BLUE ODYSSEY

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ロザンナと少女 act.9~16


ロザンナと少女 [act.9]


電化製品のカタログはいろいろもらって来たが、その中でも洗濯機に目が行った。
日本製の新型洗濯乾燥機。
一層式で洗濯・脱水・乾燥を行う。回転ドラムは斜めについている。
日本製は一番安くて、一番性能がいい。
これを買えばまず問題はない。しかし、デザイン面ではアメリカ製の方が良いと思えた。

考えてみれば、ロンが洗濯機等に興味を示した事はここ何年もなかった。
こんなのは、好きになった女性がいればこそである。



ロザンナの洗濯機を使う姿を思い浮かべるロン。
彼は不意にメアリーアンの事を思い出した。
今ごろ、メアリーアンはロザンナに怒られているかも知れない。
そして泣いているかも。

そこで、メアリーアンの携帯にメールしてみる事にした。
しかし……、
なんと、メアリーアンのメルアドと番号は聞き忘れていた。

「しかたない」

また次の週末にお邪魔するまでお預けだ。







 ロンはロザンナの携帯番号とメルアドを知ったので、口実さえ見つかれば電話をかけてみようと思った。
現在上映されている映画を調べてみると、最新作に良いラブストーリーの作品があった。
男女の何気ない恋愛の形を題材にした映画。
ロンはそれを今の自分達とダブらせて考えた。
その映画は評判も上々で、大人の女性に人気があった。オシャレでハイセンスな映画。

「これだ!この映画を観に行こう!ロザンナはこんな感じの映画は大好きな筈だ。」

名作の誉れ高いこのような映画を観れば、感動して今の閉ざされたロザンナの心を開くかも知れない。さっそくロンは彼女に電話をかけた。





週末、ロザンナ、メアリーアンを連れてロンは映画を観に行ける事になった。
「初めてロザンナをデートに連れ出せた。」と思った。
しかし、映画館の席に着くと、真ん中にメアリーアン、その右隣にロン。左隣にロザンナが座った。
真ん中にメアリーアンを置くのはロンも賛成だ。彼女は守らねば。
しかし、ロザンナと離れて座るのは…。

上映開始直前、ロザンナの横には何となく雰囲気の怪しそうな男が座って来た。
ロザンナは美人なので、その席を狙って座ったという感じだ。
そこでロザンナは席を替わる事にしたが、ロンと入れ替わりに座っただけ。
彼女がロンの隣に座る事は無かった。

そこでロンはその変な男の横で2時間映画を観る事になった。
ロンは我慢した。

映画が始まった。
それはメアリーアンの好きな子供向けアニメ映画だった。






ロザンナと少女 [act.10]


映画の後、ロザンナはさっさと帰えろうとした。そこで、

ロン 「2人を夕食にご招待するよ。」

ロンはレストランに2人を誘った。
今日は最初からそう言って来ているのだが、ロザンナはそれを断った。

ロザンナ「もう”私達の分”の夕食は家に作って置いてあるので。」

彼女は断った。どうやら、メアリーアンに映画を観せるためだけに来たようである。

メアリーアン「ダメダメダメ!ロンといっしょにお食事するの!」

と、言ってメアリーアンはロザンナに抱きついたが、彼女の願いは聞き入れられなかった。







 ロザンナはロンと合うたび、眉間にシワを寄せるようになってきた。
ロンは彼女からやさしい言葉をかけられた事がない。
実際の恋愛とは「つまらなくて、苦しい事の連続」だった。
それでもだんだんと彼女に魅かれて行く。
なぜだろうか?彼女が自分に対して気を使ってくれた事は無いのに。
それに彼女の方はけっこうロンに辛く当ったり、何気ない言葉で彼を傷付けていたというのに。

例えばロンはメアリーアンの誕生日に買っていくプレゼントの事でロザンナにメールをした。
すると、初めて彼女から返信が返って来た。
件名は「RE:」でそのまま返されて来ただけだが。
中を開くと、

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そのお気持ちはありがたいのですが、これ以上ご迷惑はかけられませんで、プレゼントの方は結構です。



