飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

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●(編集終了)ランナー地球防衛機構第1回より5回まで


飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第1回

1256年、プラグひきいる蒙古軍は、ペルシャ北部、エルブルズ山脈の中心部にある、高い岩山の
頂上に建てられた「アラムート」城を攻めおとそうとしていた。アラムート城は、いわゆるイスラム教の異端派の一つであるイスマーイール派、アサシン(暗殺教団)の城塞であった。

 蒙古軍は、アラムート城からの攻撃が、瞬時、とだえたのを期に、一挙に城を攻め落とした。
の中には、一人のアサシンもいなかった。間道や逃げ道はないはずだった。

 プラグは草の根をわけてもさがせと、命令を下したが、数千人のアサシンはまったく発見できなかった。
 アサシンの指導者、導師マニは、時間の支配者と呼ばれていたが、彼の幻術かどうかもはっきり
としなかった。

それから760年後。
 外航宇宙船メビウス号が地球航路近くで、その破片を発見したのは、ほんの偶然といえるだろう。
 その金属片は、船内の分析器でも、解析不可能であった。
もちろん、酸にも、レザー光線にも反応しなかった。
 どこから、誰が、それをその空間に放置したのか不明であった。
 この金属片は、メピウス号が地球ニューアーク空港に到着するやいなや、地球防衛機構(EDO)に持ち込まれた。
 EDOのアナリスト達か衆知をあわせて、この金属片を分析した結果、金属片の中央部分に高密度に収斂された情報部位がある事がわかった。

 EDOの言語解析班は、それが古代サンスクリット語でかかれた物語であるという結論に達した。
 全文解読は不可能に近かったか、要約はできた。
内容は次のごとくである。
 「聖なる火が、二つの世界を焼きつくし、やがて、二つの世界は一つになる。これは元々一つの世界であり、新しき一つの世界では、平和は満ちあふれるであろう」
 この情報はEDOの情報脳に記憶され、蓄積された。この情報に関係する事象及び事件がおこれば、ただちにこの情報はアウトプットされる。
 この情報の入力は2016年3月の事であった。

(続く)
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ンナー第2回(1986年作品)地球防衛機構(EDO)シリーズ
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第2回

 エジプト、カイロ郊外にある、エスパー研究所が、内発爆弾によって襲撃されたのは、2017年5
月のことであった。
 この攻撃は、超テロ集団死の天使(フイダイ)の仕業と思われたが、詳細は不明である。
 現場に到着した警官達は、あたりの惨状に我が目をうたがった。
内発爆弾は、その爆発が内部に向かい収斂するのである。
爆弾が投げ込まれたのはESP能力がまだ充分に発揮されていない子供達の訓練センターである。
 肉片が凝縮されて、ころがっている。肉片と研究所内部の機械が奇妙な具合に絡み合っているのだ。
体育館の広さ程ある部屋に、ボーリングのボール大の肉片が数十個ころがっていた。おまけに焼けこげ
だ肉の匂いがした。
 警官の一人は、嘔吐した。その時、その警官はある.一条の光線が建物の中を照らしているのに気づい
た。光線のあたっている所にうごめきがあった。生き残っている子供がいたのだ。
 子供はまるで嬰児のように体をまるめていた。
 警官は急いで、その子供をだきあげ、救急車に乗せた。その時、光は消えていた。彼は「光は、世界
最古の建築といわれるギゼーのピラミッドの方から来ていたに違いない。これは大いなる神の守護であ
る」と報告書に書かかれた。
 そのたった一人、助かったエスパーは、カイロ病院の特別病棟の中で、十年間眠り続けた。
 彼は全く成長せず、幼ない姿のままで十年間すごした。意識は戻ってこなかったが、生体活動はその
まま続いていた。名前は、「マコト」という。彼は血液検査等の生体検査によって、日系の孤児であると判
断されていた。

 ケロン戦役時、戦闘巡航艇が、月近くをまわっている外航植民船の残骸の中で彼マコトは発見されたのだ。
彼以外に生存者はなかった。不思議なことに、外航植民船は、植民省のビッグコンピュークーにはフ″
イルされていなかった。それは2016年のことであった。そのマコトは、このエスパー研究所で育成中、
事故にあったのだ。


