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『高校事変』のスピンオフ。 『高校事変』で言うと、『Ⅵ』の後、『Ⅶ』の頃の時期設定で、 結衣の妹・凜香をメインに据え、パグェのパク・ヨンジュも登場。 ハードなアクション・シーンの中で、中学生・凜香の成長が描かれます。 ***14歳の優莉凜香は、市立四街道北中学校に転校するも、すぐに騒ぎを起こしたため、佐倉市立井野西中学校へ編入して児童養護施設”あしたの家”に入所、一家に歓迎される。しかし、施設は田代ファミリーに繋がる権晟会残党に襲撃されてしまい、凜香がそれを殲滅。そんな凜香に、パグェのヨンジュが接近し、キム・ハヌルという9歳の少年について語る。ハヌルは、凜香が春休み期間に行くことになっていた帯広錬成校で囚われの身となっていた。そこは、田代ファミリー傘下の武装暴力集団・ヤヅリと裏で繋がっている学校で、ヨンジュらは凜香と手を組み、ハヌルが相続した11兆円の遺産を奪取しようと目論んでいた。そして、帯広を舞台に、凜香と田代勇太をバックとするヤヅリとのバトルがスタートする。 ***14歳の少女が9歳の少年に抱く特別な想い……何だかピンとこず、かなり違和感を覚えましたが、ありうるの?それとも、あの夫婦の子供として生まれ育った優莉凜香だからこその特別な感情?ハヌルには何か裏があると感じていたのに、本当に純真な少年だったのも驚きでした。
2022.12.30
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著者の田坂広志さんは、東京大学工学部原子力工学科を卒業後、 東京大学医学部放射線健康管理学教室に研究生として在籍した後、 東京大学大学院工学系研究科に進学して工学博士を取得したという方。 その後は、三菱金属株式会社原子力事業部での勤務を経て、 株式会社日本総合研究所取締役、多摩大学経営情報学部教授、 さらに、多摩大学大学院経営情報学研究科教授、内閣官房参与等を歴任しています。本著は、最先端量子科学が示唆する「死後の世界」の可能性について記した一冊で、著者は、現代科学の限界や誰もが日常的に体験する不思議な出来事、自身の体験について語り、それらが「ゼロ・ポイント・フィールド仮設」で説明できると述べています。そして、フィールド仮設を基に「死後の世界」について仔細に語りながら、「科学的知性」と「宗教的叡智」が融合した「新たな文明」の構築を提言しています。 *** もし、あなたが、「私とは、この肉体である」と信じるかぎり、 「死」は明確に存在し、そして、それは、必ずやってくる。 もし、あなたが、「私とは、この自我意識である」と信じるかぎり、 あなたの意識がゼロ・ポイント・フィールドに移った後、 いずれ、その「自我意識」は、消えていく。 そして、「超自我意識」へと変容していく。 それゆえ、その意味において、「自我意識」にとって「死」は存在し、 それも、必ずやってくる。 しかし、もし、あなたが、「私とは、この壮大で深遠な宇宙の背後にある、 この『宇宙意識』そのものに他ならない」ことに気がついたならば、「死」は存在しない。 「死」というものは、存在しない。(p.311)これが、本著のタイトルについて、著者が直接的に述べた部分です。私は、本著と先日読んだばかりの『悪魔とのおしゃべり』との重複する部分の多さに驚きつつ、「人間という生物が遺伝子の単なる“乗り物(ヴィークル)”に過ぎない」という言葉も、ふと思い浮かんできました。
2022.12.30
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「プロローグ」では、前巻で描かれた結界騒動の経緯を振り返ながら、 朔也の提案で『チーム澪人』を『OMG』と改称することが決定します。 第1章「憂いの夏色団子。」では、小春と澪人の間によそよそしさが漂う中、 ミス研1年・谷崎瞳が転居した家で起こる「嫌な感じ」の謎を見事に解明。 掌編「由里子と朔也の午後。」は、小春と澪人の関係を心配する由里子に、 朔也が澪人から直接聞き出した情報を伝え、安心させようとするお話。 第2章「町の拝み屋さんになった頃。」は、櫻井家に嫁いできた若き日の吉乃が、 『妖騒動』等を経て皆に慕われるようになった経緯を、吉乃の友人・西村弥生が語るお話。第3章「祭りの夕べに。」では、澪人が妖の力を手に入れた経緯が明らかになると共に、澪人が小春によそよそしい態度をとった理由も判明し、小春も一安心。「エピローグ」では、澪人が兄・和人に、自分が小春によそよそしい態度をとった更なる本音を打ち明けますが、これは「葵に対する清貴」を彷彿とさせるものでした。