漫望のなんでもかんでも

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まろ0301

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2005.06.21
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カテゴリ: カテゴリ未分類
『閑吟集』という本がある。1518年に、ある世捨て人が自分の青春時代から流行っていた歌を集録したものだ。室町の末期。いい歌がある。

 今で言えば、『○○××グレイティスト・ヒッツ』みたいなもんか。

 「何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」

 「あまり言葉のかけたさに あれ見さいなう 空行く雲の速さよ」

 「月は山田の上にあり 舟は明石の沖を漕ぐ 冴えよ月 霧には夜船の迷うに」

 こういった歌の中に混じって以下のような歌がある。

 「人買ひ舟は沖を漕ぐ とても売らるる身を ただ静かに漕げよ 船頭殿」


 この歌の注釈には、「『人買ひ舟』は、人買いが買い求めた女・子どもを運ぶ船で、おそらく大津から湖中を突っ切って東国或いは北国へと向う船でもあろう」とある。
 さらに、「中世に多い人買い説話は、謡曲『桜川』『隅田川』・・説教『山椒大夫』など参照」とも書いてある。

 そうだ、先日観た『隅田川』・・、玉三郎の姿がまた浮かんでくる。閑話休題。

 説教『山椒大夫』・・。

 『山椒大夫』といえば、森鴎外の『山椒大夫』だが。


 最初に変だな・・・と思ったのは、『日本文学史序説』(加藤周一 筑摩書房)を読んだ時。以下のような部分がある。

 「苦難を脱した主人公は、話の最後に出世して、嘗て彼を残酷に扱った人物に復讐する。・・厨子王は,相手の肩より下を地に埋めて、その息子に竹鋸(のこぎり)で首をひかせ・・」。(下 44)

 鴎外の本ではこう書いてある。

 「国守(厨子王)は、最初の政(まつりごと)として,丹後一国で人の売り買いを禁じた。そこで山椒大夫もことごとく奴婢を解放して、給料を払うことにした。太夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、この時から農作も工匠(たくみ)の技も前に増して盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。」

 あれま。「一族はいよいよ富み栄えた」・・・。かたやノコギリ引き・・。

 奴隷制度が自由労働に転化して労働の質が高まって・・という事になるとこれは経済学の教科書となる。

 変だなと思ったときに調べればいいのだが、不精の癖は治らない。ずっと放って置いた。

 で、SEAL OF CAINさんのブログで、『山椒大夫』が取り上げられて、「あー、調べてみるべー」となった。


 図書館で本を借りた。

 『さんせう太夫考』岩崎武夫 平凡社選書 副題「中世の説教語り」

 「説教語り」は、放浪芸だ。定住民からは差別されながらも、彼らの祭礼の時期などに現れて語り、彼らを感涙させて生活をたてる・・・という放浪芸だ。

 放浪芸といえば小沢昭一師匠。この方の『私のための芸能野史』(新潮文庫)『日本の放浪芸』(角川文庫)には、節談説教について詳しい説明がある。
 他に「漫才」「女相撲」「トクダシ」といった項目があり、私のようなガクジュツ的探究心に燃える人々の愛読書である・・。


 話がそれた。いつもの事だけど。


 『さんせう太夫考』に、説教『さんせう太夫』の粗筋が紹介されている。

 森鴎外の作品と明確に違うところは・・・といえば、以下の二点。

 1、厨子王を逃した安寿は、「火責め水責めの極刑に会って惨死」する。
 2、山椒大夫は竹のノコギリで首を引き切られる。

 安寿の最後については、鴎外は、「・・小さい藁履(わらぐつ)を一足拾った。それは安寿の履(くつ)であった」としか書いていない。

 で、ここから先は記憶で書くのだが、安寿が責めさいなまれて苦悶の果てに死を遂げる場面は異様な人気があったと何かの本で読んだ事がある。手元の本を繰ってみたが見つからない。どこで読んだのか・・。ただ、これはわかる。絶対にそうだったんだろうなと思う。

 ここまでいって分からない人は、今晩じっくりと考えていただきたい。

 考えてみれば、この二つの場面はセットになっている。姉をこのような残忍な殺し方をした人間との和解はありえない。「目には目、歯には歯」だ。
 竹ののこぎりで首を引ききるという極刑は、戦国時代にもその例を見ることが出来る。 


 さて、そうなると、鴎外はなぜこの「改変」をしたのか・・という事になる。この作品は大正4年(1915年)、鴎外53歳の時の作だ。
 説教『さんせう太夫』を熟知していたはずの鴎外は、なぜこんな事をしたのか・・?

