相川彰一の Keep Walking ~歩き続けよう~

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本: 愛する人を失ったとき



 重松 清さんの『 その日のまえに 』のご紹介です。 1つ前の「本: 恋愛小説」で紹介させて頂いている、『 アジアンタムブルー 』と同様、愛する人が病に倒れてしまう話です。

 全部で7章のオムニバスな進行になっています。 1つ1つの短編を読んでいき、第6章の「その日」に入ると、突然、それまでの点と点が線につながり始めます。 そして、最終章の「その日のあとで」で感動がクライマックスを迎えます。

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「先月までは、胸の底にいつも重いものがあった。 和美のことをとりたてて思い出すわけではなくても、なにをしていても決して夢中になれなかった。 悲しさや寂しさといった感情になって外に出ることがない重石が、ずっと居座っていた。

 僕が生きる時間はすべて、その重石に触れてしまう。 時の流れ方が、いちいち淀んでしまう。 ずん、と沈み込んでしまうこともあるし、流れからはぐれた木の葉が同じところを回り続けるように、出口のない後悔にさいなやまれることもあった。

 いまでも、重石はある。 なくなったわけではない。けれど、集中して仕事をしていると、胸にひっかかるものが消える。 仕事が一息ついて初めて、ああ、ここにまだ重石があるんだ、と気づく。 そのときの失望とも安堵ともつかない思いは、和美が亡くなるまで味わったことがないものだった。

 やがて、僕は重石に触れずに時間を流すコツを覚えるだろう。 重石そのものも小さくなり、軽くなっていくはずだし、和美の面影も、思い出さなければよみがえらなくなるかもしれない。 そのとき、僕は、和美の死からようやく立ち直ったんだと喜ぶだろうか。 それとも、和美を忘れてしまった自分を責めたてるだろうか。」 


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 哀しみを乗り越えていこうとする強さ、それでも完全に忘れることができない人間としての弱さをストレートに表現した主人公のセリフだと思いました。

 昨日までの暮らしが、明日からも続くはずだったと思った毎日の中で、突然知らされた愛するひとの死―。 生と死と、幸せの意味を見つめる物語です。

 幸せの意味を優しく問いかけてくれる1冊です。 いかがでしょうか?

その日のまえに

 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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