掌編「あの夜の続きの、秘密のお話。」は、「あとがき」によると、5巻のラストのその後をえがいたもので、6巻発売時に一部書店で配られた特典書き下ろしショートショートとのことです。 ***『続・京都烏丸御池のお祓い本舗』(平成30年4月12日初版発行)の「CASE3」では、審神者頭となった澪人が大活躍していましたが、今巻(平成30年5月25日初版発行)の「プロローグ」には、澪人が審神者頭となった経緯が丁寧に記されていました。また、この件については、今巻「あとがき」で、望月さん自身も触れられています。 ほんまは、人が多いんは苦手なんやけど、今は人がいっぱいいて良かったて思う(p.187)これは、澪人が小春に語りかけた言葉で、この時点では、小春はそこに込められた澪人の気持ちに気付けなかったようです。ところで、12月27日(火)のお昼にテレビを見ていると、『人混みが苦手です。』という番組が放映されていました。その中で『続・京都烏丸御池のお祓い本舗』の「CASE2」に登場した『狸谷不動院』が、「タヌキだらけのまるで清水寺みたいなお寺」として登場していました。さらに、同じ日に私宛に届いたメールの中に、READYFORからの「狸谷山不動院が自然災害でピンチ!安全な参拝のために修繕へご支援を」という内容のものがありました。次から次へと繋がっていて、何だかとってもスゴイ!!
2022.12.28
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『京都烏丸御池のお祓い本舗』の続編。 「2」ではなく、「続」なのは、シリーズ化は考えていなかったから? 前巻発行からわずか半年での発行は、比較的スピーディーだと思いますが、 『京都寺町三条のホームズ』とは、出版社が被ってますしねぇ…… ***「プロローグ」は、城之内、海斗、朋美の3人が、エネルギー補給について会話するお話。「CASE1『少女の秘密』」は、かつて火災に見舞われた洋館に現れる霊体のお話。「CASE2『私の前世は何ですか?』」は、自分の前世を知りたいという少女と共に3人が『狸谷不動院』を訪れ、海斗が自身の前世に気付きかけるというお話。「CASE3『愛しき回顧録』」は、海斗が『冥界の王子』の頃の記憶を取り戻し、さらにヤマタノオロチとの因縁の対決を経て、真の運命の相手に気付くというお話。「エピローグ」では、『京都烏丸御池のお祓い本舗』に、賀茂澪人と家頭清貴が相次いでやって来て、和やかなひと時を過ごします。なお、「CASE1『少女の秘密』」では、清貴の元カノ・和泉が夫と共に登場、「CASE3『愛しき回顧録』」では、審神者頭となった澪人が大活躍しています。(私が読書済みの『わが家は祇園の拝み屋さん7』より、時を経た時期のお話ですね)「あとがき」で、望月さんも言及されていますが、まさに夢のコラボです!!
2022.12.25
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御池通り裏手の古いビルの2階にある『城之内相談事務所』。 仕事がちっとも来ないので、仕方なく『探偵事務所』を開いていますが、 実は、さらにもう一つの顔がありました。 それは、お祓いを請け負う『京都烏丸御池のお祓い本舗』。 そこに集うのは、神を召喚する力を持つ宇治市出身の弁護士・城之内隆一と 『眷属使い』の高校生・高橋海斗に、高い防御力を持つ木崎朋美の3人です。「プロローグ」は、朋美が城之内の下で働くことになった経緯を、従姉・村上幸枝に語るお話。「CASE1『奇妙な事務所』」は、3人が作家・黒田勝邸で前妻の生霊を祓うお話。「CASE2『火が去る寺』」は、蟲毒に使われていた『呪いの壺』を浄化するお話。「CASE3『契約花嫁』」は、書道家・高坂功一の娘・亜希の異類婚姻譚。「エピローグ」は、朋美が亜希のその後について幸枝に語るお話。「CASE2『火が去る寺』」では、『京都寺町三条のホームズ』の骨董品店・『蔵』でのシーンが描かれ、家頭清貴や真城葵が登場しています。とても嬉しいですね。 *** こうした社寺は、エネルギー補給所なんや。 それは俺たちだけやい。 誰しもにそうなんや。 せやから、よく神社参りをしている人は運が強かったりするやろ? それは、他の人よりもエネルギーの補給ができてるからなんやで(p.164)これは、城之内が朋美に語りかけた言葉。「それは俺たちだけやい。」の部分で、私の思考回路が一旦停止。かなり時間が経ってから、「な」が抜けているのだと気付きました。「それは俺たちだけやない。」でしょうね。手元にあるのは2017年10月15日 第1刷発行のもの。第2刷以降が発行されているのなら、すでに訂正されているかな?
