BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

第7話 委員長の恋 act.21~30




次の日の朝、クリスから委員長の元へ電話がかかって来た。

クリス「異常無い?」

委員長は嬉しくなった。

委員長「(クリス君の方からかかって来たわ!しかも私を心配して!)」

そこで気を良くした委員長は昨日のクーガの事をやっぱりクリスに話す事にした。

クリス「”知り合いに不幸が”?」

委員長「ええ、彼はそう言ったの。本当に私が1人でいる時間がわかるみたいだわ。」

クリス「確かにこの間の予言は的中したからね。
よし!今からそっちへ行く。
それから話そう。電話だと盗聴される危険だってあるし。
いや、待って!
今度からノアボックスの専用携帯を使ってくれ。それだと一般には盗聴できない。
とにかく今から君の家に行くよ。」

委員長「そう、待ってる!」






クリスが来るというので委員長はとたんに元気になった。
昨日味わった不安はどこかへ消えた。
そして、いそいそと部屋を整理して掃除した。
それからキッチンに入り、急いでお茶やお菓子の準備をした。






ピンポ~~~~~ン!

玄関のチャイムが鳴った。
おそらくクリスが来たのだろうと言う事で、委員長はエプロン姿のまま玄関に走って行った。
しかし期待にそぐわず、クリスはスポルティーファイブのメンバーを伴って現れたので委員長はがっかりした。玄関を勢いよく開けた委員長の目に飛び込んで来たのは紛れもなくクリスだったが、その後には”ふろく”も付いていた。

神田 「なんやねん委員長?その小学生の女の子が着るみたいな柄のエプロンは?」

委員長「……………………。」

神田 「それにしても、ここが委員長の家かいな?へーーーーー、結構金持ちジャン!」

委員長「……。」

神田 「玄関は掃除も行き届いているし、インテリアのセンスもまあまあやね。」

委員長「……。」

神田 「まあ、委員長のイメージ通りの家やな。お金持ちの家に産まれてワガママほうだいに育てられたちゅうのがようわかるわ!」

委員長「……。」

神田 「なんや、委員長?!その目は?!」

委員長「……。」

神田 「そんな露骨にイヤそうな顔せんといてや!」

委員長「……。」

神田 「俺が来ると嫌やとでも言うんかいな?!とにかく、上がらせてもらうわ!」

委員長「どうして貴方がここに来たのよ?!」

神田 「来ちゃ悪いか?!委員長の事を心配してここに来たんやで!」

委員長「アンナが来たからついて来ただけじゃないの?」

神田はアンナの方を少し見た。

神田 「そないな言い方って!
まあ、それもあるけど…………。」

委員長「くーーーーー!!!!!」







委員長はともかくクリス、アンナ、豪、そして…………”ふろく”約1名を家の中へ招き入れた。
全員2階の委員長の部屋に上がった。
委員長は上品なティーカップに紅茶を煎れて皆に振舞った。

神田は委員長の部屋のアチコチを観察し始めた。勉強机だとか、本棚とか。

神田 「はあーーー。
オナゴの部屋やなーー!ちょっとかわいらしさには欠けるけど!!」

委員長「……………。」

神田は委員長の部屋の中をウロウロしていろんな物を観察した。
おかげで本棚に隠していた恋愛小説と恋愛漫画は発見されそうになるし、パソコンは勝手に起動させられて日記を読まれそうになるし、隠していた”クリスが写った写真”が入った写真立ても見つかりそうになった。

委員長「くくくく……………!!!」





スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.22] 245



神田は一通りの”現場検証”を終えてからやっと静かになった。そして低めのテーブル席に座り、委員長が煎れてくれた紅茶を飲んだ。

ズズズズズーー!

委員長「…………。」

神田 「ゲップ。じゃあ委員長、このお茶菓子もえんりょなくもらうで。」

ムシャ、ムシャ、ムシャ……。バリバリバリ………。

委員長「…………。」

神田 「あの唐辛子を真っ赤になるまで塗ったせんべいあらへん?」

委員長「ないです…………。」






クリス 「話を整理してみよう。
これまでクーガという男の予言は的中してきた。
そして彼には委員長が1人になる時間も手に取るようにわかるらしい。」

豪 「なぜそんな事がわかるのでしょうか?」

神田 「俺にもわかるで!委員長の全ての行動が!委員長がどこ行くかは手に取るようにわかる!」

アンナ「……。」

委員長「ウソでしょ……。」

神田のその冗談は全員から聞き流された。

クリス「クーガはなぜそんな事がわかるんだろう?アンナと同じく予知夢でも見れるというのだろうか?」

豪 「でも、予知夢ははずれる事もある筈です。超能力という物は本来正確な予言は出来ません。
非常に高い能力があれば別かも知れませんが……。
でも正確な予知夢は今のところアンナさんでも見れません。
具体的な物象の表現には欠けます。例えば”時間”だとかは。そこまで正確には予知できません。」

