貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2006/05/04
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カテゴリ: 魔界都市
仕事を終えて自室に戻った私は、窓際に立ち眼下に広がる街を見下ろした。ここは地上からはるかな高層マンションの最上階。夜が窓から見える新宿の街並みを染めて行く。私のつけたゴロワーズの香りに、その風景が欧州のどこかの街に変貌する。

けれども・・ここは「魔界都市」。

吐き出した煙の中に、今日の出来事を思い返す。 嫌な患者だった。
「魔女医というから、婆さんかと思ったよ。こんな美人とは」
中年の狸の様な顔をして、丸めた背中が卑屈なくせに目だけが狡猾に光っている。その目で診察室をぐるりと見回した。
「蛙や蛇を煮る大釜はありませんな」
絵本に出て来る様な魔女、あれはお伽話の中だけの事。現代ではもっと別の方法はいくらでもある。何を生業にしているのか、黒い皮の上着に褪せたジーンズの姿からはわからない。だがここへ来るという事は相当な稼ぎと情報網があるという事だ。私は善意で仕事はしない。それが区役所跡の男と違う所。それが私のプロとしての意識。

「ご用件は?」
いくら不機嫌な声を出しても、この手には通じないだろう。 男はもそもそと上着の前をひろげた。けたたましい叫び声が響いた。男の胸に醜い顔が盛り上がっている。声はそこから響いていた。潰れた女がわめいている。

「『呪詛』ね。身に覚えは?」
「さて」
男はすっとぼけた顔をして見せたが、それで騙される私ではない。
「これを消せばいいのね」
「そういう事で」
私は左手を伸ばした。顔は沈黙した。そして消えた。
「さすがは、魔女医シビウ先生だ」
「高いわよ」
「それはもう」
男は卑しい笑顔を見せて、料金を払うと出て行った。

電話が鳴った。物思いから覚めて受話器を取った。

あの男だ。
「胸の顔は消してあげたでしょ」
「俺の顔が、あの女の顔になっちまった!」
「毎日、その顔を鏡に映してあやまるのね。自分の殺した女なんだから、その位のつぐないはしてやりなさい」
「なんで、アンタがそれを!」

「あの顔が叫んでいたのは、殺された魔女の怒りの言葉。整形したって無駄よ。それは呪いなんだから」
それも私が強めてあげた呪い。私を不愉快にした罰に。私は電話を切った。

そう、蟇蛙もコウモリもいらない。本当に必要な道具は「憎しみ」。それがあれば何でも出来る。ふと白い医師の面影が脳裏をよぎる。いいえ、貴方にはそんな手は使わない。そんな生易しい事では、とうていこの憎しみは使い切れない。何故ならこの憎しみの生まれる理由は・・ 私はゴロワーズを乱暴にもみ消すと、羽織っていたガウンを脱ぎ捨てた。窓に映るビルの影に私の白い影が重なる。そして私はバスルームへ向かった。




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Last updated  2007/03/29 03:33:08 AM
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