2022.12.25
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636頁にも及ぶ、ボリュームたっぷりの一冊。 しかしながら、同じページの中に様々なサイズのフォントが用いられていたり、 また、余白部分もかなり広かったりするため、読み進めるスピードは速くなり、 読了までに要した時間は、最初に予想したものより、かなり短くて済みました。 *** 自分で勝手に期待し〔①〕 それに応えなかった相手へ〔②〕 自分が勝手に怒り始める〔③〕 全部、独り芝居じゃないか。相手からすると、いい迷惑さ。(p.60)これは「第2章 怒れるヒーロー」の「人間が怒る、たった1つの理由」に出てくる一文。この後に「相手の行動は、変えられない。でも自分の期待値は、変えられる」、さらに「自分にも、他人にも、世界にも、相手にも期待してはいけない」とした後、「世界は、どうしようもない奴らの集まりだ」と締めくくっており、まさに悪魔の言葉。 「わたし」が始まる時、いつも同時に「せかい」が始まっている。 「わたし」のスタートと同時に、目の前には常に「せかい」が起動されている。 果たしてこの「せかい」とやらは、 「わたし」が始まる前にも本当にあったのだろうか?(中略) 問いたいのは、この「わたし」が発生していない時の「せかい」の実在性なのだ。 そして、それはあきらかに不可能だ。 「わたし」なしでは、「せかい」を確認する方法がない-。(中略) 朝のまどろみの中で、「世界は私と同い年」と言った教授の感覚が、 なんとなく分かった気がした。(p.296)これは「第8章 『宇宙システム』の始まり」の「世界は脳の中にある」に出てくる一文。これは、よく分かります。なぜなら、私も昔からずっと、こんな風なことを考えていたから。同じように考える人が他にもいたんだと、ちょっとした感動すら覚えました。自分の目の前に見えたり、聞こえたり、感じているものしか、自分にとって『真に確かなもの』などないわけですから。でも実は、目の前に見えてたり、聞こえたり、感じていると感じているものですら、『真に確かなもの』とは言えないのかもしれません。ただ、そういう風に脳が情報処理するよう、何者かに仕向けられているだけ……この「せかい」は、まさに映画『マトリックス』のような、ただの仮想現実なのかも。本著を読んでいて、また『クラインの壺』を思い出してしまいました
2022.12.25
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今年78歳になった忍ハナ。 60代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはいけないと、 日頃から外見磨きに精を出し、そうでない同年代に冷ややかな視線を投げかける。 それ故、同期会で「ハナ、あなたって嫌われるでしょ」の捨てゼリフを頂戴する。 「忍酒店」三代目の夫・岩造は、スーパーやコンビニの相次ぐ出店による危機を、 伝説の商人・田所が太い筆で「平気で生きて居る」と揮毫した掛け軸を眺めながら、 妻・ハナが打ち出した新機軸によって踏ん張り、長男・雪男へと代替わりを果たした。 折り紙が趣味で、普段から妻を愛していることを気恥ずかしいほどに臭わせている。そんな、岩造が硬膜下血腫で急逝、その『自筆証明遺言』には衝撃の事実が記されていた。「次の者は、遺言者岩造と森薫との間の子である(中略) 右記森岩太郎は、成人した後も認知を請求しない。その旨の覚書は別添」これを機に、ハナたちの生活は一変していくのだった。 ***ここからの展開は、私が予想したり期待したりしたものとは随分異なるものでした。岩造と森薫との関係性については、もう少し別の形のものであれば……ハナと岩太郎とのかかわり方も、何かもう一つピンとこない……そして、雪男の妻・由美については、もうちょっと回収して欲しかった……あくまでも、私の個人的な希望、感想です。なお、本著は450ページにも及ぶボリュームのある一冊でしたが、大きめのフォントサイズを用い、1ページが35字×15行となっているので、とても目に優しく、読み進めやすかったです。
2022.12.25
