「犬太、どうしたんですか?沈んでちゃ、あなたらしくないわ」
「あっ、光さん」
「家族が苦しんでいるのを見るのはつらいでしょうけど、大丈夫よ。
あなたの家族はきっと乗り越えて、また心を1つにするわ」
「ホントかなあ、特にお兄ちゃんなんか、この頃笑わないし、
なんだか母さんともギスギスしてるような気がするんだけど・・」
「大丈夫、お兄ちゃんはいずれ乗り越えるわよ。
でも心の番犬がそんな弱気じゃいけないじゃない。
あなたは向こうの世界の者にはない、力があるのよ。
その力でなんとか家族を元気づけてあげなさい。
えっ?どんな力かって?それはいずれ分かるわ」
ボクにどんな力があるっていうんだろう?
ボクはいつでもみんなの所へ行くことは出来るんだけど、
触ることも、声をかけることも出来ない。
こんな中途半端なボクに、何が出来るって言うんだろう?
「犬太とお散歩」の日記や掲示板にカキコしてくれた、
みんなのメッセージを読んでみる。
『犬太くんが見守ってくれています・・・』
『犬太くんも喜んでいるでしょう・・・』
えっ?どうして分かるの?ボクがいつもそばで見ていて、
喜んだり悲しんだりしていることが・・・。
本当にそのとおりのことが書かれていたので、
ボクはもしかしたら人間にもボクらの世界の者のことが
分かっているのかなと思った。
「犬太、今のあなたの家族が、元のように元気になるためには
何が必要だと思う?」
「う・・・・ん・・、よく分からないけど、
もう一度家族の気持ちを1つに出来るような何か
、たとえば生きていた時のボクのような存在が
必要なんじゃないかなと、思うんです」
「よく気付いてくれました、やっぱり立派な『心の番犬』ね。
ちょっとこっちを見てご覧なさい」
光さんは、初めて会った時にボクの一生を映して見せた
スクリーンを指さした。
そこには、お母さん犬の、そばでくっついて寝ている三頭の子犬がいた。
「犬太、あの一番右側で寝ている赤ちゃん、見覚えない?」
「・・・!?!!えっ?ええっ?
光さん、あれってボクじゃないんですか?」
「あなたも、そう思った?
それじゃ、私が初めて見た時に見間違えたのも無理はないわね」
「じゃ、あの子は」
「そう、あなたじゃないわ。だってあなたは今ここにいるでしょう?
でもね、あの子はあなたと同じ波長をもって生まれた子なの。
つまりあの子もまた、
母さんやみんなを幸せにするために生まれてきたのよ。
でも、愛を分かち合える人と巡り会えるかどうかは分からないの。
逢えるかどうかは、あの子と、家族次第ね」
<続く>