蒼い空、藍い海

蒼い空、藍い海

暴れん坊さんより喜助小説


しかも、再会バージョン、しかもオリキャラ女性を絡めて!という豪華版です。
コレを書くの大変だったろうな~、暴れん坊さん、ありがとうございます~!
18500文字の大作、しっかと味わってお読み下さい。


かくも儚き想い、かくも儚き日々(浦原喜助)

・ ・もうずいぶん昔のことだ。
貴族の間で、歴代でもっとも有名な姫君が居た。

四大貴族に次ぐ家柄、名門の斎ノ宮家。
その一人娘、時子である。

腰までたゆとう絹糸のごとき長き髪。その色は深紅。
意志の強そうなその瞳は、これまた紅玉の如き深紅。
抜けるがごとくに白い肌は、真珠の如き輝きを放ち、その唇は紅をはいたかのような赤さだ。

初めて時子を見た者は、そのあまりの美しさに息を呑み、視線を合わせただけで満足に口も利けぬ状態になったという。

「瀞霊廷の紅姫」、「生ける紅玉」

そう人は呼んでいた。
当然時子は親から、一身に愛情を注がれ、宝石のように大事に育てられてきた。
蝶よ、花よどころか、時子が指先ひとつ傷つけようものなら、傍仕えのものは容赦なく全員が解雇となった。
まるで人形のように美しい時子。

しかし、その美しき顔が笑ったところを誰も見たことがなかった。
表情を映さない時子。

しかしそれでも時子は、あまりにも美しかった。
・・・貴族で年頃の男ならば、誰もが妻に迎えたいと願うほどに。

だが、時子は一切の求婚を受け付けなかった。
にべもなく求婚を跳ね返す時子。
それだけに、その時子を妻に迎える男の価値は上がる。
当然のように、貴族の嫁とり合戦は過熱して行ったのである。

加熱するのはいいが、中には無断で夜中、屋敷に忍び込もうとする輩まで増え、斎ノ宮の当主は警備を強化するため、護廷一三隊を頼った。
総隊長の山本は当初警備に死神を使うことを渋ったが、斎ノ宮が四十六室にまで手を回したことにより、受けざるをえなくった。

そこで、十二番隊に、斎ノ宮邸の周囲の警備をさせることにした。
そこの、警備責任者となったのが当時第五席だった浦原喜助だ。
もともと、不審者を追い返すのが仕事だ。一番仕事をサボリがちだった浦原に、この退屈そうな仕事が回ってきたのである。

「なんだ、斎ノ宮の警護か。お主もヒマじゃのう、喜助。」
呆れたように言うのは、喜助の友、四楓院夜一だ。
「夜一さんは斎ノ宮のお姫さんのことを知ってるんですか?」
「知っておるも何も、儂が男であれば嫁にもろうておっただろう間柄じゃ。」
夜一は四大貴族の当主だ。なるほどその信憑性もうなづける。

「そんなにお綺麗な方なんスか?」
「綺麗か・・・。確かに綺麗じゃ。一度会うたら忘れられぬじゃろうのう。」
「それはそれは。一度お目にかかりたいもんスねえ~~。」
「じゃが・・あれは凍れる炎じゃ。あの姿で生まれたゆえに、外に出ることすら満足に許されぬ。
儂も笑ったところを見たことがない。
生きることに厭いておるのじゃ。・・・少々気の毒な女子じゃのう・・・。」
「なるほどねえ~~。」


警備を任されて、3日目。

斎ノ宮邸の外壁にもたれ、大あくびをする喜助がいた。
不審者も、護廷一三隊が出てくるとあっては引っ込まざるをえないのだろう。
今までで、追い払ったものはいない。正しく退屈な仕事だった。

「ああ~~、今日も退屈っスねえ~~」
喜助が思わず言ったときだ。
ガサリと頭上で音がした。外から進入したものはいないはずだ。
しかし思わず顔を引き締めて上を見上げる。