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「坂下」停留所で朝7:23発のバスに乗る5人の乗客の物語。 バス停で「おとしもの」を拾った乗客は、 翌朝目覚めると、手首から肘にかけて「神様当番」の文字が。 そして部屋には、自らを「神様」と名乗る小柄でやせたお爺さんがいたのです。 *** 1番、印刷会社に勤務する水原咲良は、その仕事や上司の態度に不満を抱いていましたが、ハンドメードのワークショップでの喜多川葵との出会いから、その姿勢を変えていくことに。2番、小学6年生の松坂千帆は、弟・スグルの服装や行動に不満を抱いていましたが、ピアノ教室やうさぎの飼育小屋での出来事を通じて、弟を見る目を変えていくことに。3番、高校2年生の新島直樹は、自身がリア充になれないことに不満を抱いていましたが、ツイッターで知り合ったアザミとの出会いから、自らの行動を変えていくことに。4番、大学非常勤講師のリチャード・ブランソンンは、授業を受ける学生に失望していましたが、バス停に集う高校生、小学生、OLが交わす会話に、自身に足りなかったものに気付きます。5番、社員総勢8名の福永電工社長・福永武志は、普段からの高慢な態度などが原因で、作業員5人が一斉に会社を去り、新たに起業するという事態に追い込まれてしまいます。しかし、事務職の喜多川葵と出かけたストリップ劇場での愛和ネネやディーさんとの出会いや、久し振りのエアコン取り付け作業を機にして、裸一貫やり直すことを決意したのでした。その他、花屋で働くひかりさんや、直樹の友人・中田と沙百合が、複数話で登場していました。ひょっとすると、まだ他にいたかも?***巻末特典の「青山美智子&田中達也 特別対談」は、青山さんのファンなら必見。『木曜日にはココアを』の装画決定の経緯は、感動ものです。私も、『木曜日にはココアを』と『猫のお告げは樹の下で』、そして『鎌倉うずまき案内所』の装画を、改めてじっくりと見直すことになりました。さて、『鎌倉うずまき案内所』の記事の中で、その登場キャラクターの名前(鮎川茂吉)が、『月の立つ林で』の「2章 レゴリス」にも、複数回登場することを書きましたが、『ただいま神様当番』についても、そのことを気にしながら読み進めた結果、『月の立つ林で』の「1章 誰かの朝」に、樋口淳が登場していることを確認しました。それにしても、オンライントークショーに参加されていた方の記憶力は、凄すぎますね。
2022.12.18
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著者の工藤さんは、岩手県に住む認知症の母親の介護を、 東京から通いで8年続けている(本著出版時点)という方。 東京への呼び寄せや実家へ帰っての介護ではなく、 あえて同居せずに、離れて認知症介護をするという道を歩まれています。 本著を読み進める中で、工藤さんがなぜあえて同居しない道を選んだのか、 そして、そのためには、どのような手立てが必要で、 それを実際にどう進めていけばよいのかが分かってきます。 同じような状況にある方にとって、とても心強い指南書となるはずです。本著では、認知症の種類や症状、地域包括支援センターや認知症ケアパス、要介護認定申請、そして、介護保険サービス、ケアマネージャー、ホームヘルパー、居宅サービス、さらには、在宅医療、施設介護、認知症カフェ、見守りサービス等に至るまで、別居介護を行う上で必ず必要となってくる知識が、分かりやすく説明されていきます。しかし、何と言っても秀逸なのは、「3章 離れて暮らす親と気持ちよく過ごすための心得」で防火や防災対策が、「4章 離れて暮らす親の介護の『お金』のこと」でお金に関わる一連のことが、「5章 離れた親を見守る『認知症介護』ツール」で介護インフラが具体的に示されていること。特に、介護インフラとして示される、見守りカメラやスマートリモコン、スマートロック、スマートスピーカー、スマートディスプレイ、インターホン、GPS機器の携帯などは、以前なら思いもつかなかったような最新技術の数々であり、上手く利用すれば、離れて介護することの可能性がぐっと広がるものだと感じました。「第6章 亡くなる前と後にやるべきこと」も、頭の片隅には置いておきたいことですね。
2022.12.18
