BLUE ODYSSEY

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恋のキューピットがやって来た!


恋のキューピットがやって来た! [act.1]









 僕は大学の2回生。名前は光(ひかる)。








「来ない。僕にはどうして燃えるような恋がやって来ないんだ。」

僕はつぶやいた。

「つぶやいても、どうにもなるもんじない。」

それだけ言って、学生寮の自室の畳の上にゴロンと横になった。

「畳がダメなのかな?」

今どき畳は古いかも。でも現実の格安下宿はこんなものかも。
しかしながら畳を敷いてるような寮に、今どきの女の子が遊びに来る筈も無い。

「それとも僕が童顔だからいけないのかな?」

側の背の低いテーブルの上に置いてあった100円のミラーをつかんで引き寄せた。
そこに自分の顔を映してみる。

がっくり。

「はあ~~~~~~~。」

その時、同級生の事を思い出した。

「ああ…、”学”(まなぶ)のヤツはいいよなあ。彼女が出来て。」

最近”学”には彼女が出来た。これで彼はつるんでいた男友だちの仲間から”脱会”である。




彼女の[いない男]と、[いる男]では人生に差が出てしまう。そんな気がしてならない。



【いる男】は彼女とのデートの為に毎日スケジュール調整に忙しい。

【いない男】は人生の空き時間の穴埋めをするのに忙しい。



1人は気楽ではあるが、時として空しくもある。







ふと、寝転がった位置から窓の外を見ると……、いい陽射しが入って来ていた。
そこで起き上がって、おんぼろ下宿の窓に付いた錆びた窓枠の手すりから下を見る。


すると、なんと!


この同じ寮に住む”彼女いない歴20年”の自分とどっこいどっこいの友人の”瀬川”のヤツが、彼女らしき女の子を連れて、楽しそうに出かけて行く姿を目撃してしまった…。
ノートと教科書の入ったバインダーを持って、瀬川の後を追って行く彼女。
パッと見、2人は仲が良さそうである。


「そんなばかな…。」


もうすぐ夏休み。
大学の夏休みは2ヶ月間もある。
期間が長いからハッピーライフが待っている………、と思いきや、そんな悠長なものでは無い。


”学””瀬川”はもういない。行ってしまった。僕を1人残して……。

僕には楽しい夏休みはやって来ない。代わりに空しい時間の流れが迫りつつあった。
学校が終わって休みに入るまでもう1週間ぐらい……。



「少しがんばってみるか?」

僕はそう思い立った。







恋のキューピットがやって来た! [act.2]



 さて次の日、僕は学校に授業を受けにやって来た。

[横山 さゆり]という女の子が同じ学科にいた。
彼女がバッグから携帯を取り出す姿を目撃した者はいない。
彼氏がいるという噂を聞いた事も一度も無い。
学校に来る時の服装だって、いたって普通で地味。ちょっと古ぼけたジーパンに赤いスニーカー。
上はTシャツ。何かのプリント入り。
服装・髪型からは「周りの男性を意識していない」事が明白である。


「ようし!一度彼女に声をかけてみるか?!」


他の女の子にはいつも何かしらの恋の噂があるので……、”噂が無い”と言うだけで僕は彼女をターゲットに決めてしまった。
若いとはある意味素晴らしい………。






 さゆりに声をかけに行った。
普段から、見かけはあまり少女っぽくない彼女は、他の女の子よりはるかに声をかけやすい。
しかし、いざ声をかけるとなると…、やはり異性である事を強く意識してしまう。

だが、ここで引き下がるわけには行かない。もう”恐怖の夏休み”はそこまで迫っているのだ。
そこで頑張って軽くデートに誘ってみた。




すると…………、




彼女は「今は彼氏はいないが、好きな人はいる」と言う。
そう言ってやんわり自然に断られた。
これまで彼女に”異性”を感じた事は無かったし、”大人”を意識した事もなかった。
だが、こっちの話を真剣に聞いてくれたのは嬉しかったし、キチンと答えをくれた事にも感激した。
それにより、彼女の違う一面を見た気がした。「彼女は自分よりも大人だな」と思った。