・・・塀の向こう、塀の直ぐ傍に生えている松の木に、一人の少女が上っていた。
紅い髪に紅い目をした美しい少女だ。
喜助は目を見張った。
思い当たる人物はいる。しかし、その人物がこんなところにいるのはあまりにも不自然だ。
しかし・・・噂には聞いていたが・・・もしかして・・・。
「・・・もしかして・・・あなたが時子さんっスか・・?」

聞かれた少女は、こう言った。
「妾を知っているならば、話が早い。そこな男よ。妾をここから外に出すのじゃ。
特別に妾に触れることを許すゆえ。」

それが、時子と喜助の最初の会話となった。
屋敷から一歩も外に出られない日々にいい加減、嫌気がさしたらしく、なんと一人で抜け出してきたのである。塀を乗り越えようとしたらしいのだが、木に登ったのはいいものの、それより動くことが出来なくなってしまったらしい。
塀の外に下ろしたのはいいが、当然また屋敷に戻さねばならない。
時子は履物すら履いていなかった。

それにかまわず時子は続いてこういった。
「男よ。妾を街に連れて行くのじゃ。」
「出来ませんよ。」
「何故に出来ぬのじゃ。」
「こちらが受けているのは屋敷の警護で、貴女を連れ出すことじゃありません。
危険だから降ろしましたが、お屋敷にお戻りいただきますヨン?」

至極当然のことである。しかし、時子にとってはそうではなかったらしい。
「・・分からぬ男じゃな。妾は連れて行けと言うたはずじゃ。
そちは妾に従ごうておればよい。
・・よいか・・身分の低いものが妾に歯向かうことは許さぬぞえ?」

深紅の瞳が喜助を見据える。命令し慣れている仕草。血筋からの傲慢さ。
・・・しかし、強烈なオーラを放ち、人を従わせる力。

『・・・なるほど。確かに貴族そのものの女性っスねえ・・。』
呆れながらも感心する喜助。

時子はそのままスタスタと何処かに歩いていく。
「ちょっと!!何処に行くんスか!」
「街じゃ。言ったであろう。」
「困りますよ!」
「確か、外を任されていたのは護廷十三隊であったな?
妾にもしものことがあれば、そちはおろか隊長の首も飛ぶであろう。それもまた一興よの。」

どうあっても屋敷には戻らないらしい。

「・・・分かりましたよ、ちょっとだけですよ?」
「それでよい。3時間ほどでよいのじゃ。それ以上は妾の不在が発覚するゆえ。」
「3時間スか?それまたなんで。」
「侍女に飲ませた薬がそれくらいで切れるのじゃ。では行くぞ?」
「ちょっと待ってください!そのままじゃ目立ちすぎます!それに・・。」
「それに・・・なんじゃ?」
「そっちは街の方角じゃありませんよ?」
「・・・。それを早う言わぬか!!」


かくして、喜助は素早く時子を変装させる。
なんせ深紅の髪だ、髪を出すことは絶対出来ない。
それで、とにかく全身を隠すため、虚無僧の姿をさせたのである。
粗末な着物に、「これは・・・着られるものなのか?」と驚く時子に着せるのも全て喜助が行った。
正味の時間は1時間ほどしかなかったが、時子は街の様子に心のそこから驚いているようだった。
街行く人の衣装、建物、そして食べ物。
片端から喜助に質問していく。

甘い匂いを漂わせている、タイヤキ屋の前でつい立ち止まった時子に喜助は、タイヤキをひとつご馳走した。
「食べてご覧になります?」
「食す?このような道端でか?!!妾がそのような無作法な事が出来るはずがなかろう!」
「でも、それが平民の楽しみなんスよ?ま、イヤなら勧めませんがねえ。」
落ち着かないのだろう。虚無僧の笠が左右にきょろきょろ揺れながらも、時子は一口食べたようだ。
「・・・熱い菓子というものがあったとは・・・知らなんだ・・。」
ポツリともらした時子の呟きが、なぜか喜助の耳に残ることとなる。

