アンパンマンの街の法律的考察



■よっさんの自由研究■

「アンパンマンの街」の法律的考察

この論文(おいおい、論文かよ。)は2001年1月、高校生向けの冊子に「こんなんもおもしろいんじゃないの?」と書き下ろしたものである。ちなみに私は法律の専門家ではなく、このために必死に六法を繰ったので、重大な錯誤もあるかもね。


はじめに

今どきの子供なら一度は目にしたことがあるであろう「アンパンマン」。いわずと知れた「やなせたかし」ワールドの代表である。

今や、保育所においてもアンパンマンのビデオを上映し、病院の小児科病棟ではアンパンマンの絵がいたるところに貼ってある。おもちゃ屋ではアンパンマングッズがはばをきかせ、小児薬なんかは「かゆみ止めアンパッチ」などが売られている。当然、デパートなどで行われるアンパンマンショーや特設コーナーは常に満員。

アンパンマンの街に住みたい。そう思う子供も多いだろう。しかし、私は絶対にあの街には住みたくない。動物、植物、食品そして建造物までもが意志を持って街中を歩く。これはコワイよ。そして週に2度は必ず訪れる凶悪犯罪。しかもそれは司法に裁かれることもない。さらに、一方的な正義に基づいて、暴力的に悪を排除しようとするアンパンマン。

経済の体制も不思議だ。ジャムおじさんはパンを作るが、売っている場面の描写はない。配っているだけだ。オクラちゃんは野菜を作るが、これも配り歩くだけだ。そして、街に同業の店舗はない。こ、これはあの旧ソ連の社会主義体制、計画経済体制ではないのか。

こんな先行きの不安な経済体制の中で、治安も悪く、アンパンマン的正義でのみその枠からはずれる者が暴力的に排除される。そんな恐ろしい街に私は決して住みたくはない。

さて、こんなことを言いはじめたらきりがないのだが、そこで終わってしまってはおもしろくない。ここで、日本の法律にてらしてアンパンマンのまわりのことを考えてみよう。

あの街に日本の法は適用できるか

さあて、いきなり難しいなあ。しかし、あの街は日本をモデルにしているはずだ。学校も「小学校」と称して、日本の学校制度に沿っているし、あの街では誰もが日本語を使用している。

また、アンパンマングッズは海外へ輸出されても「ANPAN-MAN」なので、「あんぱん」なる日本語がベースだ。またバタ子さんは「子」という漢字を使っており、「こ」と読ませて女性であることから日本名であろう。「カバ男くん」も同じだ。もう一つの視点。人間以外に法は適用できるのか、という問題。そりゃ、カバやウサギ、パンやSLまでがしゃべり、生活するなんてことは想定していないからな。

でも、彼らは間違いなく社会生活をしているわけだから、権利、義務を有しているはず。社会を構成するなら必ず規範、法律があるはずだ。

日本の法律は必ずしも人間だけを主体の対象にはしていない。団体や会社は法律上の人格、「法人として存在している。さらに彼らは意志を持って同じ言語を話すから意思確認もできるし、人間と同等(だろうと思うけど)の知能もある。場合によってはジャムおじさんら人間が、アンパンマンなどの「パン」に頼ったり、身の安全を守ってもらったりするわけだから、立場は彼らの方が上になるかもしれない。だから、人間じゃないという理由で法律を適用しないってのもおかしい。

みんな空を飛んでいいのか!

バイキンマンはなんだかたくさんのアームのついた飛行物体に乗り、ドキンちゃんはずいぶん形のいい飛行物体に乗る。アンパンマンらの「パンども」は自由に空を飛び回り、しまいには赤ちゃん(あかちゃんまん)まで飛ぶ。はたしてこの行為は許されるのだろうか。まずは、航空機の定義について。

 この法律において「航空機」とは、人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼、滑空機および飛行船その他政令で定める航空の用に供することができる機器をいう。(航空法第一条) この法によれば、バイキンマンとドキンちゃんの飛行物体は当然「航空機」として見なされる。

ただ「パンども」については難しい。彼らはその体だけで飛べるのか(つまりは蝶や蚊、鳥などと同等にその個体の特質なのか)、道具を使って飛ぶのかで解釈が分かれる。道具を使わなければ、私たちが走る、踊る、というような行為に属するのでおとがめなしだが、道具を使えばそれが「航空機」だ。

