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山賊たちはひとりの猫族の女性にじわじわと詰め寄った。
彼女は徐々に後ずさりながらふと気づくと後ろは断崖が迫っているのに気付いた。
「キャー!」
その時石に躓いて転び危うく崖から転落するところだった。
彼女は正に崖っぷちに身を横たえた。
山賊はその様子を見てにたりと舌なめずりした。
迫りくる山賊を彼女は見上げ、その途端再び叫んだ。
「キャー!」
山賊たちの頭上に何か黒く大きなものが落下してくるのが見えたからだ。
彼女の視線に気づいて山賊もふと上を見上げた。
が、既に遅かった。
その何か黒いものは見る見る大きくなり、今まさに山賊たちに悲劇を振り落とそうとしていた。
「キャー!」
その黒いものは大きな木で、なぜか悲鳴と共に山賊たちの上にド、ド、ドサッ!!
お分かりと思うがそれは雷が山賊たちがひとりの女性に詰め寄っているのをよく見よう崖に突き出した木に身を預けた拍子に根元からぽっきり折れて落下した古木だった。
木は山賊たちを押し倒し、雷は木をそして更に山賊をクッションに無傷で着地することが出来た。
猫族の女性は今起きたことに仰天しながらも、木と共に落ちてきた同じく猫族の男性の方へ駆け寄った。
雷は木の茂みの中に埋もれていたが、それを這い上がり這い上がり、差し伸べられた彼女の手をつかんでようやく陽の当たる場所までたどり着いた。
二人はようやく顔を合わせた途端、「キャー!」ではなく「あーっ!!」と叫んだ。
「雷!」
「喜利姐さん!」
「喜利姐さん、どうしてここに?」
「私は薬草を採りにここまで来たの。息子がお腹壊しちゃって。」
「喜利姐さんお母さんになったんだ。」
「ええ。でもあなたこそ何でこんなところに?しかも空から降って来るなんて?」
雷は今まで経緯を紀利に話して聞かせた。
八犬士の犬塚信乃が山賊に捕まったとき、脱出させたのが父五里喜利であり、その手助けをして喜利の姉の蘭のもとに案内したのが雷だった。
その山賊の親分である猪の屯蔵は捕り方の志茂玲央に捕まったが、その残党たちが残っており偶然この山中で喜利を見つけて詰め寄っているところだったのだ。
「おーい、雷―っ、大丈夫か~?」
上からトットさんの声が聞こえてきた。
「ああ、大丈夫。この木で助かったよ。その下の山賊のお陰もあるしね。」
上を見上げて雷は叫んだ。
その頃山賊の頭屯蔵は美味い食事に舌鼓を打ち満足そうに寝転んだ。
「う、う、うめ~!!こんなんなら早く取っ捕まっていればよかったなあ。」
屯蔵は幸せに暮らしていた。
もうすぐ南蛮人がクリスマスと呼ぶ夜に牡丹鍋の材料になるとも知らず。
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