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知的障害者に自白誘導




知的障害者に自白誘導 誤認逮捕で慰謝料 宇都宮地裁
2008年02月28日21時46分

 04年に二つの強盗事件で逮捕、起訴された後に真犯人が判明し、無罪が確定した宇都宮市に住む知的障害者が、精神的苦痛を受けたとして国と栃木県に計500万円の慰謝料を求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日、宇都宮地裁であった。福島節男裁判長は「警察官が知的障害者の迎合的である特性を利用し、被害者供述に合致した虚偽の自白調書を作成した」などと認定。ほぼ原告側の主張に沿って、県警と宇都宮地検の捜査の違法性を認め、国と県に計100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 訴えていたのは吉田清さん(56)。吉田さんの逮捕や勾留(こうりゅう)に「十分な合理的根拠があったかどうか」をめぐり、(1)捜査当局が吉田さんの責任能力をどう認識していたか(2)自白の誘導や調書作成に違法性があったかなどが争われた。

 判決で、福島裁判長は吉田さんについて「重度の知的障害があり、質問者に迎合しやすいという特性があった」と指摘。そのうえで「自ら詳細に供述したり指示説明したりするとは考えられず、自白調書などは警察官が大半を一定の方向に誘導して作成された」と県警の取り調べの違法性を認定した。

 また、供述調書に添付された犯行現場を示す見取り図を「吉田さんが定規を使って書いた」とする県警の主張に対し、判決は「警察官の説明方法で作成されたとするには大きな疑問が残る」と述べた。この点について吉田さんは公判で、「警察官に無理やり手を持って書かされた」と証言していた。

 さらに判決は、物証が全くない強盗事件は「自白が最も重要な証拠資料」だったとしたうえで、宇都宮地検の捜査に言及。「自白調書の裏付け捜査を行うべきだったのに行わず、自白調書の信用性を持たせようと、つじつま合わせの調書作成に終始した」と指摘したうえで、起訴自体が違法だったと結論づけた。

 〈冤罪事件の経緯〉 栃木県警宇都宮東署が04年8月、吉田清さんを別の事件で逮捕。その後、ケーキ店とスーパーで起きた二つの強盗事件についても再逮捕した。宇都宮地検は、吉田さんを強盗罪などで起訴。当初、3件の起訴事実を認めた吉田さんは同年末、強盗罪について否認に転じた。その後、強盗事件については別の男が犯行を自供したことで、誤認逮捕が明らかになった。

 宇都宮地裁は05年3月、吉田さんの強盗罪について無罪を言い渡した。これを受けて吉田さん側は同年8月、国と県に損害賠償を求めて同地裁に提訴した。

アサヒコム

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違法捜査認め100万円賠償命令 誤認逮捕訴訟で宇都宮地裁

強盗事件で誤認逮捕・起訴され、公判中に真犯人が現れ無罪となった重度知的障害のある宇都宮市の吉田清さん(56)側が、県(県警)と国(宇都宮地検)に慰謝料500万円の支払いを求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日、宇都宮地裁であり、福島節男裁判長は「警察官は知的能力が低いことを認識していたのに、誘導して虚偽の自白調書を作成した。検察官も虚偽の自白と判断できた可能性が高く、起訴は違法」と、県と国に慰謝料計100万円の支払いを命じた。

原告側弁護団によると、無罪事件の国賠訴訟で検察側の違法性まで認定した例は過去にあまりないという。

 判決で福島裁判長は警察官の違法性について「本件強盗事件で被害者の供述に沿う自白調書などが多数作成されているが、犯人ではなく、知的能力が相当低い原告が供述したり、説明するとは考えられない。自白調書等は警察官の誘導により作成され、取り調べは裁量の範囲を著しく逸脱し違法である」と認定した。

下野新聞

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誤認逮捕国賠訴訟の判決要旨

【裁判所の判断】

 【知的障害に対する認識】

 原告には、重度の知的障害があり、本件強盗事件の捜査当時、文字(自分の名前を除く)を書くこと、計算、過去の出来事を時系列に沿って記憶したり、説明したりすること、抽象的な事柄を理解することなどはできず、平易な言葉で簡単な意思疎通を図ることは可能であるものの、質問者に迎合的で、疲れると質問の意味も分からずうなずいてしまう特性もあった。

 【警察官の取り調べの違法性】

 本件強盗事件は犯行態様について、詳細かつ被害者の供述に沿う自白調書(犯行現場などを示す地図が添付されているものもある)や、原告の指示説明による犯行現場の引き当たり見聞調書などが多数作成されているが、犯人ではなく、知的能力が上記のように相当低い原告が自ら詳細に供述したり、指示説明するとは考えられず、このような自白調書等は、警察官の誘導により作成されたものといえる。

 捜査官による取り調べ方法の選択実施は捜査官の裁量の範囲内に属するものといえるが、捜査官が誘導により虚偽の自白を取得することは、刑訴法の理念からしても厳に戒められるべきであり、取り調べ方法として誘導尋問の方法を選択実施した場合には、被疑者の知的能力などの属性に応じて、その方法、態様が誘導として許容される範囲を逸脱しないよう十分な注意を払わなければならず、これを著しく欠く時には、その取り調べは裁量の範囲を著しく逸脱するものとして、違法とされる場合がある。

 しかるに、警察官は原告の知的能力が相当低いことを認識していたのに、それについての配慮を欠くばかりか、迎合的である特性を利用し、そのほとんどを誘導して、被害者らの供述に合致させた虚偽の自白調書を作成し、また、あたかも原告が自主的に記載したかのような地図を添付し、さらに原告が自主的に犯行現場を案内したかのような引き当たり見分調書を作成したもので、誘導尋問として許容される範囲を著しく超えるばかりか、著しく妥当性を欠く方法を用いたものであり、その取り調べは裁量の範囲を著しく逸脱するものとして違法であるというべきである。

 【検察官の公訴提起の違法性】

 公訴提起時において、検察官が収集した証拠資料および通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、公訴提起は違法性を欠くと解される。

 本件強盗事件1においては、検察官が収集した証拠資料によれば、物証はなく、原告の自白調書を除く証拠関係では、原告が有罪であると認められる嫌疑があるとは言えないため、原告の自白が有罪と認められる嫌疑があるといえるために最も重要な証拠資料となり、原告の自白の信用性の吟味が公訴提起の判断に当たっては必要不可欠のものであった。そして、本件起訴担当検察官は、原告の以前の簡易鑑定の結果などに目を通していたことや、原告の取り調べを通して、原告の知的能力が低いことを認識していたことからすると、原告の自白の信用性や、原告が本件強盗事件1を遂行する能力があるかなどについてさらに捜査を尽くすことは、本件においては通常要求される捜査の範囲内であったといえる。

 例えば、より慎重な方法(何も情報を与えず、本件強盗事件について何をどこまで説明することができるかテストする、地図を書かせてみるなどの方法)で取り調べを行うべきであったし、そのほか、自白内容の裏付け捜査など(原告の知的能力の調査、犯行再現、被害者による面通しなど)を行うべきだったといえる。

 しかるに、本件の起訴担当検察官は、そのような捜査を行わず、原告の自白の信用性を慎重に吟味するための捜査ではなく、原告の自白調書に信用性を持たせようとする捜査(問と答をそのまま記載したものではないが、問答形式の体裁を整えた検察官調書の作成、物証が見つからない理由について、あたかも原告が供述したかのようなつじつま合わせの検察官調書の作成など)に終始した。

 起訴担当検察官が、上記の通常要求される捜査を行っていれば、原告に本件強盗事件を遂行できる能力や警察段階の自白調書のような詳細な供述をする能力がないこと、原告と犯行を結びつけるものがまったく見つからないことが明らかになり、原告の自白の信用性に多大な疑問を持ち、ひいてはその自白が虚偽であるとの判断に至った可能性が高い。

 以上、検察官が収集した証拠資料および通常要求される捜査を遂行すれば、収集し得た証拠資料を総合勘案すると、合理的な判断過程により原告が有罪と認められる嫌疑があるとはいえず、本件強盗事件1についての公訴提起は違法であり、同様に、本件強盗事件2についての公訴提起も違法である。

 よって、被告の国および県は、原告に対し、国賠法1条1項に基づく損害(慰謝料100万円)賠償責任を負う。


下野新聞

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