第10話-4




俺は誰に言うでもなくつぶやいて事務所の屋上に上がっていた

そう、今日は25日、クリスマスだ


・・朝焼けの海には相変わらず、ゼファイラスとデストロイが佇んでいる

なかなかに壮観な光景だ


「・・そうだっけ」

俺は上着からごそごそと大きな布袋を取り出して皆の所に向かった

連中が起きる前に「クリスマスプレゼント」を配っておかないとな?

(まぁ、中身はターミナルで買ってきたただの菓子詰め合わせなんだがな(笑)


・・しかし俺は屋上を後にする時、残念ながら気が付かなかった

・・ ゼファイラスの姿が、朝日を透過していた事に ・・・

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皆寝ぼけてうやむやの内に宴会は解散になった。

・・社員も通常業務(?)に戻り、シュウとサクラはガンマの腕とネスの修理のため地下室へ直行

シードはデストロイの様子を見に出て行った

・・そして事務所に残っているのは、俺とセラ、メイ、母さんだけになった


「こーいうの「家族水入らず」、って言うんだよね♪」

「で、でもボクは・・」

「今更照れるな、このこのぉ♪」

「ふえぇぇぇぇぇぇ・・(汗)」


セラが微笑みかけ、俺がメイの頭を軽くぐりぐりする

・・フィアさん・・母さんはにっこり笑っていた


「・・よかった、みんな無事に帰ってきてくれて・・」


母さんはほっと胸をなで下ろした

・・昨日は宴会だったし、その前まで寝てたし・・ようやくゆっくりした時間になったためだろうか?


「・・さて、これでようやくユニオンリバー社も解散できるな」

「え゛?」


信じられない、と言った表情の妹×2

母さんはきょとんとしている


「お、お兄ちゃん?・・・今なんて言ったの?」

「ン?・・ 解散 ・・だけど?」

「ふぇぇぇ?それじゃ・・ ボク達会う前みたいにバラバラになっちゃうの!?


目に涙をためて(というかもう大泣きして)詰め寄るメイ

その顔をぐい、と押し戻して俺は前言に追記する


「バカ、誰もそんな事は言ってねぇよ・・ただ、 T.C稼業をやる意味がなくなったっていう話だ

「あ、なんだぁ・・・」

「そういう事だったの・・」


ほっとして、2人は落ち着いた

母さんが入れてくれたお茶を飲んで、2人は母さんと話をして笑って・・・

長い長い間隔を置いて、セラが静かに右手を翻した


ごすっ!! ・・と左から食らった俺の顔が強制的に右方向を向く


「痛ってぇ・・・・」

「な、なに考えてるのお兄ちゃん!?お仕事なかったら私達すぐ干からびちゃうよ!?食べ物もろくにないのにっ!!」

「ふぇ!?ゴハン食べられないの~!?」



・・それぞれに観点の違うツッコミを食らう


「だから、どうしようかなぁ・・ってさ。・・・・俺はT.Cを続けてもいいんだが・・母さんを探す目的が達成された以上はお前達も、あいつらも厄介事に巻き込みたくねぇし・・まして母さんだって・・」

「・・そこまで考えて・・・・優しい子に育ってくれて嬉しいわ、ロディ・・」


ぽろぽろと涙を流す母さん

・・参ったな・・俺、別にこんなクサイセリフが言いたかったワケじゃないんだが・・(汗)


「・・とにかくだ、T.C以外の仕事をしようぜ?・・俺たちはこれからも、みんなで暮らせばいいんだからよ」

「そのためにはまずお金、だね・・」


さっきまでクリスマスだの、宴会だの、家族団らんだの楽しいイベントが続いていただけに、こーいう現実問題がいきなり目の前にあると・・・


「・・思えば俺達、トラブル解決業以外にまともな事してねぇな・・・」


戦闘目的なら俺達は間違いなく天下無双に匹敵するだろう、ある意味では異常集団だ

だが、こと平和な仕事というと該当する物が 「ない」 (汗)


「・・そうだ、セラとメイちゃんはお料理ができるんでしょ?・・レストランなんてどうかしら?」

「素敵なアイデアありがとう、母さん・・・・でも・・」


寒い汗がいくつか流れる・・あの惨劇が頭に浮かぶようだ

セラはともかく、メイの料理なんか客に食わせた日にゃ・・・

最悪の結果しか浮かばない(汗)


