わんこでちゅ

18 ヤマダくんのデート









この前のお礼ということで、なんなくカーク君の飼い主をデートに誘うことができた。もちろんみかちゃんには、内緒さぁ。みつかったら話に尾ひれがついて、どうなるかわかったものじゃない。カーク君のカルテから、こっそり電話番号を写して電話をかけた。まずはわんこ映画の二本だてをみる。

  戦場に架けそびれた橋

戦場には、一種独特の緊迫感が漂っていた。正月休みとその前後は、いつもろくろく散歩にこない飼い主&わんこが、足をのばして、この広く辺境な公園まで攻撃にやってくる可能性が大きいからだ。事実昨日もおはつのわんこに出くわした。拙攻隊員のルナはいつにもまして早いスピードで曲がり角までとんでゆき、ものかげから曲がり角の先の様子をじっとうかがっている。その緊張の度合いは、尻尾からみてとれる。地面すれすれまで尻尾をさげ、背中の毛はややふたこぶらくだのように毛羽立っている。一度本隊のほうをふりかえり、再び角の先に視線をなげるルナ。ぴくり。わずかに耳を動かしたと思うが速いか、ルナがきびすをかえして、「ひぃーーん、ふぅーーん」といいながらすっとんでもどってきた。「お父ちゃん、じゃなかった、隊長、あの角の先にピレネー犬がおります。」そう報告するがはやいか、「隊長、拙攻の役目は完了いたしました。怖いので、だっこしてください。」とよほどピレネーが怖いのか必死に隊長を前足でひっかき、だっこをせがむルナ。「なに~、あのいつも地雷をしかけていく(巨大なうんこをひろわずにそのままにしておく)、にっくきピレネー犬か。今日こそは反撃してやる。母ちゃん、じゃなかった。副長、攻撃隊はどうした?!」「はっ!カークじゃなかった攻撃隊員は、最後尾でみちくさをくっております。おい、攻撃隊、匍匐前進(腹ばいになって、そのまま腕の力で前進すること)できづかれぬよう至近距離までよって、合図とともに攻撃開始だ。」「副長、攻撃隊はまだか?かなり近くまで敵はきているぞ!チャニじゃなかった、従軍看護婦は、副長のかげに避難しておれ!」言われる前にすでに避難完了の非戦闘員のびびりのチャニである。「隊長、攻撃隊は匍匐前進だけに、地面のにおいがきになって、かぎまわるばかりで、先にまったく進みません。どういたしましょう」「なにっ、攻撃隊がいないのでは話にならない。副長、向こうの林に撤退だ。ルナだっこだ。全員撤収~、攻撃隊は家じゃなかった、基地に帰還したら、軍法会議にかけてやる」目の前の道を堂々と行進してとおりすぎるピレネー犬。林の中で隠れているこちらの空気中のにおいを嗅ぎ、ふん、とひといきはくと、その陣営に自軍の旗をたてて悠々とさっていった(高々と足をあげマーキングのおしっこをしていった)。こちらの存在にきづいていないのか、それともきづいていて、とるに足りぬ相手と無視しているのか、、。そのときである。しんとしずまりかえった林の中にひときわおおきな声が響いた。「おわーーーっ!」「どうしました隊長?」「くそーーーっ、敵のわなにはまったぁ、ここに地雷がしかけてあった」「うんこだけに、くそーーーっとはお上手ですな隊長」「ばっかもん、こんな非常事態にくだらんおべっかをつかうな、地雷の大きさが違う、しかもしかけたばかりで、まだ湯気がたっている。別の敵が至近距離にいる可能性がおおきいぞ、くれぐれも注意して撤退するんだ」。怒りに打ち震え、いつにもまして大きい声で隊長は副長を怒鳴りかえした。地雷の大きさはどうやら、柴あたりと同じくらいの中型の敵のものらしい。落ち葉の下に見事にカモフラージュされ細心の注意が必要である。部隊はそろそろと林の中をすすんでいった。「隊長、無事自家用車いや味方の戦車までたどりつきましたが、やはり攻撃隊員がまだあそこで、みちくさくっております」「、、、、、一歩も前進しとらんじゃないか、それとも軍から脱走でも企てているのか?」攻撃隊のところまで、全速力でかけてゆき、じたばた抵抗するカークをだっこする副長。「隊長強制送還完了しました!」「よし、全員そろったな、あそうそう副長、基地についたら、軍靴の手入れをたのむ、くさくてかなわん」「、、、、」こうして戦いの幕は静かにとじていった、、、。

