音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2013年10月13日
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 トレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)は、1964年、オハイオ州出身のアフリカ系米国人シンガー。奨学金を受けながら大学に通い、アフリカについて学んだりそれまでに体験した社会の矛盾をアコギに乗せて弾き語るようになり、1987年にセルフ・タイトルの本盤『トレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)』でデビューした。

 彼女のデビューはなかなかインパクトのあるものだった。1980年代の華やかなミュージック・シーンの中にあって、ギター1本でじっくり語り掛けるように効かせるタイプの女性ミュージシャンというのは、ある種、時代の流れと全く反対方向を向いていた。世の潮流に逆行したとはいえ、聴き手側の反応もよかった。このデビュー盤は、英米のみならず各国チャート(ドイツ、カナダ、イタリア、オランダなど)で1位を獲得。発売翌年のグラミー賞で3部門受賞(最優秀新人賞、最優秀女性ポップス・ヴォーカル賞、最優秀コンテンポラリー・フォーク賞)という栄誉に輝いている。


 収録曲の中でおそらくいちばんよく知られているのは、ヒット曲の2.「ファスト・カー」。最初のシングルとして全米6位、全英4位を記録した曲で、行く先見えない人生からの逃避=新天地へと導き得る手段が表題の“速い車”というテーマ。そのほか、個人的なお気に入りは、冒頭からインパクトの強い1.「トーキン・バウト・ア・レヴォリューション」。革命に向けて人々が立ち上がる予感を説得的に伝え語るヴォーカルの力強さがいい(ちなみに、大きなチャート・アクションはなかったが、この曲はセカンド・シングルとしてリリースされた)。

 さらに、聴き逃せない好曲が、アカペラの短編4.「ビハインド・ザ・ウォール」。詞の内容はかなりリアルで、“平和を守る”警察官が実際には何もできないししてくれない、でも隣家からは叫び声が響き渡るという、身近な社会の矛盾や不正義を静かに歌い上げる。

 最後に注目曲をもう1つ。8.「ホワイ?」も上記の各曲と同様に、決して飾らない演奏の中でトレイシーのヴォーカルが強いメッセージとなって伝わってくるナンバー。タイトルの“なぜ?”の問いかけはやはり社会が抱える矛盾に対してだが、上に挙げた2.や4.に比べてより普遍的な内容で、“食料は充ちているのになぜ赤ん坊が死んでいくのか”、“ミサイルは人を殺すためのものなのになぜ平和の番人と呼ばれるのか”などの問いかけの後、“愛は憎悪、戦争は平和、NOはYES、私たちは自由”と世の矛盾を鋭く風刺し、もうすぐ正直に答えられる世の中が来る(来てほしい)と結んでいる。もちろん、当時のアメリカ社会や冷戦末期の世界情勢を念頭に置いて書かれた曲だけれど、政治家の発言やマスコミ報道なんかで嘘と本当がイコールで結ばれ、オブラートに包まれた言葉でごまかされ続ける日本を見ていると、四半世紀経ってもこのメッセージは核心を突いた痛烈なものであり続けていると思う。



[収録曲]

1. Talkin’ Bout A Revolution
2. Fast Car

4. Behind The Wall
5. Baby Can I Hold You
6. Mountains O’ Things
7. She’s Got Her Ticket
8. Why?
9. For My Lover
10. If Not Now
11. For You

1988年リリース。







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Last updated  2013年10月13日 20時52分10秒 コメント(3) | コメントを書く
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