============================================================


と書かれていた。



気落ちした。
もう知り合って2ヶ月にもなるのに、徒労ばかりが積もった。





「仕方がないから諦めるか?」






ロンは自宅でソファーに寝そべったままテレビを点けた。

安っぽい映画の再放送があった。
内容は孤独になった男性が「グループお見合い」みたいなサークルに入るものだった。
主人公の男性はロンと同じぐらいの年齢に見えた。そして失恋して落ち込んでいた。

なぜかロンは身を起こして、真剣にそのドラマを見始めた。

数名の独身男性と独身女性が小さなビルの一室に集まり、そこでグループお見合いをする。
最初は緊張気味だった男女も、司会者の進行でじょじょに打ち解けていく。
そして、最後は簡単に数組のカップルが誕生した。
わずか半日ぐらいの時間でカップルが出来るのだ。

ロンは知らず知らずの内にその番組を食い入るように見つめていた。

それはドラマだったので、番組の最後の方では、絵に描いたようなカップルがいくつも誕生していた。これはドラマだが、確かにこれに参加すれば自分も簡単に”彼女”が出来るのではないかと思えた。

しかし………、
よく考えると馬鹿らしい。
目の前に好きな女性がいるのに、なぜそれを諦めてそんな物に参加する必要があるのだろう。
「ロザンナ=唯一の女性」である。






ロザンナと少女 [act.11]

ロンは最近また口実を作ってロザンナを映画に誘ってみたが、また「行かない」という。
「この間観たから」と言われた。

ロン 「それはアニメ映画じゃないか?今度のは恋愛物だよ。」

ロザンナ「そんなのメアリーアンには見せられないわ。」

そういう返事が返って来た。




ロンにはよくわからないがファションショーが近くのビルで行われるというのでロザンナを誘ってみたが、それも「自分の行きたいものでは無いので。」と断られた。


化粧品の安売りがあったので「それに行かないか?」と誘った。
これには反応があった。ロザンナはいつも使っている化粧品が切れていたし、それが半額ぐらいで買えるならいいなと。
でも、結局”メアリーアンを渡された”だけだった。
ロザンナはいっしょには行かないらしい。
それでメアリーアンをいつものように助手席に乗せて買い物に向かった。
その後、ロザンナの為にいろいろな12本の化粧品ボトルを買って帰った。




「すみませんね。ありがとう。」と彼女は申し訳無さそうに言った。

「(違うんだ。君の笑顔が見たいんだ。)」とロンは思ったのだが、それは言えなかった。

メアリーアンとはますます仲良くなった。しかしロザンナとは逆に離れていくような気がした。






自宅に帰ったロン。
疲れた。
メアリーアンと楽しく買い物をした所までは良かった。
しかしその後のロザンナのあの他人行儀な態度で、楽しい気分も一気に吹き飛んだ。

ロン 「(無意味だな。ロザンナを追うのは無理だ。諦めようか?)」

完全に徒労した。
もう3ヶ月目。はっきり言って脈は無い。







ロザンナと少女 [act.12]




ある日また車で公園に行った。今日は最初からメアリーアンと会う事を目的としていた。
その方が気が紛れる。ロザンナに声をかけても答えは決まっているのだ。
最近少々その答えには神経をえぐられるようになって来た。