「なにをしている?」

さっき、さゆりに声をかけたのを、同じ学科の”細木”のヤツに見つかってしまった。
細木は普段からよく女の子に声をかける男だ。
実際にキャンパス内でそんな事をしてるヤツは珍しい。
テレビドラマとは違って、学生はそんなに恋を実らせようと必死になる事はない。
必死になっても、テレビドラマのような両思いの恋などめったにやって来ないからだ。

細木は喜びに満ち溢れたような表情で、ゆっくりこっちに近づいて来た。
「同じ仲間がいた。」とでも言わんばかりに。

細木 「普段から女の子に声をかけてないお前が、いったいどういう風の吹きまわしだ?」

まあ、それで僕は軽く細木にいきさつを話した。

細木 「あははは!1週間で彼女を作ろうなんざ、どだい無理な話だ!」

きっぱりとそう言われて、僕はガックリした。
その後、「彼女を作るのにどれだけ苦労するか」等、その体験談を聞かされ……、僕は耳を傾けた。
「なるほどな。」と思う部分がいっぱいあった。ありがたいお話だった。


その後、彼と別れて僕は別の教室に向かった。







恋のキューピットがやって来た! [act.3]


 そう言えば、彼氏がいないので有名な[秋山 留美]ちゃんという女の子がいた。忘れていた。
すごく少女っぽくて、かわいい女の子。
自然な長めのへアースタイルで、とにかく髪の毛の量が豊か。
童顔で、笑うとアイドルみたいな顔になる。

彼女はいつ見てもかわいいのだが…、異性に興味が無いらしい。
だが男性に声をかけられる事はしょっちゅうである…。

そこで、僕はダメ元で彼女に近づいた。どうせダメ元。
多くの勇者達が退治をしに行って、退治できなかったドラゴンを、この自分が倒せるとは思わない……。

確か以前は細木のヤツも彼女に声をかけたと言っていた。それに、この学年で一番かっこいい男とされる光明寺のヤツも彼女に声をかけたらしい。だが、未だに留美ちゃんが男性といっしょに歩いているのを見た事が無い。

そこで声をかけに行った。
そうそう、まずは”友だち”から。そんなに緊張する事も無いさ………。



ゴクッ。



緊張しまくり……。








彼女はゼミの休憩室にいて、他の学生は誰もいなかった。

チャンスだ!

高鳴る胸の鼓動を押さえながら、留美ちゃんの近くまで歩いて行った。
そして、僕の足音に気付いて顔を上げた彼女と目が合った。
くっきりとした愛くるしい瞳でじっと僕を見つめている。
その表情、仕草!かわいらしすぎる!

「あっ、あのう………。」

僕は、勇気を振り絞って声をかけた……。
だが、その後はしどろもどろだったのは言うまでもない。






しかし、





なんと、





彼女と映画に行く約束を取り付ける事に成功した。
いきなりの快挙!

「やっほーーーー!!」

バラ色の人生のスタートか?!









しかし、当日彼女は2人の友人(女の子)を伴って現れた。

「あれ?」

そして、僕らはピクサーの3Dのアニメ映画を観た。
恋愛物じゃなく、ファンタジー物じゃん!しかも子供向け?

その後、皆でファーストフードショップに行った。
そこの2階のテーブル席に着くと、さっそく女の子は自分達だけで「きゃあきゃあ」言い始めた。
こっちは話に参加するのもままならない。第一、話のテンポが異常に速いし、切り替えも早くて1つの話題を掘り下げようとしない。
これでは話に入りようがない。
話のイニシアチブがまったく取れないのは、男として何か息が詰まるような屈辱感があった。