クリス「彼はテレビに映る時間もわかっていた。
あの場所で事件が起こる事も予言出来たし、報道のカメラが来る事もわかった。
そして、それを事前に委員長に伝えていた。」

神田 「やっぱり事件を起こしたのがクーガ自身だったからじゃないの?」

クリス「だがそれだけでは”報道のカメラがあそこにあの時間帯に来る事”までは予見できない。」

豪 「じゃあ、やはり強力な未来予知の能力があるという事じゃないですか?」

クリス「さあ、まだわからないな……。いままでわかった事だけでは判断がつかない。」

委員長「……。」







そこでクリス達は矢樹に相談する事にした。ノアボックスのレッドノアに向かう事になった。
全員で委員長の家を出た。そして、歩いてリニヤモーターカーの駅に向かった。
その時、突然事件が起こった。通りがかったビルが火災に見舞われたのだ。

神田 「火事や~~~~~!!!」

クリス達が気が付いた時、皆はちょうどそのビルの真横にいた。
ビルの中腹から黒い煙が立ち昇っていた。ビルは10数階建てぐらいの高さ。その真ん中辺りの階から出火しているようだった。そして火はだんだんと上の階に燃え広がろうとしていた。
ビルの1階出口からは数名の人が出て来た。だがそれ以上は出て来なかった。

神田 「あんまり人はおれへんビルみたいやね?」

クリス 「僕らも非難しよう!」

委員長 「待って!屋上に女の子がいるわ!」

視力2.0の委員長が言った。豪はノアボックス専用携帯電話を出して、そのカメラで屋上を望遠で撮影した。ビルの屋上に逃げ遅れた女の子の姿が映った。

委員長「この制服、うちの学校の生徒じゃない?!」

ややおぼろげではあるが、それは委員長がいつも学校に着ていく制服と同じように見えた。

豪 「そのようですね。もう下の階には降りて行けないようです。煙に巻かれる恐れがあります。第一あの女の子が怖がっていると思います。」

その女の子は手すりにもたれかかっていたが、やがて膝の力が抜けたのかしゃがんでしまった。そして視界から消えた。

神田 「マズイで!」

クリス 「大変だ!助けないと!」

アンナ「私が行くわ!」

アンナがそう言った。

アンナ「あの女の子のテレパシーを感じたわ。私なら……、それをたどって屋上まで行けるわ!」

クリス「危険だ!」

委員長「待って!私はテレパシーなんて感じないけど。」

神田 「アンナちゃんの方がESPレベルが高いんや。せやけど危険やで!火事のビルに入るなんて!」

アンナ「聞こえるの。あの女の子の声が。助けを求めているわ!」

アンナの脳裏にはさっきまで絶望的に叫ぶ女の子の声が聞こえていた。だが、女の子は弱ってしまったのか、その叫び声は徐々に小さくなっていった。

アンナ「………………。」

クリス 「豪君!消防署に連絡してくれ。僕はシャトルを呼ぶ!」

クリスが携帯電話からシャトルを呼んでいる最中にアンナはビルの入り口に向かった。

神田 「待って!アンナちゃーーーん!」

委員長「アンナーー!!危険よ!!」

クリス 「アンナーーー!」

アンナは制止を聞かずに建物内に入って行った。
地上部分はまだ煙は来ていない。おそらくは火災の発生している階までなら無事にたどり着けるだろう。だが、その先は危険だった。

委員長はアンナには勇気があり、それは自分にはマネが出来ないと思った。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.23] 246


クリスは携帯電話でシャトルを誘導した。そしてビルからかなり離れた場所に行って待機した。
そこは車があまり止まっていない駐車場で、ここにシャトルを着陸させるつもりだった。
豪は消防署に連絡していた。

