四方山話に夜が更ける

四方山話に夜が更ける

June 30, 2008
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カテゴリ: 恋愛小説

  私があのニュースを聞いたのは、タイに向けて出発する前日のことだった。

  2004年12月26日、東南アジア沿岸沖地震、時間午前7時58分(日本時間午前

 9時58分)にインドネシア西部、東南アジア沿岸のインド洋で発生したマグニチュード


 「琉夏。テレビ見た」

 「え、なに。見てないけど・・・」

 「落ち着いて聞いてよ。東南アジア沿岸ですごく大きい地震があった。プーケットも

 大変な被害。ものすごくたくさんの死傷者がでてる・・・」

 私は電話機を握りしめたまま、テレビのリモコンに飛びついて電源を入れた。 

  果歩の言うとおり、テレビではアナウンサーがくり返し地震のことを伝えている。私は

 テレビの中で起こっていることを信じることができなかった。翌日私が旅立つはずの、

 そして蓮が待っているはずの異国の町は、大変な被害で町中がめちゃくちゃだった。 

  その映像のどこかに蓮がいるのではないか。そんな風に考えて画面を食い入るように

 みつめていた。

 「もしもし、琉夏」

 「おねえちゃん、蓮は? 蓮のいるところは大丈夫なの?」

 「それが。ツアーの客は団体行動してるから、案外早く確認が取れそうなんだけど、

 あんたたちは、個人でエアチケットとホテル予約してるから」

 「だから、なに? 蓮はどうなってるのか教えてよ」

 「琉夏・・・」

 「どうしよう。おねえちゃん、どうしよう・・・」

  私と蓮が宿として選んだのは、高級ホテルの並ぶプーケットから車で一時間ほど

 行った場所にあるカオラック地区で、ビーチの目の前にあるホテルだった。3階建ての

 小さなホテルは全室がオーシャンビューというのが売りだった。

  たぶん、カオラックの繁華街の市場には色とりどりの熱帯の果実が並べられていた。

 そして窓も扉も壁に囲まれることもない開放的なレストランには海風がいっぱい通り

 抜け、そのどこにも活気に満ちた笑顔がたくさんあるに違いなかった。蓮と私が楽しみ

 にしていた太陽の国の光景は、私たちのカメラに、そして心に消えることなく刻み

 込まれるはずだった。

  それから、テレビでは連日、地震のニュースがテレビで映し出された。怖しい地震の

 ことを不安げな様子で語る現地の住民、静かな海岸に押し寄せる津波に飲み込まれて

 いく人の映像。ツアー客、現地駐在員の安否情報が繰り返されたが、団体ツアーに登録

 していない蓮の名前がそのリストに載ることはない。

  私は何度も大使館に電話して蓮の安否を訊ねた。けれど返ってくる言葉はいつも

 同じで、「身内の方以外にはなにもお話できません」という返事が繰り返されるばかり

 だった。果歩にも、蓮の安否を確認するメールを何度も送ったが、返事はなかなか

 返ってくることはなかった。果歩も自社のツアーで東南アジアに行った客の安否の確認

 と、その家族への対応に追われていたに違いない。

   私が蓮と泊まるはずだったカオラック地区は、この地震でタイ国最大の被害を受け、

 諸外国からの観光客に関する数だけでも七百人を超す死者がでたと報道された。

 テレビに映し出される映像には、蓮とふたりでインターネットや旅行雑誌で調べたカオラックの

 風景はどこにもない。土台だけが残され、跡形もなくなったビーチハウス。海岸から

 一キロも離れた場所に流された大きな船。かろうじて残っている三階建てのホテルは、

 津波で突き破られたのか、海岸側からむこうに向かって壁に大きな穴が開いていて、

 その部屋の中には何も残されていない。海岸沿いに積み重なる木片は、いまやその

 元の形が何であったのかは想像することもできない。私はくり返し放送される被災地の

 映像の中に蓮の姿を探して目を走らせ、テレビの前で一日の大半を過ごした。

  私から時間の概念がなくなってどれくらいたっただろう。昼となく夜となく、東南アジア

 沿岸沖地震のニュースを報道するチャンネルを探すことをくり返す。食欲もなく、疲れる

 と毛布に包まって眠り、また目を覚ましてテレビのリモコンを手にとってチャンネルを探した。

                                                  つづく






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Last updated  June 30, 2008 12:14:51 PM
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