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(続きで、)
まず、現在の経済における根本的な問題である世界的な総需要の不足と、ここに至るまでの過程について、振り返ることにしましょう。
(1) 20年にわたるグローバリゼーションの加速は、大半の先進諸国の労働者と市民の実質所得を徐々に蝕んだことから、各国政府は消費支出を継続させ、いわゆる「総需要」ギャップを埋めるために、レバレッジと資産価格の上昇を後押しすることを余儀なくされてきました。
民間部門が過大な債務を抱える中、資産価格バブルが発生したことで(例:サブプライム・住宅バブルや、ITバブル・ナスダック5000ドルなど)、レバレッジと規制緩和、減税を信奉する米国型の資本主義はきわめて厳しい状況に立たされることになりました。
消費を続ける意思はあったものの、その裏付けとなる資金が続かなくなったのです。債券市場を始めとする自警団は、買い物中毒の若者達からクレジットカードを取り上げる親と同じ行動に出ました。
(2) クレジットカード利用の落ち込みは深刻な景気後退をもたらし、民間部門のレバレッジ削減や、政府の規制強化、緩やかなグローバリゼーションにつながりました。
これは20年以上にわたる貿易政策と自由市場正統主義に対する反動と言えます。この落ち込みから脱却し、大恐慌の再現を回避するため、政府はアダム・スミスの言う「見えざる手」に代わって、介入を進めてきました。
短期金利は0%に向かい、各国中央銀行の金融政策には「量的緩和」というラベルを貼った新たな政策措置が組み込まれました。
これは事実上、リーマン・ショック後に失われた巨額の信用を補填するため、巨額のドルが創出されたことに他なりません。
加えて、政府の財政政策と税収の落ち込みとがあいまって、多くの国において対国内総生産(GDP)で見た財政赤字比率が2桁を超えました。これは大恐慌以来、見られなかった事態です。
(3) しばらくの間、すべてがうまい具合に機能し、政府による取り組みが民間部門の財布とクレジットカードに取って代わることができたと思われました。
リスク市場ではPERも、金利スプレッドも、正常な水準に回帰し、GDPもプラス成長を回復しました。そして、雇用が拡大に転じ、またしても夢物語を信じることができるのだと、世界が安堵できる日も時間の問題だと思われました。
資産価格の上昇を基盤とした資本主義が戻ってきたのです。株価の後を追い、住宅価格が上昇に転じ、住宅ローンの借り換えと第2抵当ローンにより、消費者が支出を再開できる日もそう遠くないと思われました。
(4) しかし、ドバイ、アイスランド、アイルランド、そして直近のギリシャで起きた事態は、このモデルに潜在的な欠陥があることを明らかにしました。政府との握手、政府の施策に合わせた戦略は、政府に自らの借金を有効に活用する無限の力があると考えられた2009年には優れた戦略でした。
しかし、政府にそうした力がないとしたらどうでしょうか。
カーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ両教授がその著書『This Time is Different』で指摘したように、現代も過去数世紀の歴史が繰りかえされ、金融危機が国家のデフォルトに繋がるとしたら、どうでしょうか。もしくは、そこまではいかないにせよ、国家や民間市場の債務水準がきわめて高いために、実質GDP成長率が趨勢成長率を下回る低調な経済環境が続くとしたら、どうでしょうか。
簡単に言い換えると、より多くの債務を生み出すことで債務危機から脱却するという手法が通用しないとしたら、どうでしょうか。
さて、今に至る経緯をまとめたところで、既に持ち時間の90秒が過ぎてしまったようです。しかし、皆様には、もう少し私の話に耳を傾けていただければと思います。
私には皆さんのご子息をPIMCOにお迎えすることはできないかもしれませんが、今後予想される事態について、一つ二つ、語ることはできます。
前段の最後に申し上げたことについて、つまり「より多くの債務を生み出すことで債務危機から脱却するという手法は通用するのか?」という点について探っていくことにします。
もちろん、その答えは「時と場合による」です。企業債務とモーゲージ債務を政府債務に入れ替えることは、当初は有効に機能しました。それは国家の信用力が民間よりも優れていると想定されていたためです。
国家は税金を徴収し、貨幣を発行し、必要とあれば資産を差し押さえることもできます。そのため、金融危機後の初期段階には、この入れ替えが治癒効果を発揮し、GDP比での債務比率が低い場合には、その効果はさらに大きくなります。
日本を除く、ほとんどのG7諸国は現在、こうした状況にあります。もっとも、ドイツとフランスのバランスシートは体力の劣る他のユーロ圏加盟国からの悪影響を受けており、米国のバランスシートは、住宅公社やその他のオフバランス債務の悪影響を受けています。
が、しかし、市場は既存の財政赤字の傾向と、財政赤字の削減に大きく進展がないとの予想を基に、将来のインフレの上昇やクレジット・リスクの高まり、あるいはその2つが同時に発生することを見越して、国債発行に対して、より高い金利水準を求めるようになっています。これは「債務危機」からの脱却を図るために作り出される可能性がある「債務」に対する、潜在的な金利の「上限」となります。
信用悪化の恐れは国家のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、すなわちクレジット・デフォルト市場に明確に示されています。