無事、屋敷に送り届けた喜助は、疲労困憊だった。
どうやらバレずに済んだらしい。
よろよろと、帰ろうとする喜助に時子がこういった。
「今日はご苦労じゃった。明日も頼むぞ?」

そうして、喜助と時子の束の間の珍道中が始まることとなる。
2日目にして、ようやく時子は喜助の名を呼ぶようになった。
日に日に、時子の当初抑揚のなかった声に、感情の色が出てくる。
送り届けて別れを告げる際の、時子の僅かな表情の変化。

喜助は次第にもっと多くの時子の表情を見たいと思うようになっていた。

そんな折だ。
「そういえば、喜助よ。お主まだ斎ノ宮の警護をしておるのか?」
「え?!ええ・・まあ。それがどうかしたんスか?夜一さん。」
「時子じゃが・・・どうやら強力な縁談が来ておるらしいぞ?
四大貴族ではないが、菱司の御曹司でのう。家柄でも申し分ないのじゃが、今まで色物にまったく興味を示さぬ朴念仁だったのじゃが、時子を一目見るや、どうにもこうにも惚れこんだらしいのじゃ。
真面目で人柄についても、申し分ない男じゃ。

親同士は既に縁談についての承諾を取っているらしい。
・・・流石の時子も、此度ばかりは断り難いかもしれぬのう・・。」

「そう・・スか・・。」
「なんじゃ、どうかしたのか?」
「いやあ、何でもないっスよ?」

時子に縁談。
当然だ。今までも掃いて捨てるほどあったらしい。
今更・・・。

そう思いつつも、なぜか釈然としない喜助がいた。

・ ・・そして、時子との短い道中がまた始まる。


その日は何時もの時子ではなかった。
何か考え込んでいるようだ。
時子の質問と喜助の説明で賑やかな時間が、その日はやけに静かだった。

「何処か・・・他に行きたい所はありませんか?時子サン。」
「行きたい所か?」
驚いたように聞く時子。
「そうです。行ってみたい所っスよ。やってみたいことでもいいですけどね。」
「あるにはあるが・・・。それは無理じゃ。」
「なんです?言ってみてくださいよ。」

「・・・森を・・・。誰もおらぬ森の中を裸足で歩いてみたい。思うがままに・・・。
この笠を取って・・・日の光を浴びてみたい。」

「出来ないんスか?」
「怪我をしてはならぬという理由での・・森というのを中から見たことがないのじゃ。
木々を下から見る様というのは、一体どのようなものなのじゃろうのう・・・」
「森・・ねえ。」
今度は喜助が考え込む番だ。
だが、今日は時子のほうが訂正する番だ。
「じゃが、・・・こればかりは流石に無理じゃな。言うてみただけじゃ。」
「日の光は無理でも・・・月の光なら可能かもしれませんよ?」
「え?」
「夜抜け出すことは出来ませんか?そうすりゃもう少し時間が取れますからね。」
「・・・なるほど。」

そして、ある満月の夜。
時子は喜助に連れられて、近郊の森に来ていた。
煌々と6月の月夜が森を照らす。夜といえども十分な月明かりだ。
木々の間を月の光が差し込む様を見て、時子は言葉を失った。
呆然と立ち尽くす時子を、喜助が促す。もう少し進むと浅い泉があった。
先に喜助が中に入る。くるぶしほどしか水はない。

そして、時子のほうへ手を差し伸べた。
「入ってみますか?履物を脱いでくださいね。」
促され、履物を脱ぎ、恐る恐る喜助に手を取られて泉に入る。
「きゃっ!」
泉の水の冷たさに驚きながら、また足を沈めていく。
足の下の細かい砂の感触。水の冷たさ。
浅い泉の水面には満月がくっきりと映っていた。
上を見れば、木々の枝の間から満月が見える。

