかよ。何かの冗談じゃないだろうな」
 地球の関門である第1ゲートで、オペレーターの一人バルボアがモニターを見て叫んでいた。第1ゲートの監視機械は、地球に接近するロケットの積み荷のチェックができる。
「どうしたバルボア」もう一人のオペレーターがいった。この第1ゲートでは、2人当直体勢をとっている。「ジル、みてくれよ。こいつは水で一杯のロケットだぜ」「本当だな。宇宙連邦軍もどうかしているぜ」「誰だい。操縦者は」「待て待て、コードをチェックしてみる」
「げっ」バルボアがCRTをのぞきこみ叫んでいた。「俺達は、悪いクジをひいたぜ。操縦者はタンツだ」
「私だ。タンツだ」当のタンツから連絡がはいった。タンツはよくも悪くも伝説の男だった。
「ウェーゲナー・タンツ大佐、このコードでは、あなたは恒星に向かっているはずですが」バルボアは自分の声に不快の念があらわれていないか気になった。
「特殊任務だ。常人にはわからん」怒りを含んだ声がかえってくる。「でも、大佐、これだけ大量の水を地球にもち変えるおつもりなら、許可書が必要です」
「いっただろう、特殊任務なのだ」
 その時、バルボアが透視機械のCRTをみて叫ぶ。「ジル、おかしいぞ。タンツの体が水中にある。おまけに宇宙服をきていない」「何だって、緊急対応B102指令だ」
<危険、タンツは汚染されている>この内容で、緊急コードが、地球連邦本部に連絡されようとした。
 ロケットの側壁から、何かがにじみでてくる。水の固まりだ。そやつが宇宙空間を飛んで行く。まるで意志をもつ存在の様に。ゲートの司令室に侵入する。オペレーターの操作卓の壁面からしみこむように液体が二人の方に襲ってきた。二人には理解を絶する光景だった。
「これは何だ」「うわぁー、」二人はこの液体中で消滅していた。二人を飲み込んだ液体と船の水の意識が、精神波で連絡していた。『どうだね、まにあったかね』
『まだ、情報は発信されていなかったようです」
 が地球の防御システムはそう甘くはない。 
 第1関門の事故は、至急に地球連邦軍の本部に連絡されていた。本部にあるメインミーテングルームで、将軍とスタッフが緊急連絡会議を開いていた。
「連絡をうけたのだが、それほどの緊急事態なのかね」ハノ将軍は早朝から呼び出され、週末のスケジュールが変わったのでいささかお冠だった。現況では平和が続き、宇宙軍が出動する事態などなかった。
「タンツが協力している模様です」スタッフの一人が将軍に言う。「何だと、タンツが、信じられん。彼はタンホイザー・ゲイトに向かっていたのではないか」白髪豊かなハノ将軍は衝撃を受けていた。「このVTRをご覧ください」
VTRをみたあと、最高軍司令官ハノ将軍はいった。
「で、この液体は現在」
「現在、不明です」
 ハノ将軍は少し、考えたあと、ある回線をつないだ。危機の可能性は少しでも潰しておくべきだ。それも早急に。ミーテイングルームの操作卓上のCRTに相手がでるとハノは言った。
「あなたの息子が、我々を裏切ったのです」ハノは断言していた。『信じられません。何かの間違いでは』機械的な声で、相手は将軍に答える。
「我々も信じたくない。が、我々としては、防御処置をしなくてはなりません」
『といいますと』
「あなたを抹殺します」
『後悔することになりますよ』その声は感情なく言った。
「タンツの手引きで、あなたが彼らの手にはいった時を恐れる。なぜなら、あなたは我々の総てだから」
 ハノはマザーの抹殺ボタンを押した。
タンツはそのとき、マザーの声を聞いたような気がした。水人が発言する。『軍は我々の存在に気がついたようだね』『どんな方法をとるべきかだ』
「雨になって侵入しなさい」タンツが言った。タンツは聖水にあやつられるまま、地球の情報をしゃべっていた。『雨だって』「そう、雨です。雨なら怪しまれず、侵入できる」

