そして二年の歳月が経ち、’`チは高校二年になっていた。
相変わらず痩せない体。
相変わらず引きこもりのままの妹。
この頃にはバレエにもいかなくなっていた。
相変わらず娘に期待する母。
そして最悪な事態が’`チ達家族を襲った。
その引きがねになったのは、母方の祖母の死。
遺産相続の事で母の姉が金の亡者になった。
そして、この時もう一つ・・・。
’`チ達は詐欺に遭っていた。
そして借金を抱える事になる。
原因は父の弟。
ここでは詳しく書かないが、’`チは今でも父の弟が大嫌いだ。
その弟の所為で家族の人生がガラリと変わったと言ってもいいくらい。
’`チ達の生活は変わり果てた。
そして、そんな中、母は病にかかり、入院。
頭ごなしに怒る父と、引きこもって何も話さない妹と’`チ。
三人の苦痛な生活が始まった。
この時の事は、正直、記憶があまりない。
記憶から削除される程、辛かったのだろう。
そんな中で発表会があった。
今回は第一部のパ・ド・ドゥ集と第三部の「コッペリア」だけに出た。
パ・ド・ドゥは「海賊」だった。
今回も他のバレエ団から男性をゲストで呼んだ。
その男性と会う前に色々な噂があった。
とても気難しい人。
性格が悪い。等・・・。
なので、初めて会う日はとっても緊張した。
でも、会ってみたらそうでもなかった。
確かに口調はきつかった気がするが、先生方の言葉よりはマシだ・・・。
順調に練習は進んでいたが、問題が一つ・・・。
それはアダジオと言う、パ・ド・ドゥの
一番最初に二人で踊るところで、リフトがあったのだが、それが上がらない。
重いのもあるが、タイミングがどうしても合わなかった。
そのまま、本番へ行く事になった。
第三部の「コッペリア」は男性と組むところはあったものの、
たいした絡みはなく、自分の練習だけで済んだので、こちらは順調に進んだ。
「コッペリア」は全三幕。
一・二幕は、コッペリアの友達。
三幕は「祈り」と言う役で、ソロだった。
本番当日。
リハーサルで少しだけパ・ド・ドゥの練習ができた。
が、肝心のリフトは上がらず終い。不安を残し本番へ挑む事になった。
開演三十分前。
楽屋にいた私はいてもたってもいられない気分になり、舞台袖へ行った。
するとそこには、私と一緒に踊る男性が練習している途中だった。
私は邪魔にならないように、パ・ド・ドゥのお浚いをしていた。
リフトのタイミングを何度も確かめていた。
すると、その男性が、
「’`チ、一緒に練習しようか?」
と言ってくれた。
そして、暫く練習に付き合ってもらった。
ふと気付くと友達が舞台袖で
何やら不服そうな顔をしてこちらを見ていた。
その友達も私と踊る男性と一緒に踊る。
”’`チとは練習して、私とはしてくれないの。”
と言った顔だった。
そして、’`チ達を睨んだあと、
フイッと顔を逸らし、何処かへ行ってしまった。
これには男性も呆れた様子だった。
とうとう開演。
私の出番は二番目。
これ以上ないと言うくらいに緊張していた。
リフトが上がらなかったらどうしよう・・・。
それだけが頭にあった。
そして音が鳴り始め、
”もう、やるしかない”
そう思って、舞台袖から飛び出した。
まぶしい照明で目の前がくらくらする。
笑顔で緊張を隠しながら踊った。
順調に踊りをこなし、いよいよ問題のリフト・・・。
私も、一緒に踊ってる男性も祈るような気持ちだった。
男性から一度離れ、助走をつけながら男性目掛けて走っていく。
男性と目を合わせタイミングをはかり、ジャンプ。
ここからはスローモーションだった。
ジャンプして、男性が’`チのウエストを持ち、段々と景色が高くなる。
リフトは上がった。
それに気付いたのは、リフトから降りた時だった。
ただ嬉しくて、その後私はずっと笑顔だった。
男性もそれに負けないくらいの笑顔で・・・。
無事にアダジオを踊り通した。
レベランスの前の暗転で男性が大はしゃぎしていたのを今でも覚えている。
私にはもう怖いものがなかった。
その後のバリエーションもコーダもただ楽しかった。
そして、普段以上の力を出せたと思う。
第三部の「コッペリア」は、問題なところもなく、楽しく踊れた。
たまにパ・ド・ドゥで踊った男性と演技で絡むところがあって、
その時なんてもう、二人して笑顔でアイコンタクトを取るくらい。
こんなに踊る事が楽しいと思ったのは久し振りだった。
この発表会は私の数少ない、いい思い出の一つだ。
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