ロン 「メアリーアンを連れて行きたいんだけど。」

彼女を連れて水族館に行った。
この子は最初からロンの事を好きなようだった。

イルカショーを2人で見た。多くの家族連れが来ていた。
メアリーアンと同じく子供がいっぱいいた。


やがて、イルカショーが終わった。

イルカのいるプール際に2人で腰掛けた。
今はイルカショーの休憩タイム。
人は誰もいない。
イルカも潜ったままだった。
静かで落ち着ける。



ロンはプール際に腰を下した。メアリーアンも側に寄ってきた。
彼女はロンが疲れているのを察して、声をかけてくれた。

ロン 「いや、僕は心配ない。
それより、ジョンがどんな人だったか知っているかい?知ってたら教えてくれないか?」

メアリーアンはまだ子供なのでそれなりにしか話せないが、それでもジョンの事で覚えている事や、ロザンナから聞いた話を聞かせてくれた。

ジョンは優しい人物でいつもロザンナに気を使っていた。
そしてロザンナも同じように気を使っていた。それで2人はいつも仲が良かったらしい。

ロン 「そうか……。僕では駄目だな。
お互いがそうしているといつも良い関係になるんだが…。
片方だけがどんなに取りつくろっても無駄なようだな。」

メアリーアン「ねえ、ロン。あなた私のパパになるの?」

ロン 「さあ、それは無理かも知れ無い………。」

メアリーアン「……………………。」

しばらく沈黙した後。

ロン 「そうなって欲しい?」

と、ロンは聞いた。

メアリーアン「うん。」

そう言ってメアリーアンは笑った。

ロン 「でもなれないんだ。君のママと仲良くなれないから。どうにもならないんだよ。」

メアリーアン「そんな事無いと思う。ママは貴方の事は嫌っていないわ。
ママはパパが死んで落ち込んでいるだけ。」

メアリーアンは”必死”だった。少なくともそう感じ取れた。
ロンだって最初はその必死さを持ってロザンナに接していたというのに。
メアリーアンの態度を見て、ロンは少し勇気が沸いてきた。

ロン 「難しく考えるのがいけないのかな?」

メアリーアン「うんうん。」

ロン 「もう少し努力だけしてみるか?」

メアリーアン「うんうん。」






ロザンナと少女 [act.13]


 しかし、メアリーアンをロザンナの家に送り届けると、別の男性がそこにいた。
ロンはロザンナからその男性を紹介された。

ロザンナ「こちら、私の仕事の上司で”スミス”さん。」

ロザンナはにっこりと微笑みながらスミスを紹介した。客人の前だからだろうが、初めて彼女が笑ったところを見た。作り笑いだが。
スミスとは少し”会い慣れている”感じがした。

スミスはロンと同じぐらいの年齢。高そうなビジネススーツを着て、ネクタイの柄も派手。
体格はがっしりしていて髪はオールバック。ぎらぎらした感じの肌と白い歯をしていた。
若々しい感じのハンサム。
たが、なんとなく……、変な感じもある。なんとなくだが。
それは言葉ではうまくいい表せない。

対して、今日のロンの服装は、休日なので使い古しのジーンズに普通の長袖だった。


スミスはさっそくメアリーアンを見つけた。

スミス「こちらがお嬢ちゃんのメアリーアンちゃんですね。
こんにちは。私はスミス。よろしくね。」

そう言ってスミスがメアリーアンに握手しようと、かがんで手を差し伸べたのだが…、彼女は握手しないでロンの足に抱きついた。

ロザンナ「メアリーアン!スミスさんにご挨拶したら!」

しかしメアリーアンはロンの向こう側に完全に隠れた。

ロザンナ「すいません、スミスさん。娘は照れているんですわ。」

スミスは苦笑いをして手を引っ込め、かがんだ背を伸ばして再び立った。そして今度はロンを見つめた。

スミス「で、こちらは?」

ロザンナ「ああ……、」

彼女はどう紹介しようか迷ったような顔をした。

そして「ああ、あの……、”知り合い”のロンさん……。」

スミス「ほう、どんな知り合い?」

ロザンナ「ああ、その、”娘の友だち”なんです。」

スミス「はあ?このお嬢ちゃんの?」

ロザンナ「いえ、その……、娘の方が勝手にこの人になついてしまって……。」

ロンはそれを聞いてショックが大きかったが、それでもポーカーフェイスを保った。
スミスも”それは単に何かの例えか口実だろう”とは思ったが、スミスから見てもロンとロザンナは親しそうに見えなかった。

スミス「こんにちは、ロンさん。私はスミスです。以後よろしく。」

スミスは握手を求めた。
ロンは内心すごく怒りを溜めていたが、ロザンナの手前それを表に出さなかった。
そして儀礼的に握手を返した。

ロン 「よろしく。ロンです。」

彼は握手だけして、他には喋らなかった。
ただスミスの目を見つめていただけ。それも睨むように。

それからロンはワザとメアリーアンを抱き上げた。
それは「ロザンナの子供がこんなに自分になついているんだぞ。」という所を見せたかったためかも知れない。
メアリーアンは喜んでいた。だか彼女はスミスの方には決して顔を向けなかった。

