灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

いじわるなふたり


小学3年生なの。
美里は学校が大好き。
美里の仲良しは美咲ちゃん。
名前がちょっと似てるでしょ?
幼稚園の時からのお友達なんだよ。
3年生になってようやく同じクラスになれたんだ。
美里のきらいな子も2人いるの。
1人は男の子で海斗くん。
海斗くんは体ががっちりしていて力持ち。
美里にいじわるばかり言うの。
この前も、図書室で悲しいお話の本を読んでいたら思わずぽろりって泣いてしまったの。
そしたら、海斗くんは大きな声でそのくらいで泣くなって言うの。
あんまり大きな声だから、図書室にいた人がみんな美里の方を見てすっごくはずかしくなって涙だって引っ込んじゃったよ。
もう1人は女の子で沙織ちゃん。
沙織ちゃんはいっつも4人の女の子といっしょで美里のえんぴつの色がへんだとか消しゴムの絵がかわいくないとか、そんなことばっかり言ってる。
この前なんて美里の36色クレヨンは学校に持って来ちゃいけないのだって言ったくせに、次の日には同じクレヨンを持って来て美里のより新しいのよって自慢してるの。
ひどいよね。
そんな、ある日のこと。
美里は給食当番。
食器のカゴに大きなおぼんをのっけて、豚汁をおわんにすくっては置いていたんだ。
おぼんに6個のっかったら運んでいくの。
おぼんにはおわんが5個のっかていて、美里は6個目のおわんをよそおっていたの。
沙織ちゃんが教室の前の戸から入って来て、美里のすぐそばを通った、その時。
がちゃんって大きな音がして美里はびっくりした。
おぼんがひっくりかえって5つのおわんが転がってる。
心臓がどきどき言い出した。
沙織ちゃんはすかさず
「何してるのよ。みんなの給食がめちゃくちゃじゃない!」
って大きな声で言ったの。
おわんとおたまを持ったまま、美里はどうしていいかわからなくなったの。
美里が悪いの?
おぼんがひっくりかえったのは美里のせいなの?
美里は何もしてないよ。
沙織ちゃんは美里をにらんでる。
みんなも集まって来てどうするのよなんて言ってる。
なんだかのどがきりりと痛くなってきて声が出ない。
なんて言っていいかもわからない。
「ちがうだろ。」
その時、大きな声がした。
大きな声は海斗くんだった。
「引っかけておぼんたおしたのは沙織だろ。おれ、見てたぞ。」
海斗くんはそう言うと教室の後ろの用具入れにダッシュしてぞうきんを持って来た。
「おまえがこぼしたんだから、おまえがふけ。」
沙織ちゃんにぞうきんを渡すと、海斗くんは落ちたおぼんに落ちたおわんをのっけて
「これ水道で洗ってくるから。美里、おまえ手伝え。給食当番は残りをうまくわけてろ。」
またもやダッシュしたから美里もあわてておいかけた。
海斗くんは水道の下におぼんを置くと、思いっきり水を出しておわんをがしゃがしゃ洗ってて
「ほら」
って美里にさし出した。
美里はポッケに入れておいたふきんで一生懸命にふきふきしたの。
でないと海斗くんにまた怒られるかなって思って。
でも、海斗くんは優しかった。
ぶっきらぼうに洗ったおわんを美里に渡しているけど、とっても優しいってわかったの。
「おまえ、もうちょっと自己主張しろよ。いっつもおとなしいから沙織みたいなやつにいじわるされるんだぞ。」
最後のおわんを洗い終わった海斗くんが言った。
海斗くんだっていじわるだ。
そう思ったけど言わなかった。
だって海斗くんはいじわるだけど優しいんだってわかったから。
「うん」
うなずいておぼんにおわんをのっけて、教室に戻る海斗くんの背中に
「ありがとう」
って言ったんだ。
とっても小さな声だったけど海斗くんは気付いてくれた。
ちょっとふり返って、ちょっと笑ってくれた。
教室はもうきれい片付いてたの。
後から美咲ちゃんに聞いたんだけど、沙織ちゃんはだいぶみんなに責められたらしい。
仲良しの女の子4人からも、
「自分で引っかけておいて、人のせいにするなんてあんまりだよね。」
「しかもみんなの給食をね。」
なんて言われてたんだって。
ちょっと可哀想だけど、仕方ないのかな?
海斗くんや沙織ちゃんが、美里にいじわるだって思ったのも、たぶん仕方ない。
仕方ないけど、美里は海斗くんみたいに大きな声を出したり、沙織ちゃんみたいにはきはきしゃべれないけど、でも。
いじわるされても、次は笑える。
にっこり笑って、こんなのいじわるなんかじゃないって美里は思おう。

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