恋涙 ~ renrui ~

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続3




『そうか…。』


その会場となるホテルの前に黒塗りのリムジンが停まり、傍らに居る秘書に起こされた若い男は双眼を開き欠伸をし運転手の手によって開かれた扉から降り立つ。


「長かったですね」


『ああ、行こう』


降りたった男の傍に秘書は立つと男の顔を覗きながら微笑む。


男は待ちきれないとばかりに足早に会場へと入っていく。


この男こそ、この1年、独自のスタイルと奇抜な発想で前任者の何倍にも会社の業績を伸ばし文句のつけようのない結果を残し社長の座についた鷹邪であった。


プログラムが全て終わり、このショーの仕掛け人であるファションデザイナーと茉奈がステージ中央へと姿を現す。


会場にいる皆を始め、スタッフやモデルは労いと称賛の拍手を二人に向けた。


私は何度も何度も会場にいる人々に頭を下げあげた。


すると隣に立つファションデザイナーにインタビューを終えた司会者が今度は私にマイクを向け、一瞬、おののいてしまった。


「今回のこのショー、お疲れ様でした」


『ありがとうございます』


「実に見事なショーで僕も魅いられました。


このショーでのアクセサリーのコンセプトは確か大切な人へ贈るとお伺いしたのですが、観月さん自身、贈りたい方はいらしゃいますか?」


『このショーの成功は私だけでなくスタッフさんやモデルさんそして、私に声をかけてくださった、竜崎先生のおかげです。


ええ、今回は特別な日に大切な人に贈りたいアクセサリーというイメージで仕上げました。


私は…そうですね、居ます』


私はマイクを向ける司会者の質問に一つ一つ答えながら、隣に立つファションデザイナーの竜崎に頭をまた下げあげる。


大体予想していた司会者の最後の質問に私は自分の胸に手を置き微笑みながら頷いた。


「では、ズバリその人に一言どうぞ?」


『えっ………と、はい。………大好きです』


『そういう言葉はちゃんと本人目の前に言わなきゃだぜ?茉奈』


司会者の唐突な言葉に促されながら鷹邪に向かって口にした言葉に応える声が会場内に響き、会場に居た、誰もが声の主を探した。


『鷹邪…さん』


それは1年ぶりに見る鷹邪の姿であった。


鷹邪は会場入り口近くからゆっくりステージに近づくと右手をステージの端にかけその身を軽々とステージにあげた。


『そういうのは俺の目を見て俺だけに言え。』


『は…い、それで何故?此処に』


忙しいだろうと思い、私は鷹邪にはショーが終わってから逢いにいくつもりで、この事は告げていない。


鷹邪の言葉に謝りながらも、何故、此処にいるのかが不思議でしょうがなかった。


『お前の親友から招待された、見てやれって』


『瑠兎が?』


私は会場内にいる瑠兎を探して鷹邪越しに会場を見回すと壁際に凭れる瑠兎が小さく手を振るのが見えた。


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