 「死体配達人」がり。カート家を訪れたのは、2022年8月のことであった。
黒い礼服を着た死体配達人、正式名称、宇宙連邦軍軍員死亡連給人である。

 モニターテレビで芝生の上を歩いて来る死体配達人を見ていたヘルムの両親は、ひどく衝撃を受けた。
 「まさか、私の息子が」ヘルムの母親はその場でくずれ落ちた。父親は気丈にまだ立っていたが、その
体はふるえていた。
 無表情な死体配達人は、玄関に出迎えたヘルムの父親に、静かに告げた。
 「あなたの息子さん、連邦軍、『第62装甲機団装甲機兵、ヘルム=リッカート曹長は、2022年6月30日、
土星環戦役でおなくなりになりました」
 ここまで聞いて、気丈だった父親は膝をくずした。
 「ヘルムが」                                         ’
 「リッカートさん、しっかりして下さい。まだ話の続きがあるのです。軍団付属の医療船が、リッカー
ト曹長の肉体の一部を収集したのです。‘我々のライフサイエンスを使って、彼を蘇生させることはでき
ます」
 「お願いします。どうかヘルムを」
 母親が、部屋から飛びだしてきて、死体配達人の前にひざまずくようにした。
 「が、奥さん、元通りの体にはできないのです。サイボーグにならざるをえないのです」
 「え、サイボーグ」
 両親はお互いの顔を見合った。サイボーグ。この時代では、サイボーグは数多く存在している。が、
これまではリッカート家にとっては、サイボーグなど縁のない話であった。外の嵐が急にリッカート家
に襲いかかってきたのだ。
 ロボットのような冷たい肌。母親は生理的嫌悪感から身ぶるいをした。私の子供あのヘルムが、鋼鉄
の体になるなんて!
 死体配達人は母親の心を読んだようにいった。
「大丈夫です。奥さん、最近のライフサイエンスは進んでいます。合成皮膚も、人の皮膚と比較してわ
からない程進んでいます‐0近づいてもほとんど人間と変わりありませんよ」
 両親は相談し、サイボーグ手術をヘルムに受けさせることにした。
「幸運だっ’たのは、ヘルム曹長の脳漿が、無事に回収されたことです。もしそうでなければ我々はこうい
う提供をしなかったでしょう。
 残酷なようですが、この提案に付け加えておかなければならない事があります。サイボーグの手術に
は、莫大な金を必要とします,この金額は失礼ながら、一家の財産ではあがなえません」
「と、いいますと、ヘルムの体は」
「そうです。お分かりかもしれませんが、ヘルム曹長の体は、「サイボーグ公社」の所有物となります。彼
がサイボーグとして仕事を遂行する毎にそれに相応する金額が支払われ、それが手術料金に相当した時、
晴れて自由の身になれるのです。どんなタイプのサイボーグになるかによって、後々の給与が異なり、
それだけ自由の身になるのも早くなるのです。サイボーグのタイプは数千種類あります。このメニュー
から選んで下さい」
 両親はしぶしぶながら、その差し出されたメニューから、タイプを選び、サイボーグ公社への契約書に
サインをした。この時に、ロード・ランナー、ヘルムは誕生した。            
(続く)
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ランナー第3回
[ SFフアンタジー中篇 ]
ランナー第3回(1986年作品)地球防衛機構(EDO)シリーズ
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第3回
● 月の裏側を探査中のサー=ヘンリー=ビショップ教授の隊が、ピラミッドを発見したのは、2026年3月のことだった。
 場所は、アムラー0クレーターの内郎であり、このピラミ。ドが『月の一歩』以来、発見されなかっ
たのは不思議な話だった。月の裏側を撮影した過去の写真には、まったくそのビラミ。ドは映っていな
かった。
 ピラミッドの解析が行なわれた。ピラミッドは、エジプト・ギゼーのピラミッドとまったく同一構造
であり、構築後、五千年と推定された。内部への情報機器の侵入は不可能だった。ピラミッ・ドがまるで
結晶体のようであったのである。
 月植民地ルナ=シティは、連邦軍に、このピラミッドの管理を依頼した。なぜなら、このピラミ。ド
を発見したサー=ヘンリー=ビショップの隊全員が、帰りの宇宙船内で変死をとげたからである。
 以降、アムラーリピラミ。ドは連邦軍の管理下におかれた。常時、数十名の連邦軍兵士がこのビラミ
。ド近くに駐在することになった。