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何をきっかけに本著を知ることになったのかは失念してしまいましたが、 目次を見て「読んでみたい!」と、即購入に至ったことだけは覚えています。 そのラインナップは、「第1章 キム・ジヨンが私たちにくれたもの」 「第2章 セウォル号以後の文学とキャンドル革命」 「第3章 IMF危機という未曾有の体験」「第4章 光州事件は生きている」 そして、「第7章 朝鮮戦争は韓国文学の背景である」等々。私の既読作品から始まって、隣国の節目となる主要な出来事が次々に登場。これはもう、読みたくなって当然の一冊でしょう。しかし、実際に読み進めていくと、私が勝手にイメージしていたものとは少々違いが……まず、著者の斎藤真理子さんですが、隣国作品を数多くの翻訳し、2020年に韓国文学翻訳院の韓国文学翻訳賞文化体育観光部長官賞を受賞した方でした。そして、本著はタイトルの通り「韓国文学」を主として扱ったものであり、各出来事については、一部を除いて文学との絡みの中で語られるに留まっています。 *** まず、国土のほとんどが戦場になり、苛烈な地上戦が行われたことだ。 日本の本土は、度重なる空襲や原爆という惨事は経験したが、 身近に敵が潜む中を逃げ惑う地上戦の恐怖は経験していない。 それを味わったのは沖縄の人々だけである。(p.180)これは、日本に生まれ育った人が、朝鮮戦争をイメージするときに重要なこととして、著者が示した一文で、その地上戦の様子は次のようなものだったと言います。 占領者がいつ入れ替わるかわからない日常の中で、 人々は相互に監視し合い、白か黒かを常に問われ、中間は許されなかった。 緊張の連続だったが、 しかし何にどう緊張したらよいか見当がつく人は少なかっただろう。 多くの人は、わけもわからないまま書類にハンコを押したり、 動員されて集会に参加して歌を歌ったというだけで、 不条理な死に追い込まれた。(p.186) 誰が敵で誰が味方か区別が困難な状況の中で、 子供・女性・老人までもが敵と見なされ、集団的に殺された。 同時に、密告と密告返しの連続の中で、私的な報復としての殺人も多く起き、 地域のコミュニティはずたずたになった。(p.188)しかも、この戦争はいまだ休戦状態で、終結していないのです。このことが、隣国に暮らす人たちのメンタリティや行動に現在も大きな影響を与えていることは、想像に難くありません。何かがスッと腑に落ちたような気がしました。
2022.12.17
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古ぼけた時計屋の端に掲げられた「鎌倉うずまき案内所」の看板。 矢印に従って外階段を地下へと降りていくと「はぐれましたか?」の声が。 そこには、双子の爺さんとアンモナイトがいて、薄い水色の甕を覗いた後に、 「困ったときのうずまきキャンディ」を一つプレゼントしてくれるのです。 ***「2019年 蚊取り線香の巻」は、退職思案中の出版社勤務・早坂瞬と上司・折江のお話。「2013年 つむじの巻」は、かつて歯科衛生士だった広中綾子が息子の進路で悩むお話。「2007年 巻き寿司の巻」は、田町朔也との結婚を控える中学校司書教諭・日高梢のお話。「2001年 ト音記号の巻」は、中学3年生の園森いちかと乃木君のアオハル物語。「1995年 花丸の巻」は、劇団「海鴎座」を主宰する劇作家・鮎川茂吉のお話。「1989年 ソフトクリームの巻」は、「浜書房」を営む浜文太のお話。2019年から1989年へと時代を遡っていく各話の中には、黒祖ロイドや紅珊瑚など、しばしば顔を見せるキャラクターもいて、夫々の人生の歩みが味わい深いです。「書き下ろし短篇 遠くてトーク」は、双子の爺さん・外巻と内巻とのやりとり。「平成史特別年表」では、こっそり登場していたキャラクターたちの姿も明らかに。 *** 「私もさんざん言われたよ。色気がないとか、下品だとか、ブスだとか、若くないとか。 でもこれが私なの。この私をいいと思ってもらえなかったら、ぜんぜん意味がないの。 審査員の好みに合わせて作り上げたものがたとえまぐれで認められたからって、 そのあと続かないよ。そんなの自分じゃないんだもの」(p.312)珊瑚が茂吉に言った言葉です。確かに、正しいです。 「違うよ、文太さん。 何かを残すためじゃなくて、この一瞬一瞬を生きるために、 私たちは生まれてきたんだよ。生きるために生きるんだよ」人魚が文太に言った言葉です。心に染み入ります。 ***先日、青山美智子さんのオンライントークショーに参加した際、『鎌倉うずまき案内所』と『ただいま神様当番』に登場したキャラクターが、『月の立つ林で』の中にも登場しているという話題が出ていたので、探してみました。確かに、本作のキャラクターは「2章 レゴリス」に複数回その名前がありました。『ただいま神様当番』の方は、近々読書予定なので、その際に探してみます。
2022.12.11
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「プロローグ」では、和人と映画に出かけた小春がコウメに感想を伝えます。 そして、和人は澪人に小春への想いを再確認するのでした。 第1章「太古の森と、朝露のしずく。」では、澪人率いるプロジェクトチームが、 結界の祈祷実行に向け、鞍馬にある三善酒造の保養所旅館で合宿を行うことに。 その前に、朔也はコウメに謝るため、小春と共に『辰巳稲荷』へ。 帰途、『さくら庵』に寄ると、そこには宗次朗と打合せ中の姉・八雲がいました。 合宿当日、貴船神社から鞍馬寺を経て宿舎へ到着すると、澪人の講義が始まります。 そして夕食後、屋外で対峙した太古の妖を、澪人が小春の助言で退散させることに成功。第2章「飴細工の結界と隙間に入る魔。」では、1回目の結界の補強が大成功。澪人は、陰陽師関西本部長から直々に、次期本部長候補者にと告げられます。一方、小春は度重なる自らへの嫌がらせの犯人を、紆余曲折の末に突き止めます。それは、1回目の祈祷で暴れ出した『魔』が引き起こした出来事でした。第3章「蛍火に見る夢。」では、朔也が由里子の協力を得て封印解除を行うことに。一方、澪人は小春と共に、約束していた下鴨神社の『蛍火の茶会』に出かけますが、母親からの電話で家に戻ると、和人が『魔』に取り憑かれ苦しんでいました。その『魔』は澪人へと乗り移りますが、小春が『見固め』を行い消失させたのでした。第4章「つながる想い。」では、『見固め』を行った翌朝、小春が目覚めると既に11時。プロジェクトチームによる2回目の祈祷開始予定時刻を大幅に過ぎていました。そして、前世のこと、和人との関係を語り、お互いの気持ちを確かめ合う澪人と小春。その頃、宗次朗は杏奈と共に結界補強コースを祈祷して回っていました。そのSNS投稿を見た多数のファンたちが同じように回ることで、結界は補強されたのでした。「エピローグ」では、神泉苑で若宮が安倍晴明と言葉を交わし、コウメを三尾に。そして、櫻井家には関係者が集まって宴会が行われ、澪人と小春が交際を報告したのでした。 ***望月さんが「あとがき」に記されているように、これまでのお話は今巻で完結しています。それでも、読者の期待に応えて、シリーズを続けてくれることは、本当に嬉しいですね。それにしても、最後は宗次朗が全部持って行ってしまいましたね。本当にカッコイイです!それでは最後に、今巻で心に残った箇所をご紹介します。まず一つ目は、こちら。 仕事を上手くいかせるためには、 プライベートをなおざりにしてはいけないということなのだ。 何もかも忘れて、自分の仕事に逃げられたら、どんなに楽だろう、 と思うのだが……。(p.12)全く、その通り。「ほんま、厄介やね」という澪人のつぶやきに、「ほんまやね」と語りかける自分がいました。二つ目は、次の箇所。 鳥の意識を覗き見た瞬間、自分は『信じられない』と思ったのだ。 それなのに、その切り取った映像だけで真実と決めつけて、 自分の感覚を無視してしまった。 鳥が見たものは事実だが、この事件の『真相』とは違っていたのだ。 一部だけを見て、全体を決めつけないようにしよう。 自分の感覚を大切にしよう。(p.167)これも、全くその通り。しかしながら、それが出来ていないことが何と多いことか。「自分は全てを知っているわけではない」ことを、常に念頭に置いておかなければ。そして、「自分の感覚」をより確かなものへと磨き上げていかなければ。
2022.12.08
