恋涙 ~ renrui ~

恋涙 ~ renrui ~

前世の追憶壱拾六


自分でも分らなかった、気がついたら雪のマンション前にいた
私は上がる息を整え雪の部屋がある階へと向かう

「・・・・雪。」

緑青の手の感触が今でも私の躰に残っていた
そのことが辛くて私はエレベーターの中で一人で泣いた
目的の階についたらしくエレベータは音を立て止まる
私は涙を袖で拭いエレベータを出て雪の部屋のほうに
歩く
すると雪の部屋の扉がタイミングよく開かれ
私は思わず声をかけようと足早に近づく

「ゆっ・・・」

雪の姿が現れたかと思うと続け様に桔梗の姿が瞳に映る
私は目の前で起こるその現実に大きく脈打つ
私の中で色々な想像が広がる
どうしていいか分らず立ち尽くしていると二人が重なった
私は思わず後ずさりすると丁度後ろから来ていた住人にぶつかり
声を上げる

「梓!?」

桔梗から強引に離れるように雪が躰を離し私を見て
近づいてくる

「嫌、来ないで・・・」

私は近所迷惑も顧みず大声をあげ雪を拒絶する
逃げようとする私の手を掴む雪の手を振りほどくように払い

「他の女(ひと)に触れた手で触らないで」

私は言い逃げるように雪のマンションを飛び出る
私は何処へ行けば良いのか分らなかった
気がついたら公園にいた、身勝手な話。私は雪を裏切っている癖に
自己嫌悪に陥り行き場のない思いに胸を痛める

「梓?何してる」

名前を呼ぶ声がし顔を上げると私は思わず抱き付いてしまう
顔を胸に埋めて泣き出してしまった
そんな私の躰をきつく抱きしめ大きな手で頭を撫でる

「・・・夜兎。今夜は傍にいて」

それは月が満ちる晩の出来事。私は辛さから目の前に現れた
夜兎に愛を求めてしまった。

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