「(はぁ~~~~~~。辛い。)」

留美ちゃんは美少女。その友人である2人の女の子もかわいい。
だがしかし、いっしょの席に座っても、その「無視されたような時間の流れ」は苦痛でしかなかった。

2時間ほどそこにいて、やっとその店から出る事になった。
結局、誰も僕の事については何一つ聞いてもらえなかった。

「(これから、どうしようか?がんばって留美ちゃんと2人きりになれるチャンスを待つか?)」


しかし……、

留美 「じゃあ、私達はこの後、”女性だけ”で買い物に行きますので、これで。」

これで…失礼するつもりらしい。

そして、あっさりとその場を去られた。
次に会う約束などする暇も無かった。
それに向こうにはそんな気はさらさら無いらしい。それがようやくわかった。







 翌日学校で、彼女に直接会って話を聞いたが……、そのニュアンスからやはり自分は「友だち扱い」なのだという事がわかった。
くやしい。だが、しかた無い。






恋のキューピットがやって来た! [act.4]




 その日、がっくりして下宿に帰った。

下宿だと、通学時間がかからない。その浮いた分の時間でいろんな事をエンジョイできそうだが…、実際には何をエンジョイしていいのかわからなかった。
多くの下宿仲間達は「レポートをするか、バイトに行くか、テレビを見るか、漫画を読むか、ゲームをするか」等して過ごす。
「”彼女”と輝ける未来に向かってデートをする!」などという野朗はほとんどいないに等しい。






「はあ~~~~」

また畳の上でごろんと横になる。畳はいいもんだ。
でも、疲れた。昨日今日と、どうも留美ちゃんとその女友達のせいで精神的に疲れたようだ。

「どうしてダメなんだろうか?どうして何も進展しないのだろうか?

人生が停滞している!

なにかいい方法は無いかな?」

ふと下宿のドアの郵便受けを見る。中にはダイレクトメールが唸るほど入っていた。
その全てを両手でつかむ。そしてそのままゴミ箱へバサッと!

しかしその時、一通の封筒が目に止まった。
それは真っ白な封筒で、分厚い紙に羽の絵のレリーフが入っていた。
上品なデザインだった。結婚相談所から来たみたいな感があるが……、それとも少し違うような豪華で透き通るようなデザインの封筒だった。
思わず手に取ってみたが、ずしりと重い。
しかもあて先は自分の名前が書いてあるのみ。住所は書いて無い。
差出人は『キューピット・クリスチーナ』となっていた。差出人の住所は『天上界』となっている。

「キューピット・クリスチーナ???? 天上界?」

不思議な封書だった。
それで興味が沸いて、その封筒を開けてみた。

パサッ!

何か密閉容器を開けた時のような音がした。
そして中からいい匂いが漏れて来た。
さらに、金粉のようにキラキラ光る粉がこぼれて来た。
封筒の中の便箋を引き出す。それは発光しているようにも見えた。

「目の錯覚かな?」




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香坂 光様。

はじめまして。

私、人間の男性を探し始めていた矢先に、偶然貴方のお姿が目に止まりましたので、ご連絡差し上げたしだいです。

もし、よろしければ、私が貴方の恋のお手伝いをしたいと思っています。

私の力がご入用なら、この封筒を閉じてポストに投函してくださいね。

貴方のお力になれますように。


                              キューピット・クリスチーナ



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意味がわからない内容だった。唐突だし、話の持って行き方が一方的。
何かの勧誘だろうか?
まあ、女性的な文章の書き方ではある。しかし、こういう物にはたいてい裏がある筈だ。




君子、危うきに近寄らず。




「ポストに投函して」とは言うが、その為の返信用封筒や切手は入っていない。
しかし、この手紙は手書きである。文字がかなりかわいい。差出人が女性である事は間違い無い。
でも、いったいこれは…………?

中には注意書きのメモも入っていた。



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この封筒に切手を貼らずに、そのままポストにお出しください。


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「???」


出すか出さないか、それからずいぶん考えた。
でも、どう考えてもおかしい。
これではポストに投函しても相手に届く筈がない。









恋のキューピットがやって来た! [act.5]


 次の日。

一応その封筒をズボンのポケットにねじ込んで学校に向かった。

留美ちゃんがいる辺りのゼミの休憩室の横を通った。

そこで衝撃的な事実を発見!

