わんこでちゅ

1 獣医師ヤマダくんの憂鬱









昨夜交通事故の猫が運びこまれた。轢かれたのは家の前で、幸いどすんという物音と、車の急ブレーキの音に飼い主がきがついてすぐにつれてきたが、ここに着く直前には、心臓が停止しかかっていた。
いったんは持ち直し、生命の危機はさったものの、症状が激変、今朝方亡くなった。緊急手術自体は成功しているが、以前から腎臓がやられていたらしい。腎臓はものいわぬ臓器、かなり悪くならないと飼い主自体は気がつかないことが多い。普通の手術なら充分手術に耐えうる臓器かどうか、事前の検査を念入りにやるのだが、昨夜は一刻の猶予もなかったのだ、、、、。蘇生ととりあえずの応急処置的な手術をすませるのに手一杯だった。飼い主には、いったん持ち直したということで、ぬか喜びさせてしまった。充分飼い主にはその点を説明したつもりだが、理解してくれただろうか。頭が重い。昨夜殆ど寝ていない。だが、仮眠さえ取る間もなく、すでに本日の診察開始時間なのだ。憂鬱だ。

苦めのインスタントコーヒーをすきっぱらに流し込み、タレントの山瀬まみににた受付のみかちゃんに声をかける。

「今日はもう患者さんきてる?」

「ヤマダせんせ~い、もうわんこちゃんばっかり8人もきてますよう。」

ああ、そうだった。この5月というのは、やたらと忙しい時期なのだ。フィラリアの予防薬の投薬がはじまるので、ほぼ全部の犬がいっせいに短期間に病院にやってくる、、、。

「あっそれとう~さっき高いとこから落ちたチワワさんをうちにつれてくるって、電話きましたぁ~。骨折かなぁ~。」

やれやれ今日も激務になりそうだ。しかし、そういう日にかぎって、これまたやっかいな患者がやってくる。

「先生、うちのカーク君が、へんな色のおしっこしたんです!腎臓かしら、ねっねっ、そうかしら、、。うっうっ。涙」

この飼い主さんは以前飼い犬を一匹、腎臓病で失っている。最初からナーバスになるのは、無理もない。

「おしっこの回数が多くなるとか、排尿のとき痛みを訴えるということはありませんか?結石ということもあるし。」

「いいえ、、普通にじょろじょろしてて、、うっうっうっ。」

「じゃ、血液検査してみましょう。」

やっかいだ、結石でなかったら、かなりやっかいだ。症状があらわれた時点で腎臓はかなり悪くなっているものだ。ましてや、治療はこれ以上の進行を遅らせるか、止めるにとどまり、回復がみこめないのが腎臓のやっかいな所なのだ。この人の前の犬は乳がんの転移も全身にみられたので、透析等無理な治療はすすめなかった。もしこのカーク君がかなり悪かったら、板橋のT病院の透析をすすめてみるか、、。いやあれもその場しのぎ、犬は人間と違って透析自体がむずかしい治療なのだ。よっぽどよくて現状維持、あとは、すこしづつ悪化していくだろう。金と時間に余裕があるようであれば、A大学病院の腎臓移植という手もあるが、成功率がよくても、腎提供をする犬の問題もあって、手術自体がなかなか行えない。どこまでこの飼い主にすすめるべきか、、。が、腎臓にかんする項目の価で怪しいものはみあたらない。おれはほっとして、無性に嬉しくなった。しかし昨夜のことではないが、また飼い主さんをぬか喜びさせても悪いので、腎臓は大丈夫とはまだ告げずにおこう。それから念のためオスなので前立腺をうたがってみるか、、、。待合室で飼い主さんをまたせレントゲンをとる。がどこにもこれまた異常はない。もしや、、、。むきっ。やっぱり、、、、。

待合室にいる飼い主さんに早くこの結果をしらせたかった。前の犬を腎臓でなくし、今回のことでとことん意気消沈している飼い主さんに、、。診察室に呼び入れる間も惜しくて、受付のほうから顔をだし飼い主さんに声をかけた。

「カーク君のお母さん、やりすぎですよ、えっちのやりすぎ、おちん○んをむきってむいたら、大事なところがすりきれて血がでてましたよ。以前カーク君は、熊のぬいぐるみでひとりえっちばかりしてこまるっていってたでしょ。」

カーク君の飼い主はかたまっていた。いっせいに、待合室にいた他の患者さんの飼い主さん10人ほどが、僕に視線をむけた。

「、、、、、、そういえば、ここ2~3日、ずっとしてました。」

飼い主さんはそういって、耳まで真っ赤になりながら下をむいてしまった。待合室にぷっ、、という音がいくつかひびいた。そのあと肩を震わせながら必死に笑いをこらえるもの、笑いがもれないように口をおさえるもの、下をむいてにやにやするもの、、、。待合室でまっていた飼い主さんたちは、色々な反応をしめした。

しまった、、僕はまたやってしまった。いつも飼い主さんの気持ちを考えるという視点がかけているのだ。

「腎臓じゃなくてよかったですね。薬だしときますんで、お大事に、、」

やっとのことでそういうと、そそくさとその場をたちさった。次の患者さんもあるし、、。と自分に言い訳をして、、。すると受付のほうから鼻にかかったみかちゃんの大きな声が聞こえた。

「これ化膿どめのお薬毎日忘れずに飲ませてあげてねぇ~。あとちょっと大変だけどぉ~、むきむきしてあげて、おちん○んのすりきれてるとこに、このぬり薬ぬってあげてくださーい。あっ、もちろんえっちは当分禁止ですよう。」

あっ、いちいち細かく説明しなくても、患部に塗ってっていえばいいのに、、。しかし時すでに遅し。皆必死で笑いをこらえていたのに、だめだしのこの一言に待合室は大爆笑の渦となってしまった。直後にばたーーーんという異常に大きな外へのドアの閉まる音が聞こえてきた。最初にきづけばよかったが、ただのすりきずなのに、血液検査とレントゲンまでとってしまった。薬と診察代を入れたら27000円をこの人からいただいてしまった。その上笑いものにしてしまったのだ、、。あ~あ、患者さん一人へるなぁ。憂鬱。

注 私はただの主婦で獣医師ではありません。病気の記述については、正しいとはかぎりません。おもしろ話として楽しんで、つっこみはいれないでくださいね。ぷぷっ。ちなみにこのカークの大事なとこ擦り切れ事件は、実際の出来事です。









ルナすずらん
カークの娘犬ルナとすずらん

次へ







© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: