とある田舎の喫茶店

とある田舎の喫茶店

恋する乙女






風呂上りの身体をベッドへと力なく放った。バスンという音。
そのまま枕に顔をうずめて

「う~~~~~」

うなった。




私は今猛烈に悩んでいる
それはもう自分を見失いそうなほどに。
そのオーラは自分でも気づかないうちに発生させてしまっていたらしく、

母いわく「最近やけに生活リズム崩れてない? 今までは全然なかったのに最近、寝坊多いわよ。まあ遅刻するのはあんただから別にいいけどね」

姉いわく「最近あんたの独り言がうるさくて眠れないの。あれ、やめなさい。悩み事とかあるんだったら相談しなさいよね。ちゃんとアドバイスしてあげるから。10分500円で」

友人いわく「ねえ、なんか最近妙にそわそわしてない? あ、もしかして恋?! 恋ですか!? あはははは!…その恋、実ったりでもしたら絶交ね♪」



私の身の回りにはどうしてこうも心の狭い人しかいないのだろう…
でもまあ一応気にかけてくれているのはうれしい…と考えなければやっていけそうにない。

「はあ…」

寝返りをうつと丸い電灯が視界にはいった。
おでこに片腕をのせそのままうなだれる。
悩みごとがあるなら相談しろ。みんなはそう言う。もっともだと思う。
だけど私の悩みは、私が知る限りの知人の中のだれにも相談できるものではなかった。


その悩み事の内容が「オンラインゲームの中の友達に恋をしてしまった」というものだからだ。

幸か不幸か私の知り合いはみなオンラインゲームというものに興味がなく、顔も知らない相手に恋をしたなんて言ったら笑われるのは目に見えている。
そんな身の回りの環境もあってか、最近は夜中まで悩み事にふけってしまい、独り言はするようになるわ寝坊をするわで今まで何年もかけて固めてきた自分の生活スタイルがもののみごとに崩壊しつつある。
このままではまずいとわかっていてもその解決方法がわからない。
いや、わかっているのだ。


告白するか、やめて割り切ってしまうか。


そのどちらかしか私には選択肢がない。
いや、もっとはっきり言おう。

割り切るなんて器用な真似、私にはできない。
昔からイエスかノーか。グレーゾーンなんてものはただの妥協。
そう考えながら生きてきた。
だから選択肢はおのずとひとつしかなくなる。


告白


正直な話、私がこの二文字について真剣に考える日が来るなんて思わなかった。
それもよりにもよってオンラインゲームの中の顔も名前も知らない人が相手だなんて。
普通オンラインゲームの中で知り合った人と仲良くなるのはよくて親友。オフ会をするとか、写メールでも交換しないかぎり恋をするなんてまずありえない…と以前は思っていた。
なのにこのざまだ。


「ああもう~~~っ、どうすればいいの~?」


言った途端隣の部屋からドンドンと壁を叩く音が響いた。姉の部屋だ
また独り言が聞こえてしまったらしい。

「人の気もしらないくせに…」

小声でつぶやいた。
面と向かって姉に言っていたら「知るか!」と一蹴されただろうなと予想。
そして無駄な予想をしてしまったとちょっとだけ後悔。

「はあ…ほんと…どうしよ」

結局考えてしまうのは相手のこと。

「アイツ鈍感だからなぁ…」

馬鹿で、楽観的で、いつもふざけていて、ときどきキザで、鈍感で。
そんなアイツを好きになったのは…




ごくまれに見せる、冗談が混じっていない本気の言葉とまっすぐな目に惹かれたからだと思う



私は一時期学校で軽いいじめにあっていた。
ゲームを暗い気分でプレイしたくなかったから、アイツに「いつもと違うぞ」と覚られても「なにが?」と平静を装った。でもアイツはこう言ってくれた
「俺にはそんな顔してるお前に気づかないふりをして、前みたいにこのゲームを遊ぶことなんてできない」



ずっと二人で追い求めていたレアアイテムの情報を見つけて、ダンジョンに行ったら結局最深部まで行っても見つからなくて、がっかりしていた私にアイツは「でも俺はお前がいたからけっこうおもしろかったぜ?」と言ってくれた。


そして、 PK に絡まれた時、真顔で「俺が必ず守る」と言ってくれた。








気がつけば私は、アイツのことが好きになっていた。







「ってなに恥ずかしいこと思い出してるんだよ私っ!」

おもわず枕を顔にあててベッドの上でゴロゴロと身体を転がして身悶えた。
そして

「ふぎゃっ」

ドンっと音を立ててベッドから落ちた。
思いのほか腰にくる

「っ……」

痛みにしかめてつむっていた目を開くとそこにはさっきも眺めていた電灯が目に入った。
さきほどと何も変わらない景色。
ここ最近何度も見ている景色だ。

このままずっとこの景色を見ていくことになるのだろうか
毎日のようにアイツのことを考え、でも何も行動できないまま前みたいに“仲間”としてゲームをプレイし、リアルにもどるとまた今のように悩み、寝坊をするのが当たり前になっていく。


ふとそんなことが頭をよぎった。

「そんなの…やだな…」

自然とそんな言葉がもれていた。
身体と一緒に落ちた枕を口元にもってきて顔をうすめて視界をシャットアウトする。
これ以上悪いことを考えないように。



だがそれは5秒もしないうちに打ち切られた。


「夜中にドタドタうっさいんだよあんたはっ!」
「お、おねえちゃん…」

いつのまにかこめかみに青筋を立てた姉が私を見下ろすように仁王立ちしていた。

「あんた毎晩毎晩いい加減にしなさいよ。睡眠妨害されるこっちの身にもなりなさいよねえ!」

だったらささいな音でも聞こえてしまう、この私と姉の部屋を隔てている防音効果ゼロの薄い壁を親になんとかしてもらえばいい、と思うのだがこの姉を前にしてはとても口には出せない。
一応罪悪感はあるため「ごめん」と小さな声で言った。
だが姉の反応は少しばかり予想外だった。
さらに顔をゆがませたのだ。

「あんたね。謝って治るなら1週間前には治っているはずでしょ。私が怒るたびに謝っているんだから。
でも実際はまったく治ってない。この1週間わたしの肌にどれだけのダメージが蓄積されたと思っているのよ。
まだピチピチお肌のあんたにはわからないでしょうけど、私くらいの歳になると寝不足は肌にとっっっても悪いの!」
「はい! おっしゃるとおりですおねえさま!」

言葉の最後のほうにはすでに怒鳴り声と言ってもいいほどの迫力がこめられていた。
私は即答すると同時に、反射的に身体を起こしてその場に正座した。だがフローリングは素足で正座するにはなかなか痛いということを忘れていた。これはかなりやばい。

「はい、じゃあ話してみなさい。いや、話せ」
「はい?」
「はいじゃない! …あんたが夜な夜なひとりで身悶えている原因についてよ」
「わたしはそんな毎晩身悶えてないってば!」
「身悶えてるじゃない。『あ~んもう~』とか『もうやだぁ~』とか」
「・・・」

なんだかこの会話だけを見たら多大なら誤解を招きそうな気がするのは気のせいだろうか。
うん、きっと気のせいだ。でなきゃ私がド変態というレッテルが貼られることになってしまう。
そんなことありえない。あってはならない。断じて。

「なにまた身悶えているのよ気持ち悪い」
「…おねえちゃん私の話聞く気あるの?」
「もちろん。お肌のためだもの」

そこはせめて可愛い妹のためだとか言ってほしかった。
ともあれ

「笑わない?」
「笑えるネタなら大笑いするかもね」

そうだった。この姉に笑わない?なんて聞いた私が馬鹿だった。

「じゃあ話すけど……好きな人ができたの」
「うそっ!? あんたに? 好きな人ができた? あはははは、なにその冗談!」
「いや、笑うとこそこじゃないから」
「なんだ」

ケロッとした姉の顔。
今のは作り笑いか。なんという性悪女。

「なぁんだじゃないってもう…。」
「はいはい、で?」
「…その好きな人ってのが…The worldで知り合った人なの」
「The worldってオンラインゲームの?」

姉に笑わないことをいのりつつおそるおそるうなずいた。
すると

「んで?」
「んでって…一応笑いどこはそこなんだけど…」
「は? どこが?」
「いや、ほら、顔も名前も知らない相手に恋をしたってところが…」
「なに言ってんのあんた。そんなの別に笑うことじゃないじゃない。むしろいい話っぽくてつまんないくらいよ。しかしあんたがそんな恋をするとはねぇ~…心底意外だわ」
「笑わないの?」
「笑うもなにも私の友達、オンラインゲームで知り合った人と結婚してるから」
「うそっ!? あうっ」

驚きのあまり立ち上がろうとしたらフローリングに正座していたため足が痺れてしまっていたらしい。
そのまま足がもつれて顔からベッドにつっこんでしまった。

「なにやってんのよあんた…。しかしま、悩みってのはそういうことか」
「そういうことです」

布団に突っ伏した顔を姉のほうへ向けて言った。

「あんたはそれでどうしたいの? 告りたいの? それとも現状維持のほうがいいの?」
「告白するしか…ない、と思ってる。現状維持なんて私にはできないと思うから…」
「じゃあ明日告白しなさい。はい解決。明日からはうるさくしないでよ~。おやすみ~」
「はやっ!ってかあっさりしすぎでしょっ!」

当然のように去っていこうとする姉の背中につっこみを入れた。
すると

「結局うじうじ悩んだってしょうがないからしたいようにするしかないでしょ。悩み続けるなんてそれこそあんたには似合わないわよ」

そう言って部屋を出て行った。
唖然としてしまった。




が、話が理解できなかったわけではない。
いや、むしろ自分で考えていたよりもよほどわかりやすかった。





「…そう、だよね…悩みっぱなしなんて、私らしくないよね…」





・・・。




しばし考えた後、グッとこぶしをにぎった。

「よしっ、明日アイツに告白しよ!」

思わず大声をだしてしまった。

隣の部屋から抗議はこなかった。








                      ■




件名:大事な話がある!

今日の8時にいつものエリアに来て! 必ず来てよね!




The worldへと ログイン する前に、私は短いメールを送っておいた。『!』をつけたのは重い感じに思わせないため。それと自分へと気合をいれるため。





pm8:15
Δ 美しき 月下の 叙情詩人 



「おそいっ」
「ああ、わるいわるい。今日の部活、いつもよりハードでさ、もうクタクタなんだよ。もう今すぐにでも布団で爆睡したい気分。今だったらの○太くんにも早寝で勝てる気がするぜ。で、それはおいといて、大事な話ってなんだ」

なんてやつだ。大事な話があると事前に言っているにも関わらず眠いだとかの○太くんだとか冗談を言っている。
デリカシーがなさすぎる。でもここでやめるわけにはいかない。もう悩み続けるのはやめるって決めたんだから。

「えっとね、一度しか言わないからよく聞いてね」
「はいよぉ…ふわぁ……ねむいから…手短に頼む、な…」

こ、こいつは…。
でも我慢だ。ここで声を荒げては告白する雰囲気ではなくなってしまう。
…すでにそんな雰囲気じゃない…?
いや、そんなことどうだっていい。考えるな。自分の思いをぶつけろ。

「えっとね…」
「…」
「えっと…わたしね…ずっと前からあんたのことがす…」
「…」
「好きだったの!」

言った。言ってしまった。もう後戻りはできない。
たぶん今の私の顔は真っ赤になっている。
視線は下を向き、目の前にいる相手を見ることができない。見えるのは足元だけ。
でも見なければ。
勇気をふりしぼって視線をじょじょにあげていった。
そして相手と目が合って―――


「って寝てんのかよ!」

見れば、生まれてはじめて告白した相手は立ったまま頭を傾けて見事に寝入っていた。
それはもう気持ちよさそうに。
一気に身体の力がぬけた。
昨日の気合はどこへやら、勇気をふりしぼって自分史上初の告白というものをしたというのに告白している最中に相手が寝てしまったとはだれが予想できただろうか。
がっかりした。それと同時に安心も。
しかしまた同時にこみあげてきたものがある。

「一人の女の子が勇気を振り絞って階段をあがろうと一歩を踏み出したってのいうのに…あんたってやつはぁ~…」

怒りだ。




「こんのバっっカやろおおおおお!」

今まで生まれてきた中ではじめて本気の回し蹴りというものを放った。

「&!$#&$!!!」

攻撃対象は言葉にならない声をあげながら地面を転がった。
大声に目を覚まして視界がグルグル回っていたらそりゃそんな声もあげるだろう。

「もういいよ!」

自分でも驚くほどの大声をだした。
そして地面に突っ伏すデリカシーゼロ男を背にしてメニューからゲートアウトの欄を選択した。
一瞬ののち黄金色のリングが私の周りにあらわれ、マク・アヌへと転送―――



「俺もだよ」



される寸前、私の耳はたしかにその声を聞いた。

「え――?」

私が声をあげたのは、自身の身体がそのエリアから消えた後だった。








Δ水の都 マク・アヌ

転送されてきた私は呆然とたちつくした。
頭の中が混乱している。
今の言葉はなに?どういう意味?


でも私は混乱しながらもちゃんとわかっていた。


なぜなら、回転する カオスゲート に写っていた私の顔が、気持ち悪いほどにニヤけていたから。





~~あとがき~~

けっこう前に書いたものですが……くせえ!

なんて、なんてものを書いたんだ自分は…。
よくもまあこんなものを書いたものだ。
恥を覚悟でアップです。

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