なんと、あの留美ちゃんが男子学生に言い寄られていた。
その男子学生はどこの学科の何回生だかわからない。
初めて見る顔で、アニメ風の顔にも見える留美ちゃんとよく似合う感じの美少年だった。

「(やばい!!!)」

そう直感した。



2人は別々の講義に出る為、いったん別れた。
留美ちゃんは去り際、ごく自然に彼の背中を触った。

これは決定的だ!

留美ちゃんはスキップ気味で廊下をこちらの方に向かって歩いて来た。そして、僕とすれ違った。
彼女の顔は幸せそうに見えた…。

その時、留美ちゃんは僕に「おはよう!」と明るく声をかけてくれた。
あの男子学生と話しているのを見られても全然平気なようすだ。
という事は…………、

ガックリした。

そして僕は肩を落とした。腕がだらんと垂れた。
留美ちゃんはそんな僕の姿を振り返って見る事もなく、通り過ぎていった。





その後、僕は学内にある”郵便ポスト”の所に向かった。もちろんあの封筒を出すつもりで。

そのポストには誰がラクガキしたのか、女の子の文字で、

『ここに投函すれば恋が叶う!私が実証済みv』

と書かれてあった。
だから、そこにあの白い封筒を投函した。






それから、1日経った頃、
僕は下宿に帰って、無気力になった。
布団も敷かずに畳の上にごろ寝した。
座布団が枕代わり。


辛かった。


何か、急に自分の回りが暗くなったような錯覚に陥った。

そして夜……。
枕代わりの座布団を涙で濡らした。






恋のキューピットがやって来た! [act.6]



 次の日、
学校をザボる事にした。行く気がまったくしない。

「たまにはサボるのもいいものだ。」

その時突然、下宿のドアが開いた。

そして外から、空中を、女の子が飛んで部屋の中に入って来た。

彼女の背中には羽が生えていた。それも白い羽が。
足は地に着いていなかった。地上から約50センチほど浮いていた。
その女の子は全身白く発光する光に包まれていた。肌も白い。
人間で言えば、16歳ぐらいの年齢だろうか?
顔は大変な美少女。シルバーの髪の毛が射すような美しさを演出していた。
瞳もぱっちり。とにかく大きな目だ。白目の白さがなぜか眩しかった。


その少女はふわふわと空中を漂いながら、自分のすぐ側まで飛んで来た。

クリスチーナ「こんにちは。私はクリスチーナ。光さんですね?」

「なんだ?君は?」

僕が大きな声を出したので、彼女は慌てて下宿のドアを閉め、僕の顔に近づき唇にそっと指を当てた。

クリスチーナ「しーーーーーーーーーーー!!」

「君はいったい何者だ?」

クリスチーナ「私はキューピットです。」

「キューピット?」

クリスチーナ「はい。恋のお手伝いをするキューピットです。」

そう言って彼女はフラフワと畳の上に降りて来た。そしてそこにべったりと女の子座りをした。
クリスチーナがゆっくり降りる所を目で追っていたら、なんだかこっちの気持ちも落ち着いてきた。