足を水に浸したまま、時子が感嘆した。

「この世とは・・・・かくも美しいものだったのだな・・・。」

「・・・お気に召していただけましたか・・・?」
「今、初めて生きていることを・・喜びに思うておる所じゃ・・・。」

うっとりと上を向いたまま目を瞑る時子。
意志の強い深紅の眼差しが瞼の裏に隠れれば、途端に年相応に見えてくる。
豊かな深紅の髪が月明かりに照らされている。
時子は確かに微笑んでいた。

『・・・アタシも・・知りませんでしたよ・・・。
貴女が・・・こんなにも美しいとは・・。』

時子は傲慢なところがあるが、決して冷たい少女ではない。
ただ、優しさの表し方分からないようだった。
僅かな期間であったが、喜助はそれを見抜いていた。

『こりゃ・・・参りましたね・・。』

その時だ。巨大な霊圧を感じたのは。しかも複数の。
「時子さん!」
駆け寄ろうとした喜助に、斬魄刀が突きつけられている。
「動くな、浦原。」
喜助所属の十二番隊隊長であった。それだけではない。

「己の職務を忘れ、よりにもよって時子殿をかどわかすとは・・・覚悟の上の沙汰であろうの?浦原よ。」
総隊長の山本の姿までもあった。
「おのれ、下種めが!時子をたぶらかすとは・・・!!八つ裂きにしてくれる!!」
怒髪天に来ているのは、斎ノ宮の当主だった。

・・・最早、喜助に弁解の余地はない。
喜助は遠かれ早かれ、死罪になることは確実だった。

「・・・お待ちください、お父様。」
そこへ静かに時子の声が響いた。

「おお!時子!無事であったか!!」
「その者に罪はありませぬ。妾が無理を申しました。」
「何を言うか!お前をこのような所に連れ込んでおるのだぞ?」
「めでたいご報告をさせていただくこの日に、血が流れては卦がつきまする。」
「なに?目出度い報告とな?」

「はい。先日の菱司様との縁談のお話ですが・・・この時子、お受けいたしまする。」
「な、なに!!それは真か!」
「はい。夢に<人知れず森の中で満月に祈るべし、さすれば、両家の行く末は安泰なり、>とのお告げがありましたゆえ、このような事と相成りました。
このような目出度いお告げがあった事柄に対し、血が流れるというのはあまりに不吉。

菱司さまとの婚儀のためにも、皆様刀はお引きくださいませ。時子からの願いにございます。」

月光に照らされた時子の言葉は、不思議な力となってその場に居合わせる者たちを従わせる。
「そ、そうか。お前がそこまで言うのなら、この場は引かせることとしよう。」
「ありがとうございます。総隊長さまは・・確か山本さまでございましたわね?」
「さよう。」
「そこな死神には心を決めるため、無理を申しました。ですが、おかげでこの時子の心を決めることが出来ました。
お礼をいくら言っても足りませぬ。どうか、罰を与えることのないよう、お願い申し上げます。」

「そうは、行きませぬ。これはこちらの規律の問題。
部外の方が口出しされることではございません。」

すると途端に時子の声が低くなった。
「・・・斎ノ宮と菱司の婚儀の過程に、傷をつけられるおつもりか・・?

山本様がお聞きになられないのでしたら、四十六室に頼むまで。
ねえ・・・?お父様?でなければ、時子の心がまたもや揺らいでしまいますわ?」
「山本殿!儂からも頼む!!此処はひとつ穏便に!」

そこまで言われれば、山本も引くしかない。
護衛の経緯をみても、どのみち四十六室から命が下るのは明らかだった。
「・・・分かりました。」
「ありがとうございます。山本様。では、お父様。帰りましょう。
そこな、死神よ。」

