第01話-L



埠頭にゼファーとファントムの戦闘の跡が残る以外は、全く何事もないセルムラント共和国・・。

無理矢理「正当防衛」の一点張りで、ロディが埠頭破壊の責任逃れをしてから数日後・・


ユニオンリバー社はとりあえず平和な一日を送っていた


社長机にロディの姿はない

代わりに、ネスが忙しくその周りの掃除をせっせと進めていた

彼の机の周りは・・・とてもじゃないが「整然」などとは言えない

散乱しているのは大体請求書と、S.Gからの注意書きと、銃の使えなくなったパーツなどだ


「・・ヒドイ有様ですね~・・・」


ネスはそう言いつつも「いつもの事」と涼しい顔をして掃除をする

落ちているので大きいのは、彼の上着から落ちているらしいモノ

ホコリなどももちろん落ちているが、「上着からこぼれ落ちたもの」はどうしても目立つ


・・何故にフライパンが・・?


たまには、こういう妙なモノが落ちているのだが

ネスがあらためて辺りを見回し、ため息をついていると・・


ばんっ!!

ドアが突然、大きな音を立てて完全に開ききった

おっはよー♪

またメイが、ドアを勢いよく開けたせいだ


「・・ていうか、もうお昼?」


今回は自分で時計に気がつき、メイは照れ笑いを浮かべながらぽりぽりと頭をかく

ネスはまた気を落とし、どよ~・・とした空気を漂わせながら掃除を再開する


「ネスぅ、ゴハン~!!」

「今掃除中ですから・・少々お待ち下さい」

「ヤダぁ、おなか空いたもん~!!」

「わがまま言わないでください!!」


ネスが怒鳴ると、メイは黙ってしまった。

・・しばらく突っ立っていたが、すぐに来客用のソファーにどか、と座り込んだ

「む~」と頬をふくらませて、わかりやすく不機嫌な様子だ・・


ネスはため息をもう一度つき、またロディの机周りを・・今度はホウキで掃き始める


「ネスぅ、ロディどこ行ったの?」


メイはまだ不機嫌顔で、ちょっと口調を悪くして聞いた


「地下ドックへゼファー洗いに行きましたよ。」

「・・・そうなの。」


メイは一人納得するとソファーから立ち、すたすたと出て行ってしまった


「・・もっと早起きしてくれないと・・片づかないんですけどね・・」


ネスはメイの起床の遅さを考えて、また、三度目のため息をついた

本当ならメイは9時くらいには起きている。

しかし極度の低血圧と面倒がる悪い癖が重なって、彼女はそこから2時間ほどベッドでぼ~・・・っと過ごすのだ


もちろん仕事の時には、ロディやネスが無理に引きずってでも連れて行くのだが

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事務所の構成はこうなっている。


1階やや右よりに階段、その奥にはちょっと置き場としては役不足に思えるスペースの物置

そして左半分はトランスポーター・ラディオンのガレージ


かわって2階には小さな廊下とやや広くとられた事務所、分室が四つ、シャワールームなどがある

分室はそれぞれロディ、メイ、シュウ、ネス&シード用に取られていた

サクラがたまに来た時は、シュウの部屋に泊まるので問題はない

・・場合によってはネスとシードが事務所のソファーで眠る事になっていた(笑)


