雪月花

弱さと道徳













 弱さか道徳か、どちらかが無ければいいのに。

 あたしが、誘惑に負けないほど強いか、道徳など蹴飛ばせるほど奔放か、どちらかならばいいのに。
 ひとりで居ることや、先の見えないことがとても恐ろしくて、あたたかいものを引きずり込んでしまう。そのくせ、いつもどこかで綺麗でいたいと考えている。あの人に申し訳ない、そう感じる理由は一体なんなんだ。あの人は許せない、そう憤る理由は一体なんなんだ。
 空しさが何より恐ろしいと言いながら、結局空しさを自分で生んでは後悔しているだけ。後悔?けれどそれは一体なぜ。なんと手間のかからない、厄介な子なんだろう、あたしは。
 岸まで、歯を食いしばってでも泳ぎきるか、観念してずぼずぼと沈んでしまうか。そのどちらもできずに、漂い、疲れては、手近な浅瀬で体を休める。運が良ければ、潮が満ちるまでどこかの岩に座っていることもある。そんなのが、あたしだ。海とも、川ともつかない、否、海のようでもあり川のようでもあるこの場所で、あたしは、だんだんとふやけていく。
 1かゼロか。そんな風な選択ができなくなってきている。どれもこれもを一口ずつ欲しがる子供のように、味見をしては、それだけで餓えが幾分満たされて、結局どれも食べる気がしなくなり、それでも、下げられようとする皿には惜しい気がして「待った」をかけてしまう。どんどん、子供のようになってきている。純粋だという意味ではなく、きっと、自分で決めるということを放棄できた気になっている点において。
 あたしがもうひとり居て、そして男だったらいいのにとさえ思う。そうすれば、絶対にひとりになんかしない。お互いに辟易するかもしれないけれど、それでも、お互いが、戻る場所になれる。
 どうしてだろう。とても、ひとりだと感じる。
 今朝まで、あたたかいものを傍に置いていたにも拘らず。
 愛するとは、どんな感じだったっけ。
 このままずっと、誰のものにもなりきれないという、妙な予感すら有る。
 どんな方法でもいい。ひとりでは居たくない。切実に心の片隅から叫んでいるのに、よくないことだという道徳が、口を挟まないまでも、無責任な第三者の顔をしてのさばっている。こっちを、じっと見ている。お前に何が分かると、その目を針で突いてやりたい。それならいっそ力ずくで止めて守ってよと、引っ張りだして抱き締めたい。
 こうやって、あたしはまた混乱する。
 一度は捨てようと決心したものを、愛着と弱さからまた引きずり込んでしまった。それどころか、手の届くところにしまってとっておこうとさえしている。

 何がしたいのか、じゃない。 
 何が大切なのか、それを見失いかけている。










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