委員長と神田はビルから少し離れた場所に一旦は退いた。
しかし、神田はやはりアンナの事を心配して自分もビルの中に入る事にした。
地上では下の階の方はまだそれほど火の手は回ってないように見えた。とりあえず真ん中の階ぐらいまでは何とかいけそうだった。

神田 「俺は行くで!」

委員長「あっ、待ちなさいよ!」

それで委員長も決心してビルの中に入る事にした。「こうなっては自分も助けに行かなくては。」と思ったのだ。2人はアンナを追ってビルの中に入った。エレベーターは危険で使えないので階段を登るルートを探すしかない。
一番近くにあった階段を使って6階分ぐらいはスムーズに登れたのだが、その先は煙が漂い始めた。そこで別の階段を探すため、その階を探索し始めた。案の定、神田は迷った。

神田 「すごい煙や!委員長!どこや?!」

委員長はすぐそばにいた。

委員長「GPSを使いなさい!」

言われて神田は携帯を取り出した。それでアンナの位置を追跡した。
アンナは屋上を目指して登っていた。まだ火の手を避けて登れるルートがあるようだ。

委員長「はやく追いかけないと!」

神田 「途中で燃えている階があるで!そこは火の手を避けて登らんと!」

細い通路があった。その先に防火扉があり、閉まりかけのまま電力が無くなって動かなくなっていた。その隙間は30センチぐらいだろうか?そこは体の小さい委員長しか通れなかった。神田だと体がつっかえてどうしてもそこをくぐる事が出来ないのだ。

神田 「この先が上への階段だってのに、しかたないなあ!」

それで二手に別れる事にした。

神田 「無事に帰って来るんやで、委員長!」

委員長はその隙間を越えて進んだ。
神田は別のルートを探した。しかし神田の方はすぐに煙に巻かれ始めた。

神田 「思うようにいかんもんや!」

煙がじりじりと迫って来た。煙を避けて登るルートは見つからなかった。
そこで神田はクリスに連絡した。
電話の向こうでクリスは神田と委員長がビルの中へ入った事を心配していた。

神田 「あかん!こっちは登られへん!でも、委員長は別のルートから登ったで!」

クリス 「君は引き返して来るんだ!」

神田 「そやけど、委員長が!」

神田が今電話をかけている通路の先の方に煙が入って来た。神田はやむなく引き返し始めた。

委員長の方は階段にたどり着いて、そこを登っている最中だった。ここは煙も火の手もまだ来ていなかった。火災が起こっているビルの中で、ここだけ無事な空間であるという事が不思議に感じられた。
GPSによるとアンナももうすぐ屋上に着くようだ。
その頃シャトルがクリスのいる場所に向かってオートパイロットで降下を始めていた。

クリス 「早く!」





委員長が屋上に出ると、そこは下の階から多量の煙が流れて来ていた。
ビルの壁面に沿って煙が上空へ上がり、壁のように見えた。
その真っ黒い煙は太陽の光をさえぎり、屋上はぞっとするほど暗かった。
そして所々流れて来た煙が目の前で渦を巻いていた。それは小さな竜巻のようにも見えた。
その煙の隙間の向こう、かなり先の方にアンナと女の子がいるのが見えた。
委員長はアンナの所へ行こうとしたのだが、大量の煙が風にあおられて委員長の行く手をさえぎった。それで委員長は行くのを躊躇してしまう。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.24] 247



その時、クリスのシャトルが屋上にやって来た。
だが、煙は上空数十メートルの高さにまで舞い上がり、クリスの機体からは視界がききにくくなっていた。それでも女の子を救出するためクリスはワイヤーを降ろして接近した。
シャトルは本格的な救助用の機体ではないため、1度に1人づつしか救えない。

アンナが女の子の身体にクリスが下ろした救助用のロープを巻きつけた。
そしてアンナからの合図を受けて、クリスはシャトルを上昇させた。
その後ビルから離れて、機体を下降させた。女の子は無事地上に着いた。
女の子はかなり弱っていた。豪がやって来て、女の子の身体からワイヤーをほどいた。それから現場に到着している救急車を呼び寄せ、女の子を乗せた。
クリスは再び機体を上昇させて、もう一度屋上に戻る。今度はアンナと委員長の救出である。
キャノピーから下を見下ろすと、現場に到着した消防が本格的な消化作業を始めていた。

その時、煙を避けて委員長がやっとアンナの所へたどり着いた。
クリスの乗ったシャトルは上空からロープを伸ばして再度近づいて行く。
そのシャトルの機体表面をなめるように黒い煙が流れて行く。視界がまたあまりきかない。

クリス「くっ!スポルティーファイブの機体なら強力な赤外線モニターがあるんだが。」

クリスが使用を許可されているのはシャトルやノアボックス専用車両だけである。
平時の場合はスポルティーファイブの使用は許可されていない。その使用の判断は郷田指令に委ねられていた。だが、火災等の場合は消防から依頼が来ないと許可が下りにくい。
そこでクリスは自分の自由に使えるシャトルを呼んだのである。

困難ではあるが、クリスはシャトルで再び屋上に近づいて来た。





アンナ「貴方が先に行って。」

アンナは委員長に先にロープで脱出するように言った。

委員長「いいえ、貴方が先に行って!」

委員長は環境が変わるとスポルティーファイブのコクピットでもよく気絶したので、アンナは委員長に先に行くようにうながした。委員長自身もその事をよく知っていたので、足手まといになってはいけないと先に行く事にした。救助用ロープのわっかに身体を通す委員長。それをアンナが手伝ってくれた。
そして委員長の身体は宙に浮いた。空中の委員長はアンナの方を振り向いた。
その直後、アンナは多量の煙に巻かれた。
シャトルはすでにビルから離れていた。
そして、ビルの屋上部分の一部が崩れて抜け落ちるのが見えた。
その崩落した屋上のコンクリートの隙間から炎がまるで火山の噴火のように舞い上がって来た。

アンナが転落しかけた。
クリスもその様子を見ていたが、ワイヤーには委員長がつかまっており、どうする事も出来ない。
先に委員長を下ろすため、クリスのシャトルはそのまま現場から離れて行った。

やがて信じられないぐらいの多量の煙が階下の窓から噴出して来て、屋上に舞った。
それは水槽に垂れた墨汁のように拡散して周囲に広がって行った。
アンナの姿は完全に煙に包まれて見えなくなった。

クリス「アンナーーーー!!」

クリスは委員長を地上に下ろした。これでやっとアンナ救出に戻れるという時に、アンナのいた場所を含むビルの最上階の2階分ぐらいが一気に崩れ落ちた。真っ黒い煙の中からビルの破片だけが下へ落下した。クリスはコクピットの中からそれを目撃する。

クリス「アンナーーーー!!」

地上に戻って来ていた神田と豪の2人で、その破片の落下地点に向かった。
アンナもいっしょに落ちた可能性が高い。
だが、焼けた落下物も多量に落ちて来ており、そこはすでに火の海だった。
燃え盛るコンクリートの山が形成されていた。

神田 「うわああああ!!!」

豪 「神田さん!危険です!下がって!」

神田 「でも、アンナちゃんが!アンナちゃんがあーーーー!」







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.25] 248


クリスは信じられないという表情をしていた。
その時、またビルが崩れかけたので、クリスはコクピット内から神田と豪にビルから離れるように言った。

豪 「さあ神田さん!ビルから離れましょう!危険です!崩れます。」

神田 「アンナちゃんがぁ!!アンナちゃんがあーーーーー!!」

神田は半狂乱の状態になりかけていた。豪の言葉はほとんど届いていないような感じだ。
建物が崩れる大きな音と共に、頭上から再び破片が落下して来たので豪は無理矢理神田を引っ張って行った。




現場にはさらに消防の車両が続々と到着していた。今やかなりの台数が集結して消火作業を続けていた。
その後、ビルの大規模な崩壊はなかった。多数の消防車が放水をしていたので、火は鎮火の方へ向かい始めた。
そして1時間後、火は完全に消し止められた。
消防もクリス達に言われて瓦礫の山を捜索をしたが、アンナは見つからなかった。

神田 「アンナちゃんが!アンナちゃんがあーーーー!」





ビル崩壊の危険もまだあるので、現場は立ち入り禁止となった。
消防だけがその中に入ってまだ捜索を続けていた。

クリス 「後は探知機での捜索や災害救助ロボットが探すそうだ。その報告を待つしかない。」

神田 「ううう、アンナちゃんがあ~~~~!!」






クリス達はこの事を矢樹の元に報告に行く事にした。
アンナが行方不明になり、事は重大だった。
レッドノアに向かう途中また消防から連絡があり、電磁波人命探査装置でもアンナを発見できないとの報告が入った。