スミス「ああ、さて、私は帰るとしよう。では、また来ます。」

そう言ってスミスは帰って行った。






 いつもは気を使って早めに帰るロンだったが……、しかし、今日は気を使わない。居座った。
気を使う気も無い。

ロンはスミスの事を差しさわりなくロザンナに聞いた。

ロン 「彼、”仕事の上司”だって?いつから?」

ロザンナ「3ヶ月ほど前から。彼が新しくうちの会社に入社して来たの。」

ロン 「職場では同じ部屋?」

ロザンナ「ええ、そう。」

ロンはまだまだ聞きたい事は山ほどあった。

「彼とは親密なの?」
「いっしょに会社で毎日昼食食べてるの?」
「彼が今日来たのは仕事の話だけ?」
「彼は友だち?それとも恋人候補?」

などなど…。
しかしロンにはそれが聞けなかった。
聞いても、

「それが貴方に何の関係があるの?」と言われそうだから。

それでもロンがロザンナの方を睨むと、彼女は腕を組んで「ふーー。」とため息をついた。
そして、うなだれた。

ロンはメアリーアンがいる手前、いつもこの家の中では明るくおどけていたが、今日はそれがまったく無かった。笑顔が消えていた。

メアリーアンはすぐにその事に気付いた。
それで黙ってロンとロザンナのやり取りを遠目で見ていた。

ロンはソファーに座りもせずにその場にまだ突っ立ていた。
それでロザンナは自分から喋り始めた。

ロザンナ「まあ、その……、彼とは時々会って話をしているの。」

ロン 「会って、話を?」

ロザンナ「そう、たまに。」

ロン 「どんな話を?」

その後、ロザンナは黙ったままだった。
しばらくしてキッチンの方に逃げるように去った。

ロン 「……………。」

とにかくロザンナの言う内容はあいまいすぎて、それがロンの心をさらに苦しめた。

ロン 「(もう少し彼女と親しいなら、もっと踏み込んだ事も聞けるのに…。)」




いいかげん退屈して来たメアリーアンが、ロンに「トランプで遊ぼう!」と言ってきた。







ロザンナと少女 [act.14 ]


その日、
初めてロザンナはロンに夕食を出してくれた。
それは一応素敵な料理ではあったが…。
本当にロンをもてなそうとして作ったものかどうかはわからなかった。
なんとなくロザンナの態度もそっけない。
それは「友人を持てなす」ところまでいっておらず、ただメアリーアンと遊んでくれたお礼だと考える方がよさそうだった。

食事中のロンには笑顔がなかった。特に料理も褒めなかった。

ロザンナはメアリーアンの食事の面倒を見る事ばかりしていた。
食べた物を喉に詰まらせないようにだとか、ミルクをがぶ飲みしないようにだとか、野菜を残さないようにだとか。




そして食事は終わった。

ロン 「ご馳走様。ありがとう。とても美味しかった。」

ロンは一応お礼を言った。
だが、ロンの声のトーンは上がらなかった。





ロンが帰る時、ずっとメアリーアンが手を振っていた。






ロンは帰宅し、服のままベッドに寝転がった。

「ばからしい!ばからしい!」

ロンは大きな声を出して怒鳴った。

どういう事か詳しくはわからないが、ロザンナは3ヶ月ほど前からスミスとは知り合っていた。
もちろん会社の上司とかそういった事ではなく、男女として2人がどういう関係だかわからない。
ロザンナははっきり言わないし、聞けない。

思わず枕を持って、壁にぶつけた。

「ばからしい!もしかすると”彼氏”がいたのに、俺はこの3ヶ月一所懸命彼女にアタックしていたわけか?」

その日、怒りが湧き起こったような感じで、なかなか寝付けなかった。






次の週、またロザンナの所に遊びに行った。まずはメアリーアンを車で遊びに連れて行く。
(もうすでに、それが当たり前の事になっていた。)