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副題は「生きる意味を再び考える」。 著者は、精神科医でクリニック院長を務める泉谷閑示さん。 パリ・エコールノルマル音楽院留学経験を持つ音楽家、評論家でもあり、 留学時には、パリ日本人学校教育相談員も務めていたという方。 本著は、「ハングリー・モチベーション」や「高等遊民」 「有意義病」等のキーワードから 「生きる意味」や「働くこと」「本当の自分」に迫ります。 その際、夏目漱石やエーリッヒ・フロム、ミヒャエル・エンデ、マックス・ヴェーバー、 E・フランクル、ニーチェらの文章を数多く引用しています。 *** つまり、そもそも他動的に押された慣性で走っていたために、 「それぐらいの困難は乗り越えるべきものだ」といくら発破をかけられても、 そもそも動力が見当たらないのです。 このように動けなくなり「うつ状態」に陥ったクライアントは、 そこではたと「生きるモチベーション」の不在に気付くことになります。(p.26)これは俗にいう「新型うつ」と呼ばれる病態に陥ったクライアントについての記述で、薬物療法や認知行動療法、復職のためのリワークプログラムなど、元の環境への「再適応」を目指すものでは、その効果は期待できないとし、本人なりの「意味」を見出せるところまでサポートするしかないと述べています。 よって、私たちが「価値」と呼んで追い求めている諸々のものは、 いずれもこのような「頭」の錯誤によって捉えられたものばかりであると 言ってもよいかもしれません。 良き学歴を得て良き就職をし、良き社会的地位や収入を得て、結婚して子供を儲け、 家を持ち、子供を良き学校に入れ、良き習い事をさせ、等々。 これら、多くの人たちが躍起になって追いかけている「価値」の諸々も、 元来は、幸せに生きることを目指しての方便に過ぎない事柄だったはずなのですが、 いつの間にか、それ自体が目的化してしまったものなのです。(p.114)これは、「頭」というものが、対象の「質」そのものを直接的には認識することができず、どうしても「量」というものに落とし込んだ形でしか把握できないため、手段や副産物の方を、目的と捉え違いしてしまいがちになることを示したもので、「確かに」と頷くしかありません。
2022.12.04
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明治の元勲で、総理大臣も務めた松方正義の三男として生まれ、 エール大学で博士号を取得後、父の秘書官として働き、 神戸川崎財閥の創始者・川崎正蔵にその才覚を見込まれて、 川崎造船所の初代社長となった松方幸次郎。 彼は、日本に西洋美術専門の美術館を創設すべく、 莫大な私財を投じてコレクションを作り上げる。しかし、金融不安による業績悪化の責任をとって社長の座を退くと、国内に持ち帰られた作品は売却されて散逸。また、ロンドンの倉庫に保管されていたものは火災で焼失し、パリにあったものは第二次世界大戦後に行方不明となっていたものの、戦後に発見され、フランス政府に接収されていた。松方が鬼籍に入った翌年、内閣総理大臣・吉田茂は、ゴッホ、ルノワール、モネ等、数百点もの著名画家の名作の返還に向け動き出す。そして、コレクション蒐集に際し松方に協力した日本を代表する美術史家・田代雄一が、コレクション返還のための代理人となってフランスに赴くが、旧友・サルとの交渉は、その開始から思うように進展しない。しかし、元川崎造船所社員・日置釭三郎からコレクションのこれまでの経緯を聞かされ、気持ちを新たに粘り強く交渉を続けた田代は、遂に『寄贈返還』を成し遂げたのだった。 ***ボリュームと読み応えがある作品で、読了にはかなりの時間を要しました。作品としての色合いは『リーチ先生』に近いかな。そして、日置釭三郎の物語がとってもイイですね。巻末に掲載されている前国立西洋美術館館長・馬淵明子さんによる「解説」も秀逸です。
2022.12.04