2026年4月

正体不明の電波が、月のアムラーーピラミッドに送られた。
連邦軍の電波探知機がこの信号をキャッチした。
  この信号は、さらにEDOの言語解析班に回された。
解析班のチーフであるツェン博士は、この信号を解析中これとよく似た構文を若い頃に解析した記憶が蘇ってきた。その文章は古代サンスクリ。卜語
であった。
 内容は「トーチは用意された」である。
 EDOの情報脳から、2016年3月に入力された金属片の情報脳が呼びおこされた。
 EDOは俄然、色めきたった。かっての金属片実物がEDOの地下金庫からひきだされたが、金属片の情
報部位はあとかたもなく消滅していた。
「トーチ」とは何か、
それが何らかの異変をこの地球連邦に及ぼすであろうことは予想された。
 EDO長官、オットーは、非常事態宣告をした。
いわゆる0号指令である。
 対テロリスト局、フリッツの元にもその指令は届いた。フリッツは、秘書を呼び出した。
「今、サムナーはどこにいる?」
「現在、サムナーはプランクトン=シティで行動中です」
「わかった。サムナーをその仕事からはずし、至急、私の所に出頭させろ」
ジャック=サムナーは、対テロリスト局きってのエリートであった。
彼は外惑星型サイボーグであり、局きってのテロリスト=ハンターとしての名をほしいままにして
それゆえニックネームは「片目のジャック」であった。

彼の片目はレザーアイである。
 南太平洋上、‐オセアニア海域に遊才するプランクトン=シティは、地球財団が管轄管理するレジャー
ランドであった.
このプランクトン=シティに出入りできるのは、地球連邦のα六千三百級以上の上
級市民であり、下級市民はこの市を「虚栄の都市』と呼んでいた。
市はナイトクラブ、カジノなど享楽
の施設で満ちあふれ、人類がかって味わったことのない歓楽郷である。
そのプランクトンシティを超テロ集団「フイダイ死の天使」が、                   ”
目をつけたのだ。要求刄応じなければ、市ごと、上級市民を抹殺するという。
サムナーの今の仕事はこの市の監視であった。そのサムナーにO号指令か下った。
「何をいっ・てやがる」
 頭に来たサムナーは無線装置をたたきつぷした。


かくて、後の歴史で、「ランナー」伝説と呼ばれる事件が始まった。
(続く)
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ランナー第4回
[ SFフアンタジー中篇 ]
ランナー第4回(1986年作品)地球防衛機構(EDO)シリーズ
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第4回
2026年、4月。
 地球連邦最大の精神界の大御所マニ導師が、彼の付き人数人と一緒にカイロ病院の特別病棟を訪れていた。導師はマコトの様子を近くにいる医者に尋ねた。
医者は恐れいって答えた。
「今年でもう十年になるでしょうか。彼はエスパー研究所の事故いらい目ざめていないのです」
「わかりました。私が目ざめさせましょう。時が満ちているのです」
 マニ導師は、マコトの眠っている特別ユニットベットのそばで静かに祈り始めた。

祈りを始妬て二十分たっただろうか。
マコトの生体反応を示すCRTに変化がおこった。彼は覚醒し始めたのだ。

 目が聞かれた。しばらく、あたりを見回していたが、マコトはベットからむっくりと体を起こした。
目の前で祈っているマニ導師に気づき、導師の方にそろそろ手を伸ばした。
 マニ導師の体に、手がふれた瞬間、導師の体は消失した。
叫びが病室に満ちた。
 しかし、不思庫なことにマニ導師の声が部屋に響きわたっていた。
 「聖火はともされた」
 マコトは、先ほどまでマニ導師のいた場所にうずくまっていた。
 「マニ導師、使命は必ず果たします」
 彼は涙を流していた。
 まわりの人々は、何かおこったのか、まったく理解できなかった。
マコトはマニ導師の付き人達に向かっていった。
 「ボクは、導師のなくなられる瞬間、彼の意志をひきつぎました。マニ導師は言われました。ルサ=シティヘ
行き、そこでサイコセラフィーを受けよと。僕はその言葉にしたがいます」
 「わかりました。それがマニ導師の遺志なのですね。早速、手配いたしましょう」
 付き人のー人がいった。

 マコトは空(くう)に面を向けた。
他の人には見えなかったが、マニ導師の姿はマコトには見えた。導師は霊
魂として存在していた。

マコトはルナ=シティヘ向かうため、南極ステーションヘ向かった。
マニ導師か、地球の地下組織「死の天使」(フイダイ)の指導者でもあったことは
EDOを除いてあまり知られていない。