そして・・地下鉄事務所時代の名残である地下の「駅跡地」にはシュウの「研究室」とでも呼ぶべき施設が整っていた


貨物を置くスペースだった場所を改修して、ロディとメイのギアが「ハンガー」という小さな工場設備と一緒に置かれていた

ロディのやったように、転送システムを使用する事で特殊な条件下でなければ大体の場所に呼び出す事ができる。

ブレードバッシャーにこれらを艦載しない理由は、ブレードバッシャー自体の負担を軽くすることと、ここからでなければ転送・・「コール」できないからだ。


さしものシュウも、そういうシステムはまだ作れないらしい・・・・「まだ、今は」


駅の改札周辺は徹底的に改修され、シュウの拾ってきたジャンク部品や、発明品が所狭しと配置されている


・・・・と、地上より混雑した風景がここにはあった。

補足しておくならば奥の古い線路も実はユニオン専用車両が配置されていて、利用可能になっている

その気になればヨーロッパ中の地下を走り回れるのだが・・すでに廃線になった線路という事もあってか、おおよそが途切れてしまっている

せいぜいこの車両では行けてセルムラントの国境近くらいだろう。


ここまで来る手段はエレベーターと少し長めの階段があるが、彼らがどちらを使用するかも容易に想像できるはずだ。

・・降りるのはいいが、昇るのはしんどそうに思える・・・


シュウはその地下室で、一生懸命に今日も発明家業に精を出していた

バーナーの溶接する音が聞こえてきたり、何かをハンマーで叩く音が聞こえたり、とにかく落ち着きのない所だ


ロディは・・その隣のハンガーで、ゼファーの「目」を磨いていた

人がギアに乗って戦う以上、外を見るにはその目が必要になる

機体の特性故、予備の目を持つ余裕のないゼファーである。・・この目は言わば、彼自身の目でもあった


・・洗剤をかけて、目・・「センサー」を守っている黒いゴーグル部分をロディがスポンジで磨いていく

もちろんこれは機械化された洗浄装置にでも任せればやってくれるのだが、彼はゼファーを相棒と呼び、ある意味では妹や社員よりも大事にしている

ゲイルとの戦いで言っていたようにこの機体との出会いは廃棄寸前の所を引き取って・・だ

その時にはまだ「マント」と「盾」と「真剣」がついていたというからお笑いなのだが

「スターゲイザー」という名前だった機体はロディの監修の元シュウの手で改修され、現在のゼファーの姿に生まれ変わった

・・周りが旧式と言っても彼には大事な大事な機体であり、相棒と呼べる唯一のギアなのだ。


・・ところで・・こーいう時はやはり誰しも上機嫌になる。


「うーん、やっぱ今日も男前だなぁ、相棒?」


よくこういう独り言言っている人もいるが・・

ロディの顔はフヌケに見えるほど満面の笑みだった


・・時折隣から聞こえてくるあのやかましい音も気にはしていない


そんなロディの元に、メイがやってきた


「ローディーっ!!」

「バカ者!!伸ばして言うなっ!!!」


すかんっ!!


