貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2013/06/21
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寒露に逢ったその日から、卓真(たくま)の態度が一変した。今までの傲慢さは影を潜め、同僚にも謙虚な態度を取るようになり、訓練にも熱心に通うようになった。
(寒露様は、俺の事をご存知だった)
その喜びが卓真を変えたのだ。
(もし信夫(しのぶ)が二人の名を名乗ったのを聞いただけなら、俺を卓真と呼んだはずだ。朝来(あさご)の息子と寒露様はおっしゃった。俺の父の名を口にされた)

卓真(たくま)は下着ひとつで準備運動を終えると、稽古着を身につけた。隣で同じように着替えていた信夫が言った。
「張りきってるな」
「馬鹿にしてるのか?」
信夫は驚いた顔をした。

信夫は実直な性格だった。無駄な嘘もお世辞も言わない。虚勢ばかり張る卓真を批難する事もなく、良き相棒として何くれとなく世話もしてくれた。卓真も気を許し、信夫には本音が言えた。
「俺は、寒露様に認められたい」
信夫は素早く周囲に気を配った。数人の同僚が、彼らと同じように着替えたり体操をしていた。信夫は小声で言った。
「その話はしない約束だ」
他言無用と言われた事に信夫は忠実であろうとしていた。
「俺は、何も怖くない」
いつもの悪い癖が出て、卓真は肩をそびやかして言った。信夫はため息をついた。

見習いを終えた盾は、まずは”外”の盾の長である白神(しらかみ)配下となる。その後に正式な配属先が決定する。先に配属が決まったのは信夫(しのぶ)だった。信夫の配属先は朱雀の会社の警備部、新人の”盾”に一番人気の部署だった。朱雀は”外”のお役目に着く者達のまとめ役である。その朱雀が社長である会社は、表向きは普通の会社だが、裏では『奴等』と戦う為の重要な拠点でもあった。中でも警備部は戦闘の最前線に立つ事も多く、精鋭が集められていた。また腕だけではなく、会社員としての仕事もある為、その方面でも有能である事も求められた。警備部への配属は、同期の中でも優秀と認められた証であった。

卓真は信夫に言った。
「俺の相棒だもんな、当たり前だ」
卓真はそんな言い方しか出来なかったが、信夫には卓真が祝福してくれているが解った。

信夫は風の家の出だけに剣術に長けていた。頭も良く周囲への気配りも出来た。卓真は当然だと思ったが、胸の底にちりちりと痛む嫉妬がないわけではなかった。
「明日から、向こうに行く」
「随分、急だな」
「少しでも早く慣れないと」
信夫の思いはすでにここにはなく、彼の心が新天地への期待で一杯なのを感じて、卓真の胸底の痛みはさっきよりも強くなった。だがその痛みを振り払うように、卓真はあえて陽気に言った。

そして信夫の背中を乱暴に叩いた。

(つづく)





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Last updated  2013/06/28 04:10:36 AM
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