そこで、面白い本を発見した。我が娘の本棚にあった「あかちゃんまんとかみなりぴかたん」という絵本だ。この本は、マントを洗濯してハイハイしかできなくなったあかちゃんまんをバイキンマンがいじめる、という話。

なーんだ、あかちゃんまんはマントがないと飛べないのか。じゃ、法律上マントは「航空機」だね。そういえばアンパンマンもしょくぱんマンもカレーパンマンもメロンパンナちゃんもクリームパンダも、みーんなマントを付けている。そうそう、前にメロンパンナちゃんはマントを木にくくりつけられて飛べなくなってたっけ。個体で飛べるのなら首からマントをはずせばいいわけで。

結論、「彼らはマントがないと飛べない。よってマントは航空機。だから彼らが空を飛ぶことについては、航空法の適用を受ける。」

危険な運行について

航空機は、運航上の必要がないのに低空で飛行を行い、高調音を発し、又は急降下し、その他他人に迷惑を及ぼすような方法で操縦してはならない。(航空法第八十五条)

クリームパンダはこの前「今日は気持ちいいなー、わーいわーい」といいながら急降下、急上昇を繰り返して飛んでいた。運航上の必要は認められないので法律違反。バイキンマンにいたっては弁解の余地なく法律違反。100万円以下の罰金。

何人も航空機から物件を投下してはならない。但し、地上又は水上の人又は物件に危害を与え、又は損傷を及ぼすおそれのない場合であって、運輸大臣に届け出たときはこの限りでない。                  (航空法第八十九条)

オクラちゃんはとれた野菜をみんなに配るため、空飛ぶアンパンマンに乗って野菜を投下した。よかれと思ってやったとしても、上空からキャベツがふってきて頭にでも当たったら軽いけがではすまない。よって法律違反。免許剥奪、100万円以下の罰金。場合によっては傷害または業務上過失致傷あるいは未遂がつき、刑事裁判。

バイキンマンは問題外。

登録表示について

飛行機やヘリコプターをよく見てみよう。必ず機体に「JA ××××× 」と登録記号の表示がある。アンパンマンにでてくるすべての「航空機」にはこれが書かれていない(見たことがない)ので、航空法第144条の規定により全員「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」。

ウェスタンだぜ!やきそばパンマン!

さすらいのやきそばパンマン。彼のイメージは西部劇だ。カウボウイスタイルに身を包み、ウエスタンさながらの街を歩く。彼が馬に乗って登場すると「荒野の七人」にも似たテーマソングが流れる。

馬にパンが乗ってピストルの銃口をフッとふく。文字にして、あらためて読んでみると、むちゃくちゃなシチュエーションである。

さて、これは去年、虫歯の治療のため歯医者に行ったときの話。待ち時間にはいつも待合室の本棚にズラーッと並んでいる「パタリロ!」を読むのが常なのだが、その日はなんせ人が多くてマンガの本棚までたどり着けない。しかたなく近くの幼児・児童書の本棚から絵本を一冊取り出した。タイトルは思い出せないのだが、こんな内容だった。

-----とあるアメリカ西部風の町。酒場(らしきところ)でつくったおいしいごちそうを狙って、バイキンマンが暴れ出す。止めに入ったやきそばパンマンがバイキンマンに決闘を挑む。決闘中、さまざまなずるい手で捕らわれてしまったやきそばパンマンを助けるためにアンパンマンがやってきて・・・-----

アメリカ西部風の町だけど、言葉も日本語だし、アンパンマンがすぐやってくるところを見ると日本と見なしていいよね。

さて、やきそばパンマンは、このあらすじだけですでに処罰を受けるだけの法律違反をしている。

決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応ジタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ十円以上百円以下ノ罰金ヲ附加ス(決闘罪に関する件 第1条)

やきそばパンマンは、決闘を挑んだ段階でこの法のように「6ヶ月以上2年以下の重禁錮」と「100円以下の罰金」となるというのだ。しかし、明治41年の法改正で「重禁錮」は「有期懲役」に読み替える、また罰金附加の廃止などが規定されているので、「6ヶ月以上2年以下の懲役」となる。

決闘ヲ行ヒタル者ハ二年以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ20円以上二百円以下ノ罰金ヲ附加ス(決闘罪に関する件第2条)