クリス「消防の話だと遺体さえも見つからないそうです。」

矢樹 「完全に焼けたとも考えられる。」

神田 「そんな事あらへん!!」

矢樹の言葉に神田は顔を真っ赤にして怒った。

神田 「絶対にアンナちゃんは死んでないんや!!!」

豪 「今回もまたローレンスの仕業とは考えられませんか?遺体が消えてしまうなんて。あれからローレンスはどうなりましたか?」

矢樹 「レイドとの間に設けられた通信回線をかいした報告によると、ローレンスはまだ生きている。病院にいるそうだ。いまだ意識不明の重体だがな。現在彼はレイドの警察の厳重な監視下に置かれている。もし彼に意識が戻ったとしても、レイドの元老院によって今後はその独断的行動が厳しく監視される。だから今回の件で彼が犯人だとは思えない。」

神田 「向こうの世界へ行ったら、アンナちゃんに会えへんの?」

矢樹 「今回の話を総合すると…、今のところバーチャルリアリティーシステムなどによる”転送”が行われたとは考えにくい。それにレイドとの新たな協定により、そのような行動をレイドが取るとは思えない。」

クリス「では?」

矢樹 「今は何もわからん。情報が少なすぎる。」

委員長は泣いていた。

委員長「私が…………、あの時、アンナの方を先に行かせてさえいれば…………。」

クリス「君の責任じゃないさ。」

クリスは委員長にそう言った。
それから矢樹に、

クリス「……クーガという男が怪しいと思います。
最近、小川さんの周りに頻繁に出没しているんです。この事件にも関係あるのかも知れません。」

とクーガの事を述べた。

矢樹 「なら、君達でそのクーガという男を調査してくれ。
スポルティーファイブ専用車とシャトルはその目的での使用を許可するように郷田指令に言っておく。」

クリス 「わかりました。」

神田は依然としてわだかまりが消えなかったが、今はそれしか自分にできる事はないと感じた。
こうして神田も調査に行く事にした。クリス達は矢樹の研究室を後にした。







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.26] 249



アンナがいなくなった。委員長はその事で心を痛めていた。

その日、委員長はクリス達に自宅まで送ってもらった。
その後クリス達はそれぞれの自室や自宅に帰って行った。
今日はさすがの神田も気落ちしていた。




自分の部屋で1人になった委員長は今日の出来事を思い出していた。

委員長「確かに私はよく気絶するわ。それが皆の足手まといになっているのかな?
もし、あの時、アンナを先に行かせていれば…………、今頃アンナは………。」

委員長は女同士よくアンナといっしょに座って話をした事を思い出した。
それは取りとめのない日常会話だったが、それがもう2度とする事が出来ないような気がしてさびしくなった。

委員長「……………………。」

すでに遅い時間だったが眠る気にもなれず、ハンガーにかけておいた厚手のジャンパーを着てフラフラと1階に下りて行った。

委員長「……。」

そして玄関から外へ出た。





しばらく近所の路地をあてもなく歩いた。
辺りは陽がとっくに落ちて夜になっていた。だが街灯が足元だけは照らし出していてくれた。

「フッ!」

ふいに誰かが短く笑ったような声がした。唇から息が漏れたような感じの声。
振り返ると……、そこにクーガが立っていた。
街灯の光に照らし出されたその姿にはきついコントラストの影が下りていて不気味に見えた。

クーガ「何を泣いているんだ?」

今日の委員長はすぐには逃げなかった。アンナを失った悲しみからまだ頭が切り替えられていないのだ。

委員長「アンナが死んでしまったから。」

クーガ「僕なら救える。」

委員長「え?」

クーガ「大丈夫。僕なら彼女を生き返らせる事が出来る。」

委員長はすぐにはその言葉を信じられなかった。しかしその言葉に一途の望みをたくして聞いてみた。

委員長「どうやって?」

クーガ「君が望みさえすればいい。僕が君に代わって彼女を生き返らせてあげよう。」

委員長「本当?」

クーガ「ああ。もちろん。ついて来るがいい。その証拠を見せてやろう。」

委員長「”証拠”?」

クーガ「そうだ。それを見れば君も信じるだろう。」







委員長はクーガについて行く事にした。
「アンナが生き返るなら」と委員長は思っていた。そこで用心しながらクーガの後を歩いて行った。

それから彼の乗って来た赤い車に同乗した。
やがて車は山奥の細い道を進んだ。「人里離れた」という表現がぴったりのおよそ人が住んでいないと思われる山奥。

車が着いた先に小型の体育館のような建物があった。こんな他に何もない山の中にそこだけ建物が建っているのは不思議な感じがした。
ここは周囲を全て小高い山に囲まれている。まるで外界から隠されているかのような印象があった。
その建物内にヒューマノイド型のロボットが置かれていた。それはちょうどスポルティーファイブと同じぐらいの身長を持つ巨大な機体だった。
真紅の赤いカラーでボディー全体が塗られていた。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.27] 250