 アマノ博士は苦い思いをかみ締めながら、自分の研究所に戻った。
昨日まで、トリノ市で開催されていた宗教科学学会の国際会議では、罵声はアマノに集中していた。
 アマノは自分のデスクに座り、頭を抱える。もう、誰も彼を弁護しょうとはしないだろう。永久に学会へ復活の見通しはない。アマノは引き出しにある銃をつかんだ。
 その時、アマノは壁から侵入してくる何かを発見した。
そいつは、アマノに何かをいう。
『アマノくん、我々が君を選んだのだ。光栄に思いたまえ。我々は聖なる水。この地球をカイホウしに来たのだ』
「解放だと、一体、お前は何だ」
『宇宙の存在だ。地球人類に本当の自由を与えにきたのだ』
「宇宙生物がなぜ私のところへ」
『君が最高の科学者だと信じたのだ。我々は君が学会で何と呼ばれているか、知っている』
『めぐまれない科学者』水人たちが続ける。
『現代の錬金術師』
「や、やめてくれ。君立ちは私に引導をわたしに来たのか。いわれなくとも、私は自分の意志で命を絶つ」アマノは頭に銃をあてる。『おまけに、我々は君が古代の宗派ドルイド派の狂信者だと知っている』
「そんな情報をどこから入手したのだ」アマノは驚く。なぜ、かれらが、そのことを、闇の宗教であり2005年、地球政府によって弾圧撲滅、根絶されたはずのドルイド教の信者であることを。 
『君を知るある男からだ』『君の好きなイメージで地球を真実に目覚めさせる聖なる騎士団を組織してよい』
「騎士団だと」アマノにとって興味がある内容だった。
『君が学会で発表したとうり、地球には浄化が必要なのだ』
アマノは、銃を引き出しにしまった。奇跡がおこったのかもしれん。私に運命の神がほほ笑んだのかもしれん。「話しを聞こうか」アマノは、侵入者たちの方に顔と心を向けた。

 インドネシアのアンダマン諸島。このエリアは驚異的な豪雨地域だ。その中にあるスキャン島。その山岳地域に人々が集まっていた。その木は覚醒していた。地球の地霊と呼ぶべきだろうか。ともかくその木は地球の危機を感じていた。それゆえ、この木がたばねている世界中の呪術者が集められていた。
奇妙な形をした樹木のそばに、人々は集まっている。その中の二人が話しあっていた。
「ロイド、いよいよ我々の出番がきたようだな」
「そうだ、我々が単なる呪術師でない事がわかるだろう」
「地球を救う大地の使者だからな」
「レインツリーよ、我々は感謝します」
 彼らは樹木の前にひざまずいていた。
 その木レインツリーは樹液を流した。ひざまずく人々の元まで、その液体は流れていく。真っ赤な血の色だった。
「吉兆だぞ」先刻の男が叫んでいた。

 聖水を含んだ雨が地球全体を覆っていた。いかなる機械的防御も聖水の前では無力だった。例えば、聖水は電気回線に侵入するのもたやすい。どんな地球上の物質も聖水を遮ることはできない。聖水は物質の組織のすきまを通過した。聖水の前では無力化された。
宇宙連邦軍は滅亡し、地球の機械文明も滅ぶ。地球は聖水紀にはいったのである。

「これが、私が全世界から、選んだメンバーです」アマノは聖水がたまる聖水プールの前でしゃべっていた。聖水は雨になって侵入後、再び結合していた。人格化された存在である水人が出現していた。『よろしい、この地に神殿を建築しなさい。さらに車を作るのです』「車ですと」『そうです。それをもって我々の事をもっと人類にしらせるのです』
その時、彼ら全員の前に聖水が流れてきた。やがて彼らの驚きを残して、また聖水プールに戻っていく。彼ら一人一人の前に剣と装甲が並べられていた。
「これは、いったい」アマノは言葉を発するのに時間がかかった。『あなたがたへの我々のささやかなプレゼントです。この剣は先から発射できます。その液体は我々の主成分から摘出されたものです。まだ、連邦軍の残党がいるでしょう。火力の機器は残っていないと思いますが、あなた方にも武器が必要でしょう。それぞれの名前が刻みこんであります。引き抜きなさい』
「でも、なぜ、我々の名前がわかったのですか」一人の男が聞いた。『それは我々が聖なる水だからです』

SF小説■聖水紀■(1990年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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