時子は喜助の方を全く見ない。
「・・・はい。」
「・・・ご苦労だった。」

・・・それだけだ。
そして、そのまま父親とともに去っていった。

・・・・喜助は動けなかった。
ただ・・立ち尽くしていた。

「命を拾ったのう・・。浦原。」
山本が言う。
「儂はおぬしを斬る気じゃったのじゃが・・・だが次はない。よいの・・?」

そして山本は、喜助一人を残し、去っていった。

喜助は、夜が明け、空が白み始めてもそのまま立ち尽くしていた。


時子と菱司の跡取りとの婚礼はそのわずか半月後だった。
菱司のほうが、「是非にも」と婚礼の時期を早めに早めたらしい。


その婚礼は、平民の間でも大評判となっていた。
なにせ、史上まれに見る美姫の婚姻だ。深紅の姫君が白い婚礼衣装に包まれた姿を一目見ようと、会場の周りを2重3重に見物人が並んだらしい。

喜助はその列には並ばなかった。
婚礼のその日は、自室から1歩も出ずに酒を飲んでいた。
「邪魔するぞ?」
遠慮なく入ってきたのは夜一だ。これも何時ものことだ。
事の次第を聞いたのだろう。そして喜助に何があったか、察しているようだ。

「・・・式に参加してきた。」
「・・・そう・・スか・・・。」
「歴史に残る花嫁じゃ。」
「そうでしょうね・・。」
「美しいという意味ではないぞ?」
「・・・・?」
「惚れた男を、自らを差し出して助けたのじゃ。
いい目をしていたぞ?思い残したことはないというようじゃ。」

「アタシは・・・別に好かれてた訳じゃありませんよ・・。
ただ・・・命を助けてもらっただらしのない男なんス・・。」

「・・ああ?!なんじゃと?」
「だからアタシは・・だらしの・・グオ!!」
喜助の顔面に夜一のケリが飛ぶ。

「いいか。喜助。儂はこれでも時子のことを買っておるのじゃ。
時子は世間知らずじゃが、人を見る目は確かじゃ。
その時子が、助けた男がそんなことでどうするのじゃ!!」


こういうときの夜一は容赦がない。
だが、今の喜助にはそれが救いだった。


やがて・・・。
婚姻から2月もせぬうちに、時子の具合が悪いという話を風の噂で聞く。
原因不明の高熱にさらされているらしい。

夜一からも情報が伝わった。
菱司の時子への執着はすさまじく、屋敷から抜け出さぬよう、時子は部屋に外から鍵をかけられ、自由に庭にも出ることが出来ないらしい。
時子は格子の入った窓から外を見る生活が続いているらしい。

それを聞いた喜助が夜一に聞く。
「・・・もし時子サンが、下級貴族なら・・・もう少し自由に過ごせたんでしょうかねえ・・。」
それを聞いて夜一がこういった。
「・・・無理じゃな。菱司はバカではない。時子の心が自分にないことなど、お見通しじゃ。

しかし・・あの温厚な男が・・・まさか監禁まがいとは・・・。
・・・人は分からぬものじゃのう。」

そして・・・・。

秋がやってきた。

紅葉が真っ赤に色づく頃だ。
空が高く、雲ひとつないある日。

喜助は時子と別れたあの森へやってきていた。
理由は喜助にも分からない。

ただ、何かに呼ばれるように・・・あの森へきていた。

森は真っ赤に色づいていた。
紅葉は血のように赤く色づいている。
あまりにも美しい光景だった。

『・・喜助』
ふと後ろから呼ばれたような気がして、後ろを振り返る。
すると、紅い紅葉の木の下に、深紅の着物を着た時子が一人佇んでいた。
「時子さん?!!どうしてここへ!お一人なんスか?
体の調子が悪いって聞きましたけど!!」
思わず駆け寄る喜助。
その喜助に時子はふわりと笑ってこういった。
「・・・もう大丈夫じゃ。それに今の妾は供をつける必要はない。
もう・・・妾は自由なのじゃ・・。」

