風光る 脳腫瘍闘病記

13時間



「浣腸かぁ・・・恥ずかしいじゃん」という思いでいっぱいだった。

でも同じ病室のSさんは「あたしなんか研修医にされたわよ!」

「研修医?ってあのクマちゃん?」クマちゃんとはSさん担当の研修医だ。ガレッジセールのゴリみたいに毛深い事からSさんは彼の事をそう呼んでいた。、

「そりゃ、恥ずかしいわ!」Sさんは50代で股関節が悪くて入院していた。
彼女も女性なのだ。いくらなんでも男性に浣腸されるのは恥ずかしいのである。

その点、私は看護婦さんがしてくれる事になっていた。手術する上で浣腸は避けては通れぬ道だ。私は泣く泣く看護婦さんの顔の前にオシリを差し出した。

7:40、母到着。家族は手術してる間、待合室で待機しなくてはならない。

7:45、ストレッチャーに寝かされ、筋肉注射を打たれる。それであらかじめ頭をボーっとさせる。中には麻酔をかけられる前にその注射で寝てしまう人もいるらしい。私は大丈夫だった。

7:50、オペ室に到着。ドラマで見る風景と一緒だった。その時、頭にシャワーキャップみたいのをかぶせられた。頭の方で「おはようございます」と声がする。麻酔科の先生だ。次の瞬間マスクをあてられた。

「愛さ~ん!愛さ~んっ!聞こえますか?」と叫ぶ声で目が覚めた。
「アレ?」あたりは薄暗くなっている。「手術は?どうなったんだっけ?終わったの?」背中が痛い。「そっか、終わったんだ・・」などど頭の中でつぶやいていた。気かつけばベットの周りを4人の人に囲まれている。

主治医とその次に偉い先生と研修医、もう一人は母だった。

「気分はどうですか?」

「お腹すいた」私は正直にこう答えた。実際めちゃくちゃすいていたのである。

「あのっ、腫瘍は?」
「全部取りきりました」
「ありがとうございます」「手術時間は?」

「13時間です。」

「13時間!?」私はビックリした。どおりでお腹がすく訳だ。主治医は
「足、動かしてみて下さい」と言ってきた。

私は動かそうとした。「・・・・・・・」動かなかった。

意識が薄れゆく中、主治医が母に「少し障害が残るかもしれません」
と言っているのが聞こえた。そして私は深い眠りについた。

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