メアリーアンと遊んで楽しい気分になったロン。
そして、その後、彼女を送り届けて、ロザンナの家にホンの1時間ほどお邪魔する予定だった。

しかし…、今日もスミスがいた。
ロンにとっての楽しい気分はそこで完全に打ち砕かれた。ロンからはまた笑顔が消えた。



ちょうどロンがロザンナとスミスのいる部屋に入った時、2人は映画に行く約束をしていた。
それは「ロンとは行かない」と言ったあの恋愛物の映画だった。
スミスはあっさりとロザンナから約束を取り付けると、
「では、これで失礼する」と言った。
映画には来週の日曜日の昼間、2人で行く事になったらしい。



スミスが帰った後、ロザンナはさすがにこれはいけないと思ったのか、ロンに取りつくろいを始めた。そういえば彼女からロンに積極的に喋りかけるのはこんな時ぐらいだ。

ロザンナ「彼は仕事上の上司なので断りきれないのよ。ごめんなさい。」

そう言って謝ったが…、ロンは心の中は怒りでいっぱいだった。
確かに自分は彼女の”恋人”では無い。
”友人”でも”親しい人間”でも無い。だから彼女を攻める事は出来ない。
それに彼女はこれまでロンにそっけなかった。これは彼女からの「断りの返事」も同然だった。
それをロンが勝手に諦めきれずに、彼女にアタックし続けたのだ。
だから……、
ロンは何も言えなかった。くやしくても。

ロザンナ「夕食を作るわ。ロン、あなたも食べていくでしょ?」

ロン 「いえ、結構。家に食事が用意してあるので。」

家に食事など用意して無い。しいて言えば冷蔵庫の中ある”残り物”。

メアリーアンはその場の雰囲気に気付いたのか泣き始めた。そしてロザンナのスカートを力いっぱい引っ張る。

ロザンナ「どうしたの?いったい?」

ロンは帰ろうとした。そして玄関の方に行く。
ロザンナはそれを追いかけた。メアリーアンも。

ロンが靴に足を通している時、メアリーアンがロンの服の裾をギュッと握りしめた。
そして泣いた。離れない。

メアリーアンを引き剥がすのに10分ほど時間をかけてから、ロンは去って行った。







ロザンナと少女 [act.15]


 家に帰り着いて、ベッドに身を投げるロン。泣きたいぐらいだ。

そこへいきなり携帯が鳴る。
初めてロザンナの方からロンの携帯に電話がかかって来た。

ロザンナ「今日の事は本当にごめんなさい。貴方の気持ちには以前から気付いていたのだけど……、ごめんなさい。」

ロンはどう答えていいものかわからなかった。彼女の言葉はあいまいすぎる。
「ごめんなさい。」とは「貴方とのお付き合いはお断りします。ごめんなさい。」の意味だろうか?そうとも取れる。

電話の向こうでメアリーアンが泣いていた。

ロザンナ「メアリーアンがあまりに泣くものだから、貴方に電話したの………。」

電話して来たのはメアリーアンの為?

とにかく彼女の真意はわからない。イライラが募る。どう解釈してよいやら。

ロン 「ちょっと聞いていいかな?」

ロザンナ「なに?」

ロン 「差し出がましい事聞くようだけど……、あっ、別に答えたくないなら答えなくていいんだ。
スミスとはどういう関係?恋人?それとも君は彼の事を想っているの?」

ロザンナ「……………………。」

ロザンナはしばらく答えなかった。

しかし、「決めかねています。」と言った。

ロン 「なにを?」

ロザンナ「”お付き合いして欲しい”と言われたので。」

ロンはショックを受けた。
ロザンナさえ、もう少しロンの方に関心を寄せる素振りを見せていれば、ロンだってそれは言えた。だが、彼女の「そっけなさ」がそれを言う機会を与えさせなかった。

ロン 「(くそ!)」

口にこそ出さなかったが、ロンは心の中でそうつぶやいた。

ロン 「で、どうされるんですか?
あっ、いえ、別に私にはそんな事をとやかくいう権利はありませんが。
その方とお付き合いされるのであれば、もうこれからは貴方の家にお邪魔するのが迷惑になるので止めようと思います。」