しかし絵本の中では、やきそばパンマンとバイキンマンの決闘は実際におこなわれているので、裁判になればこの法の2条が適用され、2人とも「2年以上5年以下の懲役」の判決が下りるだろう。

アイボやアシモを越えるSL

SLマンは不気味だ。だってSLが意志を持ってしゃべるわ、走るわ、ボール遊びするわ。顔はきっと金属製なのだろうが、笑うことまでする。きっと頬の筋肉が恐ろしく発達しているのだろうなあ。ところで急いで走るSLマンは煙突から激しく煙を吐いているが、石炭は誰がくべているのだ?

さて、彼の何よりも恐ろしいところ、それは「線路を走らない」ことだ。だって、時折新聞で大きく報道される踏切事故の記事を見たら「運転士は40メートル前に発見しブレーキをかけたが間に合わず・・」とか「発煙筒によって80メートル前に危険を察知して減速したが・・・」とか書いてあるじゃない。あのたぐいの乗り物は車輪の摩擦抵抗も少なく、車両自体も重いためすぐに停車することができないのだ。

さて、SLマンの車輪を見てみると、車輪はやっぱり鉄らしきものでできている。ゴムでもついていればまだ別なのだがそうでもなさそうだ。よってSLマンはいつ人身に危害を及ぼしてしまうかもしれない危険性を承知しながら、平気で街を走っているのだ。あーこわ。

ところが日本の法律において、「レールのないところを電車や汽車が走っちゃだめ」という条文はない。そりゃ、当たり前だ。レールのないところを電車や汽車が走るわけないじゃないか。

そうすると、SLマンはどの法で裁かれるのか。・・・・探してみてもそんなばかげたことを規制する法はない。日本は「罪刑法定主義」=法律によって罪を裁く、ってのが基本だから、法がなきゃ裁けないのよね。

無理やり適用しようとすれば、これか。

車両は、歩道または路側帯と車道の区別ある道路においては、車道を通行しなければならない。(道路交通法第17条)

カバ男君と一緒に遊んでたりするから、一人だけ車道でぽっぽーって行くことは考えられないからね。はい、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金。

あわせて「危険運行の禁止」にも触れるので罪状はさらにきつくなるだろう。

ほか、鉄道営業法や鉄道事業法にも触れそうであるが、SLマンがどこの鉄道会社に所属しているのか不明なので誰を罰してよいのかわからない。

バイキンマンの本拠地は

オープニング画面でもでてくるあのバイキンマンの要塞、「ばいきん城」。お話の中ででてくるときはおどろおどろしい効果音とともに映し出される。そうそう、あれよ。バイキンマンの顔のかたちをして高台(というか、山のような、石のような、柱のようなもの)の上に建ってるやつ。石柱の上に建ってるという感じかな。

しかし、ばいきん城は不思議だ。まず第一に、いつも悪天候であるということ。しょっちゅう雷が鳴っているということ。第二に、電気の引き込み線が見えないのに中では電気を原料にしていると思われるもの(テレビ、、電灯、ドリルなどの工具等)がよく使われていること。え、地下引き込みが考えられる?そりゃ無理だよ。あの地形で地下に穴なんかあけたら崩れちゃう。第三に、ばいきん城は誰がどんな工法で立てたのか。あんな高台にあるんだから風は強いはず。(あー、そうか。だから風の抵抗を減らすためにドーム型なんだ。そうか、そうか。)よっぽど基礎工事をきっちりしないとダメなはずだ。するとたくさんの人間と資材が必要になるけれど、地上からは行けない地形だ。軍隊ばりの輸送機やヘリで人間を運び、クレーンをつり上げてつくったか?いやいや、ただのクレーンでは風にあおられるだろう。さらに、あの常に悪天候の土地だ。さぞ風と雷の対策に苦心したことだろう。

まあ、そんな心配は置いといて、さっそく法律的にばいきん城の違法性を検証してみよう。 建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならない。ただし、建築物の周囲に広い空き地があり、その他これと同様の状況にある場合で安全上支障がないときは、この限りでない。(建築基準法第43条)