ギリシャの「プロテクション」コストが350~400ベーシスポイントに達したことがメディアの注目集めていますが、日本と英国のプロテクションも100ベーシスポイントに接近しており、米国もその半分に近い水準にあります。
実際、市場はドバイ・ショックとギリシャ問題前の水準と比較して、最高水準のクレジットに対しても、20~30ベーシスポイント高い保険料を要求していることになります。
国債発行において織り込まれる、インフレ部分の拡大も明らかです。米国や英国など、潜在的にリフレの牽引役となる国では、11月下旬のドバイ危機以降、10年債利回りが50ベーシスポイント程度上昇しています。
先ほど指摘したように、この50ベーシスポイントの一部は実際にクレジットに関連している可能性がありますが、市場が要求するクレジット・リスクとインフレ・リスクに対するプロテクションの組み合わせは、ラインハート、ロゴフ両教授がその著書で指摘したように、金融危機の後、国債の供給が急増し、それにより、リスクと実質利回りが大幅に上昇する可能性があることを物語るものです。
債務危機を「債務の増発」によって乗り切ろうとする政府の能力を投資家が疑問視し始めたこの数ヵ月間、注目すべき点として、債券市場の利回りの上昇がほぼ米国や英国などの国債に、しかもその長期セクターに限定されてきたことがあります。
メディアでも、PIMCOでも、高格付企業が自国の国債よりも低い利回りで安定的に取引されることが可能かどうか、議論が戦わされています。
私はその可能性を疑問視しているのですが、11月下旬以降のスプレッドの縮小は、興味深い命題を投げかけるものです。
すなわち、ドバイやギリシャで実証され、今後も予想される政府の救済や保証、そして、過去1年半の間に世界各国が銀行や大企業に対して行ってきた救済と保証は、債券市場がより均質性的な、「単一クレジット」型になることを示しています。
米国やドイツ、英国、日本といった中核的国家によって「吸収」されるクレジット・リスクが増えると、それに伴って、こうした国のクレジット・スプレッドと利回りは自らが保証する市場に近づいていくと考えられます。
言い換えると、王様が服を脱いでしまえば、臣下との見分けがつきにくくなるということです。王様とその家来達は一つの城を共有し始めることになります。
この比喩は債務危機がより多くの債務を発行することで治癒できるかどうかという、きわめて重要な問題に対する本当の回答を示していません。
当初の債務の水準と、民間経済が再度活気づくかどうかによって決まるという答えに変わりはありません。
しかし、この比喩はもし世界の政策当局が救済を成功させることができた場合に予想される国債利回りの方向性を指し示しています。国債の利回りと他の高格付資産とのスプレッドは縮小することになります。つまり、国債利回りが、クレジットに近くなるということです。
ギリシャやスペイン、ポルトガルを始め、多くの国の例が実証する通り、国債がクレジットに近くなるとすると、その利回りは本来、国債よりも下位に位置するはずの社債や政府機関債に近づくことになります。
言うまでもなく、このプロセスは2つの方法で実現される可能性があります。すなわち、国債以外の高格付債の利回り水準が低下するか、国債利回りが上昇するかです。
その答えは、将来のインフレ、量的緩和政策がもたらす影響、そして今後の民間経済の強さにかかってきます。
しかし、これまでに実施された救済と今後実施される救済による国家の信用力の低下は、必要な規律を示すことができなかった国に広く共通して見られる悪材料です。
唯一、このプロセスが逆転する可能性があるのは、世界経済の足取りが重く、再び1年前の景気後退の深みにはまってしまう場合であり、そうなると、米英の国債などが再び脚光を浴びることになります。
投資家はファンダメンタルズから見て、クレジット・リスクやインフレ・リスクが低いことが確実な国を重視すべきことは明らかです。
PIMCOがその最上位に位置づけているのがドイツとカナダであり、ギリシャとそれに近いユーロ圏諸国、および英国が下位に位置することは明らかです。
PIMCOが定義した「炎の輪」(Investment Outlook 2010年2月号を参照)は、カクテル・パーティーの無駄話とは対照的に、引き続き燃え盛っており、状況が切迫しつつあるソブリン・クレジットは信頼感の維持、もしくは回復が必要とされています。
つい先週、イングランド銀行のキング総裁は、政府支出を短期間に削減することは困難だが、削減に向けた明確な計画を作り上げることが必要だと述べています。しかし、それだけでは十分ではありません。臆することなく、投資家に資金を見せつけることが重要であり、決して、その逆ではありません。
投資家のモットーは「いかなる政府も信用せず、投資する前には検証せよ」であるはずです。
ソブリン・クレジットを1つ1つ注意深く選別することはカクテル・パーティーの他愛ない会話以上のものになりつつあります。
世界的な総需要の不足と、そのギャップを埋める政策当局の能力不足の可能性は、体力の低下した国家にとって、生死を分かつ問題となりつつあり、世界のクレジット市場と資産市場に重大な影響を与える可能性があるのです。
ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
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