第十章



 少女は迷宮の出口に立っていた。
重厚な黒光りする鉄の扉に白いペンキで出口と殴り書きされている。
怪しいことこの上ない。開けるべきか、別の道を探すか、
迷う時間はあるのか、判断がつかない。
少女は記憶を巡らす。
そう長くは生きていないがそれでも決断の時はいくつもあった。
進路、恋愛、些細な日常の一コマ一コマに彼女自身の決定が求められていた。その全てにおいて彼女は確かに何かしらの対応をしてきた。
ただそれらの全ての決定は今の状況には当てはまらない。
今までどうしても決められないときは常識に頼ってきた。
普通はこうするだろう、という妥当な決断をすればよかった。
しかし今はとても普通の状況ではなく、
長年のパートナーの常識はマヌケな返事しかしてくれない。
九官鳥のほうがまだまともな返事をしそうだ。
「アケチマエ」と甲高い声で言われることが、
たとえ九官鳥にとっては意味のない声だったとしても、
心の助けになるだろう。誰でもいい、なんでもいい、助けが欲しい…。
 どれほどの時間がたっただろうか、
知らないうちに扉の前に座り込んでいた。
自分を助けてくれそうな人の顔が浮かんでは消え、
自分自身で決める自信は深く沈んでいった。
後になって思い返せばただの扉じゃないかと思うかもしれない。
でも、目の前にある扉が言葉では言い表せないような重々しい、
見ているだけで押し潰されそうになるような雰囲気をかもしだして
そうは思えなくさせる。
進むか、退くか、誰か助けてくれないか、
そんな思考の円もやがて縮まり、一つの点となった。
完全なる思考停止、完全な膠着状態、何もできない。
猛獣を前にして身がすくみ、動けなくなる。まさにそのような感覚だ。
進むことも退くこともままならない。
 タダ、ジットシテイル。ウズクマリ、
夢と現の間を彷徨いながらぼやけた意識で何もない床を見つめる。
サラニジカンガススム。
 視界に変化がおきた。光が差し込んできた。
金属が擦れる嫌な音をたてながら扉は開いていく。
隙間から眩むような光が差しこんでくる。
そこには、人影が―――。

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