 また調べてみよう・・・。その結果については・・「いつの日かの心だーっ!」 





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Last updated  2005.06.21 18:57:07
コメント(16) | コメントを書く


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Re:『さんせう太夫』と『山椒大夫』(06/21)  
SEAL OF CAIN  さん
へ~。この前澁澤訳のペローを読んで、いろいろビックリしましたが、日本の昔話も元々は残酷なのですね。勉強になります~。

んで、またまたTバックさせていただきますね ! (2005.06.21 19:11:38)

Re:『さんせう太夫』と『山椒大夫』(06/21)  
せしるん  さん
ピンポイントで反応。昔の大河ドラマで川谷拓三だったかしら。竹のこぎり引きの刑にあった記憶が。
すげー残酷!と思ったんですが。江戸時代の取調べとゆーか、拷問のパターンを網羅した本を何でだか読んだ事がありますが、すんごいですよね。
よく考えるな~って。サディストにしか、無理!みたな・・・。 (2005.06.21 19:34:35)

元のお話  
まろ0301  さん
SEAL OF CAINさん
 日本の昔話も元々は残酷なのですね。勉強になります~。

☆『御伽草子』に出てくる「一寸法師」なんか、「えっ!!」ですよ。
 あれがなぜお上品になっていくのか・・。興味深いです。
 その話はまたいずれ。 (2005.06.21 20:43:12)

こういうところを憶えておるとはおぬしも  
まろ0301  さん
せしるんさん
 昔の大河ドラマで川谷拓三だったかしら。竹のこぎり引きの刑にあった記憶が。

☆えらいところを憶えてますね・・・って私も憶えているんですが・・。道行く人に引かせるんですよ。

>すげー残酷!と思ったんですが。江戸時代の取調べとゆーか、拷問のパターンを網羅した本を何でだか読んだ事がありますが、すんごいですよね。
>よく考えるな~って。サディストにしか、無理!みたな・・・。

☆拷問の器具については、西洋も負けてはおりません。本当に人間って奴は・・・と思いますね。
 「想像力」なのでしょうか。 (2005.06.21 20:47:07)

Re:『さんせう太夫』と『山椒大夫』(06/21)  
せしるんさんへ
川谷拓三の竹のこぎり引きの刑、おぼえてますよ。
たしか某大河の「黄金の日々」(主演、当時市川染五郎)でした。あれは痛そうだったってゆ~か、うっかりその場に通りがかった人は、どうしたんだろうって・・

安寿の最期ってそんなに残酷だったんだ。うう、かわいそ~。まさにSMの局地ですね。歌舞伎の「切られ与三郎」みたいなもので、確かにある種の人気は出るでしょうね。
鴎外はそんな説話を文学に昇華させたんですね。

一昨年丹後半島にいったとき、山椒大夫ゆかりの場所があちこちにありました。このお話、けっこう好きだったんだけどな。安寿が助かるバージョンもあったような記憶があります。 (2005.06.21 20:53:04)

ハッピーエンド  
まろ0301  さん
なずなっち8643さん
>せしるんさんへ
>川谷拓三の竹のこぎり引きの刑、おぼえてますよ。
>たしか某大河の「黄金の日々」(主演、当時市川染五郎)でした。あれは痛そうだったってゆ~か、うっかりその場に通りがかった人は、どうしたんだろうって・・

>一昨年丹後半島にいったとき、山椒大夫ゆかりの場所があちこちにありました。このお話、けっこう好きだったんだけどな。安寿が助かるバージョンもあったような記憶があります。
-----
☆「蟻とキリギリス」、原話では蟻はキリギリスを助けません。冷たく追い払います。
 ディズニー版。「キリギリス君、中にお入りよ」。
 シェークスピアの名作『リア王』の、ハッピーエンド版があると読んだ事があります。
 辛さに耐えられない・・ということだったのでしょうか。 (2005.06.21 21:18:16)

なずなっち8643さんへ!  
せしるん さん
ありがとうございます。
そうだー。『黄金の日々』なんて観てましたねぇ。
そう、あれ、通りかかった人が最悪ですよね。
でも引かないとこっちが罰なんでしょう。
最悪ですー。(自分ならどうする?って感じですね。) (2005.06.21 21:35:04)

おぬしも?(笑)  
せしるん さん
まろ0301さん
まろさんもやはり覚えていらっしゃる。相当インパクト強かったって事もありますよね。

えぇ、実は西洋のも並び読んでおります。(笑)絵解説つきの。
もうひえーーーー!!!って感じです。
猟奇殺人とか超えてる感じ・・・ (2005.06.21 21:37:23)

Re:『さんせう太夫』と『山椒大夫』(06/21)  
こんばんは~!