「ふーーーーーー。」

クリスチーナ「ニコッv」

空飛ぶ女の子を見て、何を言っていいのかわからない。

「あのーーー、結婚相談所かなんかの人?」

クリスチーナ「はあ?」

彼女は首をかしげた。

クリスチーナ「私は貴方の恋愛のお手伝いをしに来たのです。」

「どこから?」

クリスチーナ「天上界から来ました。」

「……………………。」

クリスチーナ「貴方は封筒を投函してくれました。私は貴方に呼ばれてやって来たのです。
貴方の恋のお手伝いをしたいと思います。」

「無料ですか?」

クリスチーナ「……………………無料です。」

「”恋のお手伝い”というと、具体的にはどんな事をしてくれるのでしょうか?」

クリスチーナ「はい、貴方が好きになった人と、貴方との恋の仲を取り持ちます。」

「えーーーと、どのような方法で取り持ってくれるのでしょうか?」

するとクリスチーナは光り輝く弓と一本の弓矢を取り出した。それは楽器のような感じで、装飾もふんだんに付けられていた。

クリスチーナ「これです。この矢を相手の女の子に命中させれば、一撃で相手の心を自分の物にする事が出来ます。」

それはかなり大きくて長い矢だった。

「これがずっぽりと刺さるわけですか?女の子の身体に?」

クリスチーナ「ええ。」

「大丈夫ですか?痛くないんですか?」

クリスチーナ「少し痛いです。」




「えーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




クリスチーナ「でも大丈夫。傷跡も残りませんから。」

「(なんて他人事チックな言い方なんだ!)
これは、一度刺さると、ずっと刺さったままですか?」

クリスチーナ「はい。でも、”使用者”つまり貴方にしか見えません。
他の方には見えない矢なんですよ。」




しかし、とにかく”無料”というのに魅かれた。金はもともと無いから。
それで、その愛の矢で留美ちゃんをズボッと突き刺してもらう事にした。








恋のキューピットがやって来た! [act.7]




 さっそく大学に行く事にした。
だるさは当然取れていた。つくづく自分は気分屋であると思う。

クリスチーナもいっしょに付いて来る事になった。あの弓矢を撃つためである。
彼女は飛ぶのは止めて、歩いていた。
羽は魔法で隠し、学生服のような物を魔法で出現させてそれを身にまとった。
どうやら”人間”になりすますようだ。

彼女の瞳は薄いエメラルドグリーン。髪の毛はシルバー。
それだけでも充分異質だが、彼女はそこまで人間風に変えるつもりはないらしい。
案の定、彼女を連れて歩くと……、他の学生が振り返る!振り返る!







そして、いつものゼミの休憩室にいた留美ちゃんに近づいた。
彼女は例の男子学生と楽しくイチャイチャしていた。

その楽しそうなはしゃぎっぷりを見ると……、もうダメかと思えた。

それで不安になってクリスチーナに小さな声で話しかけた。

「その矢を撃つと絶対に上手くいく?」

クリスチーナ「まあ、40パーセントは”貴方への好感度”がアップします。」

「それって、どういう意味?」

クリスチーナ「つまり……、相手がぜんぜん貴方の事を好きで無くても、”40パーセントは好感を持ってくれる”という意味です。」

「え?40?100じゃないの?」

クリスチーナ「さすがに恋の弓矢と言えど……、そこまでは力がありません。残りの60パーセントはご自分の力で導き出してください。」

「……………………。」

クリスチーナ「恋というものは、自分の力でつかむ事が大切なのです。」




「つかぬ事をお伺いしますが………………、矢を2本、一度に相手に当てるとどうなりますか?」

クリスチーナ「そういうのには対応してません。当てるのは一度に一本だけです……………。 
それに貴方に差し上げる矢は一本しか持って来ていません。」





 とにかく撃ってもらう事にした。
クリスチーナは美しい真っ白な腕を出して、恋の矢を放ったが、腕前は相当悪く命中させる事が出来なかった。

それでまったく知らない別の通りすがりの女の子に当って……、僕はその子に追いかけられた。

「なんとかしろ!」

クリスチーナ「女の子に突き刺さった矢を引き抜けばいいんです!」

「うわわわ!無理だよ!彼女に抱きつかれそう!君が抜いてくれ!」

クリスチーナ「矢は貴方でないと抜けないんです!」

言われて、僕はその見知らぬ女の子に刺さった弓矢を引き抜いた。
抱きつかれた時に背中から抜いたのだ。

女の子はすぐに正気に戻って、

「きゃ~~~~~~~~~~~!!!」

と、悲鳴を上げた。

それで僕から逃げた。
どうやら、矢を引き抜くと恋する気持ちがすぐに消えるようである。







クリスチーナ「とにかくテストは成功しました!」

「え?テスト?……………………。ホントにテストだった?」

クリスチーナ「……………………。」

「今度は命中させてね。 
いや、させろ!」

クリスチーナ「はい…………。」








恋のキューピットがやって来た! [act.8]


 今や人間同様の姿のクリスチーナは、1人で留美ちゃんをおびき出してくれた。
さすが女同士、留美ちゃんは疑いも無くクリスチーナに付いて来た。
そして、人気の無い場所で、クリスチーナは留美ちゃんに向けて矢を放った。それは至近距離からで、いかに撃つのが下手なクリスチーナでも狙いを外す事は無かった。

