青い西瓜

青い西瓜

小説・巷説百物語の章


    何をもって損と考えるか…―

餡蜜茶屋の一角で机を挟んで向かい合わせの男2人が会話を嗜む。
「つまり、今は損得で人付き合いを決める時代なんでしょうね?」

法衣を纏った札売りの男が飲んでいたお茶の湯飲みをコトリ…と、音を立てて机
の上に置いた。
「…何が言いたいんですか?又市さん?!」
真向かいに胡座をかいて座る青年が札売りの名前を呼び、不機嫌そうに先程の言
葉の真意を問う。
「深い意味はござんせんよ…そのままの意味で御座いやす」

「それは私とでは得に成らないと言っているみたいに聞こえますが?」

あっさり答える札売り「又市」に青年が自分を否定されたかの様に声を荒げる。

「奴はそうは言ってませんがね…?先生がそう思うならそう取って貰っても構いませんよ?」

「又市さん!そ、そりゃあ私は物書きとしてはまだまだ未熟で何も肩書きも地位も名誉も無い事は判ってます!でも損に成る様な存在なんですか?」

「先生」と呼ばれた青年は名を「百介」と言った。

「…では、毎度毎度百物語の資料だと言っては奴達の旅に付いて来て足を引っ張る行動は一体奴達にとってどんな得があるのか聞かせて貰えやせんかねぇ?」

「ま、又市さん…わ、私はそのぉ…」

先程の強気な言動から一変して声量が段々曇って行く。

「他にも奴達には得に成る様な事は何一つござんせんよ?それとも先生の手助けをして我々に喜びが得になる様にしないといけやせんかね?」

どうやらいつも冷静沈着で余裕のあるこの札売りこと御行は不機嫌だと言う事にいくら鈍い百介にも気が付いた様子で慌ててあんみつのおかわり等を注文する。

「…先生、奴が甘い物を食べていれば機嫌が直る子供じゃござんせんよ…幾ら機嫌を取ろうが取るまいが奴達に付いて来るのはやめて貰います!」

先程から言い合っていた本題らしき言葉を投げ掛けて茶屋の娘が持って来たあんみつを目の前に箸で寒天を器用に掴み平らげる。

「まぁ…どうしても、と言うなら奴達は今宵この町を立つ予定です…」

餡を口の端に付けて咳払いをする。

「ま、又市さん…!それじゃあ…」

逸る気持ちを抑えながら又市の目を見る。

「どうです…?先生…ちょいと奴と賭けをしやせんか?」

「賭け…ですか?」

訝しげに又市の顔を凝視する。

「そう、賭けです、なに、難しい事は無いですよ?ただ奴達がこの町を発つ前に我々を探し出せれば先生の勝ちです」

「もし…探し出せなければ又市さん達の勝ち…と言う事ですね?」

「流石考物の先生、物分かりがいいじゃないか?」

ふと、後ろから声を掛けられ驚いて振返る。

「お、おぎんさん?!」

振返った先には若い艶のある美人がまるで背景と似合っていない派手な着物でそこに居る…と言うよりそこに「存在する」の方が正しいのでは無いかと百介は思った。

「又市が遅いんで捜しに来たのさ…だけど私らに断りもなく面白そうな事を言い出すから驚愕したよ…ねぇ?又市…アンタ確か今日は先生に引導を渡すって張り切って出掛けたじゃないか?」

「別に張り切ってなんかいやせんよ…」

「でも、アタシは確かとこの耳で聞いたよ?…なのにあんみつ一杯で絆されるのかい?」

意地悪くつつく様に空のあんみつ茶碗を指差す。

「一杯とは何ですか!」

突然百介が立ち上がる。

「又市さんには餡掛け草餅と栗饅頭に最中!果ては茶屋を5件も梯子してみたらし串3本に、桜餅が2つです!あんみつは既に3杯目ですよ!」

「…又市?」

息を吐かずに一息で全ての今日の経路を伝えると息を切らして百介が席に着くが、呆気に取られたお銀は静かに向き直り又市の名を呼ぶ。

「…奴も不本意ではありますが、それは事実…素直に認めて先生に最後の機会を設けて差し上げたんでさぁ…」
(続く)


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