どう考えてもばいきん城は道路に接していない。周りに広い空き地があれば、ってことだが、まあ、周りは空き地といえば空き地、でも、崖の下だからねえ。きっと法廷で争っても「周囲の広い空き地」とは解釈してもらえそうにない。ってことは「相当の猶予期限をつけて、当該建築物の除去、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定に対する違反を是正するために必要な措置を命ずることができる。(建築基準法第9条)」からして、まあ、建物取り壊し命令が下るのは間違いないな。

でも、あの建物の責任はバイキンマンや大工さんだけにかかるんじゃないよ。だって、あんな危ないところで、大工事をしているのを誰も知らないわけがない。すると、

地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。(建築基準法第39条)

津波、高潮、出水には関係ないけれども、どう考えてもあの土地は危ない。その危険な土地の安全対策をしていないだけでも問題なのに、建築までさせている。建築許可を受けずないしょに建築していたとしても、あんな大工事に気づかないはずはない。こりゃ、行政の責任も問えるんじゃないか?そう考えると、バイキンマンが行政指導でばいきん城が取り壊されることになっても、あの町に費用負担させることが可能かもしれない。

 ひとつ。バイキンマンはあの建物の中でアンパンマンをこらしめるための武器を作っていてる。それはとても許可を受けて作っているようには見えないので、「武器製造の事業を行おうとするものは・・・通商産業大臣(注;現 経済産業大臣)の許可を受けなければならない」(武器製造法第3条)にも抵触する可能性あり。

事例研究

さて、これまでのように一つ一つ見ていくと膨大なレジュメになってしまうので、ここいらで「お話」をもとに研究を進めていきたい。基礎資料はフレーベル館「ゆかいなアンパンマン 10」なる絵本だ。取りあげるお話は「アンパンマンとナットーマン」。うむむむむ、タイトルだけでしんどいな。私は納豆が大嫌いなのだ。だって、奴は糸引くんだぞ、糸。君たち糸引くまで腐ったキャベツとか、何日もほうっておいて糸引いてる牛乳なんか飲まないだろ。だけど糸引く豆は許されるのか?えっ、どうよ。・・・ああ、すまんすまん。つい興奮してしまった。では、本題に戻って「アンパンマンとナットーマン」のあらすじを。

ある日、バイキンマンがばいきんUFOに乗ってでかけようとすると、ナットーマンが「おら、いそいでるんだ」と勝手にくっついている。「おりろ!」「たにそこへおちろ!」と叫びながらばいきんUFOは宙返り。スカイダイビングよろしく落ちていったナットーマンが納豆の糸をばっと投げると、崖に突き出た木の枝に引っかかり危機一髪。 そこへやってきたパトロール中のアンパンマン。ナットーマンを助けると、おむすび山のおむすびおじさんのもとへ送り届けた。

おむすびおじさんはほかほかご飯のおにぎりをつくり、ナットーマンは糸引納豆を器に盛った。(ちょっと唐突じゃないの?これ。ほんで、用意して誰にふるまうの?謎だ。)

そこにあらわれたバイキンマン。「にぎりたてのほかほかおむすびは おれさまがもらった!」とばいきんUFOからマジックハンドをニューッとのばした。「あ!バイキンマン!」ナットーマンが納豆の糸をばいきんUFOめがけて投げると、ばいきんUFOはぐるぐる巻きに。そこへアンパンマンのアンパンチ!「アーンパーンチ!」「やられたーっ!ばいばいきーん!」バイキンマンは空のかなたへ。(テレビでは必ず遠い空でピカッと光る。)

やっとの事でおうちに帰ってきたバイキンマン。ドキンちゃんに「なっとうおむすび一つだけもってかえってきたよ。はんぶんこしよう。」というと、彼女はこう言ったのだった。「だめ!あたしがぜんぶたべる!もっとたべたい!」

(1)ナットーマン さて、まず、ナットーマンについて考えよう。はじめに彼は、勝手にばいきんUFOに乗船している。これは、

故ナク人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若シクハ艦船ニ侵入シ又ハ要求ヲ受ケテ其場所ヨリ退去セサル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五〇円以下ノ罰金ニ処ス(刑法第130条)

に触れる。罰金については「それぞれ多額の二〇〇倍に相当する額を持ってその多額とする」(罰金等臨時措置法第3条)とあるので「一万円」と 読み替えることになる。 さらに、おむすびやまに帰ったあと、バイキンマンの襲撃に対し納豆の糸をばいきんUFOに投げつけている。