さらに。死の天使が、マニ導師が、1256年、ペルシャ、アラムート城からタイムジャンプし、連れてきたア
サシン(暗殺者集団)だとは誰も気づいていなかった。
 導師は、新しき世界の建設のために、この世界を徹底的に破壊せよと、
アサシンに命じたのであった。
 2017年、カイロのエスパー研究所の爆発事故も、「選民のための儀式」だったのだ。

新しき世界のための犠牲はやむをえないというのが、
死の天使(フイダイ)の思想だったのであ

 マニ導師の最期は、世界のマスコミに流された。
彼の最後の言葉は疑問符をつけて報道されていた。

 「聖火はともされた』この言葉の解釈について数多くの宗教学者が苦しんでいた。
 このデータはEDO(地球防衛機構)の情報悩にインプットされた。
データは処理され、EDO長官のデスクに提出された。

 このデータを見たオットーは指令をだした。
「至急、サムナーを呼びだし、月行きのシャトルトレインに乗るように命令するんだ」
(続く)
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第5回
地球の南極空港ステーション空港ロビーで、皆がサイボーグ、ヘルム・リッカートの顔を見ている。
ヘルムの方を見なから、話しあっている人々もいる。彼は有名人であった。
ヘルムは「ロードランナー」の第一人者である。
 空港ロビーの雑踏の中で彼は座って考えていた。ここは地球の南極空港ステーション。今、まさに、
ルナ=シティ行きの『シャトルα』が出発しようとしていた。

 ヘルムは過去を思い出している。
自分が、何故ロードランナーになったのか。他に方法はなかったの
だろうか、あの時は金が欲しかったのだ。ヘルムはそう自分を納得させようとしていた。
 サイボーグ手術には、莫大な金が必要だった。彼の両親はサイボーグ公社との契約書にサインをした。
 その契約書には、サイボーグ手術の代償に、五年間公社の命ずるがままに働くように書かれていた。
さらに加えて、彼は「ロードランナー」として一定の成績をも上げなければならなかった。
 次々と開催される、昔のマラソンに相当するロードゲームで彼は走り続けた。オーストラリアー周レ
ース、南極大陸レース、赤道レース。彼は勝ち続けた。勝利の女神がまるで彼に取り付いたかのようで
あった。

 ムーン・ウェイは、地球から月へのびる、三十八万キロという長くて柔らかい管と考えていいだろう。
 20世紀後半に盛んだった地下トンネル開削技術が応用されている。
 地球と月との間に、何百もの静止衛星(中継ステーション)を浮かべ、その間を管がつながっているの
である。南極空港の出発点から、メースチングクレーターの出口まで、数億の管がジョイントされている
のである。この管の一つ一つをユニットと呼ぶ。
ユニットは伸縮性のあるPER製の外皮に被われていて、二重リングがその中に含まれている。
第一のリングは地球の自転に合わせ、回転し、第二のリングは月の公転に合わせて回転する。
 ユニットを輪切りにすれば、ほとんど地下トンネル構造とかわりはない。
 真中に情報ケーブルがあり、その上下に各々、月行きと、地球行きのシャトルトレイン軌道が通って
いる。そのまわりを作業回路が包んでいる。その外側には前述のリングがあり、一番外側はPER製の
外皮である。
 このムーンーウェイの基本アイデアは、一九七〇年代に日本の科学ジャーナリスト、草下英明氏によっ
て発表されていた。
 新燃料鉱物、「エルフ13」が月で発見されたことにより、このアイデアは実現化されることになったのだ。
 ムーン=ウェイの中を、シャトルトレインが走り、月から「エルフ13」が大量に地球に流れこんでいた。
 シャトルトレインは、マッハ7でムーンウェイ内を爆走する。超電荷力推進である。
 このウェイによって、200時間で人類は月に行き来できるようになった。それこそ長い列車旅行をする
ような感覚で、月へ行けるようになったのだ。


片目のジャック、テロリストハンター、サムナーの乗り込んだエア・カーが、南極空港に到着到若した時、すでに『シャトルα』は213名の乗客を乗
せて出発したあとだった。
プランクトン=シティからここ南極空港まで「死の天使」の執拗な防害工作が続いたからだった。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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