「ふぇぇぇぇぇ~っ!?」


ばしゃっ・・

ロディの投げたのは洗剤と水の入ったバケツ・・

その底面で頭部を強打された挙句、メイは中身を頭からかぶってしまった


「あ~・・う~・・・・」


目に涙を溜めるメイ


「・・ったく、また汲み直さなくちゃならねーじゃんかよ・・」

「痛いよ~・・びしょびしょだよぉ~・・・・あ~ん・・ひどいよぉ~・・」


ロディがハンガーのハシゴを下りる間に、メイはその場にへたりこんでしまった


「俺はこいつをバカにするヤツと、俺の名前を伸ばすヤツがキライだ。」


なぜそんな事でそこまで怒るのか聞きたい。

・・が、ロディはそのままメイを放って水汲みに行ってしまう


彼女は濡れてしまったシャツを引っ張って、半泣きになっている


「・・・・ぐすん」


・・せっかく手伝いしようと思ったのに・・


メイはしばらく嗚咽をこらえていたが、すっ・・と立ち上がると歩き出し、ゼファーと向かい合わせに立っている自分の機体「ドーマ」の足下に座り込んだ

そのつま先部分に上着を脱いで、ぱさ・・と置く


・・乾かすつもりらしい。


「・・バカロディ」


つぶやいてからメイは、ドーマの頭部を見上げた

ゼファーと同じ、ゴーグルのようなセンサーガードが黒く輝いている

地下の人工的な光でも、その輝きはなんとなく格好良く見える・・


メイはロディほどギアに固執してはいないが、ドーマが好きだった。

機体の背中の長距離砲は彼女が直接マーキングを施し、その左腕にはお揃いのリボンを巻いて喜ぶ、といった具合だ


メイは目を潤ませていたが、ドーマを見てちょっとだけ笑みをこぼす


・・ボクだっていつか・・・


彼女は少し前から抱いている願望を思い出していた


・・ロディに 「しかえし」 してやるんだモン♪・・


メイの笑いは、とても怖いものになっていった


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「へっくしょん・・・」

「大バカ。」


メイは不気味な笑みを浮かべたまま眠ってしまっていた。

起こされたのは、シュウが研究室から出てきた頃

・・セラがシュウを呼びに来た時の事だった


地下とはいえ広大な空間が広がっているのだから、時折結構な風が吹くのだ

びしょびしょに濡れていたメイが風邪を引くのは当たり前だろう


「・・う~・・そんなに何度も言わなくてもいいじゃない~・・」


む~・・と頬をふくらませ、むくれるメイ

・・しかし、またくしゃみをして、その顔は一瞬にして崩れる


「・・起こしてくれたってよかったじゃん・・」

「面倒だからやんなかっただけだ。」


メイはまた不機嫌そうに、今度はぷい、とあっちの方を向いてしまった


「お兄ちゃん、お姉ちゃんが風邪こじらせたら責任とってよ?」

「え?な、なんで俺が!?」

「・・お兄ちゃんがそーゆー「程度の低い事」するから、お姉ちゃんが風邪引いちゃったんだよ?」


セラはジト目でロディに詰め寄る

ロディは苦笑いを浮かべながら後ずさる


「わ・・わかった・・次から気をつける」

「・・ロディってセラの言うことは聞くんだね」


ロディがセラからメイに視線を移すと・・メイもまた、ジト目でロディを睨んでいた


「・・はいはい、気ィつけるよ」


そう言うとロディは事務所を出て行った

少し間があって、ドアの閉まる音・・自室に戻ったのだろう。


「・・お兄ちゃん、どうしてメイお姉ちゃんにはあーいう態度なんだろう?」

「もしかして・・ボクがホントの妹じゃないから?」


メイの思わぬ発言にセラと、ロディと入れ替わりに入ってきたネスはぎょっとする

しかし・・ネスはにっこりと笑いながらそれをなだめる


「まさかぁ、マスターはいつも照れ隠しであーいう反応してるんですよ」

「・・照れてる・・??」

「まだ何となくメイ様の事に「慣れてない」だけなんですよ、あの人は・・」


メイはそれを聞いて・・


「・・・よくわかんない、慣れるとか慣れないとかそーゆーもんなの?」

「なんですよ。」

「そだね」


ネスが説明するより早く、メイは自己完結して笑っていた


「・・ま、まぁ・・解決したんならそれでいいんですが・・・」


ネスはようやく収拾がついた・・とほっとした。

現在に至るまで複雑な事情のある三人兄妹だが、やはり社員である以前に家族の関係


・・・・だから、いつも「仲良くケンカ」している。


「とっと・・次のお仕事がもう来ていたんでしたっけ」


ネスは事務所に入った理由を思い出して、急いでディスプレイと自分の回線をつなぐ

画面の電源が入り、メール受信が始まって・・

メールの内容が表示される


「ふむ・・・「月の新しい遺跡の調査」と「海賊船退治」・・」

「どっちも疲れそう・・・」


あからさまにイヤな顔をするメイだが、ネスは冷静に判断する


「・・月の遺跡なんて、危ない予感がしますね・・」

「ネスちゃん、やっぱり海賊さん退治?」


セラがネスに聞くと、ネスは無言でこくり、と頷いた

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そのころ・・・

シードは一人、サイフ片手にパンを買いに行っていた


「おばはーん、カレーパン~」


シードはいくらかのパンをバケットにいれてレジに置いた

夕暮れ時で店が混み始める段階、しかし・・なぜか店主の「おばちゃん」の姿がない


・・ヘンやな、確かこーゆー時はバイトはんがやってくれるハズなんやけど・・・


「はいはーい、少々お待ちくださいませ☆」

「・・なぬ?」


店の奥、のれんのように幕がたれた向こうからは・・若い、少女の声。


「お待たせしました♪」

「げっ!?」


思わず声が漏れるシード

出てきたのはおばちゃんではなく、バイトらしい少女・・

・・だが、その服装が・・


・・こ、ここはいつからコスプレ喫茶になったんや!?・・


ピンクのブラウス、フリルのついたミニスカート、後ろに編んだ三つ編み・・

他にも挙げる点はいくらでもある!!

・・黒髪の少女はにこにこと笑いながら、シードの出したバケットのカレーパンを数える


「どうしたんですか?」

「・・お嬢・・・あんさん・・まさか・・・・・」


シードはどこからともなく取り出した度のキツイ眼鏡を、少女の顔にあててみる

にこにこ笑ったままの少女の顔は・・・シードにとって忘れられない人間の顔だった。


「サ・・サクラはんっっ!?」


・・「さくら」は無言でもう一度、にっこりと笑った


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NEXT-EPISORD・・

第02話「夜空の月の大怪獣」





ロディ「何いきなり戻ってきてんだよ、お前は・・」

サクラ「あらら・・仕事のお手伝いですわぁ。」

ロディ「・・・・おい、お前・・・そんな喋り方だったか?」

サクラ「?・・お喋りが何か・・・?」

シュウ「ロディさん、姉さんは眼鏡外すとこうなるんです。」

ロディ「・・初耳だが・・」

シュウ「とりあえず、次回第02話にご期待ください。」

サクラ「ようやく参加できますわね~♪」






・・第01話・・・終・・・・・

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