これは、

暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の航空機を強取し、またはほしいままにその運航を支配した者は、無期又は七年以上の懲役に処する。(航空機の強取等の処罰に関する法律 第1条)

に触れる。

さて、そうとはいえ、ナットーマンは一時、バイキンマンによって振り落とされるという「生命の危機」を感じたわけで、その経験上おむすびやま襲撃時にも相当な脅威を感じたはずである。ならば、「正当防衛」が主張できないのだろうか、という疑問を持つ人もいるかもしれない。これは刑法36条で、緊急で不正な侵害に対し、自分や他人の権利を守るためにおこなった行為は罰しない、過剰であっても減刑又は罪を免れる、というものだ。

でも、だめなの。この絵本でばいきんUFOに糸を投げたナットーマンはこう言っているから。
「さっきはよくもたにそこへおとしてくれたナットー!!」
この行為は報復なのだ。

(2)バイキンマンバイキンマンの罪は重いなあ。まずは航空法違反。これは前述の通りだ。危険運行もあるぞ。そしてさらにナットーマンを振り落としたことに関する罪。これは正当防衛の要素も考えられないこともない。だって、ナットーマンは勝手にばいきんUFOに乗って、バイキンマンの所有物を自分のために侵害している。さらに「おりろ!」との警告を無視しているからね。しかーし、振り落とすときの言葉が問題。「たにそこへおちろ!」だからなあ。傷つけようという意思が考えられるから、過失にはならない。傷害、又は殺人未遂が適用されるだろう。(ここでまた、ナットーマンを死に至らしめたとき殺人罪の「人」となるか議論されるだろうが。)

 人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期若シクハ三年以上ノ懲役ニ処ス(刑法 第199条)未遂罪ハ之ヲ罰ス(刑法 第203条)

 人ノ身体ヲ傷害シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ五百円以下(読み替え十万円)ノ罰金若シクハ科料ニ処ス(刑法 第204条)

 さて、この事件のしばらくあと、おむすびおじさんのもとにあらわれたバイキンマン。マジックハンドを伸ばしておむすびを強奪。 

 他人ノ財物ヲ窃取シタル者ハ窃盗ノ罪ト為シ十年以下ノ懲役ニ処ス(刑法 第235条)

 暴行又ハ脅迫ヲ持テ他人ノ財物ヲ強取シタル者ハ強盗ノ罪ト為シ五年以上ノ有期懲役ニ処ス(刑法 第236条)

窃盗又は強盗の罪は免れない。

(3)アンパンマンこのお話のアンパンマンはさほど出番がない。ナットーマンを助ける、突然あらわれてばいきんUFOにアンパンチ。これだけだ。

当然前述のような航空法等に違反はしているが、そのほかに法を犯している部分はあるだろうか。

実は、ある。突然あらわれてばいきんUFOにアンパンチを食らわしたことだ。アンパンマンがあらわれた時点でバイキンマンの状態はどうであったか。おむすびを盗みにやってきたがナットーマンが阻止して、すでにばいきんUFOは自由を奪われている。この間におむすびおじさんが警察へ出動要請をしたかどうかはわからないが、もし通報していれば、ばいきんUFOが動けない状態の段階でパトカーがやってきて窃盗の現行犯として身柄確保できたであろう。

動けないばいきんUFO。争いの状態もこの時点ではナットーマンが優位だ。なのにアンパンマンが突然あらわれて「アンパーンチ!」バイキンマンは「バイバイキーン!」と遠い空まで飛んでいく。おい、これは正当防衛でも何でもないぞ。傷害事件だ(十年以下の懲役又は十万円以下の罰金)。だってよ、これは、桃太郎電鉄でマイナス9800億円で迎えた最後の一年にキングボンビーにとりつかれたようなもんだぞ。あまりにむごい。

さて、お話とは離れて疑問がひとつ。

アンパンマンはよくジャムおじさんに「パトロールに行って来ます」と行って出かけるが、彼は警察の委嘱を受けて行動しているのかどうか。

アンパンマンがもし、ジャムおじさんからパトロールをすること、人助けをすることによって報酬を支払いを受けているとすれば、そこには契約的労働関係が成り立つわけで、アンパンマンの代わりの顔型のパンを焼く費用はジャムおじさん持ちとなる。