  わんこサムライ

立春を過ぎたとはいえ、冷たい風のふきすさぶ夕刻の公園には、他のやから(犬)の姿はみあたらない。角(我が家のカークのこと、以下 角)はいつもどおり、かわった臭いがしないか、乾ききった地面に鼻をつけ一心不乱に鼻で息をすいこんでいた。と、いつのまに現れたのか、角の目の前に紀州犬がたちはだかった。

「おい、尻をだせ!」

紀州犬は唐突に、不敵な笑みを浮かべ、角にいった。

「ちょこざいな、いきなり尻を出せとは、当世はやりのおかまとやらではあるまいし、何事だ!まず名をなのるのが、礼儀であろう。」

むっとする角に、見下すように紀州犬は言い放った。

「犬に人間の礼儀など無用の長物なり。尻の肛門のうの臭いが名前がわりだ。しかも弱い犬が尻の臭いを嗅がせるのが、犬の礼儀というものであろう。だからそちに尻を出せと申しておるのだ。」

高飛車なそのものいいに、角は背中の毛が逆立つのを、止めることができなかった。こちらの返答をまたずしてさらに紀州犬は言い放った。

「ああ、いやいや、その必要もないわ。それそれおぬしの臭いが風にのって、ぷ~んと漂ってきおったわ。緊張のあまり尻の穴がきゆっとしまったと見える。そのひょうしに肛門のうから臭いがもれておるわ。そんなに拙者が怖いなら、とっとと、尻尾をまいてこの公園から立ち去るがよいわ。」

さすがの角もここまでいわれては、ひきさがる訳にいかなかった。

「ええい、しゃらくさい、、。弱い犬ほどよく吠えるとはよくいったものよのう。黙ってきいておれば、おぬしはぎゃんぎゃんよくほえる。」

「なにを!きさま~、、、、、」

双方目をぎらぎら光らせ、一触即発。お互いのどこかに隙がないかをうかがいつつ、一歩も引くこともでることも出来ない状況が暫く続く、、。だが実は角はその間にじっとり肉球の間に汗をかいていた。

「腕におぼえはある、、。しかし圧倒的に相手のがたいのほうが大きいのだ。刀がわりの牙が相手の急所の首にとどかなければ、拙者の負けだ、、どうするアイフル、、、」

と、突然その静寂を破るように、雷鳴がとどろいた。いや違った、風神、雷神図の雷神もかくやの形相の角の飼い主の声がとどろきわたった。

「くぅおぅるらぁぁああああーーーーっ!!!!角!喧嘩はあかんゆうてるやろう!おすぅわるいいーーーーぃぃぃつ!!!」

角はこの飼い主の恐ろしさをしっているので、もちろん即座におすわりをした。がしかしなんと、相手の紀州犬までが、がっくり後ろ足をおって、ぺたんと座りこんでしまった。

「はっ!?しまった。拙者としたことが、つい反応してしまった。」

角は内心助かったという思いとともに、つい座ってしまった紀州犬が滑稽でたまらなくて、へっ、と薄ら笑いを浮かべた。紀州犬はばつが悪そうにいった。

「この気迫ただものではないな、、。こんな女に飼われているとは、おぬしも難儀なやつよのう。いやかなり肝がすわっていなければ、この女とつきあいきれまいて。それがわかれば、お互い争えば、血をみるは必至。今日のところは水に流そう。」

角は返答に窮したが、内心安堵していた。たとえ紀州犬に勝利したとしても、かなりの手傷を負ったに違いない。そのうえ、、、、あとでどのみち飼い主のこの女にしこたま怒られる。それがなにより怖い角であった。

「さらばじゃ」

紀州犬は最初から最後まで一人でまくしたてるようにしゃべり、去っていった。陽はすっかりおち、風が益々冷たくなり、その寒さとある思いに角は身震いした。

「恐ろしい、なにが恐ろしいって、拙者の飼い主がこの世で一番恐ろしいのだ、、、」












二匹
ちゃにさん手作りセーター


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