貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2009/07/27
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緑の窓の屋敷は三階まである。

一階は食堂や台所、応接間、書庫などがあり、二階は百合枝や朱雀達の部屋の他、客用の寝室がいつでも用意されている。三階は竹生の住まい、すなはち一種の不可侵の領域である。家の者も執事の桐原以外はめったに足を踏み入れる事はない。そこには居間、書斎、寝室がつながる部屋を中心に、竹生の生活空間があった。朔也もそこで暮らしていた。

部屋へ戻る途中、柚木は桐原と行き会った。桐原は朝食を載せた大きな銀の盆を持っていた。
「幸彦様の?」
「幸彦様と真彦様の分で御座います。お二人ご一緒に召し上がるそうです」
「そう」
「幸彦様は夕方までこちらにご滞在です」
「お身体、大丈夫かな」
「この屋敷にいる間は、安心してお休みになれるでしょう」


その日、真彦はずっと幸彦の側にいた。二人は久しぶりに親子の親密な時間を過ごしていた。白神は今後の体制固めを急ぐ為に古本屋へ戻った。三隅と須永は残った。それは朱雀のはからいでもあった。今は誰かに交代させるよりも、柚木と真彦を深く気遣う二人が屋敷にいた方が、子供達が心強いだろうと思っての事だった。”盾”は一人で動く事はない。三隅も須永も部下を連れて来ている。当面の屋敷の警備は彼らで間に合うだろうという目論見もあった。

朱雀は珍しく朝から出かけた。出がけに柚木を呼んだ。叱られるかと思い、柚木は恐る恐る朱雀の前に立った。日中の痛みが全身を蝕んでいるはずなのに、玄関のホールに差し込む光の中で、朱雀の笑顔には一点の曇りもなかった。背広の着こなしも完璧であった。

朱雀は甥に言った。
「後は大人にまかせなさい。しばらくは大人しくしているのだよ」
「はい」
柚木は神妙な顔で頷いた。朱雀はちょっといたずらっぽい目をして柚木を見た。
「いやに素直だな」
「真彦はどうなるの、朱雀おじさん」
朱雀は顔を引き締めた。
「佐原の村も、混乱している。お前達に一番良い様にしたいと、私達は努力している」
「私達?」


柚木は口を尖らせた。
「少なくとも、百合枝さんは僕らの味方だと思うよ」
朱雀は苦笑した。
「お前を和樹と一緒に居させ過ぎたな」
「僕は、和樹さんとも百合枝さんとも紫苑とも、もっと一緒に居たいよ」

「勿論、朱雀おじさんとも」
朱雀は声を上げて笑った。
「ありがとう。では百合枝の所へ行って、朝の挨拶をして来なさい。紫苑の世話も頼んだぞ」
「まかせてよ。いってらっしゃい、朱雀おじさん」

深い森の色を映した愛車に乗り込むと、朱雀はつぶやいた。
「さて、これからがやっかいだな」



(つづく)








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Last updated  2009/07/27 11:27:38 PM


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