恋涙 ~ renrui ~

恋涙 ~ renrui ~

続2




室内には私とそして鷹邪だけが残される形となった。


『鷹邪さん、来てしまいました。』


自分の机に座りパソコンを見詰め仕事をしている様子の鷹邪に話しかけながら近づいていくと鷹邪はゆっくりパソコン画面から私へと視線を移した。


『来てしまいましたって、灰斗が帰るのって今日じゃなかったのか?何で、此処に…。』


『それが私の答えです。

鷹邪さんは灰斗を選べと言いました。

ですがそれは私の答えではなく鷹邪さんが出した答えです。

私は私が出した答えで此処に居ます。』


私が居ることに困惑気味の鷹邪を真っ直ぐ見据えた。


『茉奈の答え?それは…』


『私は灰斗が好きでした。

再会して肌を重ねたこともありました。

でもそれが過去に拘ってるだけだと鷹邪さんと出逢って気付きました。

私は鷹邪さんの傍に居たい』


正直な気持ちだった。


私は椅子から立ち私を見詰める鷹邪との距離を縮めるように近づき鷹邪の右手に自分の右手を重ねた。


『敵わねえな…本当に。

せっかく男らしく身を引こうとしてたのにな。』


私が重ねた右手をぎゅっと握り返し鷹邪は微笑みを浮かべた。


『そんなの鷹邪さんらしくない気がします。』


次がれた鷹邪の言葉にクスクスと笑っていると握られた手を引っ張られ身体ごと捕まえられた。


『笑うな。…大好きだ、傍にいろ…ずっと。』


『はい。ですが…』


鷹邪の背中に両手を回し頷きながら私は両手を解き鷹邪を見上げるように身体を少し離す。


『二年、いいえ、一年…私に時間をください。

鷹邪さんが目指そうとする高みに隣に立てるぐらいに追い付きます。

護られたり、後ろを歩きたい訳じゃなくて私は、鷹邪さんの隣を歩いて行きたいのです』


『本当に全く、しょうがねえな。

なら俺も二年、いや一年で上り詰めてやる。

その時はちゃんと隣に居てもらうぜ?茉奈。』


私の言葉に意図を読み取った鷹邪は小さく息を吐き、私の頭を離した右手で撫でた。


『ありがとうございます、鷹邪さん』


『惚れた弱味かな、だが、この唇だけは拒ませないけど?』


触れる手が優しくて好きと囁いているようで私の表情から笑顔が消えることは無かった。


私の髪を撫でていた右手が目の前に滑り落ち、細く長い指先が私の唇をなぞるのも束の間、私は何度目かのキスをした。


好き以上の気持ちを伝えるキスを交わした。


それから私と鷹邪は一年経つまで逢わないことを約束した。


寂しくは無かった。


悲しくは無かった。


別れではないから。


「一年逢わないとあの男、浮気してたりして」


『信じてますから、私は鷹邪さんを』


そうからかう瑠兎を他所に私は鷹邪と交わした約束を形にする為に仕事をしながら一年後の再会を心待ちにしていた。


「いいんですか?あんな約束、茉奈さんとして」


『ん、あっ?まぁ、ああいうところが茉奈だし、そういう茉奈が好きだからな。

俺はそれまでに頭の固い役員どもを納得させるだけだ。』


書類を見ながら次の構想を練っているとお茶を持ってきた永遠の言葉にのろけともとれるような返事を返した。


永遠は嬉しそうに゛ごちそうさま”と言うだけ言うと俺に反論の余地を与えず部屋を出て行った。


目指す高みは違えど見つめる先が同じなら問題ない。


茉奈をもう一度、この腕に抱く日まで俺は迷わず自分を貫くだけ。


自席を離れ窓際に立つと俺はどこまでも蒼い空を見上げ茉奈を思い出しながら微笑んだ。


そして月日は流れた。


─ 一年後 ─


軽く1500人は入るであろう大ホールの中央に組まれたステージ上ではモデル達が華美な衣装に身を包みそれを彩るかのようなデザインのジュエリーを見せるように訪れた人々の瞳を楽しませていた。


「まさか本当に1年でここまでやり遂げるなんて恋の力は偉大ね」


ステージを見ながら嬉しそうに微笑む瑠兎の姿が会場にはあった。


ステージ裏ではモデルの間をを縫うように動きながら入れ替わる衣装に合わせて自分が生み出したアクセサリーをモデルに付けていく茉奈の姿があった。


茉奈はこの1年、仕事としてではなくデザイナーとしての勉強も始め更にそのデザイナーとしての自分のスキルを向上させた。


その結果、茉奈は有名ファションデザイナーとのコラボファションショーまで手掛けるまでに成長し、茉奈が手掛けるデザインは業界でも注目を浴び、まさに名実共に皆が認めるジュエリーデザイナーへと飛躍した。


banner10b.gif

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: