田舎の母より、


宮城から十八の夏に上京してから四年がたった。
タレントになることを目指し、母の反対を押し切っての出立は
あっさりとしたものだった。
そのため私は、いつまでたってもくすぶったままの三流芸人だ。
心を固めるのに、新幹線は速すぎた。
荷物にひっそりと忍び込んだお守りが、
かえって故郷を自分に引きずらせている。
耐え難い空腹を紛らわすのに、
それまで目に付かないようにダンベルと一緒にしまっておいた
お守りをいじっていると、目に懐かしいものが入っていた。
三人の福沢諭吉様と手紙である。
私はこの時ほど母に感謝したことは無かったが、
諭吉様を広げてみて、これほど母を恐れたことは無かった。
手紙にはこうあった。
「つらくなったら、お父さんの家業を継ぎなさい。」
そのお札には透かしがなかった。
お父さんは、詳しくは知らないがアジアを仕切るマフィアの頭らしい。

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