灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

その6


犬を飼うのが初体験な家族に加え、犬の知識は限りなくマイナスに近い。
いろいろと試してみたけれど、やっぱりプロに教えてもらうのが一番だろうと家族会議で結論に達したのです。
ペットショップは二十分ほどバスで行った住宅街の入り口にありました。
両開きのガラスのドアを大きく開放して、きれいな白い壁に囲まれています。
春のベビーラッシュのようで、可愛い仔猫や子犬でにぎわっていました。
アメリカンショートヘア。アビシニアン。スコティシュフォールド。ゴールデンレトリバー。ワイヤーホックステリヤ。シェットランドシープドッグ。カタカナの長い名前は読むだけでくらくらきます。
名札の下の値段を見ると、由記ちゃんには考えられない値段がついていました。
みつと一緒に来たペットショップのサングラスの男の人の奥さんがお店に居ました。
「こんにちは。みつのこと、聞きにきたんですけど。」
お姉ちゃんが言いました。
奥さんはにっこりと笑います。
「何かしら?」
「うち、犬飼うの初めてなんです。だから飼い方教えて欲しくて。」
「飼い方と言っても、えさは1日2回、朝と夕方あげる位で得にねえ。」
「何か、しなきゃいけないこととかは?」
「そうねえ、散歩は好きねえ。」
「あの、ブラッシングとかシャンプーとかは…。」
「ああ、毛の生え替わりの時期は引っ張れば抜けるから、特にブラッシングとか必要ないし。」
奥さんは、ダックスフンドの子犬に引きづなを付けて店先でころころと遊ばせながら答えました。
ペットショップの動物達はみんな楽しそうです。
お客さんもうれしそうに仔猫や子犬にふれていました。
「そりゃあ、注文付けすぎて返すなんて言われたら困るだろうけど、あれはないよ。」
帰り際にどうぞと持たされたビーフジャーキーを、バス停までやけに重そうに持ちながらお姉ちゃんが言いました。
「あんな風にみつ、遊んでくれないよ?」
由記ちゃんも言いました。
本当は聞きたかったのです。
みつは何でお手をしないの?
お座りは出来ないの?
大介くんの犬はテニスボールを投げたら取ってくるよ。
ごはんの時も『待て』が出来るよ。
遊んでくれるよ。
どうしてなの?
みつは遊んでくれません。
遊んだことすらないのかもしれません。
繁殖用だから?
売り物じゃないから?
ペットショップって何なの?
みつは今までどう過ごしていたの?
由記ちゃんは帰りのバスの中で、ずっと考えていました。

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