さらに、緊急時以外にバイキンマンを見つけ、何もしていないバイキンマンにアンパンチなどの暴力行為をはたらいた場合、アンパンマンの傷害罪のほか、ジャムおじさんの使用者責任も問われる。

さて、このアンパンマンの行為が警察からたのまれての場合、またはアンパンマンはほかの仕事を持っていて、ボランティアとしてパトロール、人助けをしていた場合、

職務執行中の警察官がその職務執行上の必要により援助を求めた場合その他これに協力援助する事が相当と認められる場合に、職務によらないで当該警察官の職務遂行に協力援助した者がそのため災害を受けたとき、又は・・・犯罪の現行犯がおり、かつ、警察官その他法令に基づき当該犯罪の捜査にあたるべき者その場にいない場合に、職務によらないで自ら当該現行犯人の逮捕若しくは当該犯罪による被害者の救助にあたった者がそのため災害を受けたとき、国又は都道府県は、この法律の定めるところにより、給付の責に任ずる。(警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律 第二条)

が適用され、アンパンマンのけがや顔部分の破損などをなおす(あえてひらがな)費用は補填される。

(4)ドキンちゃん さて、最後の1シーンだけに登場するドキンちゃん。バイキンマンがやっと手に入れたおにぎりをぱくぱく。「はんぶんこしよう」といわれても「だめ!あたしがぜんぶたべる!もっとたべたい!」。なんだと!なんちゅうーやっちゃ。世の男の子の多くは女の子のそんな態度に夜な夜な枕を濡らしているのだぞ!(バイキンマンの悲しみについ共感してしまったじゃないか。)

 まあ、バイキンマンとドキンちゃんの関係はさておいて(といいながら気になるよなあ。バイキンマンはドキンちゃんが好きで、ドキンちゃんはしょくぱんマンが好きで・・・でもバイキンマンとドキンちゃんは同棲していて・・・むむむむむむ。)、ドキンちゃんを断罪しよう。

 ドキンちゃんはバイキンマンと行動をともにすることが多く、たくさんの傷害、窃盗、強盗事件、迷惑になるような行為について共犯である。すると、この日のおにぎりについても不法行為によって手に入れたことは容易に想像できたはずだ。さらに絵本では、おにぎりを持ってきたバイキンマンは包帯でぐるぐる巻きになっているので、ドキンちゃんは「またアンパンマンにやられたんだわ、さえないヒト。」なーんて心の中で思っていたに違いない。

 それを承知で「もっとたべたい!」とぬかしやがった。(また興奮してきた。男の子の心をもてあそびやがって!)てことはバイキンマンにまた盗ってこい、といってるわけで。

 人ヲ教唆シテ犯罪ヲ実行セシメタル者ハ正犯ニ準ス(刑法第61条)

この法によりドキンちゃんもまた処罰される。

おわりに

考えれば考えるほどあの街は謎に満ちている。
法に照らし合わせれば恐ろしいほどの法律違反があるはずだ。
ジャムおじさんだって車検を受けていない(ナンバーのついていない)アンパンマン号を運転しているから道路交通法違反になるし、名犬チーズは犬なのに放し飼いしていることで、奈良県ならば条例違反だ。てんどんまん、かまめしどんなどは、頭でご飯をたいて人々にふるまっているのだから、もしそれでお金をもらっていれば食品衛生法への抵触が懸念される。しょくぱんマンは馬に乗っているから、車と馬を同列で扱っている今の法からすれば違反するところがあるだろうし、ロールパンナちゃんなんかつねにムチにもなるリボンを持ち歩いているから軽犯罪法、もしかしたら銃刀法の適用を受けて処罰されるかもしれない。まあ、きりがないよ。

さて、駆け足でつまみ食いっぽくアンパンマンの街を法律的に見てきたが、みなさん、どのような感想をもったであろうか。

初めて聞くような法律、条文、えー、そんな解釈するのぉ?って人、世の中規制だらけじゃん、って人。

でもよーく考えなくちゃダメよ。最近不思議な法律もいろいろあるけれど、法は本来、生活を縛るためにあるんじゃないのだ。一人一人の権利義務、生活を守ってるものだってことを忘れちゃダメよ。



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