委員長「これは?」

クーガ「これに乗ると、過去や未来へ行ける。」

委員長「過去や未来へ?」

クーガ「そうだ。」

委員長には彼が何を言っているのかよくわからなかった。

クーガ「これは……、”タイムマシン”なのだ。」

委員長「タイムマシン?」

クーガ「そう。時間を行き来できる装置。
歳を取ることなく未来へも過去へも行ける。
飛行機が自由に大空を飛べるように、これもまた時間を自由に飛行できる装置だ。
……そして僕はタイムトラベラーだ。」

委員長「タイムトラベラー?」

クーガ「僕は23世紀の人間なのだ。本当は今から100年後の世界に生きている。
ここへはタイムマシンに乗ってやって来た。」

委員長は驚いた。だが、彼の話はすぐには実感できない。

クーガ「いきなりこんな話をされても信じられないと思う。
君たちの技術ではまだタイムマンを実用化できていないからね。
では、言葉で言うより実際に体験させてあげよう。
その目で見てみるといい。そうすればこの話を信じられるだろう。」

正直な所委員長は少し混乱していた。どう言って言葉を返せばいいものかわからなかった。

委員長「……………………。」

クーガ「しかし……、その前に約束の事を確認しておくよ。
もしアンナを生き返らせる事が出来たら……、君のIDカードを貸してもらえるかい?」

委員長は返答に困った。IDカードを貸す事は出来ない。
しかし、アンナには生き返って欲しい。

クーガ「やめるのかい?ではアンナはここのままだよ。」

委員長はアンナが死んだ事を自分の責任のように感じていた。
委員長は迷ったが決断した。

委員長「わかったわ!生き返らせてもらえるなら!」





クーガはキーホルダータイプの小さなリモコンをポケットから取り出した。
そしてそれを操作してロボットのハッチを開けた。その後委員長を連れてコクピット内に入った。
コクピットはこのタイプの物としては広かった。小さな部屋ぐらいの広さがあった。全体が球形であり、全てがモニターで覆われていた。
クーガはコクピット中央にあるシートに座り、横にもう1つ補助のシートを出した。
そこのシートに委員長を座らせ、シートベルトを着けた。
そして自分はパイロットシートに戻り、ロボット型のタイムマシンを始動させた。
このロボットの現在いる建物の上部の屋根がスライド開閉して、機体はそこから上空へと舞い上がった。

モニターには外の景色が映し出されていた。足元の部分も全てモニターになっていたので、まるで体が空中に浮いているような錯覚に陥った。眼下には外の景色が広がって見えていた。
周囲は月明かりに照らし出されてわりにはっきり見える。
ロボットはさらに上昇し、足元の景色からはだいぶ高さを感じるようになって来た。今は周囲の山と同じぐらいの高度だった。

そのまま山の中腹まで移動した。下にはずっと森が広がっている。
クーガがスイッチを操作すると、ロボットはレーザーのような赤い光を空中に放った。それは全周2キロぐらいの大きな”輪っか”のような物を空中に描き出した。
そしてそれがゆっくりと回転を始めた。その速度は徐々に上がっていく。そしてかなりのスピードになった。だが速度上昇は止まるところを知らない。