鴎外の「近代的な知性」のなせる業でしょうか?
な~~んて思っちゃいました~。

やはり「歌舞伎に象徴される世界=エログロなんでもありの土着的日本的世界」とは違った世界観を持っていたのでしょうね。
ドイツ留学の影響ですかね? (2005.06.21 22:45:12)

Re:なずなっち8643さんへ!(06/21)  
せしるんさん
>ありがとうございます。
>そうだー。『黄金の日々』なんて観てましたねぇ。
>そう、あれ、通りかかった人が最悪ですよね。
>でも引かないとこっちが罰なんでしょう。
>最悪ですー。(自分ならどうする?って感じですね。)
そうですよ~。だれも引きたいとは思わないと思うけどなあ。石川五右衛門のかまゆでとどっちが・・と思っちゃいます。

まろさんへ
確か、イソップの牛を見たカエルのおなかが割れる話。あれも割れるのと割れないのとあったと思うんですけど。私はすごく小さいときこれを読んで、カエルのおとうさんのおなかが割れたら死んじゃうじゃん。かわいそ~、いたそ~って思ったのでよく覚えてます。
見るに耐えないってことだと思うんだけど、改定してしまうのはいかがなものでしょうか。
ちょっと話は変わりますが、「ちびくろさんぼ」の事件を思い出しました。
(2005.06.21 23:06:46)

あら、やっぱり・・・  
まろ0301  さん
せしるんさん

>えぇ、実は西洋のも並び読んでおります。(笑)絵解説つきの。
>もうひえーーーー!!!って感じです。
>猟奇殺人とか超えてる感じ・・・

☆そんなものを一生懸命になって設計し、製造した人が(職人でしょうが)いたということですね。

 「あ、そこんところ、もう少しトゲを増やしてくれるかな」
 「いや、これでもう十分ですがね」

なんて。 (2005.06.22 00:21:59)

土着の世界からの飛翔  
まろ0301  さん
スピッツのチャーさん
>やはり「歌舞伎に象徴される世界=エログロなんでもありの土着的日本的世界」とは違った世界観を持っていたのでしょうね。
>ドイツ留学の影響ですかね?
-----
☆そこんところは調べてみたいところです。
 土着のどろどろから、「文学」へ。
 鴎外の文学観の中には、「どろどろ」はなかったのでしょうか? (2005.06.22 00:26:58)

『山椒大夫』  
『山椒大夫』って安寿と厨子王?
東映アニメでみたぞ!
違ってたらゴメン。赤ペンで修正してください! (2005.06.22 01:04:17)

Re:『さんせう太夫』と『山椒大夫』(06/21)  
サリィ斉藤  さん
浮世絵にも、すさまじい血まみれの残酷絵というジャンルがあるんですよね。

つい2~3年前、再読したくなって購入した文庫本の鴎外。「山椒大夫」や「高瀬舟」が収載された版だったかと思いますが、解説で、この竹のこぎりのくだりの改変について触れられていたような記憶があるのです。…って、内容が記憶に残っていなければどうしようもないんですが。
しかもその本も、引越しの際に叩き売ってしまったという…情けないですね。
厨子王が母親と再会するラストシーンでは、涙もろい私はうるうるっと来てしまいます。 (2005.06.22 08:15:13)

あったあった  
まろ0301  さん
sun-chan-rakutenさん
>『山椒大夫』って安寿と厨子王?
>東映アニメでみたぞ!
>違ってたらゴメン。赤ペンで修正してください!

☆あったあった、ありました。
 思い出すなぁ。悲しい物語でしたね。 (2005.06.22 16:09:13)

改変の過程  
まろ0301  さん
サリィ斉藤さん
>浮世絵にも、すさまじい血まみれの残酷絵というジャンルがあるんですよね。

☆絵金などもそうですね。なんとも凄まじい作品ばかり。あのような絵を愛好する時代というのはどうなんでしょうか?

>解説で、この竹のこぎりのくだりの改変について触れられていたような記憶があるのです。…って、内容が記憶に残っていなければどうしようもないんですが。

☆手元にあるのは角川文庫とちくま日本文学全集(文庫本)です。
 とにかくこの改変の過程と動機を調べてみたいと思っています。
(2005.06.22 16:17:53)

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