2-58 思わぬ誤算



有芯は朝子の手を引っ張りながら走っていく。朝子は胸が苦しくなったが、それは決して急な運動のせいではなかった。

有芯は走りながら朝子を振り返ると言った。「このまま逃げていればいずれ捕まっちまう。いいか、あの角を曲がったら、一番近い建物の入り口に飛び込むぞ! そうすれば入るところも見られないし、撒けるはずだ。何の建物でもいい、何も考えずにとにかく入るんだ!」

「わかった!」

角を曲がると、手はずどおり手近の建物に入った二人は息をひそめ、物陰に隠れた。

薄暗い建物の中はがらんとしていて、奥に続く長く黄色のコンクリート廊下が冷たい印象だ。

朝子は壁にもたれた瞬間めまいを感じ、座り込んだ。フラフラする・・・眠い。

気付くと、有芯が心配そうに顔を覗き込んでいた。彼はやりきれない表情で朝子を見つめている。どうやら自分でしたことに、自分でショックを受けているようだった。

「先輩、ごめん。俺・・・ああするのが一番安全だと思って。でも、こんな・・・」

そう言うと、有芯は朝子の顔についた土を手と自らの服で何度もそっと払った。

「いいよ、このくらい。・・・こっちこそごめんね。私が足、引っ張っちゃって」

「いや、俺の不注意で先輩をこんな目に・・・」

ふと気付くと、2人の顔は今にも唇がぶつかりそうなほど接近していた。有芯は動揺し、慌てて朝子の頬に触れた手を下げた。朝子は立ち上がるとぎこちなく視線を泳がせる。そのとき、彼女はあることに気がついた。

「・・・あ」

カップルらしい男女が車で入ってきた。やっぱりそうだ、そんな・・・どうしよう。朝子は目の前が回るのを感じ、再び座り込んだ。

「どうした?」

「ここってさぁ・・・」

「・・・あ」

有芯も気がついた。・・・有り得ねぇ・・・!! 何でこんなことに・・・?!

2人は同時に、心の中で叫んだ。

ラブホテルじゃん、ここ!!




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