雪月花

分裂。









分裂。






最近どうにも忙しいので、分裂してみることにした。体がいくつあっても足りないと皆良く言っている。私も切実にそう思った。1つだけなんてまず無理だと。そこで、分裂してみることにした。
学生である私にとって、実際問題、体はいくつあれば足りるのだろうか。学業用、引きこもり用、社交用、趣味用(これは最低3体)、恋愛用、家事用、考え出せばきりがない。とりあえず、10人に分かれてみることにした。これを書いている私は、一応「本部」となっている。つまり本体だ。ここから分裂した残り9名の「私」が、今現在活動していてくれる。そして私は悠々と、本体だけの持つ自由気ままさを駆使して、いい御身分な生活をふふんと送っている。はずだった。



現在、私は自分がいくつに分裂しているのかを正確に把握できていない。元々は、私を含めた10名からのスタートだったのが、それぞれの分身が「体がいくつあっても足りない」と言い始め、勝手に分裂してしまったようなのだ。そして第ニ次の私だけでなく、第三次の私も、その先の私も、細分化された仕事を掘り下げるうちに「体がいくつあっても足りなく」なったようなのだ。つまり、ネズミ算以上のスピードで、私は分裂し続けている。

世の中不思議な所はうまく出来ているもので、私がどんなに数多く分裂していても、周囲の人間は複数の私と同時に遭遇したりしないらしい。だから、まだ誰にもばれていない。この世の中に同一人物を同時に複数存在させるというタブーを、この私が犯していることは。それにまず、誰も思いもよらないだろう。私がまさか自分の分身を作れるなんて。

分身と誰かが会っているのを観察して、「私」が私として認識されるために必要なファクターが結局何なのか、知りたくもある。だが、一体いつまでばれないでいられるのだろう。いい加減この状態が薄気味悪くなって来た。ところで、どうすれば私は、今や数えきれない程に分裂した私をひとり残らず回収することができるのだろう。分からない。この問題を解決するためにまたひとり増やそうか。いや、やめておこう。こんなややこしい問題がひとりで片付けられるわけはない。また無闇に分裂が繰り返されるに決まっている。

それにしても、だ。「私」たちがこれほど無節操に分裂を繰り返すとは思ってもみなかった。任された仕事は、何もかもひとりで片付けなければという(本体の)要領の悪い性格は、どの「私」にも受け継がれているようだ。そして、分裂して増やした人手を、他者ではなく自己として認識することで、「私」たちは最高のエクスキューズを得ている。そのせいか、最近では、どの「私」も、少し忙しいとすぐに分裂してしまう。段々と「分裂」が気軽なものになって来ている。根拠はないが、危険な徴候だ。



しかしなぜだろう、この頃の私がひどく疲れているのは。もしや。












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