ロザンナ「…ええ、ですから、”決めかねています”と。」

ロン 「……………………。」

ロザンナ「……………………。」

言葉が続かなくなった。

ロン 「では。」

ロザンナ「あっ、はいはい………。」

ロンはそう言って、電話を切った。
これからはもう彼女に作り笑いの笑顔を向ける気にはならなかった。

詳しくはわからないが……、
これまでロザンナはスミスと連絡を取り合っていたのかも知れない。それでロンの誘いに応じなかったのかも……。
その説明なら確かにいままでの事と合致する。

ロンは憤慨していた。騙されていたような気分になった。確かにこれまでの彼女は冷たかった。

ロン 「それならそうと早く言ってくれればいいのに。」

これまでいったい何度彼女を誘った事だろう。
そして何度メアリーアンの面倒を見てあげた事だろう。
おそらくそれは今後「全てロンが勝手にやった事」で片付けられてしまうのだろう。
ああ、なんて……。










 次の週日曜日。
初めて彼はロザンナの所に行かなかった。
自宅のベッドで1人寝ていた。

ロン 「(何度もメアリーアンと遊んだ事も、彼女を誘った事も、電話した事も、全て迷惑だったというのだろうか?
くやしい。
仕方が無い事かも知れないが、どんなに努力してももう恋は実らないのか。)」




その時、彼の携帯に電話がかかって来た。
彼は着信記録も見ないで、電話を受けた。ロザンナからのような気がしたからだ。

「……………………。」

電話は無言。

ロン 「ロザンナ?」

メアリーアン「ううん、私。」

初めてメアリーアンから電話をもらった。
いつも明るく元気なメアリーアンの声が沈んでいた。

ロン 「どうしたの?」

メアリーアン「今からそっちへ行っていい?」

ロン 「え?」

ここは彼女の家から鉄道の駅で数えて5つほど離れている。
それにメアリーアンはここに来た事は一度も無い。

ロン 「ここは遠いよ。なぜ、ここに来たいの?」

メアリーアン「うん。ママが映画に行っちゃったから。」

やはりロザンナはスミスと出かけたのだ。

メアリーアン「ここでお留守番してるの。ロンに会いたい。寂しいの。いまからそっちへ行くから。」

ロン 「わかった。メアリーアン。今から僕が君の家に行くから。
そうだな45分。いや30分ぐらいで行くから。」

メアリーアン「ホント!待ってる!」

メアリーアンは喜んだ。






ロザンナと少女 [act.16]


ロンは着替えて、身支度を整えた。
あいにく髭はボウボウ、髪の毛は寝癖だらけ。
とにかく髭を剃り、髪の毛をとかした。

そして車に飛び乗った。
しかしガス欠寸前。おまけに車内は今日にかぎってたくさんの紙くずのゴミが散らばっていた。
ウインドウグラスも酷く汚れていたので、ロンはハンカチで拭いた。
案の定、そのハンカチは真っ黒になり使えなくなったので、それも車内のゴミ袋に捨てた。
とにかく早くメアリーアンの所に行ってあげたかった。

ガソリンスタンドに立ち寄った。あいにく混んでいて車の列が出来ている。
だいぶ待ってから給油してもらった。
満タンにし、そこでゴミも捨てた。

「洗車しますか?」

そういえば、ここの所はやる気が無くなって、いつもしていたボディーカバーをしていなかった。
夜の内に大雨が降り、車は元の色がわからないまでに汚れていた。

「いや、いい、後にする。」

その時点でもう40分も経っていた。

携帯でメアリーアンに電話する。
通じない。
慌てた。

車をぶっ飛ばして、15分後にロザンナの家に着いた。
玄関を叩く。

ロン 「メアリーアン!メアリーアン!」

応答無し。

そこでいろいろと家の窓を調べたが、どれも開いていなかった。

もう一度メアリーアンの携帯にかける。応答無し。
自宅電話にかける。誰も出ない。

ロザンナの所にかける。

「映画中だから繋がらないか。いや、メアリーアンを家に残しているんだから、繋がる筈だ。」

幸いマナーモードになっていなかった。繋がった。
メアリーアンから応答が無いと聞くとロザンナは驚いていた。
どうも朝からメアリーアンは風邪気味だったらしい。
でも娘が大丈夫だと強く言うので、1人家に残して出たらしい。