「・・?どういうことですか?」
「妾はのう・・・今朝死んだのじゃ。」
「・・・え・・?」
どう見ても目の前に居る時子は実体があるようにしか見えない。
喜助にも信じられなかった。
「ふふふ。よく出来ておるじゃろう・・?
残りの命を全部、この時のために費やしておるからのう・・。」
「・・?!!まさか・・・わざと・・。」
「そうじゃ。でも自殺などではないぞ?ちゃんとした病死じゃ。」
「威張ることじゃないでしょう!なんてことを!!」
「あのまま生きていても、妾は死んだも同じ事。
それならば、命を削ってもしばしの自由を掴みたい。

それにの・・そちに礼が言いたかったのじゃ・・。」
「それだけのために?!!」
「それだけ・・?
妾はそちに会うまで生きているという実感がなかった。
物心をついた頃から、妾はだれぞの嫁に行くために生かされていたのじゃ。
妾は人形。美しい人形であることだけを望まれていた。

生きていると感じたのは・・・喜助・・・そちに会うたからじゃ・・。」
「時子サン・・。」
「ちゃんと礼を言いたかった・・。
だからそちにもう一度どうしても会いたかったのじゃ・・。

そのために命を削ることが、妾にとって惜しむべきことではない。」
「・・アタシも・・もう一度会いたかった・・といったら・・笑いますか?」
「・・そうか。。それは嬉しいな・・。

それだけでも来た甲斐があった・・。これでよい・・・。
妾はもう直ぐ消える。
そちが以前言っていた、紅葉の頃をそちと共に見れて・・幸せじゃ・・。」

「このまま・・・消えてしまうんですか・・?」
「そうなるな。」
「ならば、ここにいてください。アタシの斬魄刀は『紅姫』。時子サンが住まうにちょうどいい筈です!アタシの傍にいてください!!」

喜助が斬魄刀をスラリと抜く。
機能的でいながら洗練されたフォルム。
正しく喜助らしい意匠だ。
それにそっと触れ、時子はいった。
「美しい刀じゃ・・。
じゃが既に『紅姫』はちゃんと意思を持っておる。
妾が介入することは、『紅姫』を殺すことになりかねぬ。
この斬魄刀はそちそのもの。
・・・それを変えることは出来ぬ。

じゃが・・・。」

そして静かに刀に語り始めた。
「紅姫といったな・・。最早妾は喜助のためにしてやれることは何もない。
喜助を助けることが出来るのは・・・紅姫・・そちだけじゃ。

頼む・・・。妾の代わりにこの男を護ってやってくれ・・。
妾がただ一人愛した男じゃ・・。どうか・・・頼むぞ・・?」

刀に触れた時子の手が一瞬だが光る。

そして静かに時子は刀から手を離した。

「・・・時間じゃ。」
時子の体がぼんやりと光に包まれる。着物の裾、髪の先から薄れていく。
時子が刀に何をしたかはわからない。
しかしそのことで、力を使い果たしたのは明らかだった。
「・・時子サン・・・。」
「・・・さらばじゃ。喜助・・・妾の・・・」

そして時子が喜助に近づき、その紅い唇を喜助のそれに近づける。

僅かな感触。吐息と共に・・・


時子は光の粒となり・・・消えていった・・・。


『妾の・・・愛しい男よ・・』

唇を通して伝えられた言葉。


後に佇む金髪の男に、深紅の紅葉がハラハラと静かに降りしきっていた。



喜助と時子が共にいた時間は僅かだ。


しかし、あまりにも忘れえぬ時となっていた・・。




なんちゃって。


せつないスね・・・時子サン。
こんなに惚れさせて命まで削らせて・・・
罪な男ですよ・・・喜助たん。
自分からは愛しているって決して言わないとこもね・・(笑)
今回はお姫さんが勝手に入れあげた・・・といえばそれまでなんですが。
喜助が自ら惚れこんだら、も~恐ろしいことになりそうですよ。
淡白に見えて業が深そうですから・・この変態エロ店主は(笑)


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