その時は僕も近くにいた。矢が刺さった時、相手の視界に入らなければ効果が無いらしい。
しかも自分がその視界の中心的存在でなくてはいけないらしい。
クリスチーナは姿を消して、代わりに僕は彼女の前に飛び出した。

矢が刺さって苦しむ留美ちゃん。

「大丈夫?」

そう言って留美ちゃんを抱き起こすと、
しっとりと濡れたような潤いのある瞳で見つめ返された。
頬もいくぶん紅葉している。

留美 「やさしいのね。」

「(いける!)」



しかし、留美ちゃんはその後、何か思い悩むように下を向き………、

「やっぱり、ダメ!」

と言った。
そして立ち上がって”彼”、つまり例の男子学生の元に走った。彼女は泣いてるように見えた。




そしてある教室で”彼”の姿を見つけると…、思わず彼に抱きついた。

彼 「留美、どうして泣いているの?」

留美 「今、はっきりわかったの。貴方が好き!これからお付き合いしてください。」

彼 「わかった。」







ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!






「クリスチーナ、これ、いったい、どういう事?」

クリスチーナ「ああ、あの…………、もともと留美ちゃんが”彼”を好きだった気持ちが高すぎたんですね。
そう、それで弓矢で”40パーセントの好感度を得た貴方”より、
”40パーセント以上の好感度で想っていた彼の方”に彼女は行ってしまったわけです。
はい……。」

それを聞いて、僕はガックリした。








恋のキューピットがやって来た! [act.9]


 次の日、学校で留美ちゃんが僕に会いに来てくれた。
彼女は「僕への気持ちで苦しんでいる」と話した。

その気持ちは嬉しかった。それだけでもういい。
僕は彼女に刺さった矢を抜いてあげた。

すると…、彼女はまったく僕の事など気にかけなくなった。

留美 「あれ、私、今、何を言ったのかしら?あれれ?」







ガーーーーーーーーーーン。






泣いた。

彼女の為を想って矢を抜いてあげたとは言え……、このパンチは効いた。







 その日も学校から帰って来ると、僕は下宿でごろ寝した。
もはや無気力。
もう声をかけるあてもないし……。

クリスチーナが僕の側に座って、微笑みかけた。

クリスチーナ「まあ、こういう時もありますよ。がっかりしないで。」

「くそう。まるっきり他人事な言い方………。」

クリスチーナ「そんな事ないですってばぁ。」



クリスチーナの方を睨んでやったが……、
女の子座りをしている彼女が妙にかわいく見えた。

でも、まあ、僕も疲れていたので、それ以上は気にかけなかった。

その後、彼女も疲れて、そのまま壁にもたれて寝てしまった。



こういう時どうすれば、良いのだろう?

起こして布団に寝てもらうのがいいのだろうか?でも、起きるとどこかへ飛んで行ってしまうかも知れない。
少なくとも寝ている内は”彼女はここにいてくれる”わけだ。
朝、起きた時、彼女がいないのも寂しい気がした。

そこで……、彼女の横に音を立てないように布団を敷いた。そこに横になってもらおうと、彼女の肩をつかんで慎重に寝かせた。
疲れていたのか、それとも起きてどこかへ帰る気も無いのか、
「ううん~。」と少し目を覚ましただけで、彼女は布団の上で再び眠り始めた。



「ふーーーーーー。」



彼女に布団をかけてあげた。

その寝顔の綺麗な事。







恋のキューピットがやって来た! [act.10]


 次の日。

「あのさ、その矢、人間が撃っても同じ効果があるの?」

クリスチーナ「やった事はありませんが、たぶん効果があります。
ええ、人間でも撃てると思いますよ。」

「そうか、ではその弓を貸してくれないか?
自分で撃つ。
そう決心したんだ!
もう一度、その矢を使って恋を実らせる。
40パーセントはそれで確保できるから、後は自分で何とかする。
君が”恋というものは、自分の力でつかむ事が大切です。”と教えてくれたからね。」

クリスチーナ「そうですか!その心構えは大事です!
それに元気を取り戻されて何よりです!
これで私も人間界に来たかいがありました。」

「へっ、そう?」

クリスチーナ「ええ、人間の恋を1つ成功させると……、天上界から1ポイントもらえるんです。
それがたまると、私も自分自身の為に恋の矢を使えるようになるんです。」

「へっ?」

クリスチーナ「私、矢を撃ちたい人がいるんです、同じキューピット仲間に!」


ガクッ!