クーガ「これが光速を越えると、時間の逆転作用が始まる。」

同時に目の前にある数字が書かれたカウンターが動き出した。

クーガ「アンナがいなくなった日に行こう。」

クーガはカウンターを

============================================================



『2100/10/01 AM8;00』



============================================================
にセットした。

カウンターは2段になっており、上の方は

『2100/10/02 PM11;00』

を差していた。
そしてタイムマシンは始動を始めた。







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.28] 251



「ギューーーーーーーン」という耳障りな機械音がコクピットの中に響いた。
それはまるで高周波のような音だった。委員長は両手で両方の耳をふさいで体を丸めた。

周りの景色が急速に移り変わり始めた。それは画像の早送りのようだった。
明らかに時間の流れが違うようだ。風に揺れる森の木々の葉の揺れ方がまるで海の波のうねりのように見えた。
そう思っているとたちまち明るい光が射して来た。委員長には最初それが何かわからなかったが、それは”日の出”だった。
山の向こうから太陽が昇り、そして沈んだ。よく注意して見ると、西から上り東へと沈んで行く。つまり時間の流れが”逆行”しているのだ。

委員長「これは……?」

クーガが委員長の表情をチラッと見て短く笑った。

上のカウンターが


============================================================



『2100/10/1 AM8;00』



============================================================


を指した。
景色の急激な変化はやんだ。
同時にロボットの周りに形成されていたレーザーの輪っかの光も消えていた。
コクピット内に発生していた音も止み、周囲は静かになっていた。
時計のかすかな電子音だけが小さな音を立てて時を刻んでいた。
委員長は体に軽い疲れを感じた。

クーガ「さあ、着いた。ここは”昨日”だよ。」






そのままロボットは空中を横方向に飛行し始めた。
スポルティーファイブが飛行するのと同じような感じだ。

かなり飛行して、都市の上まで差し掛かった。
そして見覚えのあるビルの上空付近に到達した。それはあの火災が発生したビルだった。
委員長がそう思っていると、ビルの窓から炎がわずかに顔をのぞかせた。

委員長「あっ!」

そして数秒もしない内に窓から炎が1メートルぐらい噴出して来た。他の多くの窓からも煙が上がり始めた。

屋上が見えた。そこに目を移す。ロボットのモニターは望遠で屋上にいる女性の姿を捉えて拡大した。2人の女性がいた。1人はあの救出された女の子。そしてもう1人はアンナだった。
アンナはまだ生きていた。はっきりとその姿が見えた。
まだ生きているアンナを見て、委員長は胸が締め付けられる思いがした。
アンナは少女を救おうと必死だった。その様子がモニターを通して伝わって来た。

委員長「アンナ!!」

クーガ「彼女を救いたいのなら……、僕のお願いを聞いてくれ。
君のIDカードを貸して欲しい。」

アンナがビルの崩落と共に下に落下する時刻が迫って来ている。委員長にはそれがはっきりわかった。そして焦った。

委員長「なぜ?なぜカードが要るの?」

クーガ「目的があるんだ。その目的にためにはどうしてもあのカードが必要なんだ。
なあに、ただの研究のためさ。歴史のね。
さあ、カードを貸してくれ。そしてパスワードを教えて欲しい。」

委員長「……………………。」







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.29] 252



そうこうしている内に画面上にはクリスのシャトルが入って来た。
その機体がビルの屋上に近づいて行くのが見えた。

委員長「クリス君!」

屋上には小さなボックスタイプの建物があった。屋上への階段の出入り口だ。
そこにある小さな扉が開いて、1人の女の子が屋上に出て来るのが見えた。
”委員長自身”が屋上の階段出入り口に出て来たのである。

委員長「私が!」

それは紛れも無くあの時の自分だった。委員長は目を疑った。
モニターの中の委員長はアンナの元へ向かう。
あの時、煙を避けながら進んだ事を思い出した。
モニターの中の自分も右へ左へと煙を避けながら進んでいた。そして苦労してアンナの所へたどり着いた。

委員長「………………。」

アンナは委員長に先にシャトルのロープにつかまるように進めている。その姿も見える。

委員長「アンナ……。」

まるで映画のようなそのシーンを見て、委員長は目頭が熱くなった。

そして委員長の身体がロープで空中に吊り上げられた。
その瞬間、炎がアンナの全身を包んだ。

委員長「きゃーーーーーー!!」

クーガ「どうする?!カードを渡すのか?」

クーガの声は冷たく聞こえた。彼はカードと引き換えでなくてはアンナを助けてはくれない。彼の声の口調からはそう感じ取れた。彼はアンナの生死にはまるで関心が無いようだった。