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「プロローグ」では、小春が夢で見た詠み人知らずの歌に思わず涙します。 そして、朝の食卓では京都で最近嫌な事件が続いていることが話題に。 第1章「抹茶ケーキと、花の有平糖。」では、高校2年生に進級した小春が、 愛衣と共にミステリー研究会に入部、朔也や由里子も部室に顔を出すように。 陰陽師の血を引く由里子と愛衣に、小春は澪人に失恋したことを打ち明けます。 その頃、賀茂家には、澪人が『審神者(さにわ)』に選ばれたとの知らせが届きます。 そしてその夜、櫻井家で行われた小春の誕生日会には、コウメや若宮も姿を見せます。 そのことに心を乱した澪人に、宗次朗は「紫桔梗の飴細工」を手渡し、語りかけるのでした。第2章「お知らせと小鈴の落雁。」では、澪人が前世の記憶から小春に取るべき態度に苦悩。しかし、澪人は『ミス研』で話題になった異変を確認すべく、小春と共に出かけます。そして、そこに現れた精霊の姿と、小春が見た白日夢の中で陰陽師が語った言葉から、安倍晴明が京に張った結界が崩れかけていることに気付いたのでした。第3章「涙のくずきりソーダ味。」では、澪人が事態を解決すべく自身のチームを結成。メンバーは澪人、小春、由里子、朔也、愛衣で、コウメも協力に駆けつけ、上賀茂神社、銀閣寺、八坂神社、松尾大社、金閣寺の5か所に分かれ祈祷することに。そんな時、小春は和人に映画に誘われ、そのことを宗次朗に相談するのでした。第4章「水晶の想い。」では、杏奈がテレビのトーク番組でおねだりしたデートを宗次朗が快諾。一方、小春は昼寝をして前世の夢を見ますが、宮様やその友人、左近衛大将が登場。宮様に仕えた日から左近衛大将との結婚、そして帰ることのない人になった日までを振り返り、彼への本心を認めることを恐れ、傷付け続けたことを激しく後悔しているのでした。第5章「神のみぞ知る午後。」では、和人と澪人が小春との関係について言い争いに。翌日、和人は映画に出かけ小春に交際を求め、澪人は陰陽寮本部長宅を訪ねたのでした。 *** 『美味しいものは心を救う』というのは、宗次朗がよく言っている言葉だが、 まさにその通りだ。 暗い気持ちを引っ張り上げてくれる力がある。 今後も、人生において、どうしようもなく落ち込んでしまった時は、 無理してでも最高に美味しいものを食べるようにしよう。(p.172)食べることは大切ですね。私は、ルフィや『カリオストロの城』でのルパンのことを、すぐに思い浮かべてしまいます。
2022.12.02
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「プロローグ」では、澪人に振られ、自分の力を失った小春が、 風邪で三日間寝込んでしまいます。 第1章「梅花の香りと豆大福。」では、初演映画で主役に抜擢された杏奈が、 監督との不倫疑惑で窮地に追い込まれ、『さくら庵』へと緊急避難しますが、 宗次朗から、自ら行動することを強く促され、東京へと戻っていきます。 一方、小春は和人に誘われ下鴨の家へ行き、杏奈・和人・澪人の母・繭美と対面。 しかし、思いもよらず出会った澪人から、和人との交際を非難する言葉を浴びせられます。 そんな時、弓道部の安倍由里子が『コウメ』からの言葉を伝えてくれたのでした。 第2章「水中花の涙。」では、澪人が小春の力が失われた原因に気付きます。朔也は『密教僧』の流れを汲む三善家の末裔で、『祓い屋』として活動していたのです。小春と澪人は、『コウメ』の助けを得ながら、朔也に封印解除を行わせますが、その際、小春は朔也の苦難の日々を知ると共に、彼に亡き母からの言葉を伝えたのでした。第3章「桜と船出と。」では、朔也が三善家について語り、和人が澪人に恋敵宣言。澪人は前世で左近衛大将だった頃の想いを振り返り、和人は小春を誘って丸山公園へ。そして、澪人は櫻井家を訪ね、吉乃からあのオルゴールのシリンダーを預かったのでした。そんな時、テレビで杏奈の記者会見が放送され、宗次朗はそれを浅草で見ていました。第4章「椿餅とさくらマカロン。」では、澪人が前世での玉椿姫との日々を振り返ります。結婚後、姫が自分を受け入れてくれないもう一つの理由を知った時の衝撃。しかし、目の前に現れた若宮からは「あなたは、何も学んでいないのですね?」の言葉が。そして小春も、前世で左近衛大将に嫌われようと振る舞った日々の記憶が蘇ってきたのでした。 ***小春と澪人、そして玉椿姫と左近衛大将の関係が、次第に明らかになってきました。まさにファンタジーですね。
2022.12.02
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