しかないので一度電話を切って、ロンは窓を壊して家に進入する事にした。
一番小さなトイレの窓ガラスを割って、柵も取った。
そして進入した。人一人なんとか通れるだけの広さ。



入って見ると……、
なんとメアリーアンは居間の絨毯の上で倒れていた。
慌てて病院へ連れて行った。また車をぶっ飛ばして。








 その後ロザンナに連絡がついて、彼女が病院にやって来たのだが、ちょうどメアリーアンが点滴を受けている最中だった。
ロザンナはメアリーアンのベッドの横に座って、彼女の髪の毛を撫でた。

ロン 「ただの風邪だそうだ。高熱が出たので倒れたのだとか。
点滴が済めば家に帰ってもいいそうだよ。しかし安静にする事が必要らしい。
あっ、そうだ。トイレの窓壊したよ。弁償しようか?とにかく修理屋に頼もう。今すぐに。」

ロザンナは立ち上がってロンの顔を見た。泣いていた。
そして初めて笑顔を向けた。

ロザンナ「ありがとう。」

ロン 「ああ、いいんだ。修理屋に頼んでくるよ。一階待合室の電話帳で修理屋を探す。
それから、君の家に行って業者の修理を見ているよ。
ほったらかしていると空き巣に入られるから。今晩中に直した方がいいだろ?」

ロザンナ「いいえ、私がやります。貴方はここにいてください。」

ロン 「ああ、でも、もう君がいるからメアリーアンは大丈夫だろう。僕が行くよ。
修理が終わったら、そのまま僕は帰るし。
今日来たのはメアリーアンが”寂しいから”って僕に電話をくれたからなんだ。」

ロザンナ「まあ、メアリーアンが貴方に電話したんですか?」

ロン 「そう。
それに、僕が君の家にいるとスミスが来た時困るだろ?」

ロザンナはスミスと聞いて急に悲しそうな顔をした。

ロザンナ「いえ、もう彼とは個人的に会わないわ。
今後、彼が私の家に来る事はありません。」

ロン 「そう。」

しかしロンはその後言葉を続けられなかった。

ロン 「(でも、どうせ僕には関係ない。)」

ロンは一階に行こうとした。

ロザンナ「待ってください。
そうだ、今日は家で夕食を作りますから、食べていってください。」

ロン 「映画に行って、それから病院に来て、君も今日は疲れただろう。
僕も疲れた。だから夕食はもういい。
コンビニで買って帰るから。」

ロザンナ「でも………。」

彼女はロンに切実な眼差しを向けた。
それはいままで彼女がジョン以外の男性に見せた事のない潤んだ瞳だった。

ロザンナ「私、貴方との事をこれから真剣に考えてみますから。」

ロン 「そう…………。」

ロザンナ「ええ、ぜひ考えさせてください………。」

ロザンナの表情はこれまでと明らかに違う。真剣にロンを見つめ、視線を放さなかった。

ロン 「とにかく今日は帰る。」

ロザンナ「駄目ですか………?」

ロザンナの表情が曇る。

ロン 「いや、とにかく今日は疲れたから帰る。また…、来週寄せてもらうよ。」

ロザンナは笑顔になった。

ロザンナ「ええ、ぜひまた来てください!」






ロンがロザンナの家に着いた頃、幸い修理屋はすぐに来て、窓の修理は済んだ。
それでロンはまた病院に戻って来た。ちょうどメアリーアンの点滴が終わる時間だったから。
ロンは車に2人を乗せて、ロザンナの家に向かった。


メアリーアンをそっとベッドに寝かしつけた後も、ロンはなかなか家に帰れなかった。
ベッドの上のメアリーアンが彼を強く引き止めていたから。









THE END











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