委員長「わかった!渡すわ!だから、アンナを助けて!」

クーガ「よし。いいだろう。」

そう言ってクーガは右手を差し伸べた。先にカードを渡せと言うのだ。委員長は信じられないという顔をした。

委員長「先にアンナを助けて!」

アンナが落ちた時間になった。
画面には炎しか見えない。アンナの姿を確認する事は出来なかった。
ビルが崩落し、土煙が舞い上がっていた。

委員長「アンナ………………。」

だが、その光景を見てもクーガはまだ右手を伸ばしているだけだった。動揺は少しも見られない。

委員長「……。」

クーガ「カードを。」

委員長「アンナはもう死んだんじゃない?!!時間が過ぎたわ!」

委員長は軽蔑するようにそう言った。アンナが落ちた時刻はとっくに過ぎているのだ。それはモニターの画面からも、このタイムマシンに備え付けられた時計からも確認できた。

クーガ「大丈夫だ。」

委員長「大丈夫ですって?!!何が大丈夫よ!
貴方がカードを要求している間にアンナは落ちてしまったわ!」

委員長は激しく怒った。だが、クーガは眉ひとつ動かさない。平然としている。

クーガ「大丈夫と言っただろう?僕にはタイムマシンがあるんだ。これから”いくらでも”救い出せる。」

委員長はクーガの言っている言葉の意味がすぐには理解できなかった。

クーガ「落ち着けよ。”アンナは今死んだんじゃない”。別の時間軸に行けば生きている。」

委員長「え?」

クーガ「また時間を逆行すればいいのさ。慌てる事は無い。
”アンナが生きている時間”はある。
さあ、まずはカードを渡してくれ。」

委員長「………………。」






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.30] 253



委員長は少し時間が経つと落ち着いて来た。
彼の言っている意味も少しはわかった。まだアンナを救う道はあるという事が。
すると、今度は怒りの感情の方が沸いて来た。委員長はクーガに対して言った。

委員長「カードを何に使うつもりなの?!」

クーガ「言った筈だ。目的があるとね。」

委員長「何の目的なの?!」

クーガ「歴史の研究だよ。今はそれぐらいしか言えない。」

委員長「ではカードは渡せないわ!」

クーガ「じゃあ言おう。”平和利用”だよ。」

委員長「具体的に何に使うのか詳しく言うまで渡せません。」

クーガは薄笑いのような笑みを浮かべた。
そして、「わかった。じゃあ、帰ろう。」と答えた。

クーガ「今は言えないからね。」






もう一度タイムトラベルを敢行して元の時間帯に戻った。

それからロボットは最初にいた建物まで向かった。
建物内のマーカーがひかれた定位置に着陸し、再び大きな分厚い屋根が閉じられた。

委員長はコクピットから下ろされた。
そしてクーガはそそくさと委員長を車に乗せて、また家まで送り返した。
クーガの態度が変わっていた。それは事務的な感じと言った方がいいのだろうか?

クーガ「気が変わったら電話してくれ。」

委員長「……。」

クーガ「それからこの事は誰にも話さないでくれ。これは約束だよ。絶対に守ってくれ。
誰かに話してしまうと、タイムマシンを使いにくくなるからね。」

委員長「……………。」

クーガ「話してしまったら、もうアンナは蘇らないと思ってくれ。」

クーガはあっさりとそう言った。

もう時刻は夜だった。辺りは夜の闇に包まれ、真っ暗だった。






委員長は自分の部屋に無事帰る事が出来た。

結局アンナは生き返ってはいない。
あの時、生きているアンナを見る事が出来たと言うのに。

委員長「ああ、あともう少しでアンナを救う事が出来たのに………。」






委員長はまた思い悩んだ。
しかし、その末に決心して、クリスに連絡する事にした。

すぐにクリスが委員長の自宅まで迎えに来た。そしてレッドノアまで連れて行ってもらった。
ここの方が安全と思ったのだ。
この間までレッドノア内にカンズメになっていて、やっと開放された気分を味わったのに、今はここにいる方が気が落ち着いた。

委員長「ごめんね、クリス君。こんな時間に。」

クリス「いや、いいんだ。ここの方が安全だから。君の自宅にはノアボックスから警備用のアンドロイドが派遣されたらしいよ。だから家の方は心配しなくていい。」

委員長「……。」

クリス「彼に会ったの?」

委員長「そう。会ったわ。
タイムマシン……。彼はタイムマシンを持っていたの。」

クリス「タイムマシン!!なるほど、彼の予言はそれで!」

委員長はクリスに全てを話した。
もちろんクーガがその事を口止めして来た事も。












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