once 45 惹かれ合う宿命



有芯は遠くに見える朝子と宏信の方をちらちら見やった。

「心配ですか?」芳乃がにこにこしながら、そんな有芯を見ている。

「そうじゃないよ。・・・あいつ、君の彼氏だろ。心配なんかしてないって」

「じゃあ嫉妬だ?」

有芯は苦笑いでごまかした。彼氏と同じこと言ってやがる・・・!

「君は・・・? 宏信と朝子が一緒にいて、何とも思わないの?」

「思いませんよぉ。絶対的に信じていますから!」芳乃の口ぶりから、それが嘘でも強がりでもなく、本心であることがうかがえた。

羨ましい話だな・・・。有芯は深いため息をついた。朝子が他の男の妻だという時点で、俺はすでに嫉妬に狂いそうなのに、そのうえ宏信と一緒に、何を話してるんだ、朝子・・・。

ふと見ると、朝子と宏信の顔がかなり近づいていて、有芯は心臓が止まるかと思った。彼は一目散に走り出した。

「なーにしてるんだ、朝子?!」

「有芯? 何、怒ってるの?」

「何してたんだよ!!」

「何って、おまじない」

「おまじないぃぃ?! お前ひとの彼氏に何やってるんだ?!」

宏信は大笑いした。「ごめん、僕が珍しく弱音はいちゃったものだから、心配されたみたいで。でも、おかげで勇気をもらったよ」

俺の大事な女に勇気をもらわなくても、自分の彼女にしてもらえばいいじゃないか。有芯は宏信を軽く睨んだ。そんな有芯の様子を見て、朝子は拗ねた顔をしている。

「あんたこそ何よ? 何で私のおまじないを、有芯にとやかく言われなきゃならないの?」

そう言うと、朝子は芳乃の方へ行ってしまった。有芯は言葉を失った。くっそ、ドンカン女・・・!

知らずに唇を噛んでいる有芯に、宏信が声を掛けた。「・・・ねぇ、雨宮君」

「有芯でいいよ。どうした?」

「有芯も、朝子さんが好きなんだね」

「俺も・・・って、まさかお前も?!」

「違うよ、僕じゃない。君たち、両想いなんだなーと思って。」

会話の流れに不自然さを感じて、有芯は聞いた。「それって・・・気付いてたのか? 俺たちが夫婦じゃないって」

「そりゃあね」

「いつから・・・」

「ついさっきだよ。だいたい最初から言葉濁してたし、君たちはこんなに仲がいいのに、朝子さんも君も指輪をしていない。朝子さんはピアスしてるから、金属アレルギーでもない。君たちが夫婦でないとすると、朝子さんの苗字が変わったのは、彼女が別の誰かと結婚してるってこと」

「・・・さすが警官の息子。脱帽だ。俺たちを軽蔑する?」

「まさか」宏信は笑った。「いちいちその人の境遇まで考えてから恋に落ちるなんて、ありえないでしょ? そういうのは宿命だよ。惹かれ合うべくして、惹かれ合う」

「・・・そうだな」有芯は笑った。俺も・・・気付いた時は、もう一度朝子に恋をしていた。

有芯はふと思い出して、あのかび臭い本屋が書いた地図を宏信に渡した。

「この店だけど、お前の親父さんに調べてもらえないかな?」

「何? 市内じゃない、ここ」

「そう。ヤバイやつらの溜まり場みたいだから」

「わかった。お安い御用だよ」

宏信は地図をポケットにしまった。

「宏信・・・俺さ・・・」

「ん?」

「俺が・・・人妻の朝子を抱いたら、軽蔑するか?」

宏信はあっさりと言い放った。「しない。理由は、さっきと同じ」

有芯は顔を歪めて笑った。「俺、お前好きだわ」

宏信も笑った。「悪いけどそっちの趣味はないよ」

二人は長い間、一緒に笑っていた。




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