「いいんじゃないですか、マスター。」

「ネス!?」

「あたしらも手伝うにょ~ん♪」

「ウェイターくらいなら引き受けますよ」


いつの間にか戻ってきていたネス、サクラ、シュウが賛成意見を述べた

・・後ろではガンマがうんうん、と頷いている


(こいつら、メイの料理がどーいう物なのか知ってて言ってるんだろうな・・・)


「・・わーったよ・・だが・・ここの規模っていうと「喫茶店」が限界だ」

「じゃ、「喫茶ユニオンリバー」って感じかな?」

「・・安いスナックみたいですねェ・・・(汗)」


わいわい、と相談を始めるネス達

・・その時、外にいたシードが思いっきり大声で叫んだ


「大変や~ッ!!えらいこっちゃ!!」

「・・・どうした、シード?」


・・デストロイに踏まれでもしたのかと、事務所の窓から身を乗り出す俺

シードと座り込んだデストロイ、そしてゼファイラスが視界に・・・・


「!?」


デストロイの頭部・・その向こうに見えるハズのゼファイラスが・・消えていく!?

海面の反射とちらほらする雪の中、幽霊のようにゼファイラスの姿は・・・ゆらめいていた


「な・・なんだこりゃっ!?」

「こっちが聞きたいでぇ!」



素早く窓から飛び降りる俺

地面に落着してすぐに駆け出し、一目山に相棒の足下まで辿り着く


「・・・・・相棒・・・・・」


ゆらぁ・・とゆらめいていた透明な影は、ゆっくりとこちらを向いたように見えた

海の方を向いていた機体が、こっちを向いて・・俺を見下ろしている

モノアイではない、デュアルカメラの頭部・・相棒の本来の姿そのもののそれが、俺に訴えかけるようにしていた

・・触れようとした手が、相棒の脚部を透過する

何かを悟った瞬間、その40メートルの機体は、元から何もなかったかのように四散した


「・・・・・・・・」


ゼファー、ユニバリス、ドーマ

メイの力で融合したハズの3機が、あいつが分離してもゼファイラスのままだった理由・・

それはひょっとして、「あいつらの意志」で合体したせいなのだろうか?

ギアにAIは搭載していない、俺の相棒ゼファーですら意志は存在しないハズだ


・・ずっと連れ添ってきた相棒が目の前で消えたというのに、俺は不思議と涙は流さなかった

師匠が死んだ時に似ていると思ったせいだろうか

・・・・ありがとう、相棒・・・・


俺の心に浮かんだ言葉は、月並みだがその一言だった

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「ドーマもユニバリスも消えちゃったの・・?」

「ああ、しょーがないだろ?」

「しょうがないって・・お兄ちゃん・・ ゼファーいなくなっちゃったんだよ!?

「・・・悲しむべきか?・・・・だけどな、目的を達成してT.Cはやめるって決めたんだぜ?お前にとっては喜ぶ事じゃないのか?」

「・・・・うん、お兄ちゃんが無茶しなくなるのはいいんだけどぉ・・・」


セラが言葉に詰まって、もじもじと指を回している

・・もしかして俺が落ち込んでると思ってるのか?


「戦う必要はなくなったんだ、あいつらがいなくても俺達は平和に過ごせばいいんだよ」


ぽん、とセラの頭を軽く撫でてやる

・・横目で俺の表情を伺うセラ

俺はにっ・・と笑いかけてやった

ようやくセラも表情を明るくし、微笑みを返してくる


「お母さん探すの、今まで手伝ってくれたんだよね?」

「・・そうなんだろうな」


不思議とそう思える、ゼファーとの日々

・・俺が呼んだとでも言うのだろうか?・・あいつと出逢ったのは確かに俺が母さんとの再会を決意した日だった

・・そして、母さんが見つかって平和になって、あいつは姿を消してしまった

偶然にしたってできすぎてる

母さんを探すために、師匠のように俺に手を貸してくれたんだろうか?

とすると・・「俺が探した」んじゃなくて、「あいつが俺を見つけてくれた」のかもな・・・


・・もう一度・・「ありがとうな、相棒」


俺は喫茶店開業について話し合いながら、もう一度だけその言葉をつぶやいた

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・・・・・同時刻、同事務所・・

要するにロディの目と鼻の先にいた少年は、ロディが感慨深げに話すのを聞いていてうっすらと笑みを浮かべた

・・ゼファーもドーマもユニバリスも、予備パーツがあるのに・・・

シュウは砂糖たっぷりの紅茶を一杯傾けながら、地下室にある「三機のギア」の事は黙っていようと決めた



・・今言ったら暴れるに決まってるから(汗)


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