“やおっち”的電脳広場

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第二部第18話



彼女からの連絡は、あのときを最後に完全に途絶えてしまいました。
彼自身からももう、連絡しようと言う気はあの日を境にプッツリ消えてしまい、彼の心の中は時間の経過とともに彼女の存在を過去の思い出にしていこうとしていました。

が、時の女神とイタズラ好きな運命の神様はそんな彼に最後の皮肉とも言える試練を与えたのです。


それから半年後。

彼は結婚式の会場にいました。
それは、彼女を紹介した後輩の結婚式で、彼はその結婚式の手伝いをするため、早くから会場に来て準備をしていました。

そして、席順を見て彼は眼を丸くしました。
自分の席の隣は・・・彼女の席が用意されていたのです!

「・・・・!」

彼は思わずうなります。しかし、個人的な事情から決まってしまったことを申し出て変えてもらうわけにもいかず、しかも開始まで時間がないためどうしようもできず、そのまま式本番を迎えることに。
なにより、二人の関係を後輩が知るよしもなかったので、言うに言えず、というのが本心でした。
もっとも、後輩からすれば先輩を思いやっての気配りのつもりだったのですが・・・。


式直前、手伝いを終えて自分の席へ向かう彼。
そこには、すでに彼女が座っていました。
彼は一瞬たじろぎました。しかし、深呼吸を一回し、気を取り直して意を決したかのように自分の席に座りました。

自分の隣に人の気配を感じたのか、彼女は振り向きます。
そして、彼の存在に驚き、一瞬気分が悪くなるような表情を見せますが、すぐに気を取り直して笑顔を見せながら話しかけました。

彼女「久しぶりだね~。元気だった?」

でも、その笑顔はいわゆる「営業スマイル」で、顔がなんとなくひきつったように彼は感じていました。
しかし、その中で、瞳だけはなぜかもの悲しい何かを感じました。
それが彼には何を意味したのかはこの時点では分かりませんでしたが・・・。

そして、式が始まりました。
隣同士、ということもあってお互い相手を無視するわけにもいかない事情もあり、お酒の酌をしあったり、式の合間に何か相づちを求めるような話はするのですが、それ以外の話は全くすることはなく、あくまで「社交辞令」的な話ばかり。
逆に雰囲気が気まずくなる一方になり、その気配は徐々に周囲に広がっていきました。
そしてそれは、式が終わる頃には重苦しい沈黙に変わっていたのでした。
ただ、二人の関係を知る人物はこの場の誰もいなかったのが幸いでした。

しかし、その雰囲気は、彼も、彼女も両肩に何か重い物を載せているような感じだったのです。
特に、彼女の表情は何かに耐え切れそうにないような悲しく、苦しい表情をしていたのです。

そして結婚式は滞りなく終了し、二次会へと進みました。

会場では、二人は完全に別々の席につきました。
ただし、同じ長テーブルの対角線上でしたが。

二次会が始まると、彼女はものすごいペースで飲み続けました。
それは、まるで何かを忘れるかのように。
周囲の話にもあまり耳を貸すことはなく、彼女は飲み続けました。

そしてついに、最後の事件は起こりました。

二次会も中盤にさしかかった頃に、彼女が

「ごめんなさい。今日はこれでもう、帰るね。タクシー呼んで。」

と言ったのです。

そして、なぜか事の成り行きで、入り口まで彼が送ることになり、本意ではないながらも彼女のそばへ。

彼女は立ち上がりますが、お酒を飲み過ぎたせいか足下がふらつき、床に座り込んでしまいました。
そして、次の瞬間、彼女は肩を震わせて泣き出したのです。
彼女は完全に「出来上がって」ましたが、その口からはとんでもない言葉が出たのです。

それは、今までの彼女からは聞いたことのない、聞くことの予想できなかった言葉でした。

その言葉とは・・・(続く)

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