その言葉を聞いた時、なぜか僕はすごくがっかりした。
それは留美ちゃんが例の男子学生と付き合うと言った時より、気落ちしている事がわかった。

「その人とはどんな関係?」

するとクリスチーナは顔を赤らめ、

クリスチーナ「いえ、別に関係は無いですよ。単に私が一方的に憧れているだけなんです。
まだ話した事も無いんですよ。」

「(キラ~~~~~~ン!)

そう!
じゃあさ、とにかくこの弓矢は借りるよ。」

クリスチーナ「はいはいv 
がんばってくださいねv 私は撃つのがヘタですから、貴方が撃った方がいいかも知れません。」

「そうだ、今日はこの部屋使って休んでていいよ。テレビでも観てて。
君にお礼がしたいな。今夜は飲もう!
夕食も良いのを買って来るから!君は人間の食事は食べられるの?」

クリスチーナ「まあ、私は人間と違ってキューピットだから…………、食べます。」

「お酒は?」

クリスチーナ「まあ、私は人間と違ってキューピットだから…………、飲みます。」

「(うっしっしっしっーーーーーー!)

よしよし。今晩は君にお礼をする。ここでいっしょに飲みまくろう!
学校帰りにお酒やおつまみを買ってくるから!」

クリスチーナ「お祝いですね!じゃあ、今日中にその矢を命中させないといけませんね!」

「そうだね。では、僕はそろそろ学校に行くから!
君はゆっくり休んでいてください。」






恋のキューピットがやって来た! [act.11]


 夕方になって、僕は学校から下宿の方へ帰って来た。
両手にいっぱいの夕食とおつまみとお酒をたずさえて。
でも、クリスチーナは僕が”矢”を持って帰って来たのを見つけて、心配そうに聞いた。

クリスチーナ「撃たなかったんですか?」

「ああ、矢を構えたものの、撃てなかった。そのチャンスが無かったんだ。
でも、明日はきっと撃つ!そして恋を実らせる!
なんと言っても明日は”最後の登校日”だからね。」

そう言ったのでクリスチーナは安心した。
そして、僕は買って来たピザやフライドチキンを彼女の前に差し出した。

クリスチーナ「わあvv」

明日になれば天上界へ帰れるという期待感からか、彼女はお酒をたっぷりと飲んだ。
さすが最近の女の子…、いや、最近のキューピットは違う!男よりいい飲みっぷりだ!





そして……、飲み潰れて彼女は布団の上に寝た。





「(うししし!作戦成功!)」

そして僕はそーーーーーーと、弓矢を取り出した。

「(悪く思うなよ。)」






グサッ!






弓矢はクリスチーナの身体に命中した。

クリスチーナ「うう……。」

クリスチーナは起きた。そして痛そうな顔をした。

矢は彼女の身体に深々と刺さっていた。
自分に刺さった矢を見て、彼女は何事が起こったのか理解したようだ。そして僕を見つめた。

クリスチーナ「矢を抜いてください。どうして私なんか撃つんですか?間違えたんですか?」

「いや、間違えてない。」

すぐに弓矢の効果は現れて、クリスチーナは何となくしおらしくなった。そして頬が赤く染まった。

「まあ、今日はとにかくその豪華なベッド…、じゃなかった、布団でぐっすり寝るといいよ。
明日になって、君が二日酔いじゃなかったら………、2人でどこかへ出かけない?
そう、映画でも見に行こうか?!
僕の方はもう夏休みで時間空いてるしv」








THE END







フッ!w


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